蒼い鳥の羽

オリジナル、二次創作物などを無節操かつ不定期に掲載するブログだったり、メモ代わりに使ってたりとカオスな感じです。

『想いは桃色 心は鈍色(にびいろ)』

2007-11-15 00:44:23 | 書き物
*前の記事で少しだけ挙げたKZKYの「携帯小説」風書き物です。
*いわゆる「売れる携帯小説」のテンプレの一つである「主人公がJK(女子高生の略称だそうです)」がテーマでひとつ…。

*ちなみに鈍色(にびいろ)とはこういう色です。



* * * * * * * * * * * * * * * 


気がついたときにはもう、時計の針が8時5分前をさしていた。
私は慌ててベッドから体を起こす。眠気はすっかりとれてしまっていた。
いつも学校へ行くのに家を出る時間はだいたい7時半頃だ。
と、いうことは私はゆうに30分も寝坊してしまったことになる。

私は枕もとに置いた携帯を手に取る。昨夜にかけたアラームはものの見事に止められていた。
自分の「まだ寝ていたい」といった欲望が、寝ている間にアラームを止めたのか。だとしたらこの溢れんばかりの睡眠欲を呪いたくなる。
でも、いつもならこの携帯のアラーム音できちんと起きられるはずなのに、何で今日に限って!

その理由は私自身がよく知っている。
私はそれを思い出すとみるみる自分の顔が熱くなっていくのを感じた。でも、顔を赤らめている余裕もない。
早く着替えて家を出ないと確実に一時間目に遅刻する!
私は急いで部屋のクローゼットから制服のかかったハンガーを取り出し、パジャマを脱いだ。

古い少女漫画だけだと思っていたのに、まさか自分がトーストを口にくわえて走り出すなんて思いもしなかった。

寝癖もまだ完全に直っていない。ワイシャツに赤いリボンを着ける暇もない。
私は不完全な髪型と服装のままで、朝食のトーストをむしゃむしゃと齧りつつ自宅を飛び出した。

「せめて寝癖ぐらいは直してから行きなさいよ、女の子なのに恥ずかしい」

お母さんがため息混じりにこう言っていたが、そんな暇はない。
それに、私のこの肩につくかつかないかぐらいの長さの茶髪で少々傷み気味の髪は、少しブラシでとかしただけじゃ絶対に直らないほどのしぶとい癖がついてしまっている。悠々とドライヤーをかけている時間なんてない。
あぁ、今気がついたけど、化粧をしていく暇なんかもありゃしない!
私はあらためて、30分も寝坊した自分を呪いたくて仕方なかった。…たとえ、あんな夢を見たからだとしても。


「おはよう!裕美、遅いよ!」

いつもの待ち合わせ場所の学校の正門前で手を振っている女の子に手を振り返す。
始業時間の2、3分前なのにも関わらず教室に行かずに待っていてくれた彼女に感謝の念を抱きつつ、力を振り絞って友人のもとへと走った。

「ごっ、…ごめん!遅れて…」
「裕美が遅れるなんて珍しいよね。どうしたの?」

自宅からここまで、全力で走ったので息が上がってしまい、ぜぇぜぇ言っている私を彼女はニッコリと笑って迎えた。
そして、普段はあまり待ち合わせ時刻に遅れることのない私が「珍しく遅刻した」理由を聞きたくて仕方がない、といった表情で私を見ていた。
彼女の名前は真奈(まな)。中学の頃からの親友だ。高校に入った今も同じクラスなので一緒にいることが多い。一緒に登下校したり、昼休みには一緒にお弁当を食べたり。

「…寝坊、ってところかな。…起きたときはもう、8時前で、マジで焦ったわ」

呼吸を整えながら返事をしたので何だか絶え絶えになってしまった。
真奈は「意外だ」と言わんばかりの驚いた表情をしていた。元々大きい彼女の目が更に大きく開いていた。それに、更に大きく見せるためのマスカラにアイライナーを塗っていたので余計にクリクリとした目が何だか可笑しく見えてしまい、失礼ながら吹き出しそうになった。

「へー。何か裕美が寝坊するって本当に珍しいねー」
「そうかな…あは。何か恥ずかしいや」

私は思わずまた赤面する。いつもは遅刻なんてしないのに、遅刻してしまったこととその理由が『寝坊』という何とも阿呆らしいものであることと、あと…その寝坊した理由で…。

