蒼い鳥の羽

オリジナル、二次創作物などを無節操かつ不定期に掲載するブログだったり、メモ代わりに使ってたりとカオスな感じです。

Friend phase.2

2006-07-01 16:31:13 | 書き物
ここの総合病院の精神科は閉鎖病棟になっている。…まあ何回かアスカの面会のために入ったことはあるけど、開放病棟とあまり変わらない印象である。
というか、開放病棟に行ったことがないので比べようもないんだけど…。
とにかく、私はエレベーターに乗り、地下2階にある精神科病棟へ足を運んだ。

「あら、進藤さんいらっしゃい。」
「こんにちは」
「今日もアスカちゃんのお見舞い?」
「そうです」
「熱心ねえ」

アスカの病室のちょっと前でアスカを担当している看護師と会った。私も結構アスカの見舞いにここに来ているのでもはや顔見知りである。


「アスカ」

『安川アスカ』と書かれた小さなネームプレートがかかっているドアを音を立てずに開けると、窓際に置かれたベッドの上にアスカがいた。
私が名前を呼んだのに気づいていないのかずっと窓の外を眺めていた。いや、もしかしたら気づいていて振り向かなかっただけかもしれないが。
とにかく彼女は私が来たことに対して何も変わった様子を見せずに窓の外を眺めていた。

以前私が見舞いに行ったときにアスカ自身の精神状態が不安定だったせいで私を殴ってしまったことを気にかけているのだろうか。
でも、もう大丈夫だよ。殴られたすぐ後は頬が腫れて痛かったけど、今は痛くないし腫れもひいているから。

一向に窓から視線を動かす様子もないアスカにこれ以上呼びかけるのをやめて、ベッドの横にある小さなテーブルに置いてある花瓶の花を取り替えた。
花瓶の水を取り替え、私が持ってきた花を瓶に挿そうとするとき、ふとアスカの腕が視界に入った。
彼女のパジャマの短い袖から白くて細い腕がこの入院生活の辛さを物語っているようだ、と思った。

ふと思い出した。
アスカが事故に遭う前のことを、随分時間が経ってしまっているが今も鮮明に思い出せる。
彼女はいつも笑っていた。笑顔を常に絶やさず、社交的で、いつも彼女の周りには人が集まっていた。
その頃の私は実のところあまり自分から他人に声をかけたりなどができない人間だった。彼女が羨ましく眩しかった。
彼女はそんな私の傍にいつもいた。眩しいその笑顔を私に向けてくれていた。
どれだけ私はその笑顔に救われてきたのだろうか。数え切れない。

「……う…。」

突然発せられたアスカの声により私の思考は現実へと戻った。

「アスカ…?どうしたの?苦しいの?」
「…う…、…しん…、どう…。…し…」

彼女は私のことを呼んでいた。進藤、進藤、と私の苗字を…。
私はアスカのベッドのそばにしゃがみ、咄嗟に彼女の手を握りしめた。
いつから私を呼んでいたのだろうか…ふと回想に耽っていた自分を恨んだ。
もう…何ですぐに気づかなかったんだ!

「アスカ…、どうしたの?」
「しん、どう…あたし…、…。」

無意識にアスカの手を握る力が強くなる。声を発することも困難な状況のなか必死で何か言おうとしている彼女の声を一言一句とも聞き漏らさない気持ちでいた。

「…進藤、ごめん。」
「……。」
「いた…かった、顔…痛かった?なぐ…たの…。」
「大丈夫だよ。もう、痛くないから。ね。」

彼女は必死に、前に私を殴ったことを謝っていた。
いつの間にか彼女の目にも私の目にも涙が浮かんでいた。

アスカの笑顔に何度も救われてきた。
今度は私がアスカを救う番なのだ。
いつの間にか泣きじゃくっていたアスカを抱きしめた。


病棟から外に出るともう外は暗くなっていた。自転車置き場から自分の自転車を出して勢いをつけて飛び乗った。
家路へと走っているとき何度もアスカの顔が浮かんだ。
事故に遭う前の笑顔、さっき病室で見た泣き顔、必死で私を呼ぶたどたどしい声…。
必死で頭を振ってもその日一日消えてくれなかった。

数日後、某裁判所…―

「それでは、証人の進藤 ルミ様、証言台へ。」
「はい。」


Friend The End------