蒼い鳥の羽

オリジナル、二次創作物などを無節操かつ不定期に掲載するブログだったり、メモ代わりに使ってたりとカオスな感じです。

『想いは桃色 心は鈍色(にびいろ)』

2007-11-15 00:44:23 | 書き物
*前の記事で少しだけ挙げたKZKYの「携帯小説」風書き物です。
*いわゆる「売れる携帯小説」のテンプレの一つである「主人公がJK(女子高生の略称だそうです)」がテーマでひとつ…。

*ちなみに鈍色(にびいろ)とはこういう色です。



* * * * * * * * * * * * * * * 


気がついたときにはもう、時計の針が8時5分前をさしていた。
私は慌ててベッドから体を起こす。眠気はすっかりとれてしまっていた。
いつも学校へ行くのに家を出る時間はだいたい7時半頃だ。
と、いうことは私はゆうに30分も寝坊してしまったことになる。

私は枕もとに置いた携帯を手に取る。昨夜にかけたアラームはものの見事に止められていた。
自分の「まだ寝ていたい」といった欲望が、寝ている間にアラームを止めたのか。だとしたらこの溢れんばかりの睡眠欲を呪いたくなる。
でも、いつもならこの携帯のアラーム音できちんと起きられるはずなのに、何で今日に限って!

その理由は私自身がよく知っている。
私はそれを思い出すとみるみる自分の顔が熱くなっていくのを感じた。でも、顔を赤らめている余裕もない。
早く着替えて家を出ないと確実に一時間目に遅刻する!
私は急いで部屋のクローゼットから制服のかかったハンガーを取り出し、パジャマを脱いだ。

古い少女漫画だけだと思っていたのに、まさか自分がトーストを口にくわえて走り出すなんて思いもしなかった。

寝癖もまだ完全に直っていない。ワイシャツに赤いリボンを着ける暇もない。
私は不完全な髪型と服装のままで、朝食のトーストをむしゃむしゃと齧りつつ自宅を飛び出した。

「せめて寝癖ぐらいは直してから行きなさいよ、女の子なのに恥ずかしい」

お母さんがため息混じりにこう言っていたが、そんな暇はない。
それに、私のこの肩につくかつかないかぐらいの長さの茶髪で少々傷み気味の髪は、少しブラシでとかしただけじゃ絶対に直らないほどのしぶとい癖がついてしまっている。悠々とドライヤーをかけている時間なんてない。
あぁ、今気がついたけど、化粧をしていく暇なんかもありゃしない!
私はあらためて、30分も寝坊した自分を呪いたくて仕方なかった。…たとえ、あんな夢を見たからだとしても。


「おはよう!裕美、遅いよ!」

いつもの待ち合わせ場所の学校の正門前で手を振っている女の子に手を振り返す。
始業時間の2、3分前なのにも関わらず教室に行かずに待っていてくれた彼女に感謝の念を抱きつつ、力を振り絞って友人のもとへと走った。

「ごっ、…ごめん!遅れて…」
「裕美が遅れるなんて珍しいよね。どうしたの?」

自宅からここまで、全力で走ったので息が上がってしまい、ぜぇぜぇ言っている私を彼女はニッコリと笑って迎えた。
そして、普段はあまり待ち合わせ時刻に遅れることのない私が「珍しく遅刻した」理由を聞きたくて仕方がない、といった表情で私を見ていた。
彼女の名前は真奈(まな)。中学の頃からの親友だ。高校に入った今も同じクラスなので一緒にいることが多い。一緒に登下校したり、昼休みには一緒にお弁当を食べたり。

「…寝坊、ってところかな。…起きたときはもう、8時前で、マジで焦ったわ」

呼吸を整えながら返事をしたので何だか絶え絶えになってしまった。
真奈は「意外だ」と言わんばかりの驚いた表情をしていた。元々大きい彼女の目が更に大きく開いていた。それに、更に大きく見せるためのマスカラにアイライナーを塗っていたので余計にクリクリとした目が何だか可笑しく見えてしまい、失礼ながら吹き出しそうになった。

「へー。何か裕美が寝坊するって本当に珍しいねー」
「そうかな…あは。何か恥ずかしいや」

私は思わずまた赤面する。いつもは遅刻なんてしないのに、遅刻してしまったこととその理由が『寝坊』という何とも阿呆らしいものであることと、あと…その寝坊した理由で…。

真奈は私が赤面したことが気になったらしい。息切れしてて下を向きがちだった私の顔をじっと覗き込んだ。
そのとき、ふわりと香ったのは彼女がこっそりと耳の後ろにつけている香水の匂い。
何のブランドの香水かはあまり覚えていないけど、真奈が自分のアルバイト代で初めて買ったというものだということは覚えている。物凄い嬉しそうに話していたっけな。