真奈は私が赤面したことが気になったらしい。息切れしてて下を向きがちだった私の顔をじっと覗き込んだ。
そのとき、ふわりと香ったのは彼女がこっそりと耳の後ろにつけている香水の匂い。
何のブランドの香水かはあまり覚えていないけど、真奈が自分のアルバイト代で初めて買ったというものだということは覚えている。物凄い嬉しそうに話していたっけな。

始業のチャイムが鳴った。
私たちは「こりゃやばい!」と正門から校舎に向かって走り出した。

どうにか一時間目のチャイムには間に合った。「危なかったね」といった会話をしながら、教室への道を進む。
ふと、真奈の顔を見つめ返すと、
中学の頃の垢抜けなかった真奈の顔が思い出せないほどにすっかり変わってしまった彼女の顔があった。
真っ黒で癖があった髪は、きれいな茶色に染められて、パーマで伸ばされてきれいなストレートになっている。
顔は丁寧に化粧されていて、多分、誰が見ても可愛いと思うに違いない。

「どうしたの?」
「あ、ごめん…なんでもない」
「変なの。何だか今日の裕美は変だよ」

真奈は楽しそうに笑いながらこう言った。
私は余計に顔を赤らめるしかなかった。


「起立!」

いつものように、クラス委員の男子が一時間目の担当が来たと同時に号令をかける。
クラスの皆も朝はやはり眠いのか、ザッときれいに立ち上がるのではなく、モゾモゾといった効果音が似合う感じの立ち上がり方だった。…でも、だからといって二時間目以降はザッときれいに起立ができるのかと言われたら首を傾げたくなってしまうが。

「着席!」

クラスメイトたちは起立のときと同じく、モゾモゾとした礼をした後、モゾモゾと座る。
担当の教諭は「全くもう」とばかりにため息を吐き、話し出した。

私の席は廊下側の一番後ろだ。
だから、教諭が板書しながら話している間、クラスの皆が何をしているのかが手に取るように見える。
ある男子は机の下に、朝にコンビニにでも寄って買ったと思われる漫画雑誌を隠しながら広げて読んでいるし、
ある女子は机の下に携帯を隠しながら、何やらいじっているし、
また、私と同じで、一番後ろの席の、ある女子なんかは手鏡を机に乗せて、膝の上に化粧品の入ったポーチを乗せて何やら顔に塗っている。
もちろん、これは一部に過ぎないが、真面目に授業を受けていない生徒もいる。
そして、ふと、真奈のほうにも目を向けてみる。
真奈は、見た目に反して授業は真面目に受けているようだ。黒板と机の上に広げてあるノートを交互に眺め、少し字が下手な教諭の板書を書き写そうとしていた。

そして、ふと、今朝に見た夢を思い出した。…私が寝坊して遅刻することになった原因の、それを。
私はすぐに頭に浮かんだそれを振り払おうと、頭を横に軽く振った。こんな時に、何で思い出すことがあるんだ。
真奈の後姿を見ながら、私は今度は罪悪感で顔が熱くなった。

ふっと、
今朝に真奈が私の遅刻の理由を訊いてきたことを思い出した。
あの時は上手く流すことができたけど、言えない。言えるわけがない。

特に、彼女に言えるわけなんてない。
私が見た夢が…、

真奈と私が、仲良く手を繋いで歩いていた、夢だなんて。
でも、私と彼女は昔からの友達だったし、仲良く歩くことは別に不自然ではないのか?
いや、どう考えたって不自然だ。確かに中学の頃から一緒にいることが多かったけど…、
手を繋ぐことなんて、殆どなかった。

それに、夢の中の私と真奈は…、手を繋いで歩いていただけでなく、
その…、抱き合って、…キスをしていた、だなんて…!


