風合瀬

自分の専門である、土木や衛生工学のことについて語り、聞いていくページです。その他もろもろよしなしごとも。

京都議定書(いったいアメリカは酷いのか?)

2005年02月28日 | 土木一般
京都議定書からアメリカが離脱して,アメリカってなんて酷い国だろう,みたいなことをよくいわれているのだが,一方的な見方ではないか?日本だってアメリカに商品をたくさん買ってもらってたくさん消費してお金を回してくれないと経済のやりくりがつかない.アメリカが巨大なお金のわき出し口で商品の吸い取り口になっているからこそ経済が回っていっているという現状ももうちょっと考えなければならない.
仮に日本がうまく二酸化炭素の排出量を減少させられたとしても,その付けをアメリカに回しているだけのことになるのではないだろうか?

ちなみにそのアメリカのお金は結局のところアメリカの信用を背景としたアメリカの国債から出ていて,その国債は日本が買っていて,というぐるぐる周りがあって,そういう経済の牽引役という役回りがあるからこそ,京都議定書も受け入れがたいし,双子の赤字も解消しがたいのだろうな,と思う.

まぁ,これからは顧客は中国なのかもしれないが.その中国だが,中国脅威論というやつがあるが,経済がより緊密な結びつきをもつことを考えると,単純な脅威論はあたらないと思う.「経済的に大国になるから怖い」というのは的はずれのような気がするが,ただ,環境面から見ると,これは非常に怖い.環境という観点からして,中国はもたないのではないか?中国が経済発展を遂げて,まさに超大国となったころに,その重みに耐えきれず崩壊するとき,その巨龍がのたうちまわるとき,どのようなことになるのか?中国の内情を,森林の減少と砂漠化,水資源の不安定化,酸性雨,エネルギー供給の逼迫,といった環境問題という観点から観ていると,何か背筋にひたひたとくるものがある.

なるほど

ところで,わかるような気もしつつ,不思議でもあるのが,民生部門,要は我々の一般的な生活が,バブルの頃と比べて3割も二酸化炭素消費が増えているということだなぁ.いつのまに,そんな贅沢をしていたんだろう,という気になってしまう.

シビルミニマムと水道事業

2005年02月26日 | 水環境・衛生工学
福岡捷二先生という河川工学のひとがいるが,その人の論説で,災害対策をシビルミニマムとして改めて強調していた.
ところで,水や下水道はシビルミニマム,基本的人権か?この辺は,民営化論とも絡んでくる議論なのだろう.そういえば道路民営化の議論で思ったのだが,民営化すれば透明化される,という書き方にえらく納得できないものを感じた.官だろうが民だろうが,透明かこそが基本なのだろう,とつっこんでみたくなる.

ただ,底流にあるのは官に対する不信感で,その部分を正面から見据えなければ,どのような高説も組織防衛の手段としか見られない.

いうのは簡単だがむつかしいよなぁ….官である自分自身(独立行政法人だからちと違うのだが)を省みても,いかにむつかしいことか.(自分自身も含めて)どいつもこいつも自分自身の保身を傷つけない範囲での正論ばかりが罷り通っている.

脇道だが,大学の腐敗という点で考えるのは,その批判の多くがどうも的はずれだなと思うことだ.ああいう議論でよく指弾されるのは,例えば教授のくせに全然論文を書いていないとか,そういう論調で,工学系とかでは,全然あてはまらない話ばかりだ.じゃぁ,工学系は腐敗から無縁か,というと,全然そうではない,と感じている.そういう部分への的確な批判があまり多くないのが,残念だ.この方(団藤保晴さんとういう方)とか,鋭く厳しいように感じているけれど.

話を戻して,水道と下水道の民営化だが,水道の民営化という考えで引っかかるのは,水を売り物にすることの違和感かな.「安く」というのはもっともなのだが「たくさん」というところがひっかかる.まぁそこにきてループするのは,じゃぁ官だったらばその部分を回避できるのか,というと全然そう思えないところなのだが.「節水」は,今の「官」による事業でも本質的な政策目標にはなっていない.
水道事業者と市民が一体となって目標を定めていくのが大事だよなぁ,と思うのだが,きれい事過ぎ?だって,官であれ民であれ,水道事業者の正義は「ニーズがあればそれに応えていくこと」なのだから,使いすぎないようにしましょう,とはその役割上,自分からはなかなか言えるものではない.


