金原亭駒与志の世界

一天狗連の楽屋

ネタ帖 小言幸兵衛

2012年05月04日 00時00分00秒 | 高座

 麻布古川橋に住む幸兵衛、いたって世話好きな家主だが、のべつ小言ばかりいっているので、人呼んで小言幸兵衛

 ちょっと外に出ただけで、長屋の連中がだらしないと小言をいい、家に戻れば、
「婆さん、また朝ッから居眠りをしてるな。おめえは、モノをふんだんに食べて、うすぼんやり座ってるから居眠りが出るんだ。
食やァ食いっぱなしで、とっ散らかしておきゃァがって、汚くてしょうがねえ。汚れもんを早く片付けな。ぶつくさいわねぇで、ハイといってすぐにしたらよかろう。尻の重てえ婆あだ、石臼婆あ。
釜の蓋が曲がってるよ、まっすぐにしておきな。曲がってもいいでしょう、てえことはないよ、見た目が悪いからいうんだよ。
布巾がとびそうだ。雑巾をこっちィ絞っておかなくちゃいけない。
猫のお椀を片付けておきな……この猫はまた、どうして尻尾が長えんだろうねえ……」。
 なにも猫の尻尾にまで小言をいうことはない。

 そのうちに貸家札を見た入居希望者がやってくる。はじめに来た豆腐屋は、ものの言い方が悪い。
 子宝に恵まれないことを、なんと「ありがてえことにガキを一匹もひり出せねえ」との言い草。
 そんな礼儀を知らない奴には貸せないと断る。

      

 次にやってきたのが仕立屋。物腰態度のていねいさに感心した幸兵衛が、いろいろ聞いてみると、今年20歳で親より腕のよい男前の一人息子がいるという。
 これを聞いた幸兵衛の機嫌がとたんに悪くなった。長屋の古着屋にお花という今年19歳の一人娘がいるが、商売の上でも近い関係だから、いずれ二人は相思相愛のいい仲になるだろう。
 しかし、どちらも一人っ子では、嫁には出せず、婿にもやれないから、お定まりの心中沙汰……だから、とても家は貸せないと言う。
 さすがの仕立屋も呆れて帰ってしまう。

 仕立屋の次には、おそろしく威勢のいい乱暴な口調の男が飛び込んで来た。さすがの幸兵衛も小言を言う隙がない。
「ところで、お前さんのご商売は?」
「先祖代々の鉄砲鍛冶だ!」
「あ、道理でポンポン言い通しだ」

       



【一口メモ】
 上方ネタ。正徳二(1712)年刊の上方笑話本『笑眉』の中の「こまつたあいさつ」。別名「借家借り」。当時の家主(大家)は、普通は地主に委託された管理人でしたが、町役人も兼ねていたので強力な権限をもっていました。万一の場合は責任も大きく、店子の選抜に慎重になるのも当然だったのです。戦後、特に三遊亭圓生師、桂文楽師がよく高座にかけておりました。


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