私は今朝に見た、あり得ない夢を頭の中で一通り思い出しきると、両手で頭を抱えて机に突っ伏した。
教諭の話がだんだんフェードアウトしていくように感じる。もう、さんざん黒板で黄色のチョークで下線が引かれた英文法なんてどうでもいい。
このままだと、次の休み時間から真奈の顔をまともに見られるかどうかわからない。
このまま意識が飛んで、今朝の夢のことを忘れることができたらどんなに良いか。

うっすらと、私の意識は『眠り』へと移行していった。このまま鈍色の感情に全て流されて今の気持ちを忘れられたらどんなに良いか。

でも、夢の中で感じた、ほんの少しの甘酸っぱい味がしそうな桃色の気持ちを完全に忘れきってしまうことへの惜しさも同時に感じている自分がまた、腹立たしい。

机に頭を突っ伏した私は、このまま鈍色の眠りへと誘われていった。

今朝の夢の中でさえ、リアルに感じた真奈の耳の後ろの香水の匂いが、繋いだ手の感触が、触れた唇の感触が、


甘酸っぱいような桃色の感情が、鈍色に溶けて消えていく。


このまま、完全にこの想いが消えてしまえば、私はまたいつもと同じように真奈と接することができるだろう。
そのことだけを期待して、彼女にほんの少しだけ抱いてしまった禁断の思いを眠りの中に押し込めた。

<完>


…これ、どう考えても携帯小説風じゃNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!

思いつきで書いている書き物はコンセプトが変わってしまうことはよくあること。(゜∀゜)
とりあえず、「JKが主人公」っていう縛りだけは守りましたよ!!1

一番初めに言っておきますが

2007-11-14 22:00:11 | 垂れ流し
KZKYはいわゆる「携帯小説」と呼ばれるジャンルの書き物に対し、あまり良い印象を抱いていません。
いや、そりゃあもちろん、携帯サイトでUPされている小説が全て『De*p Love』や『*空』のようなものではないとわかってはいるのですがね。orz
実際、書籍化されたり、映画化されたりドラマ化されたりと比較的有名どころが上記の作品で、
かつそれらがほとんど一種のテンプレのようになってしまっているところから、世間から「携帯小説」=いわゆるYo*hi氏や*嘉氏の作品のような書き物、だと思われてしまっているフシがあるのでは、と思います。
それで、有名どころの「携帯小説」でのテンプレとは…、

・主人公が女子高生(…が多い)
・援助交際
・過剰な程の性描写
・エイズ感染(上記のファクターを考えると通る道かもしれないが)
・レイプ被害
・妊娠そして堕胎
・愛する者の死(だいたいその死因が末期癌などの重病だったりすることが多い)
・横書き
・極力読者層(主に中高生が多いらしい)が首を傾げないほどの簡単な表現
・記号(☆、♪などは序の口)、顔文字(作品によっては絵文字も使われているらしい)多用

…などなど、挙げればキリがないかもしれませんが。

つまり、逆転の発想で…
今の若い人たちをひきつける小説(笑)を書きたい場合は、上記のテンプレを全てないしは一つ二つを盛り込んだ、比較的わかり易い日本語を使った書き物を書けばもしかしたら、内容はどうあれ評価されるんじゃないのか、と考えてしまいました。
ただ、実際そのような人たちに評価されたとして、決して「自分が書きたいもの」が評価されたわけではないと思うので、結果からいうと「負け」なような気がするのもまた…(´・ω・`)

でも、何だかちょっと上記のテンプレを一つぐらい使ったものを私、KZKYも何か書いてみたいなと思ってしまったことも事実ww
「援助交際」「レイプ」「妊娠堕胎」など、マイナスなテーマはちょっと使う気にはなれませんが…
あと、記号や顔文字絵文字もちょっと…、
ってことはーつまり、残されてるのって「愛する者の死」だけですね。あ、あと「主人公が女子高生」も残ってました。(゜∀゜)

何か思いついたら書いてみたいです。是非wwww

らーらー!
らららーのらーらー!らーらーー!!(by.百識の方治@スペイン語)

