ねこのにくきゅう

題詠100首と短歌のページ

からっぽ 噛 クリーム

2006-08-29 | 拉致

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  からっぽ




嬉しさも悲しみも知る年月の記憶の残るからっぽの瓶(上田のカリメロ)

約束はからっぽだった毎日に小さなマルをつけさせたりする(小軌みつき)

浅春に風を生みつつからつぽの終バスが夜のぬばたま運ぶ(丹羽まゆみ)

蓮まさにひらかむとする躬のうちに精いつぱいのからつぽを持つ(謎彦)

からっぽの心で母はなにを待つ老人だけの部屋の片隅(しゃっくり)

無防備でいてもいいよね からっぽのままのこころじゃ泣くこともない(暮夜 宴)

携えるもの残るもの何もないからっぽの手に歌だけ持って(愛観)

夕間暮れからっぽ公園ちぎれ雲 影まで夜に帰り始める(ぱぴこ)

だからもうからっぽだって夏空に力の限り打てばかがやく(ひぐらしひなつ)

肺の中からっぽになるまで言ってみろ お前が生きたいと思う理由を(KARI-RING)

からっぽのドロップス缶何度でも振り続けてるような さよなら(田丸まひる)

子らがまた巣立ちてあとのからっぽの部屋に残れるポスターの跡...(堀 はんな)

からっぽでいっぱいになるごみ袋 軽い軽くて泣きそうだ もう(みち。)

からつぽであるここちよさ壜のごとひかりを充たすひかりを反す(萱野芙蓉)

げんこつを吐き出すようにからっぽになるまで泣いて泣いて果てたい(睡蓮。)

からっぽの胃に泡盛をつめこんで父の孤独に近づいてみる(舞姫)

くだらない意地はさておきからっぽの私を埋める恋をしようか (ベティ)

からっぽはからっぽなりにかんがえたこたえをいっしょうけんめいに言う(癒々)

そしてようやくからっぽはやってくるだろう つぎつぎ孵るものの背後に(村上きわみ)

からっぱにすればアタリが見えるかも 人生の泡無理して飲み干す(折口弘)

からっぽは切なかったかそうなんかと細長い箸持ち母を拾う(和良珠子)

からっぽになったわたしのぬけがらが空を塞いだ自意識に舞う(内田誠)

からっぽのうつわに水をそそぐやうにわれを抱きたる肌のしめりし(黄菜子)

砂時計見つめています からっぽの部分に過去が満ちてゆきます(cocoa)

からっぽの上り列車に乗り込んでからっぽの部屋へ帰るのでしょう(なまねこ)

からっぽのドロップ缶をのぞきこみ旅の終わりのような一日(ハル)

からっぽにしたはずなのにわたしにはまだ君がいて前が見えない (あいっち)

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  噛




一枚も二枚も噛めど三枚は噛まば奈落ぞブッシュの戦に(髭彦)

禁煙とその挫折との繰返し今日は朝からガム噛みていぬ(西中眞二郎)

するめなど炙り噛みいるふたりなりただ黙々とテレビを見つつ(原田 町)

校庭の角で唇噛みしめる天下無敵の鉄棒少女(野良ゆうき)

なにくわぬ顔で嘘つくその口を 噛んでみたいと思えてならん (みゆ)

噛むことに よって味わう やりかたに 異論あるのは 飴玉だろう(改行やたら好きな人)

噛みきれず飲み込んだけどあの言葉まだ異物です心の隅で(まつしま)

噛み終えたガムを譜面の一枚に包んで放り投げる日曜(佐原みつる)

するめ噛む生まれながらの歯は健在七十五歳の酒うまし春(方舟)

噛み痕をあかく残した手の甲でつめたい頬を拭ってくれた(ひぐらしひなつ)

噛みしめるようなさみしさいつの日もやさしくふるだけの花のなか(飯田篤史)

あと五分経ったら帰ろう 味のないガムを噛みつつ携帯にぎる(凛)

噛み合わぬハナシが面倒くさくなり四捨五入してOKとする(Ja)

ふたりして一生懸命ガム噛んで 風船作って旅に出ようか(村上はじめ)

孫のことなれば意見の噛みあひてデジタルビデオの品定めする(中村うさこ)

日に三回キシリトール噛みながら心でくちゃくちゃ人噛み殺す(夢眠)

