小説家 夢咲香織のgooブログ

私、夢咲香織の書いた小説を主に載せていきます。

短編恋愛小説 砂漠の薔薇(R15) 07医者 夢咲香織

2021-02-11 19:34:45 | 小説

この作品は性的な表現を含むためR15となっております。

 ドレスを購入したサラは家へ帰って来た。タンジーは仕事に出かけて留守だった為、サラは一人で部屋へ戻った。寝室で、サラは青いドレスを着てみた。今日はこのドレスで過ごそうかしら? サラは鏡に姿を映してみたが、一人では別段楽しくもない。カイリを呼び出した。

「はい、奥様」

カイリはすぐに現れて、サラの指示を待つ。

「別に用事という訳では無いのよ。ただ……ねえ、このドレスどう思うかしら?」

「とても良くお似合いでいらっしゃいます」

「……本当の事が聞きたいのよ。お世辞ではなく」

「本心から申しております」

「そう……良かったわ」

サラは本心とは裏腹にそう答えた。ドレスが似合っていようがいまいが、どうでも良かった。どのみち似合っていたところで、見てくれる人間はタンジーとメイド達である。ドレス姿のサラを見たら、タンジーは喜ぶだろうか? きっと大喜びで、そして脱がしてサラの体を楽しもうとするのだろう。そうなる結末が分かっているのだから、嬉しいとは思えなかったのである。


 このままタンジーの欲求に答え続けていたら、いずれ妊娠しはすまいか? 突然、サラの脳裏におぞましい光景が浮かんだ。タンジーの子を身籠る――そんな事は絶対に後免だった。タンジーの相手をするのは仕方が無いとして、何か方法は無いものか?

「ねえ、カイリ、妊娠しないようにするにはどうしたら良いか、お前知っている?」

「は……」

カイリは少しだけ動揺したが、すぐに冷静を取り戻して告げた。

「街に医者がおります。薬を使って、避妊する事が出来ると聞いた事があります」

「そう……」

サラは少し考えると、

「じゃあ明日、その医者の所へ案内して頂戴」

とカイリに申し付けた。

「畏まりました。奥様」

「ありがとう。もう下がって良いわよ」

「はい、失礼致します」

そう言ってカイリは部屋を出ていった。


 明くる日、サラはカイリを連れて街の医者を訪れた。中々立派な建物で、待ち合い室には既に数人の患者が順番を待っていた。サラは患者達に挨拶すると、ソファーに座った。どんな医者なのだろう? 避妊の理由を訊かれたらどうしようか? そんな事を考えながら待っていると、すぐにサラの番になった。診療室に入ると、大きな机の前で革張りの椅子に座った医者が、向かいのソファーに座るようにサラを促した。

「どうされましたか?」

医者は努めてにこやかな声でそう訊いた。

「はい、あの……避妊のお薬が欲しいのです」

「避妊ね……ええ、薬はございますよ。ですが、少し体に負担のかかる薬ですが……」

「構いません。どうしても妊娠したく無いのです」

「分かりました」

「それと、この事は内密にお願いしたいのです。主人にも」

「奥様、ご心配には及びません。医者には守秘義務という物がございます。この部屋で交わされた内容は誰にも話される事はありませんよ」

「そうですか……」

サラはほっと胸を撫で下ろした。


「ありがとうございました」

医者から薬を処方されたサラはカイリと連れだって外へ出た。

「間違っているかしら?」

サラはカイリにそう訊いた。

「何がです? 奥様」

「避妊薬を飲む事よ」

「私は奥様の従者でございます。その様な判断の権限はございません」

「そう……。主人には秘密にして頂戴」

「畏まりました」

サラは馬車へ乗ろうとしたが、ふと、通りを歩く若者が気になった。目を凝らして良く見る。イルカじゃないかしら? サラの心臓は高鳴った。

「イルカ!」

サラは若者に向かって叫んだ。若者が振り向く。イルカに良く似ている! だが若者は咄嗟に走り出した。

「待って! 何故逃げるの?」

サラは必死に走って後を追ったが、二人の間はぐんぐん開き、とうとう若者は何処かへ消えてしまった。

「イルカ……きっとそうよ、あれはイルカだわ。でも何故逃げるのかしら? 私が分からないのかしら?」

サラはドレス姿の自分を見下ろした。私は村に居た時とは随分変わってしまった。それで、彼は私だって分からなかったのかしら?


 サラは諦めて馬車に乗った。確かにイルカだった。あの緑の瞳……サラの心に子供時代のイルカの姿が浮かび上がる。幸福だったあの頃。でも、さっきのイルカは薄汚れた服を着て、何だか暗い、ちょっと別人みたいだったわ……。何があったのかしら? 