メモメモ:
「地球温暖化と経済成長」岩波ブックレットNO.439(1997)より


p.39希少生物種の保護について

私はまた理知的でないデータと読んでいるものも収集しました.…基本的には,非理知的な特徴が,支出を決定したり説明する上できわめて重要だったのです.…それは,本当に危機にさらされかつ得意なものを,実際に保存しようとするよりも,ある意味ではわれわれが好む,あるいは同情するものを保存しようとすることを示しています.


ヘタな知識で学部生に生態学に関する授業をしているが,土木事業者たる人に伝えるべきことはなにか?ということを考える.一番大事なのは知ることであり,自然に対する知識が精密になることで生じる愛情なのだ,と考えている.
例えば環境経済学とか,ああいう学問を勉強していて感じるのは,愛情とかそういう,情緒的なものを最小限に排除して,必死に価値中立的なものに仕立て上げようとしているが,やはり情緒とか,そういうものを完全に排除できるものではないし,排除していいものでもない.
子供のレベルの好き嫌いとはちょっと違う,科学的な知識に裏打ちされた愛情,ていうのは大事だと思うのだよね.


p.44

発展途上国の研究成果から一つの非常に重要な結論が導かれました.それは市場改革をもたらす経済の自由化は,一般的には環境には良いという結論です.同時に,改革によってもたらwされる経済の拡大によってある程度の環境被害も発生しうる条件はありますが,マクロ的な経済改革がその原因ではありません.したがって,その対症療法はマクロ的経済改革をひっくりかえすことではなく問題の根本原因を見つけだすよう努力することです.


へぇ.


p.50

スウェーデンは原材料資源(鉄,林産物)に依存してきましたし,素ウェー伝の気鋭材発展は紙パルプ工業や鉄鉱石・鉄鋼製品の輸出などの直接的な活動によってもたらされてきました.


ドイツから北欧の環境・社会政策には毀誉褒貶いろいろあって興味はつきない.いずれよく勉強してみたいものだ.


p.57

日本は経済的,社会的,文化的,政治的な観点から見て深刻な危機状態におかれております.日本社会のこの極端な不安定状態の主な原因の一つは,多様な形の顧問図精度の消滅あるいは崩壊にあり…


なるほどなるほど.こいつは冒頭にふれた福岡捷二先生の論考にも書かれていたことだ.いうはやすしだが,自分に引きつけて考えるとむつかしいことだよな.家と大学の往復で,あまり地域社会に関わろうなんて考えるヒマもない.せっこい話だがまず生き残るために論文を書かねば,てね.
Publish or Perish?

メモ「社会基盤整備と財源」

2005年02月24日 | 土木一般
土木学会誌2003年12月号「社会基盤整備と財源」

を読んだ.
メモ(p. 32)
社会基盤整備財源の比較
鉄道:日本は国と地方の一般財源は20%,利用者負担は40%,借金が40%
他の国と比べると一般財源が低い,借金が多い.
道路:も,同じ傾向.

ふ~ん.

持続可能な財政ってどのくらいのものなのだろう.

ま,内容も勉強になったけれど,それより
土木学会誌12月号モニター回答
こんなページがあったことに新鮮な驚きを.

土木学会も情報発信にがんばっている.でも,みんな知らないよなぁ….
ブログでこういう議論が沸騰することってありうるのかな…?

言葉も景観も生活からしか生じない

2005年02月23日 | 土木一般
「土木学会誌」2月号特集「景観法と土木の工事」メモ

2004年6月にようやく都市景観に関する総合的な法律「景観法」が制定されたそうだ.これまで出た各種の景観に関する法律を総合化した,横糸になる基本法だと理解した.

読んでておもしろかったフレーズをメモ:


p. 14

…地方公共団体の景観担当部局が条例を作成したことで景観施策は十分だと考えたり,地域の景観形成の方針を無視して公共施設の景観整備を進めたり,衣装デザインの議論を景観の全体の議論と錯覚したりするのは,存外陥りやすい陥穽であるが,これらは全て間違いである.


p. 15
・「青森県大畑町での取り組み」

(大畑町の-きゅーじぅ-)イカ漁でもたらされた繁栄と同時に,イカに特化した暮らしの中で失われたものは深刻であった.より多く,もっと遠くへと,肥大化した欲望に促されるかのように船は大型化し,…豊かな漁場を形成していた自然海岸を埋め立て,巨大な漁港を建設していった.地域的な分業のもろさは,その衰滅が地域の解体にまで行き着くというところにある.(太線はきゅーじぅ)



p. 20

…住民に対して改修計画案を問うたら,10人が10人「こんな森ももういいからぜんぶコンクリートでかためてくれ」というお話でした.景観を何とか守っていくためには,住民の意思と戦わなければいけないんだな,と思いました.(太線はきゅーじぅ)


