内田百閒の小説に「件」というのがある。
新潮文庫の『日本文学100年の名作 第1巻 夢見る部屋』に収録されている。
「件」は「くだん」と読む。
主人公がある時、人面牛身の獣「件」に生まれてしまい、広い原の真ん中に立っている。
「件」は予言をして死ぬと言われているので、たくさんの人々がその予言を聞こうと主人公の周りに集まってくる。
その中には、人間だった時に知っている顔もある。
しかし、何の予言もできない。
という不思議な、かつユニークなお話。
「件」については、江戸期あたりから伝承もあるらしく、また、それをモチーフにした現代小説も結構あるようだ。
説話伝承なので、典拠を特定するのは難しいかもしれないが、伝承世界と創作世界の中で、百閒の「件」がどう位置づけられるのかは、興味深いところである。(もう、そういう研究があるかもしれないが)。
また、変身譚としては、カフカの「変身」が誰でもすぐに思いつくところだが、どれくらい影響しているものか。
本作では、特に何らかの作者からのメッセージのようなものがあるわけではなさそうだが、群衆の恐ろしさとおかしさのようなものを少し感じてしまった。
なぜか読後に、心に残る話だった。
初出は大正10年1月号『新小説』(未見)
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