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冬のソナタに恋をして

ヒョンスとギョンヒの出会い

 

ギョンヒの人生は幼少時から苦労の連続だった。ギョンヒは3人姉妹の長女として春川に生まれた。両親は食堂を営んでおり、生活はお世辞にも裕福とはいいがたかった。ギョンヒは幼いころから二人の妹の世話をしながら、母親の家事を手伝う毎日を送っていた。そして洋服が好きで、大きくなったら洋服屋に勤めるのを夢見ていた。それでも、家族5人はつつましく笑顔の絶えない毎日を送っていた。しかし、ギョンヒが高校生になったある日、父親が急病を患って死んでしまった。そこから生活はさらに過酷なものになっていった。母親は食堂を維持するために働き詰めだったので、昼は高校、夜は食堂の手伝いに専念するようになった。高校卒業後はもちろん、昼間から食堂の切り盛りをすることになった。しかし、ギョンヒはそんな生活を送ることに、特に不満を持っていなかった。彼女にとって、苦労をすることは日常なので、そんな日々の中に小さな幸せを見つけることができる、そんなタイプの人間だったからだった。やがてギョンヒの頑張りによって食堂が軌道に乗り始めた3年目、ギョンヒは一人の男性に出会った。それは、ヒョンス、という若者だった。ヒョンスは時々やってきてはジャージャー麺やキンパ、チゲ鍋などをおいしそうに食べていった。はじめは特に話すこともなかったが、年が近いということもあり、次第に話をするようになっていった。すると意外なことに共通点が多いことが分かった。二人とも長男と長女で、下には養わなければならない兄弟がいる。高校を卒業しても、進学することもできないし、生きていくには働かなければいけないのも一緒だった。そんな共通点に心を開いたのか、ヒョンスは次第に生活の愚痴をぽつりぽつりともらすようになって言った。

そんなある日のことだった。その日は夏の夕立が街を濃紺に染めて、春川の繁華街も人通りがまばらになっていた。むせかえるような暑さと、アスファルトの焼ける臭い、雨がしみ込んだ土埃のにおいが混じった、独特の夏の匂いを今も覚えている。ギョンヒが店を閉めるという母親よりも一歩先に店を出ると、軒先にヒョンスがポツリと立っていた。

「夕立って本当に突然だな。いやだなあ。」

困り果てた顔で、真っ暗な空を見上げていたヒョンスの横顔を、ギョンヒは昨日のように思い出す。

ギョンヒはヒョンスに手招きをして、無言のまま歩き始めた。ギョンヒは春川で知る人ぞ知るタッカルビ(鶏肉と野菜の甘辛炒め)の店に連れて行くと、店員のアジュンマに「タッカルビ2人前」と言って腰を下ろした。「今日は私のおごり。いつも食べに来てくれるから」ギョンヒが恥ずかしそうに微笑むと「夕立もいいもんだな」とヒョンスも笑って、二人は黙々とタッカルビを食べ始めた。その日からだった、二人の距離が縮まったのは。ヒョンスはお腹が満たされると饒舌になった。兄弟を高校まで卒業させて一人前にしたいこと、将来は大工になって家族の家を建てたいこと、春川第一高校出身なこと、そして留学している婚約者のことも。ギョンヒはすこしちくりと胸が痛んだものの、自分も父親が亡くなって困窮していること、姉妹を成人させる目標があること、将来は洋服屋になりたいことをいつの間にかしゃべっていた。二人はお互いのことを「聞き上手だ。ついいろんなことを話してしまう」と言って笑った。そして日頃の愚痴をたくさん話してたくさん笑って別れた。

ヒョンスとギョンヒの関係はそれから進展することはなかった。時々ふらりと現れるヒョンスとしばらく話し込んで食事を提供する、二人の関係はそれだけだったが、ギョンヒはいつしかヒョンスが来るのを心待ちにしていた。しかし、ヒョンスの方でもギョンヒと会うのを楽しみにしている様子が見られ、ギョンヒは「婚約者がいるのに大丈夫かしら」と思いつつも、気のせいなのかもしれない、と考えないようにしていた。


そんな二人の関係が変わったのは次の年の初夏のことだった。その日もまたものすごい夕立で、町は漆黒の闇に包まれていた。ギョンヒが店を閉めて出ようとしたとき、軒先にいつかのようにヒョンスが立っているのが見えた。今日のヒョンスはいつもの穏やかな笑みは封印して、真っ黒なガラス玉のような目でギョンヒを見つめていた。ギョンヒはなんとなく感じたものがあり、今閉めた店のカギを開けて電気をつけて、食堂の中で話をすることになった。

ヒョンスは髪の毛からポタポタと落ちるしずくをそのままに、静かに話を始めた。オーストリアに留学中のピアニストの卵である婚約者の話だった。ギョンヒは彼女の話を心がつぶれる思いで聞き続けた。