メモの途中だがコメント.
これは地域住民のホンネに近いところの話であって,ここでいう話とちょっとずれるが,土木技術者は,いわゆる「市民」を信用していない人が多い.ある,非常に物腰の柔らかい,環境関連の先生と話したときも,そうだった.へぇ,こんなひともなぁ,と思ったものだ.だいぶ前に,田中康夫長野県知事と,ダムに関して,最終的に更迭(というのかな?)された国土交通省から出向していた担当の方がいた.その担当の方が,一連の出来事に関連した論文をある業界紙に書いていた.それを読んだら,土木技術者は,サイレントマジョリティへの福祉の最大化が目的であり,当初はぶーぶーいっていた人も,正しいことをしていればあとでわかるものだ,という論旨だった.明らかに時代の趨勢に反する意見だが,まぁ時代の趨勢が正解とも限らない.しかしこういう考え方がやっかいなのは非常に独善に陥りやすいということだね.「サイレント」といわれてしまうと正しさの保証も反証もしがたい,非常に「非科学的」な発想なのだ.

え?えらそうに上から眺めているような,おいらはどうだって?まだその現場にいるわけではないので,特に意見はない.しかし積極的にそういうところに出る意志がない,すなわち象牙の塔にこもっている,そのスタンス自体が,ある態度表明になっているといわざるを得ないという自覚はありますな.


p. 21

…今後は町の人たちが,「自分たちが今暮らしていることが景観を作っている」ということを理解したまちづくりをしていけば,この町らしい景観はできていくんではないか.そんな方向でまちづくりを進めています.



ところで,効率優先の基盤整備が,町の美しさを破壊してきたんだ,反省しなければいけない,とかいう言い方を聞いていると,なんだか納得いかないものを感じる.こういう問題意識は河川整備における「多自然型工法」とかでもよく取り上げられている.でも,そういうところでお手本のように取り上げられる,例えばローマ時代のインフラなんかは,私なんかはあれだって,まず効率優先,基本的な機能を最大限果たすように作ったものあると思う.そしてそうであるがゆえにこそ,あれだけ美しいのではないかと思うのだ.これはミリタリーグッズの美しさに相通ずるものがあって.

土木構造物の目指す方向として「用・強・美」というのがある.おいらは「美」というのをここにいれるのはあまり賛成できない.土木構造物は,まず「用」と「強」をはたすこと,そして,住民が望んでいる要望をもっともスマートに達成することを考えること.それを通して,「住民が望んでいる」もののさらに背景にある「望んでいるライフスタイル」それ自体の美しさを反映した形で土木構造物が「美しさを」醸し出すのではないかと思うのだ.歴史的に優れた建造物,市民の便に供するための土木構造物が「美」を,最初からその主目的のひとつにしていたとはとても思えない(宗教建築物をのぞいてだが…).

PAHsは胎児にも危険だ,と

2005年02月21日 | 研究なネタ
朝日新聞から拾ってきた.


汚れた空気、胎児に悪影響 染色体異常増 米研究所発表

 妊娠中の女性が汚れた空気の下で暮らしていると、赤ちゃんに染色体異常が現れやすいことが分かった。米国立保健研究所(NIH)が15日、発表した。環境汚染物質が胎児染色体に悪影響を及ぼすことを実証的に示した研究は、極めて珍しい。大気汚染の激しい都市圏で、白血病などのリスクが高まることを示唆しているという。

 米コロンビア大の研究チームが、ニューヨークの3地区の妊婦60人に測定器を着けてもらい、自動車や暖房機器の排ガスなどに含まれる多環式芳香族炭化水素(PAH)という化学物質を浴びている量を測った。

 出産後に臍帯血(さいたいけつ)(へその緒の血)の白血球を調べた結果、日常的に浴びているPAHが全体の平均以下だった女性の赤ちゃんでは、白血球1千個当たり4.7の染色体異常が見つかった。これに対しPAHが平均を超えた女性の赤ちゃんでは、染色体異常が7.2に上っていた。白血病など各種のがんの下地ともなる異常が目立ったという。

 米国立環境衛生科学研究所のオールデン所長は「妊娠中に浴びた特定の環境汚染物質によって染色体異常が起きうることを示す初めての研究だ。各種がんの予防につなげられるのではないか」と述べた。

(02/16 13:14)


ふーむ.元ネタも拾ってきた.ここ:
Air Pollutants Linked to Chromosome Damage, February 15, 2005 Press Release - National Institutes of Health (NIH)

英語が不得意なのでまだ読んでいない….
PAHという物質は,当然ながら単体で動くものではなく,他の物質と,さらにいえばそのほかのいろいろな状況と連動して動くものだが….この研究はどうにかしてそういう他の影響を取り除くということをしたのだろうか?

