ねこのにくきゅう

題詠100首と短歌のページ

信号 美

2006-11-22 | 拉致

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△



   信号




信号の青に許されつかの間をゼブラゾーンの春風となる(丹羽まゆみ)

郊外に住みいる友は信号を踏切などと言うがおかしき(西中眞二郎)

信号の赤を背負って立つひとの永遠なんて5時間でした(ハナ)

危険でも赤信号を突っ切って追いかけるほど君が欲しくて(ふしょー)

君らしくないことばかり増えてゆく信号待ちのあいだの口論(五十嵐きよみ)

持ち上げるとやっと手になるわたくしの信号はまだ点滅中の(水須ゆき子)

きみが今血を流したりまばたきをしたりしながら送る信号(西宮えり)

うなだれて横断歩道を引き返す信号の青を信じられずに(小原英滋)

信号が滲んで見える雨の日の草をふるわすようなくちづけ(ひぐらしひなつ)

着陸の機内にやがて映り出て手旗信号おもむろに招く(中村うさこ)

信号の点滅に息をととのえてコンバースには一対の星(村上きわみ)

点滅を繰り返してゐる信号の朝のひかりの中の孤独が(村本希理子)

雨降りの似合う橋なり信号の赤のことさらぼんやりとして(あいっち)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△



   






しば漬は茄子のむらさきしんなりと今宵美し伊万里のうへに(春畑 茜)

美しく泣けるわけない美しく笑うことさえ 葉桜を待つ(ハナ)

美しい誤解の上に成り立った過去・今・未来のすべての恋は(五十嵐きよみ)

醜さを撮るため今日も人を撮る戦争はもう美しいから(本原隆)

さみしくて美しすぎるおもいでをもうこなごなにしてあげるから(飯田篤史)

冬の灯を消さうとするととめどなく美しく降るあのころの雪(斉藤そよ)

美しき日日も翳みて八十路なる義母(はは)は狂女のうすき眉ひく(みずき)

賛美歌をうたえば天使に会えるって信じてたのよ子どもの頃は (あいっち)

ああこんな美しい日に豚まんの底の薄紙はがしあぐねて(大辻隆弘)

美ら海になんくるないさと囁かれまた伏せておく青すぎる夏(星川郁乃)

美しき言葉遣いのひとに遇いしばし余韻に身をゆだねおり(文月万里)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△




スカート 雨

2006-11-11 | 拉致

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△



  

  スカート




スカートにかくれんぼする子の背(せな)をそつと押し出す 桜の中へ(ほにゃらか)

スカートがゆれるやさしくたよりなくあなたのはるのかぜをまとって(飯田篤史)

ひらりひらり スカート脱いでジーンズに着替えるように 着替えられたら(素人屋)

回るたび少し遅れてついてくる青いスカートしたむきに咲く(秋野道子)

なせばなると信じてゐましたスカートの折り目正しき小娘でした(飛鳥川いるか)

長くても短すぎてもダメなのだ助手席すわるスカートの丈(ふふふふふふふ)

くりかえし君にしたしむ スカートをれんげの上にわんとかぶせて(村上きわみ)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△



  

   雨





日照雨(そばえ)とはひかりの走り春先のひとり遊びに飽きたその頃(行方祐美)

ぬかるみを踏む足裏に春のこゑ 雨はやさしく大地やしなふ(丹羽まゆみ)

ワイパーは私を裏切らない今夜止まない雨を蹴散らしに行く(ハナ)

降り落ちる雨の匂いを吸いこんで春との距離を確かめている(佐田やよい)

死にたての匂いがすると猫の目が膨らむ そうね、雨になるわね(水須ゆき子)

今日、ひとつ嘘をつきます 川沿いのコーヒーショップはうっすらと雨(花夢)

(どれくらい ねえ、黙ってる) 少しだけずれた雨音聴いている夜 (素人屋)

花びらを空へ空へと開きゆく白蓮すこしうつむけば 雨(みあ)

「食べなよ」とお皿に乗せた太陽にケチャップの雨かけて言うきみ(ざぼん)

今だって全速力で雨のなか駆け抜けられると信じているはず(富田林薫)