「彼女は僕にもったいないほど素晴らしい人なんだよ、、、、。でも、彼女は僕を必要としてるけど、それはいつもそばで彼女を励まして勇気づける、そんな僕を求めてるんだ。でも彼女の夢の中にいることは出来ない。僕は大工になる夢かある。春川の家族を大事にしてここで生きたいと思ってる。でも、ミヒは違うんだ。世界的に有名なピアニストになりたいんだよ。そして、世界中で演奏して回りたいんだ。僕は彼女の足を引っ張ってしまう。だって、どこにも行きたくないんだ。ここにいたいと思ってる、、、。彼女と僕は違いすぎて、おんなじ夢は見れないんだよ。」ヒョンスは、そういうと静かに席を立って行ってしまった。3日後に婚約者が帰国するから、別れを告げてくると言ったまま。

それからしばらくの間、ヒョンスは店に現れなかった。ギョンヒは毎日気をもみながら来るのを待っていたが、不安は募るばかりだった。別に、ヒョンスに愛の告白をされたわけでもないし、待っていてくれと言われたわけでもないのに、ひたすら待っていた。ギョンヒはヒョンスの連絡先すら知らない自分に笑ってしまうのだった。

そしてついにその日が来た。ヒョンスが、仕事終わりのギョンヒを待っていたのだった。

コメント一覧

kirakira0611
@syousyu-wainai123753 さま、ちなみに冬のソナタは本当にオリジナルです。真似したり参考にしたりはしてなくて、書きながらストーリーは適当に書いてます(笑)
ありがとうございました😊
kirakira0611
@syousyu-wainai123753 さま、いつも褒めていただいてありがとうございます😊嬉しいです。
就労支援にチャレンジされていて素晴らしいです。働くといろいろなことを見れて楽しいですよね。応援してますね!うちの会社はやってませんが、最近就労支援や障害者福祉の分野の方たちと一緒にかかわるケースもあるから、勉強中です。
あまり精力的になりすぎて頑張りすぎないでくださいね!
syousyu-wainai123753
本当に、これら、番外編、サイドストーリーは、キラキラさんが、独自のオリジナルの、八割方がそうなんですか。信じられないです。本物の作家さんみたい、まるで。
これだけの文才が御在りならば、ほっておくのが勿体ない。立派に作家暮らしが出来そうな。これ、ホントに、オリジナルなんですよね。
詰まりは、文才が、想像力の賜物が、キラキラさんには本来の人間性に、御在りであられた。素晴らしい才能です。私は、その能力が、非常にうらやましいです。特異な才能です。
凄い才能を、タレントを、非常に、私はこの場に巡り合わせて頂き、この千載一遇の機会に、恵まれている訳ですね。一人の、一つの、一個の、人間、その恵まれた才能に、私達は立ち会えている訳だ。
今日は、以前から、随分と御無沙汰していて、思いっきり、まとめ読み、このブログコーナーに立ち寄れる機会に恵まれて、大変に私としては、幸せです。至福の時を味わって居ります。
凄い才能、ただただ、感嘆、の一言。

昨日は私は自身の徹夜でのブログ作成、ちょうど、最近では、Twitterをやったり、Facebookの更新、YouTube動画にも手を出して、本人出演で、とんでもなく長い時間、最長一時間と、なんなんとする時間を使い切り、思いっきり、動画を作っています。皆、不定期なんですけれども。ハッキリ言って、忙しい日々です。それに、私は最近、今の作業所では無く、もっと儲かる所、就労を本格的に考え始めていて、その訓練機関、就労支援移行事業というものに興味・関心を抱き、その面接・見学で、日々、追われて居ります。大変に忙しい日々。ちょうど昨日、駅前で面接があり、その前の日の、火曜日にも面接。あと一社、これも郡山駅前にあり、ここも面談を予定はして居ります。私は郡山市大槻町という、郡山の西の果てにあるような町に住んでおり、そこから、東西横断する形で、郡山駅まで、今どき自転車で、えっちらおっちら、通う訳です。実際、昨日おとといと、皆、自転車移動です。ちょっと足が筋肉痛もしますね。普通免許を持っていますが、免許を取った日から、ペーパードライバーです。
そこの訓練機関で、PCの手ほどきを受けて、仕事に結び付けられれば、との目算です。そういう事が、キラキラさんのお仕事の、一旦なのかは、私は福祉を利用する者ですが、全くの門外漢です。

