2012. 2. 22
日経メディカル2012年2月号「特集 応急処置11の誤解」転載 Vol.5
【捻挫】湿布を貼って包帯で固定 ⇒ ×
加納亜子=日経メディカル
スポーツ外傷で最も多いとされている足関節捻挫。「捻挫は自然に治るものと軽視されており、正しい処置が定着していない」と話すのは日大駿河台病院整形外科客員教授の斉藤明義氏だ。

図4 足首の骨と靱帯(斉藤氏による)
そもそも捻挫とは、骨をつなぐ可動部関節周辺部位の損傷全般を示しており、軽度の靭帯損傷だけでなく、靭帯断裂も定義に含まれる。
足関節捻挫は重症度によって、I度(前距腓靱帯の部分損傷:靭帯付着部での軽微な損傷)、II度(前距腓靱帯の断裂)、III度(前距腓靱帯と踵腓靱帯の断裂)に分類される(図4)。
足関節捻挫が1日に2万件発生すると報告されている米国では、米国整形外科スポーツ医学会(AAOSM)が、III度の捻挫を正しく処置せず、外側靱帯損傷が十分に治癒できなかった場合、5年後には、(1)腓骨筋力の低下(2)内反不安定性(3)前方外側回旋不安定性(4)距骨下関節の不安定性が生じる─と報告しており、正しい処置を求めている。
RICE療法で腫脹を防ぐ
「捻挫や骨折の応急処置法としては『RICE療法』が広く知られている。しかし、具体的な手順を理解していない医師は多い」と斉藤氏は話す。捻挫は自然に治るものと湿布を貼り、軽く固定するだけの処置をする医師が今でも多いという。
RICE療法とは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つの応急処置法を示す(図5)。この処置を受傷直後から24~72時間行うと、炎症や腫脹を最小限に抑え、痛みが和らぐとされている。

図5 RICE療法
具体的な手順としては、患部に荷重をかけない体位で安静にし、同時に氷や氷水を使って、皮膚の温度が14~20℃になるまで冷却する。20分ほど冷やし続けると関節内が4℃下がるとされており、代謝が低下し、炎症が鎮静化して痛みが軽減する。
斉藤氏は「冷却を続けると患部の感覚は冷たさから深部の痛みに変わり、ポッとした温かみへと変化する。その後に、針で突かれるような痛みとなって、最後には感覚がなくなる。感覚がなくなるまで冷やすのがカギだ」と言う。
そして、うっ血しない程度に患部を末梢から中枢に向かって弾性包帯などで圧迫する。
圧迫時は末梢の状態に注意
RICE療法は捻挫だけでなく、骨折などにも使える応急処置だ。しかし、受傷時に筋線維が断裂した場合などには、圧迫と挙上の処置を行うべきではない。筋肉内出血や浮腫、圧迫処置によって、骨と筋膜、骨間膜などで構成されるコンパートメント(筋区画)の内圧が上がり、組織の血行障害(コンパートメント症候群)を起こすことがあるからだ。
コンパートメント症候群を発症すると、患部に激しい疼痛や腫脹を来たし、循環不全によって筋肉壊死や神経障害を生じる。そのため、本症状が疑われたら、外科的処置が受けられる医療機関に至急搬送する必要がある。
免荷と冷却を3日間続ける
捻挫の患者には、帰宅後もできる限り1~2時間おきに10~30分の冷却を72時間繰り返し、心臓より高い位置に挙上するように指導する。
同時に冷却には凍傷の危険があるため、表面が溶けかかった氷や氷水を使うことを伝え、末梢にしびれや痛み、血行障害を生じたら早急に専門医を受診するよう説明する。
市立敦賀病院(福井県敦賀市)救急部医長の徳永日呂伸氏は「下肢では、明らかに軽傷な場合以外は、大げさだと思っても固定するだけではなく、患部に荷重がかからない状態にすべきだ」と話す。受傷直後は骨の異常が指摘できず、捻挫と診断していても、数日~1週間後に骨折が判明することがあるからだ。荷重がかかることで骨折部位にズレが生じ、症状が悪化するケースもある。
徳永氏は「X線で骨折が指摘できなくても、オタワ足関節ルール(図6)を参考に他覚的な圧痛の確認を行うと、潜在的な骨折が見つけられることがある。骨折が疑われたり、適切なRICE療法を続けても症状が悪化したり、数日たっても改善しない場合は専門医への紹介が望ましい」と言う。骨折や重度靭帯損傷がなければ、3日間のRICE療法で患部の痛みや腫脹は治まることが多い。