Mudai

2006-08-08 16:30:49 | 書き物
「人間なんて放っといたってどんどん生まれる。だから数人ぐらい殺したって問題はないと思った」

ブラウン管の向こうでマスコミのフラッシュを一身に浴びつつその男は言った。
私は未ださえない頭のまま、パジャマ姿、歯ブラシをくわえたままで男の証言を聞いていた。

男が発言するといっそう激しくなるフラッシュに飛び交う質問。男の弁護士らしき人が暴れ馬の如く興奮したマスコミ連中を制している映像が画面に映った。

あぁ。朝っぱらからこんなニュースがやってるなんて世も末だ。
早朝にこの調子で騒がれるようなら今日の夕刊の一面を埋めることは最早決定したようなものか。

歯ブラシを済ませ、蛇口から出る温い水を顔に浴びせながら私はこれからあの連続殺人犯がマスコミに“どう”描かれるかを想像していた。

―例えば、犯人の残虐性(薬で昏倒させて鋭利な刃物で腹部を滅多刺ししたという殺し方)から『極悪殺人鬼!』と描かれるのか。

―例えば、彼によって殺された人間の関連性が皆無であり、本当に犯人の衝動を埋めるだけに殺されたというところから『動機なしの無差別殺人!犯人Aの狂気』と描かれるのか。

―例えば、彼の証言…冒頭に述べた

「数人ぐらい殺したって問題ないと思った」

というあまりにも人道から外れた発言から『狂気の沙汰!人間の姿を借りた鬼』
…これはあまりにも滑稽すぎて採用は無理か。


殺人犯のニュースが終わったらいつもと変わらない朝のニュース番組へと戻った。
若い女子アナウンサーの聴いていられない天気予報にあてにならない星座血液型占いがブラウン管から流れた。
見ていられなくなった(…見飽きたとも言うか)のでテレビのスイッチを切った。

時計はもう七時半を回っていた。急いでネクタイを締めると家を出る。
七時四十五分発の電車に滑り込みで乗り込みつり革に半ばぶら下がるように掴まる。

いつもだったら目的地に着くまで意識を少しの間身体から離すのだが


「人間なんて放っといたってどんどん生まれる」

「だから殺したって問題はない」

「殺したって問題はない」



「なぜ人を殺してはいけないのか」


私の意識の中で今朝見たニュースのうら若き殺人犯Aの証言がぐるぐると回っている。
殺人事件、まして無差別に人を殺す凶悪殺人、かつ犯人が未成年で、かつ半ば狂気じみた発言をした…というのなんて今に始まったことでは決してない。それなのに


ふと、気がついた。
犯人Aはある種、人間が抱く永遠の疑問を口にしただけに過ぎないのではないのかと。

元々『人が人を殺してはいけない』『殺人は重罪』という考え方すらも人が決めたことだ。決して神が決めたということではない。
しかし、『なぜ』なのかという定義付けは今になってもされていない。
利便性を追求し、科学が発達し、最早人間にできない、わからないということは存在しないと言われているのに。


今私は車両いっぱいに人が乗り込んだ電車に乗っている。
この季節は蒸し暑く、車内に冷房が効いていても全く体感温度は下がらない。
人と人が密着している。中には道徳性を持ち合わせていない人間もいて、痴漢行為などが起こったり、無用心にズボンのポケットに入れた財布を抜き取る行為が起こったりすることもある。
当然被害者は犯人に対して“不快さ”を抱くだろう。
そんな時『人を殺してはいけない』という人間同士の暗黙のルールが存在しないとしたならば。

…私はこれ以上想像することをやめた。
それはいつもの朝の風景である満員電車内が凄惨な血祭りと化してしまうからだ。できることなら私はそんな祭りには巻き込まれたくはない。

犯人Aの証言から人間の根源的な疑問にまで私の意識が駆け抜けた頃、車内アナウンスが終点に停車したことを告げた。


「駒田。何をぼけっとしている」

私は会議中にもAの証言のことを考えていた。半ば怒号に近い口調で上司に名前を呼ばれ、ようやく意識が戻った。

「駒田が起きたところで今日の議題だが…」

「昨日の夜中に起きた無差別殺人事件について何か考えてきた人、あるいはその事件について来週号のコラムを書きたい人は…」



私は殆ど間髪を入れずに手を挙げていた。
上司は目を丸くしていた。
私の向かいに座っている若い社員が隣の女性社員と何やらヒソヒソと話をしていた。

「あんな事件のコラムを書きたがるなんて」
「ただの快楽殺人をどう書くつもりなのかしら」

会議が終わり、デスクにつくと私はパソコンを立ち上げて今朝考えていたことを忘れないうちにワードソフトに打ち込んだ。
私の考えが、どこまで社会に理解してもらえるかはわからない。
もしかしたら犯人Aのように狂人扱いされてしまうかもしれない。
だが、この弱い頭に生まれた考えを残しておかずにはいられなかった。


