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加藤シゲアキ『ピンクとグレー』

2016-01-24 04:46:18 | 加藤シゲアキ
教え子に頼まれて、加藤シゲアキの『ピンクとグレー』を読みました。

語り手「りばちゃん」こと河田大貴が、幼馴染「ごっち」こと鈴木真吾の「死」の理由を追いかける青春小説。

今どきの普通の高校生だった二人が、雑誌の読者モデルの仕事からドラマのエキストラを経て、芸能界の片隅で生きていたが、ある日、「ごっち」だけがプロデューサーに見込まれて俳優デビューをする。

住む世界の異なってしまった二人には溝が出来はじめ、ついに連絡をとらなくなってしまう。

小学校の同窓会で五年ぶりに、人気俳優・白木蓮吾となった「ごっち」に会う「りばちゃん」。

和解の後、翌日、「ごっち」の部屋に呼ばれた「りばちゃん」は、そこで「ごっち」の首吊り死体に出会う。。。


というお話。


正直なところ、文章はあまり上手いとは言えないし、もう少し文章修練はされた方がいいと思う。
表現の誤りもいくつか見受けられた。
映画はよく観られているようだが、小説はあまり読まれていないのかもしれない。
巻末のインタビューにもそのような記述があったが、読んでいてもそう思った。
作品の構成や描写も映画的。

しかし、お話そのものは面白かった。
前半の子ども時代の場面や高校時代の場面は、あまり入り込めなかったが、後半の芸能人になってからのところは、人間の嫉妬心や軋轢が描かれていて、なかなか興味深いものがあった。

とくに二人の高校生活は皮相で、どうでもいいことばかりに描写が終始していたが、後半にいたって二人が芸能人になってからは、描写も活き活きしており、読者を引っ張っていく力があった。

作者自身は、〈何の賞も獲らずに小説を出せているのは僕がジャニーズだからと自覚しています〉と「あとがき」では述べているが、全然そんなことはない。
作家として充分の力があると思う。

「りばちゃん」が人気俳優となって、「ごっち」の役を演じることで、彼に自身を投影し、彼の「死」へのプロセスを追いかけようとするところが面白い。
「りばちゃん」自身もとり憑かれたように「死」へと傾斜するところが結構、文学的。
彼が最後どうなったのかも、読者にその解釈を委ねられているのだろう。

作者はせっかく芸能界におられるので、「芸能界小説」を書かれるのは正解だと思う。
なかなか他の人には書けないので。


「りばちゃん」と「ごっち」がまるで恋人同士であるかのような心理描写がいくつかあったが、(個人的にはそこは苦手だったが)ボーイズラブというよりかは、男同士の純愛という方向で作者は書いていたのかもしれないと思う。

少なくとも従来の、ホモソーシャルな「男同士の絆」とは違った関係性が描かれていたところも興味深かった。

いや、「ごっち」の方は比較的、従来的な男性として描かれていたのかもしれない。
「りばちゃん」に対する視線は、ホモソーシャルなものと読めなくもない。
しかし、「りばちゃん」の方は、もっと湿っぽい、粘着質な視線で「ごっち」を見ているように思う。
「りばちゃん」は明らかに「ごっち」に恋をしている。
恋をする人間の視線で「ごっち」を心配し、妬み、悩んでいる。
そのあたりも現代の若者(男子)の姿を描いた作品として評価していいように思った。

色に関する考察のところも面白かったし、「死」を描くことによって、「生」を追いかけようとしているところに読みどころがあった。

ほかにもいくつか書かれているようなので、またこの作者の作品は読んでみたいと思う。
充分、文学だった。

石川のジェンダートリックは不要。