下水道の財政事情を調べてみた(3)維持管理費

2005年02月20日 | 水環境・衛生工学
テレビでライブドアの転換社債がどうのという報道を見ていたら頭痛がしそうだ.経済のことはわからん.デリバティブとかの話を聞いたときも,あほみたいに複雑な約束手形でマネーゲームをしていて,な~んか,誠実じゃないなぁ,と感じる.

前回の続き.ようやく維持管理費の話に移る.
くどくどと前回の復習からいくと,A 市の下水道,年間の管理費は27億円とあり,そのうち20.5億円は借金の返済で,残り6.5億円が実際の維持管理費だといった.ただ,その借金の考え方について注意しなければいけないのは,借金が2/3なの!?えらいこっちゃ!?という訳ではないということ.それは前回参照.
で,本題の6.5億円の内訳についてみてみる.


維持管理費総額:6.5億円
 ・処理場:4.8億円
    -人件費:     0.86億円 (8600万円)
    -電力費:     0.50億円 (5000万円)
    -運転管理委託費:2.00億円 (20000万円)
    -汚泥処分費:  0.64億円 (6400万円)
    -修繕費:     0.12億円 (1200万円)
    -薬品費:     0.34億円 (3400万円)
    -水質測定経費: 0.23億円 (2300万円)
    -燃料費,その他
 ・ポンプ場:0.63億円
    -人件費:     0.11億円 (1100万円)
    -電力費:     0.11億円 (1100万円)
    -運転管理委託費:0.31億円 (3100万円)
    -燃料費,その他
 ・管路:0.28億円
 ・その他:0.85億円


…えーと,そうですか,という感想しか持ちようがないのだが,これをかみ砕いて理解するのにふたつの方向を考えてみる.

・人件費から,どの程度の人数がこの業務に従事しているのかが想像できる
・下水処理水の,処理量あたりの経費として割り出してみる

前者についても,そういう観点でデータをみるとおもしろいのだが,とりあえず技術屋としては後者の観点で観てみるとしよう.
統計書から年間の汚水処理水量を引っ張り出してみると,

・年間汚水処理水量:6.2×106[m3]

こいつから1m3あたりの維持管理費を出してみると,

・100円/m3

となる.これでもピンとは来にくいだろうが,1m3は,4人家族の一日分くらいの使用量くらいだろう.
おいらの関心は処理場,ということになると,処理場の経費は,80円/m3ということになる.

おいらのような研究者が,なにか新しい処理法を提案しよう,とかそういうときには,大体コストはその半分程度の40円/m3程度の範囲での話になる.これはこんなことを意味している.

下水道の担当者に,維持管理費で一番かかるのは?と聞くとだいたい,電気代と応える.A市の担当者に聞いてみた.当然電気代と応える.さらに聞いてみた.「大体どのくらいの割合なんですか?」「う~ん,半分くらいでしょうかねぇ」
…おやおや,上の内訳をみるとだいぶ様子がちがうぞ?せいぜい1割程度だ.たぶんこのときの発想には自分たちの人件費が入っていないのだ.まぁ,それはしょうがないことだと思うけれどね.自分自身だって,研究室の運営費,といわれればとっさには自分の給料をそこにいれることはしない.

ところで,こういうなかで,新しい提案をすることを考えると,どう考えればいいのか?水質を維持しつつよりコストが安いやり方を,という発想はわかりやすい.しかし大概の,大学研究者がやりたいような新提案は,すこしコストが高くなるかもしれないけれど,水質もよくなる,とかになりがちだろうけれど.やたらときれいにすればいいものではない.コストとは,さらにいえば投入するエネルギーであったりするのだし.

下水道の財政事情を調べてみた(2)ひとりあたまの負担額

2005年02月18日 | 水環境・衛生工学
毎日更新,したかったけれどむつかしい.スタートアップしばらくは記事をかきためたかったのだけれど….
本当は関連しそうなブログに宣伝をかねてトラックバックをしたいところだけれども、ある程度のコンテンツがないとそれすらも恥ずかしいからのう。おいらが有名人だというのであればともかくも、そうではないのだから。まぁ公開された状態で工事をしているようなものだ。

下水道関連の続きでも書いておこう。

前回の復習をかねて,A市の支出をまとめてみる.