『なぜ人を殺してはいけないのか。若き殺人犯Aの証言から浮かぶ人間の永遠の議題』


著者 駒田秀彦

Friend あとがき

2006-07-01 16:40:38 | 書き物
こんにちは、木崎です。
『Friend』、最後まで読んでくださってありがとうございますm(_ _)m
この小説…?はなんというのでしょう…はっきり申し上げてしまいますと思いつきですorz
実は私の友人で病弱で入院することがよくある子がいて、彼女が入院する度に見舞いにいくのですが…
まぁ、まるまるルミとアスカのような感じではないのですが(苦笑)

この小説?は完結しましたので近いうちにまとめてHPの方にアップしてブログのほうのデータは削除いたします。
よろしくお願いいたします。

Friend phase.2

2006-07-01 16:31:13 | 書き物
ここの総合病院の精神科は閉鎖病棟になっている。…まあ何回かアスカの面会のために入ったことはあるけど、開放病棟とあまり変わらない印象である。
というか、開放病棟に行ったことがないので比べようもないんだけど…。
とにかく、私はエレベーターに乗り、地下2階にある精神科病棟へ足を運んだ。

「あら、進藤さんいらっしゃい。」
「こんにちは」
「今日もアスカちゃんのお見舞い?」
「そうです」
「熱心ねえ」

アスカの病室のちょっと前でアスカを担当している看護師と会った。私も結構アスカの見舞いにここに来ているのでもはや顔見知りである。


「アスカ」

『安川アスカ』と書かれた小さなネームプレートがかかっているドアを音を立てずに開けると、窓際に置かれたベッドの上にアスカがいた。
私が名前を呼んだのに気づいていないのかずっと窓の外を眺めていた。いや、もしかしたら気づいていて振り向かなかっただけかもしれないが。
とにかく彼女は私が来たことに対して何も変わった様子を見せずに窓の外を眺めていた。

以前私が見舞いに行ったときにアスカ自身の精神状態が不安定だったせいで私を殴ってしまったことを気にかけているのだろうか。
でも、もう大丈夫だよ。殴られたすぐ後は頬が腫れて痛かったけど、今は痛くないし腫れもひいているから。

一向に窓から視線を動かす様子もないアスカにこれ以上呼びかけるのをやめて、ベッドの横にある小さなテーブルに置いてある花瓶の花を取り替えた。
花瓶の水を取り替え、私が持ってきた花を瓶に挿そうとするとき、ふとアスカの腕が視界に入った。
彼女のパジャマの短い袖から白くて細い腕がこの入院生活の辛さを物語っているようだ、と思った。

ふと思い出した。
アスカが事故に遭う前のことを、随分時間が経ってしまっているが今も鮮明に思い出せる。
彼女はいつも笑っていた。笑顔を常に絶やさず、社交的で、いつも彼女の周りには人が集まっていた。
その頃の私は実のところあまり自分から他人に声をかけたりなどができない人間だった。彼女が羨ましく眩しかった。
彼女はそんな私の傍にいつもいた。眩しいその笑顔を私に向けてくれていた。
どれだけ私はその笑顔に救われてきたのだろうか。数え切れない。

「……う…。」

突然発せられたアスカの声により私の思考は現実へと戻った。

「アスカ…?どうしたの?苦しいの?」
「…う…、…しん…、どう…。…し…」

彼女は私のことを呼んでいた。進藤、進藤、と私の苗字を…。
私はアスカのベッドのそばにしゃがみ、咄嗟に彼女の手を握りしめた。
いつから私を呼んでいたのだろうか…ふと回想に耽っていた自分を恨んだ。
もう…何ですぐに気づかなかったんだ!