爪を噛む癖ある児(こ)の言ふ「ママおらん」ほつれ下げ髪結ひ直しやる(yurury**)

噛みつくがごとき口調で反発す 十二歳の心の深き淵見る...(湯山昌樹)

磨り減つてゐるのでせうね 噛みあはぬ歯車だからゆつくり止めた(村本希理子)

夜叉だとか母神ではなく親なんて所詮は噛ませ犬に過ぎない(和良珠子)

園服の袖噛みながら参観にまだ来ぬ母を探す眼のあり(内田かおり)

餓え死んだ同胞の肉噛み千切る仔犬を見たり途上国にて(橋都まこと)

きみの吐くことばにわたし噛みつかれ 傷ついてない 泣いてない。ふり。(長沼直子)

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  クリーム




夕暮れの街で五人の助教授がアイスクリームを必死に食べてる(aruka)

脳味噌に生クリームをぶちこんでとろとろすぎる恋を頬張る(ハナ)

デザートのアイスクリームを食べ終えて白いベールの花嫁は笑む(ドール)

シュークリームは靴墨の意と友言いぬ高校時代の晴れし日の午後(西中眞二郎)

肌に塗るひとつの束縛真っ白な世界に指を埋めたしクリーム(紫女)

ざらついた心を見透かされそうであちこちに塗るニベアクリーム(暮夜 宴)

体液と思えば更に耀(かがよ)いて生クリームの角(つの)の脆さよ(水須ゆき子)

誰とでもなめらかになるクリームを持ったあなたを羨んでいた(丘村トモエ)

「君だってころんだじゃない」無事だったソフトクリームとおくまで雪(おとくにすぎな)

君と住む部屋のイメージ決めかねてクリーム色のカーテンを買う(ぱぴこ)

カスタードクリーム色の月は満ち 今日はこちらにお泊まりします(西宮えり)

溜息のひとつと半分ほど取ってハンドクリーム腕まで伸ばす(佐原みつる)

計画は未遂に終わりはみだしたクリーム避けて雑踏が過ぐ(ひぐらしひなつ)

銃声はコンビにまでは届かない。クリームパンは平和の味だ。(みち。)

埋めるべく空白もなく本日はクリームパンのごとき一日(斉藤そよ)

ちょんちょんとクリーム付ける指先を風呂上りの手が並んで待ちぬ...(堀 はんな)

ほほにつく クリーム拭かずに ペロペロと そんなペコちゃん 実は還暦(よっきゅん)

かさかさの手にクリームをぬるように君が必要しみこんで来て(睡蓮。)

君ったらおもいがけなく笑いだすシュークリームが破れるように(飛鳥川いるか)

クリームを乗っけたような雲ひとつ青空に立つ鉄塔の上(林本ひろみ)

無理矢理にホイップされたピーナッツクリームなのね ともかく笑ふ(村本希理子)

果てるまで見届けてやる アイスクリーム道に落としたこどもみたいに(和良珠子)

そうだね、クリームがかったやわらかなバリアをつぶしたんだ、自立は(いづみ)

傷つけた償いもせず傷ついたものも癒せずクリームをぬる(わたつみいさな。)

ぐずぐずと溶けてしまっていいのかと あなたを前にクリーム吠える(池田潤)

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椅子 桜

2006-08-24 | 拉致
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  椅子 



われの身とわが負荷を載せ耐へきれず壊れたり朱のまぼろしの椅子(船坂圭之介)

慣れていたあの椅子がないこの部屋の赤い光が俺を拒否する(新井蜜)

春だねと言いつつ客の入り来ぬ床屋の椅子にまどろみおれば(西中眞二郎)

ゆり椅子を揺らせる陽炎ゆれながら千まで数えるおお祖母の声(行方祐美)

屋上にぼくのロンリープラネタリウムもうきみは亡き白い丸椅子(小軌みつき)

椅子ひとつ運び出されし教室にもどれぬ心が闇に座す昼(ほにゃらか)

みちばたに座る若者立ち上がれ地球はきみの椅子じゃないから(かっぱ)

公園の捨てられた椅子に陽はこぼれひかりの子どもの遊び場となる(文月万里)

赤ライト無言でみつめひたすらに生還祈る黒い長椅子(翔子) 

放課後にお前の椅子を蹴り倒す鉄の匂いに沈む復讐(ぱぴこ)

亡くなった祖母の代わりに出勤を見守ってくれる車椅子の青(みにごん)