こいびとを雨にあずけておわかれのれんしゅうをする らなうよさはで(村上きわみ)

虹となる場所を探している雨が僕らを置いて夏を急いだ(内田誠)

すれ違う君と僕との関係が雨と虹との様であればと(折口弘)

朽ち樋のような子どもの死のかたち外廊下だけ雨が止まない(岩井聡)

霧雨に薄れる坂の苦しみがじっとり肌にしがみついてく(帯一 鐘信)

ざんざんとキューピッドの矢が降り注ぐ大雨の日に出逢ったのです(遠藤しなもん)

心には時効などなく冬の雨降れば会いたくなるひとがいる(あいっち)

しかも雨ならばもうだうしやうもなく昨日の卵を抱いてゐたのだ(大辻隆弘)

傘を持つ人のいない町でしたからっぽの空に雨雲はなく(ゆづ)

海に降る雨を見たくて歌ふうた けふは水の日あしたは木の日(春村蓬)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


せせらぎ 医

2006-11-03 | 拉致


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△



  せせらぎ


逆光に釣り上げられて束の間をせせらぎの上(へ)に魚が歪めり(春畑 茜)

ゆるされて今流れ出す雪解けの海へと向かうせせらぎを聞く(ドール)

わさび田へ続く水辺のせせらぎをたゆたう草に心憩いて(佐田やよい)

せせらぎの中にあっては蟹・魚 生まれ死んでく流されながら(島田久輔)

先生の声もノートを取る音もせせらぎと化す春の教室(ぱぴこ)

春色に爪染めて今日せせらぎにらららと歌えばるるると流る(黄菜子)

色紙で作る紫陽花さみしがる人はせせらぎでさえ溺れる(和良珠子)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△ 



 医



中庭の金魚の池がまず暮れて鈴木小児科医院しずまる(水須ゆき子)

家族以外馴れないウサギを獣医師に見せれば顔をそっと背ける(新野みどり)

深海の魚は動かず 真夜中の医局の隅に浮くあばら骨(ひぐらしひなつ)

それだけを覚えていようと見つめてた やたらと白い医務室の壁(癒々)

峠ふたつ越えし町より群青の影つれてくる馬医とその妻(村上きわみ)

医務室のベットで君はまごころを抱えるように眠り続ける(内田誠)

水は澄む 外科医の赤いくちびるがひとの運命を軽く告げても(和良珠子)

延命を望まぬ祖母を正しいとうなづく医者がヒトに見えた日(わたつみいさな。)

分類上医薬品にもなれぬまま神の名をもつ薬用ミューズ (青山みのり)

脈をとる医師の指先感じつつまぶたの裏の夕焼けを見る(春村蓬)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△ 

刻 秘密

2006-09-06 | 拉致

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


  
  刻




この都市と二重に存在する都市でだれかが刻んだ文字をみつけた(aruka)

乗りたればもう用のなき時刻表カバンに入れてバスに寛ぐ(西中眞二郎)

同姓の多き村なり墓石に桶屋鍛冶屋と家業刻まれ(原田 町)

5m先の肩幅に刻まれたフェザーをめがけ、クロールを攪く(たざわよしなお)

柔肌の石 刻まれた名の主の欠と落とを本音で述べよ(西宮えり)

泣きさうにところどころでなりながら刻まれてゆくあたらしい春(斉藤そよ)

喧嘩して仲直りして小刻みに君との距離が縮まつてゆく(今泉洋子)

知ることの誰もない子の名を白い紙に書いては刻んで流す(和良珠子)

時刻表読むのが好きなじいちゃんのしわを線路のように辿って(ケビン・スタイン)

秋になることのできない夏にいて遅刻のわけも聞けないままで(しょうがきえりこ)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△ 



  秘密




まだ知らぬ子らの会話の端々の秘密と内緒の微妙な違い(上田のカリメロ)

夢に見し乙女の裸像美(は)しかりきわが末代の秘密とやせむ(船坂圭之介)

あちこちに秘密の本をかくしてた 世界によく似た小さな部屋で(aruka)

ため込んだ秘密を全部埋めるには三日三晩は穴掘りしなきゃ(富田林薫)