「アスカ…、どうしたの?」
「しん、どう…あたし…、…。」

無意識にアスカの手を握る力が強くなる。声を発することも困難な状況のなか必死で何か言おうとしている彼女の声を一言一句とも聞き漏らさない気持ちでいた。

「…進藤、ごめん。」
「……。」
「いた…かった、顔…痛かった?なぐ…たの…。」
「大丈夫だよ。もう、痛くないから。ね。」

彼女は必死に、前に私を殴ったことを謝っていた。
いつの間にか彼女の目にも私の目にも涙が浮かんでいた。

アスカの笑顔に何度も救われてきた。
今度は私がアスカを救う番なのだ。
いつの間にか泣きじゃくっていたアスカを抱きしめた。


病棟から外に出るともう外は暗くなっていた。自転車置き場から自分の自転車を出して勢いをつけて飛び乗った。
家路へと走っているとき何度もアスカの顔が浮かんだ。
事故に遭う前の笑顔、さっき病室で見た泣き顔、必死で私を呼ぶたどたどしい声…。
必死で頭を振ってもその日一日消えてくれなかった。

数日後、某裁判所…―

「それでは、証人の進藤 ルミ様、証言台へ。」
「はい。」


Friend The End------

雲の下の桜花結界~壱

2006-06-26 23:34:23 | 二次

未だ春の暖かさは見えず、真冬の寒気が街を支配している。
草花は暖かくなる時を待ち、小さく縮こまっている。そんな中、
その花だけは、煌々と咲き誇っていた。
北風が吹き、春を待つ草花たちを嘲るように吹きつけ、花も葉もない枯れた木が揺れるそんな季節の中、
その花だけは、薄紅色の花をめいっぱい広げ、満開に咲き誇っていた。

花は未だ開かず、色を失っているそんな時、その花は妖しく、不自然なほどに美しく輝いていた…。

その桜の花の前に立ち尽くす、一人の人間。…人間にしては、少々生気が足りない青白い顔だが。
そして、彼の周りには、彼と同じ程に青白い色をした大きな半透明の浮遊物がまるで彼の一部であるかのように取り巻いている。
彼は、その花を一瞥して呟いた。

「もう終わりにしなければならない。…この花の宿命も、罪のなき憐れな死の歴史も…。」

彼は腰に着けている長剣を鞘からゆっくり抜くと、その花の木の根元に突き刺した。
そしてもう一度だけ振り返り花を仰ぎ、また元の方向へ振り返り、歩き始めた。大きな青白い浮遊物も彼と同じ方向へふわふわと動く。

はらり

その桜の木の花びらが一枚、音を立てずに散り落ちていく。

『あのとき』からもう十年が経とうとしていた。


「綺麗ね。」

彼女は心からそう呟いた。
真冬の寒く、色を失った季節に煌々と咲くその花を彼女は空の上から眺めていた。
空に大きな切り込みを入れ、その切り込みに腰を下ろし、白い日傘を差したその少女は、どう考えても人間ではない。妖の者であることは一目でわかる。
人間が住まうこの街に、妖の者が悠然と空を飛びまわっているなんて考え難い話ではあるが、真冬に満開に咲き誇るその桜の木とて同じことであろう。

「綺麗だけど、」

彼女は閉じたままの扇子を咲き誇る木に向け、すっ、と横一文字に動かした。
すると動かした扇子の軌跡が音を立てずに割れ、その割れ目から夥しい数の物の怪が花に向かって飛び出した。

「この季節には、全くもって合わないわ。」

割れ目から現れた物の怪たちは我先にとその花に向かって落ちていく。だが、全て花にたどり着く前に消滅してしまう。
花に強い結界でも張ってあるのだろうか?彼女が呼び寄せた妖怪は次々にジュッ、と音を立てて燃え尽きてしまう。
彼女は目を丸くした。そして、口元だけで微笑うと懐からカード状のものを取り出す。
「こんな結界、破ってみせる」と小さく呟くとカード状のものを花に向かって掲げる
カード状のものから現れる夥しい数の弾、赤、白、黄、紫などといった鮮やかな色を持ったその弾は皆彼女が指した方角―花が咲き誇る木に向かっていく。
爆音が響き、あたり一面に灰色の煙が立ち込める。「他愛もない。」彼女は呟いた。
いくら強い結界が張ってあるとはいえ、夥しいほどの弾の幕が一点に集中して降り注げばひとたまりもない。
…だが、ひとたまりもなくなっていたのは花が咲き誇る木の周りに生えていた植物のみで、木は先ほどと一切変わらずに紅色の花を煌々と輝かせていた。
「ほう」と彼女は大きくため息を吐く。この私に破れない結界があるなんて…。彼女は無言でその木を眺めていた。

