籠  太  鼓 

     ろ  う  だ  い  こ

(改訂) ささめごと ~~大雨警報のなかの祭~~

2006年07月23日 21時59分30秒 | 私語
 毎年、7月23日は肥後国・熊本を治めていた加藤清正公の祥月命日に当たる。菩提寺である山寺、日蓮宗發星山(ほっしょうざん)本妙寺では、毎年この日に「頓写会(とんしゃえ)」が催される。この「頓写」には、一晩で日蓮宗ならば法華経を全巻書き写すという意味があるが、現在では主要な経文を読経するくらいで終わっているようだ。
 その昔はちゃんと一晩かけて頓写したり読経したりしていたのであろう、本廟から山門、その下の商店街に至るまで長々と続く夜店は、明くる朝まで厭きることなくたくましく商売していた。現在では、きっちり11時までと決まっている。
それでも、ここ最近はすっかり寂れてしまった商店街も、このときばかりは多くの人出でにぎわう。
 元来、本妙寺は清正公を神と同格として祀り、肥後の守護神として信仰を集めてきた。頓写会の日、人々は清正公の亡骸の眠る本廟に参って上半期およそ半年の厄を落とし、これから先の秋も冬も平安に過ごせるようにと願う。また、お坊さんから「笹の御守り」を受けてこれを家の居間に飾る。この「笹の御守り」は、いわば初詣のときに神社で受ける破魔矢のようなもので、小笹に護符と小さな張子の虎がつるしてある。これは、豊臣秀吉が朝鮮出兵を号令した折りに進軍した加藤清正が、山奥の竹やぶに踏み迷って猛虎と遭遇したが、得意の長槍をもって突き殺したという伝説によるもので、厄災退散・家内安全の意味がある。(一本、1000円なり。むかしはもっと安かった)一年間家の中に飾って、すっかり枯れてしまった笹の御守りは、また寺に戻すことになっている。
 だが、これらの頓写会にまつわる縁起や祭りの意義などを理解する人間は、ほとんどいなくなったといっても差し支えない。ほとんどの人間は、長々と参道に続く夜店目当てである。参道を埋め尽くす若者たちは、「とんしゃ」と聞けば「夜店」と答えるだろう。……ま、かくいうわたくしも小さいころは夜店のことを「とんしゃ」というのかと誤解していたが。(笑)

 頓写会の日、毎年7月23日は梅雨が明けるか明けないかという微妙な天候で、大概は曇りか小雨と相場が決まっている。だが、2006年の今年はとんでもない年となった。
 梅雨前線が九州地方に猛威を振るったのだ。
 四五日前から熊本は想像を絶する豪雨続き。わたくしの家の近くを流れる井芹川はこの間に三回も洪水警戒水位を超えた。
 後で知ったことだが、南の鹿児島県のさつま町や湧水町では家屋が流される大洪水だったそうだ。大丈夫だと思うが、万が一でも、もしかしたらしたら思うと身の毛のよだつ気持ちになる。
 わたくしの実家である料理屋は、この時期には頓写会にくる人々の休憩所的な役割をするが、今年ばかりは人でも少なくなるだろうと従業員一同が暗い表情となった。
 予想は的中。当日は朝から大雨。夜店の営業が始まり、商店街が歩行者天国になる午後5時あたりも断続的な大雨だった。
 そんななか、店の中が若干ヒマだったのもあるのだろう、「ねぇ、だれか『笹の御守り』買ってきてよ」という話がおこる。従業員のほとんどは、毎年頓写会に身近に接していながら、頓写会に来る人々の接待であまりにも店の中が忙しくなるため、笹の御守りを買いにいったことがないのだ。「そういえば、オレもちっちゃいころにしか行ったことないな~」と漏らすと、「だったら、ハルちゃん。行ってきてよ!」と、よりによってそんなことになってしまった。
 外は大雨。それでも商魂たくましい夜店の連中は、煌々と明かりをつけて客の呼び込みをしているが、肝心の客は大雨のためにまばらになっている。いつもならばちょっとの雨だったとしても、参道には多くの人が押し寄せ、人ごみで両肩が押しつぶされるような思いをするのだが、道の真ん中を人をよけることなく歩いている。たしかに、今年は異常だ。でも、小さい傘の中で窮屈な思いをしていたので、感覚的には変わらないが……。

 「とんしゃ名物、冷し飴ぇー! 甘こーてうまいの、甘こーておいしーのー!」

 子供のころは頓写会は友達連中と、長々と続く夜店の中でどの店の何がうまいのかを講評しあったものだ。その友達連中からは不評だったが、わたくしだけがなんとなくファンだったのに、この冷し飴がある。(写真参照)わたくしが子供のころからあるのだから、もう30年以上は店を出し続けているのだろう。真っ赤な樽の中に水飴を氷水で溶かしたものがあり、店のオバちゃんはしがれた声でこの売り声を叫びながら、樽に突っ込んだ棒を掻き回している。樽の中の氷が棒に当たってガラガラと涼しげな音を立てる風情がたまらない。雨宿りと懐かしさに惹かれて一杯買い求めることにする。300円なり。
 「今年は災難ですねー」
 と、屈託のない笑顔を見せながら、売り声と変わらないしがれ声でオバちゃんが話しかけてきた。たしかに、雨の中を御守りを買いにいくわれわれも大変だが、もっと大変なのは夜店をやっている人たちだろう。茶色みがかった飴色の液体を、大きなコップになみなみと注がれたのを受け取ると、思わず苦笑いが出た。
 「雨雲が消える兆しないですもんねぇ~」
 と、冷し飴をすすりながら空の様子を伺うと、漆黒の夜空を、どす黒い雨雲の塊が次から次へと疾駆しているのが見て取れた。

   雲行きて行きても雨や冷し飴

 化学製品の糖類にはない冷し飴の素朴な甘さは、いつもならば少しの安堵感を感じるものだったが、今日ばかりはなんとなく胃にもたれるようなストレスを感じた。それは量の多さからではなく、このあまりにも降り過ぎる雨のせいにしておこう。そう思った。

(続く)

『握手』誌上多産祭、結果発表!