支出総額:48億円
  ・建設費:21億円
  ・管理費:27億円
     -維持管理費:6.5億円
     -起債元利償還費:20.5億円


こんな感じだ.基本的に,建設費と管理費は全然別物のようにも見える.しかし,そうではなく,管理費の下に入っている「起債元利償還費」が建設費と深く関連している.これは借金の返済だが,借金のもとは建設費である.

(「借金」というとおいらはえらい嫌っているような言い回しだが,そういうわけではない.おいらは経済とか財政のこととか全然わからないので,このくらいかみくだいた言い方をしないとぴんとこない.)

さて,復習の話をするだけだったのだが,脱線ついでに,これだけのデータから,長期的な下水道の運営に考え方を読みとってみよう.

あるまちに下水道をつくろうとする.そのとき,当然たくさんのお金が必要になる.その段階で税金から補助してもらったり,借金をせねばならない.国の補助は1/3,あとはてめぇの金で,ということだ(いちばん最初の建設費は,市からの補助もあったかもしれない).それは公営企業債という,つまりは借金をする.これは,建前は,下水道料金から少しずつ返していくということだったと思う.建設に一時的にお金はかかるが,それは長い間使われて,市民が受益者なのだから,未来にわたって均等化して負担していくということである.
ちなみに下水道はつくられてとうに立つA町で未だに「建設費」なる費目が発生しているのは,少しずつ管をのばしているからだ.それらの借金も加えられていく.

建前は料金収入からだ,ということだが,実際はA市を見てみても料金収入でまかなえていない.市からの補助がそれに当てられている.結局おおよそは

建設費=税金
維持管理費=下水道料金

ということになっている実態がわかる.ここまでくると,さらに話を拡げて,では市の財政それ自体がどうなっているか,そのうち下水道関連はどんな風になっているかの興味もわく.あまり話を拡散してもあれなので,とりあえず市の歳入,歳出総額を調べてみた.総額で390億円とのことであった.前の投稿で見たように市からの補助は16億円なので,市の財政にしめる補助の割合は4%くらいというところか.
この辺は今のところ単なる事実確認にとどめておこう.

ところで,ひとりあたりいくらになるのだろうか?国からの補助だろうとなんだろうと元はといえば我々の税金ということで,要は下水のコストとしてまとめると,総額の50億円を市の人口(10万人)か,処理人口(5万人)かで割るのだ.どちらでわり算をするのが正当な評価か,悩みどころだが,とりあえず市の人口10万人で割ると,5万円となる.3人家族だと15万円,ということになる,ひと月あたりだと1万2千円,つまり,

・A市の下水道のコストは3人家族の家庭でひと月あたり1万2千円

となる.

ここらでふつうのブログだったらば,これはひどい!とかなんとかいうところだろうけれど,いまのところお勉強しているというだけなので,生暖かくなにもいわない.ふ~ん,という程度にしておく.

今回,これはH15年度(2003年度)一年間の情報にすぎない.いわば断面図である.だから毎年こんな感じかどうかは,正確にはわからない.ここまでくると下水道の計画ができて以来,長い間にどのように推移していったかにも興味があるが,それはいずれ機会があったらということで.

ホントは今回,維持管理費の話をしたかったのだけれど,そこまでいけなかった.とりあえずここまで.

下水道の財政事情を調べてみた(1)

2005年02月15日 | 水環境・衛生工学
下水道の財政状況を調べてみようと思い立った。思い立った動機は、直接は研究との関連からだ.しかしそれだけではなく,研究者といえども、土木分野という実学の分野にいる限り,社会とのつながりについて多少は意識した方がよいと思うので,少しは知っておいた方がよいかもしれない、という考えたからだ.そんなこんなでひまをみつけてぼちぼち調べたり、実務の人と話す機会があったときにいろいろ詳しい話を聞いたりしている。

webページをぱらぱら見ているとすぐ見つかるのが国土交通省にある下水道経営のページ.国家スケールの話である.最終的にはこういう認識に行き着くべきであるのはもちろんだが,経済とか財政とか、そういう用語そのものにうとい人間にはなかなかきつい…。ていうか起債元利償還費ってナニ?てレベルだからなぁ。

やってらんないので、小学校の社会科の夏休みの宿題のレベルまで落とすことにした.まずは,自分の町の下水道のことを調べてみよう.