始業のチャイムが鳴った。
私たちは「こりゃやばい!」と正門から校舎に向かって走り出した。

どうにか一時間目のチャイムには間に合った。「危なかったね」といった会話をしながら、教室への道を進む。
ふと、真奈の顔を見つめ返すと、
中学の頃の垢抜けなかった真奈の顔が思い出せないほどにすっかり変わってしまった彼女の顔があった。
真っ黒で癖があった髪は、きれいな茶色に染められて、パーマで伸ばされてきれいなストレートになっている。
顔は丁寧に化粧されていて、多分、誰が見ても可愛いと思うに違いない。

「どうしたの?」
「あ、ごめん…なんでもない」
「変なの。何だか今日の裕美は変だよ」

真奈は楽しそうに笑いながらこう言った。
私は余計に顔を赤らめるしかなかった。


「起立!」

いつものように、クラス委員の男子が一時間目の担当が来たと同時に号令をかける。
クラスの皆も朝はやはり眠いのか、ザッときれいに立ち上がるのではなく、モゾモゾといった効果音が似合う感じの立ち上がり方だった。…でも、だからといって二時間目以降はザッときれいに起立ができるのかと言われたら首を傾げたくなってしまうが。

「着席!」

クラスメイトたちは起立のときと同じく、モゾモゾとした礼をした後、モゾモゾと座る。
担当の教諭は「全くもう」とばかりにため息を吐き、話し出した。

私の席は廊下側の一番後ろだ。
だから、教諭が板書しながら話している間、クラスの皆が何をしているのかが手に取るように見える。
ある男子は机の下に、朝にコンビニにでも寄って買ったと思われる漫画雑誌を隠しながら広げて読んでいるし、
ある女子は机の下に携帯を隠しながら、何やらいじっているし、
また、私と同じで、一番後ろの席の、ある女子なんかは手鏡を机に乗せて、膝の上に化粧品の入ったポーチを乗せて何やら顔に塗っている。
もちろん、これは一部に過ぎないが、真面目に授業を受けていない生徒もいる。
そして、ふと、真奈のほうにも目を向けてみる。
真奈は、見た目に反して授業は真面目に受けているようだ。黒板と机の上に広げてあるノートを交互に眺め、少し字が下手な教諭の板書を書き写そうとしていた。

そして、ふと、今朝に見た夢を思い出した。…私が寝坊して遅刻することになった原因の、それを。
私はすぐに頭に浮かんだそれを振り払おうと、頭を横に軽く振った。こんな時に、何で思い出すことがあるんだ。
真奈の後姿を見ながら、私は今度は罪悪感で顔が熱くなった。

ふっと、
今朝に真奈が私の遅刻の理由を訊いてきたことを思い出した。
あの時は上手く流すことができたけど、言えない。言えるわけがない。

特に、彼女に言えるわけなんてない。
私が見た夢が…、

真奈と私が、仲良く手を繋いで歩いていた、夢だなんて。
でも、私と彼女は昔からの友達だったし、仲良く歩くことは別に不自然ではないのか?
いや、どう考えたって不自然だ。確かに中学の頃から一緒にいることが多かったけど…、
手を繋ぐことなんて、殆どなかった。

それに、夢の中の私と真奈は…、手を繋いで歩いていただけでなく、
その…、抱き合って、…キスをしていた、だなんて…!


私は今朝に見た、あり得ない夢を頭の中で一通り思い出しきると、両手で頭を抱えて机に突っ伏した。
教諭の話がだんだんフェードアウトしていくように感じる。もう、さんざん黒板で黄色のチョークで下線が引かれた英文法なんてどうでもいい。
このままだと、次の休み時間から真奈の顔をまともに見られるかどうかわからない。
このまま意識が飛んで、今朝の夢のことを忘れることができたらどんなに良いか。

うっすらと、私の意識は『眠り』へと移行していった。このまま鈍色の感情に全て流されて今の気持ちを忘れられたらどんなに良いか。

でも、夢の中で感じた、ほんの少しの甘酸っぱい味がしそうな桃色の気持ちを完全に忘れきってしまうことへの惜しさも同時に感じている自分がまた、腹立たしい。

机に頭を突っ伏した私は、このまま鈍色の眠りへと誘われていった。

今朝の夢の中でさえ、リアルに感じた真奈の耳の後ろの香水の匂いが、繋いだ手の感触が、触れた唇の感触が、


甘酸っぱいような桃色の感情が、鈍色に溶けて消えていく。


このまま、完全にこの想いが消えてしまえば、私はまたいつもと同じように真奈と接することができるだろう。
そのことだけを期待して、彼女にほんの少しだけ抱いてしまった禁断の思いを眠りの中に押し込めた。

<完>


…これ、どう考えても携帯小説風じゃNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!

思いつきで書いている書き物はコンセプトが変わってしまうことはよくあること。(゜∀゜)
とりあえず、「JKが主人公」っていう縛りだけは守りましたよ!!1