わたくしの宝石になる秘密です男のひともあんなして泣く(ハナ)

満月は今宵静かな共犯者 主犯は誰であるかは秘密(野良ゆうき)

ひとんちの庭にうずめたロウネンドひとつ秘密の場所がほしくて(おとくにすぎな)

快活にまはるはぐるまかたときも秘密めかないものであらんと(斉藤そよ)

秘密だといった時点で秘密ではなくなることを知る女子トイレ(にしまき)

雨ばかり降る町へゆき軒下に秘密そだてて暮らしましょうか(村上きわみ)

つながりを失う夜に読みかえすかつて秘密と呼んだ約束(内田誠)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△ 

からっぽ 噛 クリーム

2006-08-29 | 拉致

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△  



  からっぽ




嬉しさも悲しみも知る年月の記憶の残るからっぽの瓶(上田のカリメロ)

約束はからっぽだった毎日に小さなマルをつけさせたりする(小軌みつき)

浅春に風を生みつつからつぽの終バスが夜のぬばたま運ぶ(丹羽まゆみ)

蓮まさにひらかむとする躬のうちに精いつぱいのからつぽを持つ(謎彦)

からっぽの心で母はなにを待つ老人だけの部屋の片隅(しゃっくり)

無防備でいてもいいよね からっぽのままのこころじゃ泣くこともない(暮夜 宴)

携えるもの残るもの何もないからっぽの手に歌だけ持って(愛観)

夕間暮れからっぽ公園ちぎれ雲 影まで夜に帰り始める(ぱぴこ)

だからもうからっぽだって夏空に力の限り打てばかがやく(ひぐらしひなつ)

肺の中からっぽになるまで言ってみろ お前が生きたいと思う理由を(KARI-RING)

からっぽのドロップス缶何度でも振り続けてるような さよなら(田丸まひる)

子らがまた巣立ちてあとのからっぽの部屋に残れるポスターの跡...(堀 はんな)

からっぽでいっぱいになるごみ袋 軽い軽くて泣きそうだ もう(みち。)

からつぽであるここちよさ壜のごとひかりを充たすひかりを反す(萱野芙蓉)

げんこつを吐き出すようにからっぽになるまで泣いて泣いて果てたい(睡蓮。)

からっぽの胃に泡盛をつめこんで父の孤独に近づいてみる(舞姫)

くだらない意地はさておきからっぽの私を埋める恋をしようか (ベティ)

からっぽはからっぽなりにかんがえたこたえをいっしょうけんめいに言う(癒々)

そしてようやくからっぽはやってくるだろう つぎつぎ孵るものの背後に(村上きわみ)

からっぱにすればアタリが見えるかも 人生の泡無理して飲み干す(折口弘)

からっぽは切なかったかそうなんかと細長い箸持ち母を拾う(和良珠子)

からっぽになったわたしのぬけがらが空を塞いだ自意識に舞う(内田誠)

からっぽのうつわに水をそそぐやうにわれを抱きたる肌のしめりし(黄菜子)

砂時計見つめています からっぽの部分に過去が満ちてゆきます(cocoa)

からっぽの上り列車に乗り込んでからっぽの部屋へ帰るのでしょう(なまねこ)

からっぽのドロップ缶をのぞきこみ旅の終わりのような一日(ハル)

からっぽにしたはずなのにわたしにはまだ君がいて前が見えない (あいっち)

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△  



  
  噛




一枚も二枚も噛めど三枚は噛まば奈落ぞブッシュの戦に(髭彦)

禁煙とその挫折との繰返し今日は朝からガム噛みていぬ(西中眞二郎)

するめなど炙り噛みいるふたりなりただ黙々とテレビを見つつ(原田 町)

校庭の角で唇噛みしめる天下無敵の鉄棒少女(野良ゆうき)

なにくわぬ顔で嘘つくその口を 噛んでみたいと思えてならん (みゆ)

噛むことに よって味わう やりかたに 異論あるのは 飴玉だろう(改行やたら好きな人)

噛みきれず飲み込んだけどあの言葉まだ異物です心の隅で(まつしま)