*基礎データ*
我が町A市にある標準的な分流式下水道である。
処理人口は現在約5万人。
処理水量は600万m3(6×106[m3])とある。


当たる資料は…もちろんwebページにもなにか情報があるのだろうけれど、できるだけ一次資料のほうがよいだろうということで「下水道統計 財政編」(平成14年度版,現時点での最新版)を用いることにしたい.
まず財政はおおざっぱに、


建設費

下水道管理費


に分かれる。ひとつひとつ見てみる。


建設費財源21億円
・国費:7億円
・起債:13億円


とある。その他に受益者負担とあるがちょぼちょぼだ.それらはあわせても一億円以下.

国費は、ほかのまちも、どこも1/3程度になっていた。これは3割程度国の補助が一律出るということなのだろうか。「起債」というのはそもなんじゃらほい?と調べたらまぁ国債とかと同じ借金であると。受益者負担がこうしてみると非常に少ないこともわかる。

で、その21億円の使われ方だが、2/3の14億円が配管で、1/3の7億円が処理場という。

つぎには、

下水道管理費27億円
・使用量:10億円
・市からの補助:16億円、これは市の一般会計から

とある。これの他はちょぼちょぼ。

支出だが、27億円のうちわけで見ると:

・維持管理費:6.5億円
・起債元利償還費:20.5億円

とある。「起債元利償還費」てなによ…。調べると、つまりは借金の返済。
つまり、おおもとの「下水道管理費」という言い方をした場合は、いわゆるメンテナンスのお費用(維持管理費)と建設等に使った借金の返済(起債元利償還費)と両方とを合わせたものを指すということだ。

つまり,いわゆるメンテナンスの費用は6.5億円ということである.

料金収入が10億円あるので、メンテナンスの費用はまかなってあまりあるが借金の返済まであわせると遠く及ばないので市の一般会計からの補助を得ている,と理解すればいいのではないか.資料で、他の町のも見てみると、印象としてはメンテナンスの費用は料金収入で、建設によって生じる借金のほうは市の税金で、ということらしい。

さて、この段階でも、いろいろ次に調べてみたいこと、わからないこと、その他が出てくる。

・「起債元利残高」すなわち借金の残高の総額がわからない。上に示したこのページ、国土交通省にある下水道経営から想像するに、毎年返している額の10~15倍程度が残額としてあるので、そこから想像はできるが、統計資料には直接書かれてはいないようだ。

・そこはおいておくとしても、こういう財政状況をどう評価すればよいか?

こういった疑問がわいてくるが、まずはおいておいて、このテーマの次回はそのメンテナンスの費用のうちわけについて見てみたい。

「このテーマの次回」という回りくどいいいかたをしているのは、必ずしも次回これをするとはわからないからですんで、そこんとこよろしく。

初めまして(自己紹介)

2005年02月14日 | Weblog
はじめまして、「きゅーじぅ」と申します。
おいらは現在30代の土木系の大学教員をしております。専門は衛生工学、環境工学です。内容は、浄水処理、下水処理、廃棄物処理、大気・水質の汚染汚濁の問題、こういったことを専門とする分野です。
どこにでもいるいち教員、研究者です。このブログを開設した目的ですが、衛生工学や土木一般に関する意見の発信、交換、勉強といったことです。ウケミンな性格なのでどちらかというと、自分なりに考えた意見には欠けている視点はないのか、誤っているところ、認識が浅いところ、こういうところを見てもらい、意見をもらい、修正していく、こういうことに興味があります。

自分の研究そのものだったらば論文で問えばいいし、身近な仲間と討論をすればよいです。しかし、少し視野を広げようとするとなかなか限界があります。そういう意見をいろんな人に聞いてもらって批判をもらえればいいなと思っています。
ふつう大学の教員とかは委員会とかそういうのに出たりして、視野を広げていくのでしょうけれど、こういう媒体を利用するのもひとつのテだと思いました。
ブログのこともまだまだよく分かっていないのでじゅんじゅんに勉強していこうと思っています。

自己紹介で他に必要なことといえば…、大学院で博士取得後、そのまま別の大学に勤めました。民間の経験などはありません。(学会は別として)海外の経験もない、ちんまり蔵です。

ついでに、関係ないネタや、どうでもいい与太話もします。昔はweb日記なぞもやっていました。完全におたくな趣味系でしたがね。なつかしい。

次回、最初のネタは、「下水道の財政を調べてみた」にしようかと思います。