蒼い鳥の羽

オリジナル、二次創作物などを無節操かつ不定期に掲載するブログだったり、メモ代わりに使ってたりとカオスな感じです。

Friend phase.1

2006-06-26 23:32:12 | 書き物
「悪いわね、いつも来てくれて。」
「いいえ」

ここは某総合病院の面会入り口付近の休憩所。
私はいつも時間ができるとここに来ている。別に自身が病気に罹ったわけでも怪我をしたわけでもない。
友人の見舞いである。
私の中学のときからの友人、安川 アスカの。

「ルミちゃん、本当にありがとう。アスカもきっと喜んでいるわ」

私の隣に座って近くの自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながら話している女性はアスカの母親である。私がアスカを見舞いに来るといつもこうやって暖かく迎えてくれる。
今だってそう。私が手にしている彼女と同じ銘柄の缶コーヒーは彼女に買って貰ったものだ。

「アスカは…いえ、アスカさんはお元気ですか?」
「えぇ。相変わらずよ。」
「そうですか。それは良かったです。」
「…あの子、今日はルミちゃんを殴らなきゃ良いんだけど…。」

母親はため息混じりに漏らした。私が前にアスカの見舞いに行ったときにアスカに思い切り頬を殴られ、顔が腫れ上がった状態で病院を出たからだ。

安川 アスカ。
彼女は高校のとき、飲酒運転の大型トラックによる交通事故に巻き込まれて数日間意識が回復しなかったほどの重症を負った。
現在は身体はすっかり回復し、自由に動くことができるようになったが、心…精神に深い傷を残してしまっている。彼女は重度のうつ病に罹っているのだ。
それなので現在彼女はこの病院の精神科病棟に入院している。私が彼女に殴られた、というのは彼女の精神状態が安定していないときに私が見舞いに来てしまったことが原因であった。
因みに交通事故を起こした大型トラック運転手と被害者であるアスカの家族との裁判は今も続いていて、もう少しで決着がつくというところまできているそうだ。

「今日は大丈夫だと思います。あの時はアスカさんの具合が悪かったのに無理やり来た私にも非はありますし。」
「そう?…なら、良いんだけど」
「それではそろそろ…」

と、私がベンチから立ち上がると、母親はもう一度「本当にありがとう」と言い、深く頭を下げた。
彼女の頭にふと目をやると白髪が数本混じっている。アスカが事故に遭う前は一本も見られなかったのに。
事故、娘の心に深く負った傷、裁判などで彼女にストレスがかかっているであろうことは容易に考えられた。最近会うことはないけどアスカの父親も同じようになっているであろう。
私は同じように彼女に頭を下げると、アスカのいる病室へと歩き出した。

>>phase.2に続く…。