#138: イヴの総て

2009-05-03 | Weblog
映画監督であり優れた脚本家でもあったジョセフ・L・マンキウィッツの訃報に接したのが、確か蚤助がリオ生活を始めてから半年くらい経った頃だったと記憶しているので、かれこれ10数年も昔のことになります。なぜマンキウィッツかというと、WOWOWで「探偵<スルース>」、NHKーBS2で「イヴの総て」と続けて彼の傑作映画が放映されたからです。前者はローレンス・オリヴィエとマイケル・ケインの丁々発止が面白い心理サスペンス映画、後者は演劇界をめぐる人間模様を皮肉っぽく描いたドラマです。

1950 年に撮った「イヴの総て」(All About Eve-1950)で、マンキウィッツはそれまでの才気煥発の若手監督という評価からたちまち名匠と呼ばれるほどの存在になりました。ブロードウェイの女優、演出家、劇作家、批評家が入り乱れてドラマが展開します。

ブロードウェイの大女優マーゴ(ベティ・デイヴィス)と新人イヴ(アン・バクスター)との心理的葛藤は、マンキウィッツの演出も冴えていて堪能させられます。

イヴがハリウッドへ行って映画を監督しようとする演出家(ゲイリー・メリル)と映画について会話しています。

「なぜハリウッドに行くの?」とイヴ、演出家は「行きたいからさ」。「お金のため?」「8割は税金で消える」「ではなぜです?」「なぜか劇場は小汚いビルの中にあり、ニューヨークの一角に集中している。ロンドン、パリ、ウィーンも同じだ。では演劇とは何か。ノミのサーカスにオペラ、ロデオ、カーニバル、バレエ、民族舞踊、人形劇、ワンマンバンド、出しものと観客がいれば何でも演劇なのだ。ドナルド・ダック、イプセン、サラ・ベルナール、ベティ・グレイブルだって同じだ」

パーティで主要人物たちが話をしています。

批評家(ジョージ・サンダース)「俳優も普通の人間と変わりがないというが、それは違う。普通と違うから人気が出るのだ」
演出家(ゲイリー・メリル)「演劇界は9割が重労働だ。汗と集中力と技能で重労働をこなす。役者として成功したかったら、心の底から熱望するべきだ。並みの人間じゃできないが、かなりの犠牲を伴うのに見返りは少ない」
イヴ(アン・バクスター)「そうかしら?でも喝采を得られます。舞台裏で聞いていると愛の波が押し寄せて役者を包み込むみたい。毎晩、大勢の観客に愛されるんです。みんな笑顔で目を輝かせながら自分を求めてくれます。それだけで充分です。」

こういう会話の中で、一人の新人女優が酒の注文やら全く関係のない発言をしています。まだブレークする前のマリリン・モンローでありました。

この映画の舞台ミュージカル版が「アプローズ」で、初演時の大女優マーゴ役はローレン・バコールが演じました。

「悪口を上手に言ったアドバイス」(蚤助)


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