黄金色の日々(書庫)

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ヤコブへの手紙

2011-02-16 23:40:07 | 映画感想
Postia pappi Jaakobille trailer





静かでシンプルな、深い話だった。

登場人物はたった3人(端役はあり)。上映時間は75分。
トレイラ―で見る以外のことは起きない。

観賞してから1週間以上経つのだが、どうも感想が上手くあげられなかった。
つまらなかったとか、感じるものがなかったということではなく。
饒舌に“語る”映画ではないから。

手紙が来なくなってからの老いた牧師の憔悴、ボケ老人と変わりなくなっていく様子は痛ましい。
何故、手紙は来なくなってしまったのか。
それには、レイラが来たことと郵便配達人とのやり取りに垣間見れるものはある。
手紙はもう、だいぶ前からなかったのだと私は思う。

そこら辺りをあまり気にしても、明確な解答は得られない。
けれども、配達人の善意やらそうでもないものも含め、牧師は自分のあずかり知らぬところで恩恵は受けてたのだと感じる。

レイラの刑の重さは日本では考えられないもので、どう考えても情状酌量されるものだ。
けれど多分、彼女本人が上訴する気がなかったのだとは思う。
罰を受けることを選び、何も欲しないレイラ。
手紙を読むのもおざなり、当然神は信じてない。

盲目の牧師は、読んでもらう手紙の送り手のことを神に祈り返事を出すことだけが、老いた誰も訪れぬ自分の使命と信じていた。
手紙が来なくなり、急速に衰えていく牧師。
“見放され”ていく牧師を見、神はいないことをより確信し、出ていこうとするレイラ。
しかし行き場は無い。
あくまで冷たかったレイラに、「君はいてくれたんだね」と言う牧師。心が溶け始めるレイラ。

恩赦になった理由が明かされたとき、涙するレイラ。立ち上がり微笑む牧師。
だが…


ヤコブ牧師は大きな仕事を為し終えた。
手紙が来ていたのも、来なくなったのも、レイラを招き入れたのも、彼女に与え与えられたものも。
ラストにはみな繋がっていたのだと感じた。
宗教的導きは私にはわからないが、人が人と繋がり、何を生きがいとし、よすがとするのか。
どんな孤独な人間も、どこかで繋がれること。
そのシンプルな問いかけと答えがじわじわと沁みてくる。

寂寥としたラスト。しかし、レイラの見つめる封筒の裏に、希望がある。



日本版トレイラ―では「やさしい風が届きました」と、ほのぼのな感じに見せていたのでまず向こうのものを。
全編を通じてほの寂しく、静かで、けれども深い味わいがある作品。
大人のための寓話。

内容的にはごくシンプルで、好む好まないは別として、こういう作品は今の風潮の中では貴重だなと思う。
私自身はストーリー以上に、風景や音楽が印象的だった。

海外国内それぞれのトレイラ―に流れている、もの哀しい旋律も、朝露みたいな清らかな旋律も、本当にうつくしい。
ピアノのシンプルな調べ。
そしてフィンランドの片田舎の風景。
かもめ食堂や北欧ブームで知られたオシャレなイメージ。イッタラの器にマリメッコのテキスタイル。それとはかけ離れたさびれた牧師の住居。
首都ヘルシンキから離れた、名も知れぬ人里離れた場所の寂しさ。
手持ちのお金をすべて困ってる女性に送ってしまうような牧師だが、社会福祉制度からか聖職者としての支給がまだあるのか、とりあえず暮らせてはいる。盲目でも慣れた住まいの中の動線は記憶しているので、一人でなんとかできている模様。
とても質素だ。

映画に限らず小説他の書物でも、私は人物の普段の暮らしぶりや食生活が気になる。
きちんとした食事風景は出てこないのだが、レイラが初めて到着した時、ヤコブ牧師はお茶の支度をして待っている。
そのあとも何度かお茶のシーンが出てくる。
これが、黒パンを一切れと紅茶のみ。それもお湯を先にカップに入れて、無造作に粉末を入れている。粉末ティー。
北欧ではコーヒーが一般的と聞いたことがあるけれど、たぶんここでは贅沢品なのだな。
パンに塗っているのもバターじゃないかもしれない。
終身囚のはずだったレイラも贅沢は縁のない身。二人は黙々とパンをかじりお茶をすする。
もしかしたら、これはお茶ではなく食事なのかもしれない。



白夜で日が出続けていても、これほどの寂しさ。
大半が夜である時期は想像もつかない。金銭的にもだが、盲目の牧師宅にはパソコンもテレビもない。かろうじてラジオだけ。
しかし、この静けさこそが深々と胸に分け入ってくる。薄暗く雑草の生い茂る風景が美しく見える。

何にせよ溢れている世の中で、人物も物も会話も関係も何もかもがこれほど絞られていると、考えるより感じることがよりたやすくなる。
そういう点でも私には貴重な映画だった。


書く人も、読む人も、読んでもらい聞く人も。
そのどれもが、ひとつの祈りなのかもしれない。








2 コメント

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映画 (ゆう)
2011-02-18 10:26:34
最近、こういう静けさや風景、映画の雰囲気をじんわりと味わう作品をみていない気がしました。素敵な作品紹介ありがとうございますv
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疲れたときにお勧めです (山吹@しみじみ)
2011-02-18 23:40:45
ゆうさん、こんばんはv

私もハリウッドの派手な演出やドンパチもの、ぶん殴りものも(笑)好きですが、過剰さに疲れるときもあります。

イケメンも美女も一切出てこない映画だからこそ、気をとられず話に浸れるという利点もあります(^_^;)
何かに“萌え”るとそこばかり気になって他はどうでもよくなることあるしね。

単館系ですが、DVD化されてからでも是非見て下さい。
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