次々にポジションと名前が発表される。オレは6番のはずだ。6番、6番、6・・・
「6番、左フランカー、義靖!」
「うわあっ!はいっ!」
呼ばれるべきところで本当に自分の名前が呼ばれ、あわてて前に進み出る。背中に縫い込まれた「6」のゼッケンを上にして、きれいに折りたたまれたジャージーが、目の前に差し出される。キャプテンの手から受け取り、押し頂くと、なぜかその手が震えた。
「がんばれよ」
「は・・・はいっ」
あの憎らしかった「誘拐集団のオサ」の毛むくじゃらな手に、肩をポンと叩かれる。と、不意に落涙しそうになった。数人のマネージャーたちは、夕暮れの薄闇の中にたたずみ、パラパラと拍手を送ってくれる。ふと、いろはと目が合った。こちらに向かって、うん、うん、とうなずいている。ふと、まつ毛の奥がきらきらと光っているような気がした。まさか、あいつも泣いているらしかった。
「14番、右ウイング、ノリチカ!」
ノリチカは肩を打ち震わせて泣きじゃくっている。ぬぐってもぬぐっても、涙が止まらない。鼻水までちろちろと出たり入ったりしている。「レギュラー」という形の責任をしょって、誰もが心に熱いものをたぎらせていた。
最後に、顧問のノボちゃんが挨拶をする。
「ま、15人ちょっきりしかいないから、全員レギュラーってのははじめから決まってんだけどな」
あっはっは、と全員で大笑いをした。毎年のお約束となったシメの言葉らしい。オレも笑った。権現森も、ノリチカも、そしていろはも。あたりまえのことがあたりまえに行われただけだった。ただ、だからといって、胸にこもった熱いものが散逸することはなかった。
その夜は、背中がむずむずと疼いて眠れなかった。部屋の壁にハンガーで吊るされた、ゼッケン6のウルトラマンカラーのジャージーが熱源だ。その放射を浴びると、血がたぎり、肩が、足が、ヘソのあたりが熱を帯び、異様な高ぶりを覚えさせられた。一刻もはやく試合をおっぱじめたい気分だ。布団の中で肩に触れると、入部からまだひと月だというのに、結構な筋肉がついている。その硬い感触に、体内に自信が満ちた。さらに、自信が闘争心を焚きつける。タックルをかますシーンを想像した。凶暴な敵は、ぱたり、ぱたり、とサンドバッグ同様に倒れてくれる。オレはやつらからボールを奪い、フィールドを風のように駆け抜ける。まぶたの裏に映る自分は、すばらしく身軽に、よどみなく、かっこよく動きまわった。そして、なぜかいろはが出てきた。ベンチから黄色い声援を送ってくれている。からだがますます熱くなる。朝が待ち遠しかった。
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
「6番、左フランカー、義靖!」
「うわあっ!はいっ!」
呼ばれるべきところで本当に自分の名前が呼ばれ、あわてて前に進み出る。背中に縫い込まれた「6」のゼッケンを上にして、きれいに折りたたまれたジャージーが、目の前に差し出される。キャプテンの手から受け取り、押し頂くと、なぜかその手が震えた。
「がんばれよ」
「は・・・はいっ」
あの憎らしかった「誘拐集団のオサ」の毛むくじゃらな手に、肩をポンと叩かれる。と、不意に落涙しそうになった。数人のマネージャーたちは、夕暮れの薄闇の中にたたずみ、パラパラと拍手を送ってくれる。ふと、いろはと目が合った。こちらに向かって、うん、うん、とうなずいている。ふと、まつ毛の奥がきらきらと光っているような気がした。まさか、あいつも泣いているらしかった。
「14番、右ウイング、ノリチカ!」
ノリチカは肩を打ち震わせて泣きじゃくっている。ぬぐってもぬぐっても、涙が止まらない。鼻水までちろちろと出たり入ったりしている。「レギュラー」という形の責任をしょって、誰もが心に熱いものをたぎらせていた。
最後に、顧問のノボちゃんが挨拶をする。
「ま、15人ちょっきりしかいないから、全員レギュラーってのははじめから決まってんだけどな」
あっはっは、と全員で大笑いをした。毎年のお約束となったシメの言葉らしい。オレも笑った。権現森も、ノリチカも、そしていろはも。あたりまえのことがあたりまえに行われただけだった。ただ、だからといって、胸にこもった熱いものが散逸することはなかった。
その夜は、背中がむずむずと疼いて眠れなかった。部屋の壁にハンガーで吊るされた、ゼッケン6のウルトラマンカラーのジャージーが熱源だ。その放射を浴びると、血がたぎり、肩が、足が、ヘソのあたりが熱を帯び、異様な高ぶりを覚えさせられた。一刻もはやく試合をおっぱじめたい気分だ。布団の中で肩に触れると、入部からまだひと月だというのに、結構な筋肉がついている。その硬い感触に、体内に自信が満ちた。さらに、自信が闘争心を焚きつける。タックルをかますシーンを想像した。凶暴な敵は、ぱたり、ぱたり、とサンドバッグ同様に倒れてくれる。オレはやつらからボールを奪い、フィールドを風のように駆け抜ける。まぶたの裏に映る自分は、すばらしく身軽に、よどみなく、かっこよく動きまわった。そして、なぜかいろはが出てきた。ベンチから黄色い声援を送ってくれている。からだがますます熱くなる。朝が待ち遠しかった。
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園