この作品は性的な表現が含まれているため、R15になっております。
目が覚めたサラは寝室をぐるりと見渡した。夕べは疲れていたし、暗かった為良く分からなかったが、改めてみると凄い豪華な部屋である。淡い水色の壁にはこれまた淡い色彩の子花模様が描かれ、暖かな色合いのマホガニーが床を覆っている。壁際には大きなクローゼットが設えてあり、その隣に鏡台が置かれていた。部屋の中央に置かれたベッドには天蓋がついており、白い薄いレースが垂れ下がっている。正に貴婦人の部屋である。ベッドの脇には呼び紐が天井から垂れていた。
程なくして、ドアをノックする音が聞こえた。
「は、はい」
サラはぎこちなく答える。ドアを開けて入って来たのはタンジーだった。朝食を乗せた銀の盆を持って、タンジーは部屋へ入って来た。
「お目覚めかね? 奥さんに朝食をお持ちしたよ」
タンジーはそう言って盆をサイドテーブルに置くと、その脇に置いてあった木製の組み立て式テーブルの脚を立てて、ベッドへ置いた。その上に盆を置く。ポタージュスープに半熟茹で玉子にベーコン、トマトソースで茹でた豆に、焼き立てのパンが乗っていた。
「美味しそうね」
「そうだろう。これを食べたら、今日はマリー婦人の所に行くと良い」
「マリー婦人?」
「ワシの友人だよ。婦人は中々服のセンスが良くてな、彼女と一緒に服を買いに行ったら良い。これからは街で暮らすんだから、服装もそれに見合ったものにした方が良いだろう。マリー婦人の家は家の三軒先だ。カイリを連れてな」
「分かったわ」
朝食を終えたサラは着替えるとカイリを連れてマリー婦人の家を訪れた。婦人の家もタンジーと負けず劣らず立派で、サラは世の中にはオアシスの村では想像も出来なかった様な、裕福な人というのが結構居るのね、と溜め息をつく。
「話はタンジーから聞いているわ」
マリー婦人はそう言ってサラを客間へ案内した。マリー婦人は中肉中背のバランスの取れた体をした中年女性で、ふくよかな色白の顔はいかにも良いところの出といった、温厚そうな表情を湛えていた。紫色のシルクの裾広がりのドレスを着て、ウエストはオレンジ色の幅広のベルトで絞っている。
「タンジーの奥方という事なら、やはりそれなりの衣装を身に付けないとね」
マリー婦人はそう言ってにこやかに笑った。
「でも、私は街へは来たばかりで、どこへ行けば良いのか分からないの」
「大丈夫よ。私と行きましょう。任せておいてね。素敵なレディーにしてあげるわ。でもその前に、お茶にしましょう」
客間へメイドがやってきて、香り高い紅茶をポットからカップへ注いだ。高雅な香りが部屋に満ちていく。ゴブラン織りの豪華なソファーに腰掛けて、サラは紅茶を一口飲んだ。タンジーといい、マリー婦人といい、裕福な人の余裕のある優しさに触れて、サラの心は少し和んだ。だが、愛の問題となると別だった。どんなに裕福でも、だからと言って愛せるとは限らない――
サラの表情が曇ったのを目敏く見つけたマリー婦人は、穏やかに訊ねた。
「……愛してないのね?」
突然心の内を見透かされたサラは驚いた顔をしてマリー婦人を見つめた。
「あの……」
「フフフ。顔に書いてあるわ」
「私……」
「良いのよ。女心は複雑ですもの。さ、お茶が終わったら出かけるわよ」
マリーはそう言うと馬車を用意させた。
馬車で街の高級衣料店へ着いた二人は、それぞれ従者を従えて店へ入った。美しい若い女性店員がすかさず慇懃に挨拶する。店内は美しい衣装の色の洪水だった。緋色のドレス、翡翠色の上着、碧のスカート……。サラは軽く目眩を覚えた。
「サラ、こっちへ来て。このブルーのドレスなんか、似合うと思うのよ。貴女の青い瞳に映えるわ」
マリーはシルクの青いロングドレスを手に取ると、サラの体の前に当てた。
「それから……この赤いのも素敵だわ」
赤いシルクの生地に細かな金の刺繍を施したワンピースも同じように体の前に当ててみる。マリーは何着かドレスを選ぶと、店員へ向かって、
「こちらを試着してみたいから、よろしくね」
と声をかけた、店員は静かに頷くと、ドレスを受け取り
「こちらです」
とサラを試着室へ案内する。試着室で、サラは青いドレスを着てみた。姿見に全身を映してみる。マリーが言った通り、サラの青い瞳にブルーのドレスが良く映える。シルクのサラリとした肌触りが心地よかった。こんな高級なドレスは村で娼婦をしていても決して手に入れる事は出来ない。サラは鏡に映った貴婦人然とした自分の姿を見て、悪くない、と思った。ドレスを着たまま試着室の外へでると、店員が
「まあ、良くお似合いですわ! まるで何処ぞの王妃様の様です。これで殿方の視線は独り占め間違いなしですわよ」
と褒め称えた。マリーも
「思った通りよ! 良く似合っているわ。他のも試着してみなさい」
と手を叩く。サラは試着室へ戻ると、他のドレスも次々に着てみた。どれもサラの体にフィットして、良く似合っていた。
サラは結局十二着のドレスを購入して、店を後にした。
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