2006年07月08日 03時26分21秒 | 俳談
モーニング娘。の30枚目のシングル『Ambitious!野心的でいいじゃん』のアクトを、田中れいなのパフォーマンスを中心にして観ていると、だんだん、インド映画『ムトゥ ~~踊るマハラジャ~~』のオープニングで、過剰なパフォーマンスを見せ付ける主演のラジニカーントのそれに見えてきてしまいます。(笑)
ちなみに、その原因を推察すると、「ウインクなどによる過剰な自己アピール」と「ダンスの切れがよすぎること」などにあると思われます。特に顕著なのは田中のパートである『♪明日だって』から、高橋のパート『♪同じ』に移るときの高橋への目線の移動。貼り付けた動画のラジニカーントのパフォーマンス、1分45秒ぐらいからある、合成で三人になるムトゥの真ん中は完全にそっくり!


相変わらずな感じ(笑)でございますが、先日このブログでも書きました、今年が初めてとなる『握手』誌上多産祭の結果が出ました。

投句したのは以下の20句。

月星の輝く寒さ残りけり

初午の社より街眺めけり

あとはただ風が鞦韆漕ぐばかり

言い分けを考える間の若布汁

恋雀うす紫の暮色かな

朧夜の大きな皿を拭いてをり

鐘の音の余寒の風に消えにけり

立雛の影立ちあがる夕べかな

雲に鳥地に猿人の子孫かな

紅椿色をこぼして落ちにけり

風に糸呑ませつつ凧揚げにけり

斑雪野や男一人の一軒家

雪柳綻びかかる闇夜かな

麗らかや腰反って犬立ち上がる

彼岸寒ささくれている空の隅

鳶高く羽搏きにけり雲の峰

鳥籠の鳥逆さまの大暑かな

三伏や黄緑色のスーパーカー

蚊を打てば蝿虎は逃げてをり

油照帰れば母の小言かな


総合順位結果からいうと、「鳥籠」が9位タイ(8句)、9点。「朧夜」が10位タイ(13句)、8点。「彼岸寒」が12位タイ(19句)、6点。
まー、750句もの投句の中から、これでも最高位が9位くらいまではもちこめたものですよ。なにしろ投句なさった周りのかたがたは皆さん大ベテランなわけですから。
「鳥籠」は旧作で、しかも「大暑」とか言っておきながら晩秋にできた句です。いつぞやも申し上げたかと思いますが、かなり思い入れのある句で、こういう句が得票数を集めたということはこちらとしても歓喜に堪えません。
「朧夜」は自信のある句でしたので、選者の誰かは特選にとってくれるんじゃないかと思っていましたが、現実は厳しかったと。(苦笑)
「彼岸寒」は意外でした。『握手』風かなと思って提出したんですが、主宰選に入っていたりして、光栄のきわみです。
今回は夏の句に旧作が混じっていたこともあり、全力を振り絞って、という戦いではありませんでした。もうひとつランクが伸びなかったのは、そういうところにも原因があると思います。それと、基本的な語法の問題。「消え」を「消へ」と間違えて投句用紙に書き込んでしまったことによって、「鐘の音」の句が無駄になってしまったことは今でも悔やまれます。古語の使い方はもっと慣れないと、句柄が広がりませんから。
今度の十月に開催される平成18年度『握手』大会は、それこそお祭りですので、気合を入れて臨みたいです。でも、まだまだ句の絶対量が足りません!
もっと作らないと!



ちなみに、1位の句は、

闘鶏の薄きまぶたや花の冷  丸喜久枝さん

2位の句、

陽炎を連れて機関車近付きぬ  伊藤華将さん

3位の句、

大言海をふたつに割るとつばくらめ  糸 大八さん

『握手』重鎮の方々の句が並びました。ファンタジー色がありながらも、実像として捉えやすい平明な句が選ばれたことはこれからの参考になります。

あと、わたくしの直接のお師匠に当たる伍藤暉之先生の句について、じっくり語ろうと思いますが、日を改めて、ということで。(苦笑)

今回の更新は、これにて。あさってからはオトツメですし、明日も忙しいので……。




『握手』投句七月分(掲載・十月号)

2006年07月05日 01時13分26秒 | 俳談
風鈴や夜空にまるを書けば月

消えぬ灯も消ゆる灯もある夜涼かな

しりとりの後の続かずさみだるる

蛇の出し話を人に話しけり

半夏雨唇の皮剥いてをり

十薬や夜と闇とは別のもの

白玉の口の中まで暮れにけり


以上、七句。

先日、六句しか提出しないでいたら、案の定、評価が下がっていたので、今回だけはちゃんと七句。


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台風3号が接近中。七日から九日にかけて、日本全国で猛威を振るうとの予想。(参照;気象庁

わたくし、九日から東京へまたオツトメに行くんですけど……。大丈夫か?!