すると、木の下からすっ、と一つの影が現れた。その影は突然起こった爆発と木の周りの植物が跡形もなく燃え尽きてしまったことを知り、驚いていた様子で、辺りを見回していた。
影は空中の彼女と目が合った。突然のことにほんの一瞬彼女の顔に戸惑いの色が見えたがすぐに消えた。影は、『空中に悠々と座っている』少女を見ても決して驚きの表情を見せようとはせず、
むしろ、木の周りの植物を跡形もなく燃やされたことに対する憤りを空中の少女に向けているようであった。どうやら影はその木のある庭の世話係であるようだ。
彼女は先ほどまで腰掛けていた空の隙間にそそくさとばかりに入り、そのまま消えてしまった。
決して彼女は木の影にいた者に恐怖を感じたわけではない。ただ、大切な庭の植物を燃やし尽くしてしまったことに対して咎められるのが面倒なだけであった。
逃げるように消えた少女を見届けると、庭師は大きくため息をついた。そして、その桜の木に視線を移すと

「ついに物の怪まで現れるようになってしまったか。…急がなければ。」

と呟き、去っていった。
ひゅう、と強い風が吹き、木々を大きく揺らしたが、その桜は花を落とそうともしないで、変わらず紅色の妖しいまでの輝きを保っていた。


夜、既にもう日付が変わってしまった頃であろうか。
殆どの明かりが消え、今にも眠りにつこうとしている街の、外れの更に暗い路地裏にその少女はいた。
どうやらただごとではない様子である。少女は路地裏の壁に追い詰められていて、彼女の眼前には強面の男が三人いた。
背が高く、がっしりとした体格の男達のリーダー格のような男が一人、そしてリーダーに比べると何とも頼りなさそうな、だが邪悪そうな睨み顔はリーダーに負けてはいない、そんな子分のような男が二人。

「なぁ姉ちゃん、俺達におこづかいちょうだいよ。」

リーダー格の男はまるで子供をあやすような甘い口調でこう言った。だが、顔面に貼り付いて剥がれないような睨み顔で全て台無しになってしまっている。
少女はそんな男たちに対して愛想笑いとも取れるような微笑を浮かべこう言った。

「ごめんなさい、私急いでいるんで通してもらえますか?」
「あぁ?お前さん俺の言うことが聞けないわけ?」
「悪いことは言わないから身ぐるみ全部はがしていきなって。そうすれば通してやるからさ」

男はぴくりとも動こうとしない。少女は先ほどの愛想笑いとは違う、なんとも冷たい微笑を浮かべ、言った。

「命が惜しかったら、今すぐ通して。」

少女のその態度が男達の怒りに触れたらしく、リーダー格の男が少女の胸倉をつかんだ。
「ぶっ殺されてぇのか」男はそう言いかけたが、最後まで言い切ることはできなかった。
リーダーは自分の身に起こった異変にすぐに気づくことができなかったが、自分の左胸が、『何か』によって貫かれていた。
それに気づいたリーダーは恐怖に表情が凍りついた。その表情のままで、その場に倒れこんだ。少し遅れて抉り取られた左胸から、潰された果実のように真っ赤な血が飛び出した。

「うわあああああああ!!」
「ヤス、この女ヤバいよ…、逃げよう!」

残された二人はまさに“命からがら”逃げようとしていた、だが、少女は先ほどと変わらない冷たい微笑を残したまま、

「こうなったらもう、皆殺しよ。」

と、右手の人差し指を情けなく走り去ろうとする男二人に向ける。すると、すぐに男二人もリーダーと同じように左胸から大量の血が弾けた。
その様子を見て、少女はくっくっと小さく笑った。

「あーあ、大人しく通してくれればこんなことにはならなかったのに…、可哀相な人たち。」

少女は先ほどリーダーが死んだ時に顔に浴びた返り血をハンカチで拭うと、それを地面に叩きつけるように投げ捨てた。
三人の男達の死体の周りをぐるぐると飛び回るのは、青白い半透明の浮遊物。それは『狩りを終えた』ように満足そうに飛び回ってそのまま消えた。
そして少女は、何事もなかったかのように歩き出した。

