創作の世界

工房しはんの描く、文字系の創作世界。

6・インフレ新入部員

2014-09-12 21:10:41 | 日記
 その後の数日間というもの、ラグビー部員たちの膨大なエネルギーは、ひたすらニンゲン狩りに費やされた。オレもまたボールに触れることもなく、校内に独り歩きの新入生を発見しては追っかけて捕獲する、という共同作業に従事させられた。
「これも練習の一環だ。本気でやれよ」
 オサが檄を飛ばす。
(なにが練習だ。これじゃまるで鬼ごっこじゃないか・・・)
 ところがのちに理解することだが、確かにラグビーとは、高度に統制された鬼ごっこなのだった。新人の捕獲も、追う側に立ってみると、これがなかなかスリリングで愉快なものだ。逃げる相手を取っ捕まえたときの快感ったらない。こうしてオレはいつしか犯罪に手を染め、野人たち(ラグビー部員)と一蓮托生の環境に身を置かされて、足抜けが許されなくなっていた。
 インフレ新入部員は、オレを含めて十名あまりも確保された。ところが次から次へとたちまちのうちに脱走していく。代わりを補充しても補充しても、ザルのように抜けていってしまうのだ。半月も過ぎた頃には、残った新人はオレを含めて三人きりという有り様だった。それも当然だろう。自主的に入部したわけではない上に、ラグビー部における新人の役割とは、ボコボコにされることなのだ。体罰やいじめが行われているわけではない。先輩たちの接し方は、フェアそのものだ。なのに、基礎練習で軽く揉まれるだけで、ボロ雑巾のようにのされてしまう。
(こんなにつらいとは・・・)
 このオレとて、何度やめようと思ったことか。が、この優柔不断な性格のせいで、なんとなく時期を逸してしまう。さっさと見切りをつけた者は賢明だった。だが気がつけば、もうこっそりと蒸発できるような雰囲気ではなくなっていた。人数がすでに、試合が成立するぎりぎりしかいないカンジ(ラグビーとは何人でやるスポーツなのか?からして知らなかった)になっている。先輩たちもさすがに、これ以上やめられては困る、とピリピリしてきた。猛烈に熱い「やめんじゃねーぞ光線」を、細い背中に突き刺してくる。
(無理やり引き込んどいて、そりゃないだろ・・・)
 口からこぼれそうになる弱音を鼻血といっしょに飲みくだし、オレは一千回立ち上がる。が、立ち上がっても立ち上がっても、ボコボコに潰される。ボールを奪りっこしているだけなのに、ワンプレーが終わるたびにグラウンドの土をなめているのが不思議だった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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