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冬のソナタに恋をして

チョンユジンの回想2 警察署での夜 高校生⑥

 


ユジンは昼休みに公園のベンチでサンドイッチを食べていた。初冬のかわいた空気の中で、高校生たちがじゃれているのか、ケンカしているのか、大声で話している。

ユジンは、またチュンサンのことを思い出していた。出会ったばかりの頃、ユジンが母親の洋服屋に荷物を届けに行った夜のことを。
その日ユジンの母は、店の在庫を家に忘れてきたので、ユジンに届けるように電話で頼んできた。もう7時をまわっていたので、ユジンは急いで夜道を走った。家には6歳になるヒジンも待っている。

店に着くと、母親が強引に値切ろうとするお客相手に、ぺこぺこ謝っている姿が見えた。女手ひとつで再婚もせずに娘2人を育てている母親。いつも感謝と申し訳なさを感じている。早く自立して、母親に楽をさせなければとユジンは改めて思うのだった。
「ちゃんとご飯食べた?」
ユジンはわざと明るく話しかけて、母親の労をねぎらった。
母親は心配して早く帰るように言い、ユジンは仕方なくトボトボと夜道を歩いていた。すると、前から来たいかにも酔っぱらった男性に、いきなり腕を掴まれた。
「ねえちゃん、どっかに飲みに行こうよぉ〜」
酒臭くてタチが悪い。さらに不運なことに夜道は暗くて誰も通らない。
「止めてください。はなしてっ、はなしてくださいよ」と言ってもすごい力で掴まれてしまう。
2人でもみあっていると、突然誰かが目の前に現れて、男を引き離してくれた。
チュンサンだった。チュンサンは近くの麺屋でいつものように夕食をとっていたのだ。
男は
「なんだオメェは?ねえちゃんの彼氏か?坊やは家に帰ってねてろよっ」と指で頭をこづいた。そしていきなり顔を殴った。ユジンはびっくりしてなんとかしなければと思い、夢中で男の腕に噛みついた。男は
「いてててて、何すんだ、このアマ⁉️」と怒り、ユジンを殴ろうとした。するとチュンサンが男を殴り、、、あとは何がなんだか分からないと言う状態になってしまった。
いつの間にか駆けつけた警察官に2人と男は警察署に連れて行かれた。
 
警察署で2人は並んで椅子に座らされていた。
そしてひと通りの調書はとられた。
しかし男はまだひとりで喚いている。警官たちは呆れた様子で相手にしていない。
ユジンはそっとチュンサンの横顔を見た。右の唇が切れて、血が滲んでいるのが見える。自分のためにこんなことになって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ユジンはハンカチを差し出して、血を拭くように言った。しかし、ちょっと的外れなところを拭いている。ユジンはハンカチを持って、口の血をぬぐってあげた。チュンサンはされるがままにじっとしていた。 
「困ったなぁ。ママにバレたら怒られちゃう。ねぇ、チュンサン、あなたのご両親に連絡してくれない?」ユジンは母親にこれ以上心労をかけたくなかった。しかし、チュンサンは黙って前を見ていた。


すると警察官が前に座った。まるで2人が悪いことをしたように怖い顔で
「2人ともご両親を呼びなさい。」と言った。
ユジンは俯いて
「うちはお父さんがいないんです。お母さんは働いているので来れません。」と言った。すると、チュンサンがビックリした顔でユジンを見た。
「じゃあ君はどう?お父さんを呼びなさい。」
チュンサンは固い表情のまま
「うちも父はいません。」と答えた。今度はユジンがビックリしてチュンサンの顔を見つめた。
警察官は呆れたように「あーっ、もうしょうがないなぁ。じゃあ帰っていいから。これからはまだ子供なんだから、2人きりで夜出歩かないでね。」
と怒られてしまった。
 
2人は苦笑いしながら外に出た。もう9時を過ぎている。ユジンは
「ちょっと待ってて」と言って、急いで薬局に行き、消毒液と軟膏と絆創膏を買ってきた。
2人は電飾のついた噴水の周りに座った。ユジンが消毒液と軟膏で手当てをして、絆創膏を貼ってあげた。そして手当てをしたあと、ゆっくり歩き出した。
「ねぇカンジュンサン、なんでお父さんがいないの?うちは小学生のときに病気で死んじゃったの。」
しかし、チュンサンはそれには答えずに
「なぁ、ユジナはさ、サンヒョクと付き合ってるの?」と聞いた。はぐらかされたことに気がつかず、ユジンは口をとがらせて
「サンヒョク⁉️ただの幼なじみだってば」と答えた。
「そういえばチュンサンは誰を探してるの?」
「話すような間柄じゃない。だいたいお前じゃなくても助けてたし。じゃあな。」
チュンサンは冷たく言ってスタスタ歩き始めた。
「チュンサン‼️」
ユジンに呼びとめられて振り返ると、
「消毒は一日三回、その度に軟膏を塗るのよ。分かった⁉️」と叫んで、薬袋を投げつけた。そしてふんっという表情でクルリと向きを変えて、帰って行った。
チュンサンは手の中の薬袋を眺めてしばらく笑っていた。
 
