
フランスの作・編曲家、ジャズ・ピアニストの才人ミシェル・ルグランは、“I Will Wait For You”(シェルブールの雨傘)、“Watch What Happens”、“The Summer Knows”(おもいでの夏)、“The Windmills Of Your Mind”(風のささやき)などといったすぐれた歌曲を世に出している。
もっとも、ルグランの多才ぶりを趣味的に仕事をしているとしてお気に召さない評論家もいるようだ。つまり、何をやらせても水準以上だが、セールス・ポイントとウイニング・ショットに欠けるというのだ。どうしても道楽に見えてしまうのであろうか、仕事に厳しさが足りないなどという。
だがそれでもいいではないか。人が何と言おうと、彼の作った曲は現代の新しいスタンダード・ナンバーとして、世に認知され、根をおろしてしまっているのだから…。
彼の作品中、最もジャズ・シンガー好みの曲といえば、“What Are You Doing The Rest Of Your Life”(邦題「これからの人生」)かもしれない。
1969年のアメリカ映画“The Happy Ending”(リチャード・ブルックス監督)の主題歌として書かれたものだ。日本では劇場未公開だったが、『ハッピー・エンド/幸せの彼方に』というタイトルでTV放映されたことがあるようだ。主演したジーン・シモンズは同年のアカデミー主演女優賞にノミネート、この主題曲も音楽賞にノミネートされた。映画ではマイケル・ディーズという男性歌手が歌ったという。
ルグランの書いたメロディは知的で洗練された魅力にあふれている。まずは、ルグラン自身が編曲指揮をしたオーケストラをバックにサラ・ヴォーンが歌ったものを聴いていただこう。これは1972年度のグラミー賞の最優秀伴奏編曲賞受賞作だ。
作詞したのは、現代ポピュラー・ソング界最高の作詞家チームと思われるアラン&マリリンのバーグマン夫妻で、なかなかに味わい深い内容だ。
歌の内容は歌詞の冒頭に示されているように、「あなたのこれからの人生を私と一緒に過ごして欲しい」というものである。しかも、この思慕の表現がいろいろな事物を並べたり対にしたりなかなかに洒落ている。
脚韻を踏んだ歌詞には美しいリズムが感じられる。
歌詞の2行目の“North and south and east and west of your life”という表現は、コール・ポーターの名曲“All Of You”にも似たような歌詞があったことを思い出させて嬉しくなる。
「こまごまとした日常」の原詞は“All the nickels and the dimes of your days”。
“nickel”は5セント、“dime”は10セント硬貨だが、“nickel and dime”とくれば、「小さなこと、こまごまとしたこと、ありきたりのこと」という意味のようなので、おそらくこういうニュアンスになるだろう。このほか、5+10ということで、俗に15年間という使い方もあるようだ。これは初めて知った。
「生きる意味と理由」のところは“the reasons and the rhymes of your days”。
直訳だと「あなたの日々の理由と詩(韻)」ということになるが“reason”と“rhyme”が並んで出てくると通常は否定語(noとかwithoutとか)を伴って、“without rhyme or reason”で「理由や根拠もなく」とか「わけがわからない」という意味になると辞書に出ている。ここでは、歌詞全体の内容を考えてこういう風に解釈しておいた。
このほか、“In fields of gold and forests of the night”(「黄金=夜明け?」の野原と夜の森で)とか“Summer winter spring and fall of my life”(私の人生の夏冬春秋)とかいう歌詞も登場する。
そして何よりも、泣かせるのがこういう一節だ。
どうだろう、蚤助の訳の方はともかく原詞のセンスのいい表現は感じていただけるのではないだろうか。他の凡百のラヴ・ソングとは一線を画す愛の歌である。こういう歌こそ還暦を過ぎてから聴くべき歌だろうと思う。
サラ・ヴォーンの名唱をきっかけとして、フランク・シナトラをはじめ、メル・トーメ、アニタ・オデイ、シェイラ・ジョーダン、カーリン・クロッグ等が取り上げるようになったといっていいほどだ。
中でも、カーメン・マクレエはジョー・パスのギターを伴奏に素晴らしいライヴ・パフォーマンスを残している。彼女の歌には人生の機微のようなものが滲みでていて説得力がある。
インストではそのジョー・パスのギター・ソロ。彼のライヴの映像。多少渋めの演奏だが、ギターはよく歌っている。彼のギターは神がかり的だ。
もうひとつ、アート・ファーマーがグレート・ジャズ・トリオ&ストリングスと共演したミシェル・ルグラン作品集(日本制作盤)が印象的。ファーマーはフリューゲル・ホーンをしみじみと吹く。編曲と指揮は佐藤允彦である。
人生の残りの日々を愛する人と過ごす。恋愛という情熱は年齢に関係ないとはいえ、そのためには相当なエネルギーが必要だ。情熱を燃やすにも燃料がいるからね。老いらくの恋と言いたければ言え、「命短し、恋せよ○○…」だろうか。
もっとも、ルグランの多才ぶりを趣味的に仕事をしているとしてお気に召さない評論家もいるようだ。つまり、何をやらせても水準以上だが、セールス・ポイントとウイニング・ショットに欠けるというのだ。どうしても道楽に見えてしまうのであろうか、仕事に厳しさが足りないなどという。
だがそれでもいいではないか。人が何と言おうと、彼の作った曲は現代の新しいスタンダード・ナンバーとして、世に認知され、根をおろしてしまっているのだから…。
彼の作品中、最もジャズ・シンガー好みの曲といえば、“What Are You Doing The Rest Of Your Life”(邦題「これからの人生」)かもしれない。
1969年のアメリカ映画“The Happy Ending”(リチャード・ブルックス監督)の主題歌として書かれたものだ。日本では劇場未公開だったが、『ハッピー・エンド/幸せの彼方に』というタイトルでTV放映されたことがあるようだ。主演したジーン・シモンズは同年のアカデミー主演女優賞にノミネート、この主題曲も音楽賞にノミネートされた。映画ではマイケル・ディーズという男性歌手が歌ったという。
ルグランの書いたメロディは知的で洗練された魅力にあふれている。まずは、ルグラン自身が編曲指揮をしたオーケストラをバックにサラ・ヴォーンが歌ったものを聴いていただこう。これは1972年度のグラミー賞の最優秀伴奏編曲賞受賞作だ。
作詞したのは、現代ポピュラー・ソング界最高の作詞家チームと思われるアラン&マリリンのバーグマン夫妻で、なかなかに味わい深い内容だ。
WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE (1969)
(Words by Alan & Marilyn Bergman / Music by Michel Legrand)
What are you doing the rest of your life?