その少女はただの人間の少女である。ただ少し…、特別な力を持った…。


突如、空間が割れる。縦一文字に割れた空間の隙間から一人の女性が現れた。真夜中なのに日傘をさした、風変わりな女性である。
彼女は先ほど少女が叩きつけたハンカチを拾うと自身のポケットにしまった。そして、無様な姿で倒れている三人の男の死体を見て小さくため息を吐く。
「全く、『立つ鳥跡を濁さず』って言葉を知らないのかしら。」
彼女は扇子を広げると、くるりと一回転。すると彼女の周りに細い隙間が生まれ、そこから鮮やかな色の弾が生まれ、あたり一面を破壊しつくした。
「あら…、やりすぎちゃったかしら。」
彼女はどうやら死体のみを消すつもりだったらしい、明らかに街の一部まで破壊されているようであるが。
細かいことは気にしない性格の彼女は「まぁ良いか」と誰に言うもなく呟くと、また隙間の向こうへと消えていった。

その日の夜が明ける。
早朝民家に届けられる新聞に『殺人事件』という文字は一つも出てこなかったが、『動機不明かつ大規模な公共物破壊事件』という文字は比較的大きな見出しとして出てきていた。

>>雲の下の桜花結界~弐に続く…。

Friend phase.1

2006-06-26 23:32:12 | 書き物
「悪いわね、いつも来てくれて。」
「いいえ」

ここは某総合病院の面会入り口付近の休憩所。
私はいつも時間ができるとここに来ている。別に自身が病気に罹ったわけでも怪我をしたわけでもない。
友人の見舞いである。
私の中学のときからの友人、安川 アスカの。

「ルミちゃん、本当にありがとう。アスカもきっと喜んでいるわ」

私の隣に座って近くの自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながら話している女性はアスカの母親である。私がアスカを見舞いに来るといつもこうやって暖かく迎えてくれる。
今だってそう。私が手にしている彼女と同じ銘柄の缶コーヒーは彼女に買って貰ったものだ。

「アスカは…いえ、アスカさんはお元気ですか?」
「えぇ。相変わらずよ。」
「そうですか。それは良かったです。」
「…あの子、今日はルミちゃんを殴らなきゃ良いんだけど…。」

母親はため息混じりに漏らした。私が前にアスカの見舞いに行ったときにアスカに思い切り頬を殴られ、顔が腫れ上がった状態で病院を出たからだ。

安川 アスカ。
彼女は高校のとき、飲酒運転の大型トラックによる交通事故に巻き込まれて数日間意識が回復しなかったほどの重症を負った。
現在は身体はすっかり回復し、自由に動くことができるようになったが、心…精神に深い傷を残してしまっている。彼女は重度のうつ病に罹っているのだ。
それなので現在彼女はこの病院の精神科病棟に入院している。私が彼女に殴られた、というのは彼女の精神状態が安定していないときに私が見舞いに来てしまったことが原因であった。
因みに交通事故を起こした大型トラック運転手と被害者であるアスカの家族との裁判は今も続いていて、もう少しで決着がつくというところまできているそうだ。

「今日は大丈夫だと思います。あの時はアスカさんの具合が悪かったのに無理やり来た私にも非はありますし。」
「そう?…なら、良いんだけど」
「それではそろそろ…」

と、私がベンチから立ち上がると、母親はもう一度「本当にありがとう」と言い、深く頭を下げた。
彼女の頭にふと目をやると白髪が数本混じっている。アスカが事故に遭う前は一本も見られなかったのに。
事故、娘の心に深く負った傷、裁判などで彼女にストレスがかかっているであろうことは容易に考えられた。最近会うことはないけどアスカの父親も同じようになっているであろう。
私は同じように彼女に頭を下げると、アスカのいる病室へと歩き出した。

>>phase.2に続く…。

初めまして。

2006-06-26 21:47:39 | 垂れ流し
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このブログ「HEART WARM--Novel side」はその名の通り、無節操かつ不定期に小説を掲載していくブログでございます。
現在はオリジナル短編の「Friend」と『東方妖々夢』のパロディ短編の『雲の下の桜花結界』を連載しております。
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