ユジンは我に返って、楽しそうにはしゃぐ高校生を見つめた。あの無邪気さと屈託のなさが羨ましかった。あんなふうに笑えたのは、チュンサンと初雪デートをした日が最後な気がする。
大切な人が死ぬと、自分の一部分が死んでしまうと言うが、それは本当だと思った。
 
ユジンの初めての死は、父親だった。父親はユジンが小学校六年生の時に死んでしまった。癌だった。ヒジンはまだ赤ちゃんで、父親の顔も覚えていない。ユジンは、日に日に衰えていく父親に怖さを感じていた。毎日毎日病院に寄っては沢山の事を話した。
大好きだったパパ。
一緒に釣りに行ったり
湖で泳いだり
南怡島でピクニックをしたし
こっそりタバコを吸うのに付き合った。
絵本を読んでもらったり
毎週教会の礼拝にも通った。
数え切れないほどの思い出と一緒に、パパは旅立って行った。
最後にパパは
「ママ、ユジン、ヒジン、大好きだよ」と言って息を引き取った。ユジンはそんな父親にすがって、いつまでも泣いていた覚えがある。
心の準備があったから覚悟は出来たけれど、心が引き裂かれるような悲しみだった。数年間は父親がいる家族を見るたびに、涙ぐんでしまった。無邪気な少女は女だけの家族の大黒柱ならなければと、必死で家事や妹の面倒をみた。ユジンのなんの不安もない少女時代は、父親が死んだ日に終わった。
 
そしてカンジュンサンの死。彼はユジンの初恋を手にしたまま、影の国に行ってしまった。残されたのはやり場のない悲しみと、思い出と一本のカセットテープだけ。お互いにきちんと告白も出来ないまま、心残りだけを置いて、彼は消えてしまった。彼は天国に行けずに、影の国でひとりうずくまって泣いているかもしれないと思うと、時々胸が張り裂けそうになる。
 
ユジンは、数年の間、モノクロの世界に生きているようだった。何を見ても楽しくないし、美しいとも思えなかった。世界は何も変わらないのに、彼だけがいないのが不思議で仕方なかった。しかし、無理して楽しいふりをしたり、笑ったり、はしゃいだりしなくてはならなかった。ありのままに感情を出したり、思った事を口に出したりすることが出来なくなった。
大切なものが壊れてしまうよりは、自分が我慢して笑っていればよいのだ、いつしかそんなふうに考えるようになった。
そして、心の一部分が凍ってしまって、どうしても誰かを愛することもできなくなった。愛することがどういうことなのか、ユジンには思い出せなくなっていた。わたしは一部分が死んだままこれからも生きていくんだ、そんないびつなわたしを愛してくれるのだから、サンヒョクと結婚しなければ、最近ユジンは特にそう思うようになっていた。
 
突然電話がなった。着信をみるとサンヒョクからだった。さあ、現実に戻ろう。
「もしもし、サンヒョク」
ユジンは精一杯の笑みを浮かべながら、会社に戻る道を歩いて行くのだった。
 
 
 
 

コメント一覧

kirakira0611
@bolicaminando さま、ありがとうございます😭
嬉しい言葉です。
冬ソナで皆さんが読んでくださって感激です。
これからもよろしくお願いします。
kirakira0611
@konomino-food さま、ありがとうございます😊😊
嬉しいです。
ソンイェジンさん、素敵な女優さんですよね。
これからが楽しみですね。
また遊びに来てくださいませ。
kirakira0611
@konomino-food さま、それは嬉しいです!
毎日美味しそうなおやつですね🍭
うらやましいです。
良かったらまた読んでくださいませー。
konomino-food
私をみつけていただき(フォロー)ありがとうございます。
冬ソナの大ファンです。
こちらのブログに出会えてうれしいです。
moon-bmi25
おはようございます!
はじめまして札幌のsatochinです。

最近、韓流にハマっている新参者です(*^_^*)
ソン・イェジンに魅入られて出演作品をあさっています。
今は「愛の不時着」を楽しんでいますよヽ(^o^)丿
bolicaminando
はじめまして。
表現がとてもお上手ですね。
臨場感、あります!
冬ソナは15年くらい前にCDで夢中で見ました。
冬ソナをブログで、ってとてもユニークな発想に感心しました。 
ありがとうございました♪🎶
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