図6 オタワ足関節ルール
また、斉藤氏は「足関節の捻挫で受傷から1時間程度で腫脹が生じていたら、靭帯が断裂している可能性が高い。切れた靱帯を寄せるには、5~10度背屈させ、軽く外に返した状態で3週間固定する必要がある。正しく固定ができる専門医に紹介することが望ましい」と話す。
日経メディカル2012年2月号「特集 応急処置11の誤解」転載 Vol.5
【捻挫】湿布を貼って包帯で固定 ⇒ ×
加納亜子=日経メディカル
スポーツ外傷で最も多いとされている足関節捻挫。「捻挫は自然に治るものと軽視されており、正しい処置が定着していない」と話すのは日大駿河台病院整形外科客員教授の斉藤明義氏だ。

図4 足首の骨と靱帯(斉藤氏による)
そもそも捻挫とは、骨をつなぐ可動部関節周辺部位の損傷全般を示しており、軽度の靭帯損傷だけでなく、靭帯断裂も定義に含まれる。
足関節捻挫は重症度によって、I度(前距腓靱帯の部分損傷:靭帯付着部での軽微な損傷)、II度(前距腓靱帯の断裂)、III度(前距腓靱帯と踵腓靱帯の断裂)に分類される(図4)。
足関節捻挫が1日に2万件発生すると報告されている米国では、米国整形外科スポーツ医学会(AAOSM)が、III度の捻挫を正しく処置せず、外側靱帯損傷が十分に治癒できなかった場合、5年後には、(1)腓骨筋力の低下(2)内反不安定性(3)前方外側回旋不安定性(4)距骨下関節の不安定性が生じる─と報告しており、正しい処置を求めている。
RICE療法で腫脹を防ぐ
「捻挫や骨折の応急処置法としては『RICE療法』が広く知られている。しかし、具体的な手順を理解していない医師は多い」と斉藤氏は話す。捻挫は自然に治るものと湿布を貼り、軽く固定するだけの処置をする医師が今でも多いという。
RICE療法とは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つの応急処置法を示す(図5)。この処置を受傷直後から24~72時間行うと、炎症や腫脹を最小限に抑え、痛みが和らぐとされている。

図5 RICE療法
具体的な手順としては、患部に荷重をかけない体位で安静にし、同時に氷や氷水を使って、皮膚の温度が14~20℃になるまで冷却する。20分ほど冷やし続けると関節内が4℃下がるとされており、代謝が低下し、炎症が鎮静化して痛みが軽減する。
斉藤氏は「冷却を続けると患部の感覚は冷たさから深部の痛みに変わり、ポッとした温かみへと変化する。その後に、針で突かれるような痛みとなって、最後には感覚がなくなる。感覚がなくなるまで冷やすのがカギだ」と言う。
そして、うっ血しない程度に患部を末梢から中枢に向かって弾性包帯などで圧迫する。
圧迫時は末梢の状態に注意
RICE療法は捻挫だけでなく、骨折などにも使える応急処置だ。しかし、受傷時に筋線維が断裂した場合などには、圧迫と挙上の処置を行うべきではない。筋肉内出血や浮腫、圧迫処置によって、骨と筋膜、骨間膜などで構成されるコンパートメント(筋区画)の内圧が上がり、組織の血行障害(コンパートメント症候群)を起こすことがあるからだ。
コンパートメント症候群を発症すると、患部に激しい疼痛や腫脹を来たし、循環不全によって筋肉壊死や神経障害を生じる。そのため、本症状が疑われたら、外科的処置が受けられる医療機関に至急搬送する必要がある。
免荷と冷却を3日間続ける
捻挫の患者には、帰宅後もできる限り1~2時間おきに10~30分の冷却を72時間繰り返し、心臓より高い位置に挙上するように指導する。
同時に冷却には凍傷の危険があるため、表面が溶けかかった氷や氷水を使うことを伝え、末梢にしびれや痛み、血行障害を生じたら早急に専門医を受診するよう説明する。
市立敦賀病院(福井県敦賀市)救急部医長の徳永日呂伸氏は「下肢では、明らかに軽傷な場合以外は、大げさだと思っても固定するだけではなく、患部に荷重がかからない状態にすべきだ」と話す。受傷直後は骨の異常が指摘できず、捻挫と診断していても、数日~1週間後に骨折が判明することがあるからだ。荷重がかかることで骨折部位にズレが生じ、症状が悪化するケースもある。
徳永氏は「X線で骨折が指摘できなくても、オタワ足関節ルール(図6)を参考に他覚的な圧痛の確認を行うと、潜在的な骨折が見つけられることがある。骨折が疑われたり、適切なRICE療法を続けても症状が悪化したり、数日たっても改善しない場合は専門医への紹介が望ましい」と言う。骨折や重度靭帯損傷がなければ、3日間のRICE療法で患部の痛みや腫脹は治まることが多い。

図6 オタワ足関節ルール
また、斉藤氏は「足関節の捻挫で受傷から1時間程度で腫脹が生じていたら、靭帯が断裂している可能性が高い。切れた靱帯を寄せるには、5~10度背屈させ、軽く外に返した状態で3週間固定する必要がある。正しく固定ができる専門医に紹介することが望ましい」と話す。