North and south and east and west of your life
I have only one request of your life
That you spend it all with me...
これからの人生 何かすることはある?
あなたの人生の北、南、東、西
あなたの人生に一つだけお願いしたいことがある
これからの人生を私と過ごしてほしいということ
あなたの日々のすべての季節と時間
こまごまとした日常
生きる意味と理由
すべて私とともに始め、私とともに終えてほしい...
(Words by Alan & Marilyn Bergman / Music by Michel Legrand)
What are you doing the rest of your life?
North and south and east and west of your life
I have only one request of your life
That you spend it all with me...
これからの人生 何かすることはある?
あなたの人生の北、南、東、西
あなたの人生に一つだけお願いしたいことがある
これからの人生を私と過ごしてほしいということ
あなたの日々のすべての季節と時間
こまごまとした日常
生きる意味と理由
すべて私とともに始め、私とともに終えてほしい...
歌の内容は歌詞の冒頭に示されているように、「あなたのこれからの人生を私と一緒に過ごして欲しい」というものである。しかも、この思慕の表現がいろいろな事物を並べたり対にしたりなかなかに洒落ている。
脚韻を踏んだ歌詞には美しいリズムが感じられる。
歌詞の2行目の“North and south and east and west of your life”という表現は、コール・ポーターの名曲“All Of You”にも似たような歌詞があったことを思い出させて嬉しくなる。
「こまごまとした日常」の原詞は“All the nickels and the dimes of your days”。
“nickel”は5セント、“dime”は10セント硬貨だが、“nickel and dime”とくれば、「小さなこと、こまごまとしたこと、ありきたりのこと」という意味のようなので、おそらくこういうニュアンスになるだろう。このほか、5+10ということで、俗に15年間という使い方もあるようだ。これは初めて知った。
「生きる意味と理由」のところは“the reasons and the rhymes of your days”。
直訳だと「あなたの日々の理由と詩(韻)」ということになるが“reason”と“rhyme”が並んで出てくると通常は否定語(noとかwithoutとか)を伴って、“without rhyme or reason”で「理由や根拠もなく」とか「わけがわからない」という意味になると辞書に出ている。ここでは、歌詞全体の内容を考えてこういう風に解釈しておいた。
このほか、“In fields of gold and forests of the night”(「黄金=夜明け?」の野原と夜の森で)とか“Summer winter spring and fall of my life”(私の人生の夏冬春秋)とかいう歌詞も登場する。
そして何よりも、泣かせるのがこういう一節だ。
And when you stand before the candles on a cake
Oh let me be the one to hear the silent wish you make
そしてあなたが(バースデイ?)ケーキのロウソクの前に立つとき
心の中の願いごとを聞くただ一人の人間にさせてほしい
Oh let me be the one to hear the silent wish you make
そしてあなたが(バースデイ?)ケーキのロウソクの前に立つとき
心の中の願いごとを聞くただ一人の人間にさせてほしい
どうだろう、蚤助の訳の方はともかく原詞のセンスのいい表現は感じていただけるのではないだろうか。他の凡百のラヴ・ソングとは一線を画す愛の歌である。こういう歌こそ還暦を過ぎてから聴くべき歌だろうと思う。
サラ・ヴォーンの名唱をきっかけとして、フランク・シナトラをはじめ、メル・トーメ、アニタ・オデイ、シェイラ・ジョーダン、カーリン・クロッグ等が取り上げるようになったといっていいほどだ。
中でも、カーメン・マクレエはジョー・パスのギターを伴奏に素晴らしいライヴ・パフォーマンスを残している。彼女の歌には人生の機微のようなものが滲みでていて説得力がある。
インストではそのジョー・パスのギター・ソロ。彼のライヴの映像。多少渋めの演奏だが、ギターはよく歌っている。彼のギターは神がかり的だ。
もうひとつ、アート・ファーマーがグレート・ジャズ・トリオ&ストリングスと共演したミシェル・ルグラン作品集(日本制作盤)が印象的。ファーマーはフリューゲル・ホーンをしみじみと吹く。編曲と指揮は佐藤允彦である。
人生の残りの日々を愛する人と過ごす。恋愛という情熱は年齢に関係ないとはいえ、そのためには相当なエネルギーが必要だ。情熱を燃やすにも燃料がいるからね。老いらくの恋と言いたければ言え、「命短し、恋せよ○○…」だろうか。
恋敵ゲートボールで果し合い 蚤助