 でも、イルカがこの街で生きている事は分かったわ。サラの目に涙が滲んだ。良かった、生きていてくれて! 後でゆっくり探せば良いわ……。サラは背もたれに背中を埋めると、大きく息を吐いた。大粒の涙が数滴こぼれ落ちた。今まで、もう二度と彼には会えまい、と思っていた。それは絶望の日々だった。だが、一筋の希望が射したのだ。サラは窓から外を眺めた。日干し煉瓦や漆喰で出来た建物が通りすぎて行く。この街の何処かに、イルカは居る! サラは静かに微笑んだ。


短編恋愛小説 砂漠の薔薇(R15) 06マリー婦人 夢咲香織

2021-02-11 08:57:18 | 小説

この作品は性的な表現が含まれているため、R15になっております。

 目が覚めたサラは寝室をぐるりと見渡した。夕べは疲れていたし、暗かった為良く分からなかったが、改めてみると凄い豪華な部屋である。淡い水色の壁にはこれまた淡い色彩の子花模様が描かれ、暖かな色合いのマホガニーが床を覆っている。壁際には大きなクローゼットが設えてあり、その隣に鏡台が置かれていた。部屋の中央に置かれたベッドには天蓋がついており、白い薄いレースが垂れ下がっている。正に貴婦人の部屋である。ベッドの脇には呼び紐が天井から垂れていた。


 程なくして、ドアをノックする音が聞こえた。

「は、はい」

サラはぎこちなく答える。ドアを開けて入って来たのはタンジーだった。朝食を乗せた銀の盆を持って、タンジーは部屋へ入って来た。

「お目覚めかね? 奥さんに朝食をお持ちしたよ」

タンジーはそう言って盆をサイドテーブルに置くと、その脇に置いてあった木製の組み立て式テーブルの脚を立てて、ベッドへ置いた。その上に盆を置く。ポタージュスープに半熟茹で玉子にベーコン、トマトソースで茹でた豆に、焼き立てのパンが乗っていた。

「美味しそうね」

「そうだろう。これを食べたら、今日はマリー婦人の所に行くと良い」

「マリー婦人?」

「ワシの友人だよ。婦人は中々服のセンスが良くてな、彼女と一緒に服を買いに行ったら良い。これからは街で暮らすんだから、服装もそれに見合ったものにした方が良いだろう。マリー婦人の家は家の三軒先だ。カイリを連れてな」

「分かったわ」


 朝食を終えたサラは着替えるとカイリを連れてマリー婦人の家を訪れた。婦人の家もタンジーと負けず劣らず立派で、サラは世の中にはオアシスの村では想像も出来なかった様な、裕福な人というのが結構居るのね、と溜め息をつく。

「話はタンジーから聞いているわ」

マリー婦人はそう言ってサラを客間へ案内した。マリー婦人は中肉中背のバランスの取れた体をした中年女性で、ふくよかな色白の顔はいかにも良いところの出といった、温厚そうな表情を湛えていた。紫色のシルクの裾広がりのドレスを着て、ウエストはオレンジ色の幅広のベルトで絞っている。

「タンジーの奥方という事なら、やはりそれなりの衣装を身に付けないとね」

マリー婦人はそう言ってにこやかに笑った。

「でも、私は街へは来たばかりで、どこへ行けば良いのか分からないの」

「大丈夫よ。私と行きましょう。任せておいてね。素敵なレディーにしてあげるわ。でもその前に、お茶にしましょう」


 客間へメイドがやってきて、香り高い紅茶をポットからカップへ注いだ。高雅な香りが部屋に満ちていく。ゴブラン織りの豪華なソファーに腰掛けて、サラは紅茶を一口飲んだ。タンジーといい、マリー婦人といい、裕福な人の余裕のある優しさに触れて、サラの心は少し和んだ。だが、愛の問題となると別だった。どんなに裕福でも、だからと言って愛せるとは限らない――


 サラの表情が曇ったのを目敏く見つけたマリー婦人は、穏やかに訊ねた。

「……愛してないのね?」

突然心の内を見透かされたサラは驚いた顔をしてマリー婦人を見つめた。

「あの……」

「フフフ。顔に書いてあるわ」

「私……」

「良いのよ。女心は複雑ですもの。さ、お茶が終わったら出かけるわよ」

マリーはそう言うと馬車を用意させた。


 馬車で街の高級衣料店へ着いた二人は、それぞれ従者を従えて店へ入った。美しい若い女性店員がすかさず慇懃に挨拶する。店内は美しい衣装の色の洪水だった。緋色のドレス、翡翠色の上着、碧のスカート……。サラは軽く目眩を覚えた。

「サラ、こっちへ来て。このブルーのドレスなんか、似合うと思うのよ。貴女の青い瞳に映えるわ」

マリーはシルクの青いロングドレスを手に取ると、サラの体の前に当てた。

「それから……この赤いのも素敵だわ」

赤いシルクの生地に細かな金の刺繍を施したワンピースも同じように体の前に当ててみる。マリーは何着かドレスを選ぶと、店員へ向かって、

「こちらを試着してみたいから、よろしくね」

と声をかけた、店員は静かに頷くと、ドレスを受け取り

「こちらです」

とサラを試着室へ案内する。試着室で、サラは青いドレスを着てみた。姿見に全身を映してみる。マリーが言った通り、サラの青い瞳にブルーのドレスが良く映える。シルクのサラリとした肌触りが心地よかった。こんな高級なドレスは村で娼婦をしていても決して手に入れる事は出来ない。サラは鏡に映った貴婦人然とした自分の姿を見て、悪くない、と思った。ドレスを着たまま試着室の外へでると、店員が

「まあ、良くお似合いですわ! まるで何処ぞの王妃様の様です。これで殿方の視線は独り占め間違いなしですわよ」

と褒め称えた。マリーも

「思った通りよ! 良く似合っているわ。他のも試着してみなさい」

と手を叩く。サラは試着室へ戻ると、他のドレスも次々に着てみた。どれもサラの体にフィットして、良く似合っていた。


 サラは結局十二着のドレスを購入して、店を後にした。