噛み終えたガムを譜面の一枚に包んで放り投げる日曜(佐原みつる)

するめ噛む生まれながらの歯は健在七十五歳の酒うまし春(方舟)

噛み痕をあかく残した手の甲でつめたい頬を拭ってくれた(ひぐらしひなつ)

噛みしめるようなさみしさいつの日もやさしくふるだけの花のなか(飯田篤史)

あと五分経ったら帰ろう 味のないガムを噛みつつ携帯にぎる(凛)

噛み合わぬハナシが面倒くさくなり四捨五入してOKとする(Ja)

ふたりして一生懸命ガム噛んで 風船作って旅に出ようか(村上はじめ)

孫のことなれば意見の噛みあひてデジタルビデオの品定めする(中村うさこ)

日に三回キシリトール噛みながら心でくちゃくちゃ人噛み殺す(夢眠)

爪を噛む癖ある児(こ)の言ふ「ママおらん」ほつれ下げ髪結ひ直しやる(yurury**)

噛みつくがごとき口調で反発す 十二歳の心の深き淵見る...(湯山昌樹)

磨り減つてゐるのでせうね 噛みあはぬ歯車だからゆつくり止めた(村本希理子)

夜叉だとか母神ではなく親なんて所詮は噛ませ犬に過ぎない(和良珠子)

園服の袖噛みながら参観にまだ来ぬ母を探す眼のあり(内田かおり)

餓え死んだ同胞の肉噛み千切る仔犬を見たり途上国にて(橋都まこと)

きみの吐くことばにわたし噛みつかれ 傷ついてない 泣いてない。ふり。(長沼直子)

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△



  クリーム




夕暮れの街で五人の助教授がアイスクリームを必死に食べてる(aruka)

脳味噌に生クリームをぶちこんでとろとろすぎる恋を頬張る(ハナ)

デザートのアイスクリームを食べ終えて白いベールの花嫁は笑む(ドール)

シュークリームは靴墨の意と友言いぬ高校時代の晴れし日の午後(西中眞二郎)

肌に塗るひとつの束縛真っ白な世界に指を埋めたしクリーム(紫女)

ざらついた心を見透かされそうであちこちに塗るニベアクリーム(暮夜 宴)

体液と思えば更に耀(かがよ)いて生クリームの角(つの)の脆さよ(水須ゆき子)

誰とでもなめらかになるクリームを持ったあなたを羨んでいた(丘村トモエ)

「君だってころんだじゃない」無事だったソフトクリームとおくまで雪(おとくにすぎな)

君と住む部屋のイメージ決めかねてクリーム色のカーテンを買う(ぱぴこ)

カスタードクリーム色の月は満ち 今日はこちらにお泊まりします(西宮えり)

溜息のひとつと半分ほど取ってハンドクリーム腕まで伸ばす(佐原みつる)

計画は未遂に終わりはみだしたクリーム避けて雑踏が過ぐ(ひぐらしひなつ)

銃声はコンビにまでは届かない。クリームパンは平和の味だ。(みち。)

埋めるべく空白もなく本日はクリームパンのごとき一日(斉藤そよ)

ちょんちょんとクリーム付ける指先を風呂上りの手が並んで待ちぬ...(堀 はんな)

ほほにつく クリーム拭かずに ペロペロと そんなペコちゃん 実は還暦(よっきゅん)

かさかさの手にクリームをぬるように君が必要しみこんで来て(睡蓮。)

君ったらおもいがけなく笑いだすシュークリームが破れるように(飛鳥川いるか)

クリームを乗っけたような雲ひとつ青空に立つ鉄塔の上(林本ひろみ)

無理矢理にホイップされたピーナッツクリームなのね ともかく笑ふ(村本希理子)

果てるまで見届けてやる アイスクリーム道に落としたこどもみたいに(和良珠子)

そうだね、クリームがかったやわらかなバリアをつぶしたんだ、自立は(いづみ)

傷つけた償いもせず傷ついたものも癒せずクリームをぬる(わたつみいさな。)

ぐずぐずと溶けてしまっていいのかと あなたを前にクリーム吠える(池田潤)

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△