本当に、面白い、興味深い作品、誠に有難う御座います。此の才能を、どこかで見てくれている人々や、出版社などに、一度、掛け合ってみてもいいのでは。才能を、眠らせておくのは勿体ないですよ。
とにかく、肩も凝らずに、思いっきり集中して、読み進む事が出来る。文体も、屈託がなくって、極めて読みやすく、実に細かい配慮がなされている。だから、素晴らしい才能だと、私は思い、言ってるんですよ。
これは、世紀の女性作家の誕生か?とこれは、私の勝手な妄想ですが、一つ、出版界に勝負をかけてもいけるのでは?との私の見積もり、どう出るか、と言う事ですかねえ。
私は、皆さんも、その才能には舌を巻いて、驚かれている方々ばかり。その評判は、たちどころに、このブログに来れば、皆、知り、分かります。これを、この機会を利用するのは、貴女、キラキラさん自身の才覚次第、であります。
以上。よしなに。wainai
kirakira0611
@joiede_ktfp さま、ポップアップストア、お疲れさまでした!
伊予柑の香りってあんまりしっかり嗅いだことがないですが、ちゃんと嗅いでみます。匂いって思い出をバーって蘇りさせたり、幸せな気持ちになるので、アロマとか好きです。
本編はドラマなので、どうしてもさらりと話が過ぎていきます。だから、この番外編で思うように書けるのが楽しくて仕方ないです。書き始めるときは大筋だけ頭に入れて、あとは自分がミヒになったり、ヒョンスになったつもりで書いていきます。親たちのストーリーなんて、書き始めたころは興味がなかったので、みなさんがいろいろコメントをくださったおかげだと思います。ありがとうございます😊確かに本人たちは精一杯なんですが、あとから思うと愛おしいような懐かしいような流れを感じますね!言われて初めて思いました。
わたしはjoiede _ktfpさんのように物を作る才能はないので、うらやましいです。
もう少しお付き合いいただけるとありがたいで
す。ありがとうございました😊
joiede_ktfp
kirakiraさん、今晩は。いつもありがとうございます。
親たちのストーリー、ある意味本編より引き込まれてます。とてもリアルな感じかして、日常や気持ちの動きがわかる気がするのは、年齢的に親世代に近いからかしらなどとおもっています。とうにんたちにとっては、一生懸命な日常だけれど、どこか穏やかな優しいときの流れを感じます。
夕立の描写、素敵ですね。

少しずつ春めいてきましたね。また少し冷えるとか、ご自愛ください。
kirakira0611
@81sasayuri1018 さま、ありがとうございます😊
そうなんです。結婚、生活を共にするとなると、見た目や才能だけでは暮らしていけないですよね。もっとも才能にとことん惚れ込んで地獄まで、という愛し方もあるのでしょうが。最近だと韓国のユアインさんという俳優さんが麻薬で摘発されてましたが、彼も唯一無二の俳優さんではあるけど、生活とかめちゃくちゃなんだろうな、と思いました。ミヒもきっと妻や母としてはうまく行かないタイプなんでしょうね。マリリンモンローとかジュディガーランドとかも私生活はメチャクチャだったようですし。なんてイメージしながら書いみました。ただしミヒの方がずっと真面目で普通だと思いますが。
ありがとうございます😊
kirakira0611
あつこさま、ありがとうございます😊いつもネコのノンちゃんがかわいいですね。美味しそうかつ高級料理の数々、ゆとりのある暮らしに憧れてます。うらやましいです!
冬のソナタだけど、冬のソナタじゃない、そんな感じで書いてます。正直本編を書くより自由に書いてるので楽しいし楽ちんなんです。
ありがとうございました😊
kirakira0611
@breezemaster さま、ありがとうございます😊
誰もが絶対悪ではなくて、それぞれ事情があって
考えも違ってすれちがいく様子を書いてみたかったんです。今日ミヒとジヌの一夜を書いてみました。子どもがいないときに集中して(笑)
18禁にならないように(笑)そこまでの過程を書いたのですが、むず痒かったです。すごく難しかったです。ストーリーは考えないで書き出してはなんとなくで書いてるので、辻褄合わせが大変です。ちなみに筋の大まかなところは本編のセリフをもとに書いていて、細かいところは脚本家さんの本と同じ内容にしてます。でも8割以上は創作になります。
またよろしくお願いします。
81sasayuri1018
こんにちは。

うんうん・・・といいながら引き込まれてます。
若いうちは見た目の良さに憧れますが、
生活をしていくには見た目はいいに越したことがないですが、
相手に想う安心感って大事ですね。
ヒョンスは、それをギョンヒに感じ取ったのですね。
続きを楽しみにしてます。 
お忙しいのにありがとうございます♡
Aちゃん
複雑に絡み合った関係者の糸が、少しずつほどけていってる。
細かい描写によって、また新しいドラマのようで面白いですね。
楽しませていただいています。
breezemaster
おはようございます

うわぁ~、今回も凄いストーリー、
読みながら、引き込まれるましたよ。
幼少時から苦労の連続だったギョンヒ、食事にくるヒョンス、
何気ない出会いから、結婚するまでには、
色々なことが、やはり山あり谷ありだったんですね
毎回言ってしまいますが、
こんなストーリーを作れるkirakiraさん、凄い!!
ドラマだけでは、見られない、冬ソナを見せていただいています!!
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