くちびるがふと近づいて来てそして  待合室の椅子が軋んだ(花夢)

足のなき椅子が座椅子となるやうに軽くいふなよ頑張れなんて(みの虫)

人魚らは虹の先まで行けるよう回転椅子に正しく座る(西宮えり)

駅前で空気椅子してまだ5分 早く来てくれ(いろんな意味で)(夢麿)

木の香り漂わせたままあてがわれる椅子 私はここにいてもいいんだ(KARI-RING)

彼女の椅子はいま校舎の脇、供えられた花束と消える、(kitten)

足長い椅子にまたがり背もたれを抱きしめたまま朝を迎える(睡蓮。)

ダイニングの椅子ひとつ持ち屋上の真ん中に置いて今日は戦争(ざぼん)

窓のないカウンセリング室の椅子で今日も誰かが森を見ている(そばえ)

ぱたぱたと折り畳まれるパイプ椅子みんなだれかの夢でできてる(なかはられいこ)

野に置けば野の椅子として待つでしょう わたしにどうぞおすわりなさい(村上きわみ)

朽ち果ててゐるのだ椅子は唐草に覆はれもはや人をゆるさず(村本希理子)

ため息を吐き出しながら沈み込む椅子とひとつになりそうな夜(いちぼん)

素直にはそう簡単になれなくて椅子の下からのぞいてるねこ(長沼直子)

その椅子にわたくしBを座らせてわたくしAはしばらく夢を(星川郁乃)

このまま座り続けていては体ごと椅子のかたちに滅びてしまふ(cocoa)

病院の廊下で一人車椅子に座りて雲を見ている老女...(智理北杜)

あのひとが選んだ椅子や壁の絵に目撃させるためのセックス(しょうがきえりこ)

椅子の背を蹴ってサヨナラ言うような一瞬先見て言訳を聴く(湖雨)


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  桜



うら若きジーパンの娘(こ)が大胡座(おおあぐら)かいて桜の樹の下にあり(西中眞二郎)

さくらんぼふくめば太宰の苦わらいうつし世にまた桜桃忌来る(小軌みつき)

逢ひたくて逢へざる人を想ふとき夜の桜はかうも哀しく(ほにゃらか)

生薬としての桜皮(あうひ)は収斂や鎮咳などに効ありと云ふ(謎彦)

桜など関係なくて薬局でバンドエイドを20枚買う(ハナ)

仇桜 無常の裸形を知ろ示し 惰眠の衆生を喚起せしめん(Yosh)

吹雪く風 桜ちるひら 綺麗やわ 花びら早う お猪口においで(改行やたら好きな人)

梅雨空に届いた知らせ不明死や兄は桜の頃に出掛けし(しゃっくり)

桜咲く隣家の下駄が飛んできて晴れだと子どもが前歯見せをり(紫女)

緋を含むつぼみ育ちし桜枝の あおいろ薄き空に映ゆるも(鈴雨)

僕達は何を卒業するんだろう桜はいまだつぼみのままで(史之春風)

桜待つはやる発情プレピンク梅の可憐と桃の挑発(田崎うに)

愛されることにためらったりしない桜ひとりで見ない ぜったい(田丸まひる)

もうべつにどうでもいいやと顔をあげ見たこともない桜、発見。(みち。)

染井野に降り積もりゆく花びらは死者を慰む桜色の雪(濱屋桔梗)

樹木にはついになれずにぼくたちは桜にしろい喉をさらして(村上きわみ)

春はやき胸に桜樹のひろがりて枝の先までともるともしび(村本希理子)

どうしても消せない誰かの悲しみをそっと受けとり桜が散った(内田誠)

見上げるだろうちいさな骨になるころは桜はなびらはらはらと散れ(和良珠子)

一年中カメラの前で咲き誇る桜みたいな林家パー子(びっきい)

寿ぎにほわっとひらく桜茶をめでて味あう倭の国(酒童子)

満開の桜の下(もと)に集い来て匂いたつなり黄泉のうたびと(小籠良夜)

白無垢を愛でて華やぐ桜湯のほのかに香る親族の部屋(落合朱美)

はらはらと散る桜花浴びるよう 貴方の心を眺めてました(やな)

夜桜もケーキ屋もない坂道で甘みを感じ上を向く 月(瀧口康嗣)

(みんなみんな桜の道を行ったきり…)獄舎の闇に月を産むひと(岩井聡)

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