昨冬に冬山道具を揃え、初心者コースの雪山をちょこちょこと経験してきましたが、アイゼン、ピッケルが活躍するようなところは春の燕岳と12月の西穂丸山くらい。もう少しステップアップしたいということで、本格雪山の入門(なんのこっちゃ?)と言われる天狗岳にこの冬ぜひチャレンジしたいと思っていたものの、2月は事務所の移転などで日程が取れず、天気にも恵まれず、3月になってからはマラソンモードでなかなか調整がつかずにいるうちにとうとう3月も末になってしまいました。天気予報とにらめっこをして、今日しかないということで、年度末の忙しい時期に無理やり代休をとって天狗岳を目指します。
天狗岳を目指すのは、実は今回が3回目。一昨年の秋は麦草峠からニュウを経由して目指しましたが、天候が思わしくなく黒百合ヒュッテで引き返し、昨年は、桜平から入り硫黄岳、天狗岳の縦走を計画しましたが、時間切れで根石岳で引き返したので、今度は3度目の正直となるようにしないと・・・。渋の湯からの最短コースだと日帰りも可能ですが、黒百合ヒュッテに泊まってみたいという理由で1泊2日の余裕のある日程です。
【1日目 3月27日】
朝3時半に自宅を出発し、登山口の渋の湯を目指します。明るくなってくると八ヶ岳連峰や北アルプスまで綺麗に見える雲一つない晴天で、期待が高まります。渋の湯の駐車場に6時半に到着し準備を整えます。ピッケル、アイゼン、防寒対策、サングラスetc、冬山の装備は一つでも足りないと命取りになります。
登山届を提出して出発
7時15分、登山届を提出して出発。細い橋を渡って、黒百合平と高見石の分岐を黒百合平に進みます。朝一番の体にいきなりの樹林帯の急登ですが、冬でも人気のルートで、このところ晴天続きなので、トレースもはっきりしていて、この時期は雪もしまっていて歩きやすいです。
歩きやすい雪道です
45分ほどで八方台との分岐に到着。ちょうど黒百合ヒュッテから降りてきた夫婦と出会いました。昨日は小屋はすいていたけれど、テント場は高校生が60人ほどもいて賑わっているとのこと。高校生は今日、明日も滞在するそうです。八方台分岐からは傾斜が緩やかになって、30分ほどで唐沢鉱泉からの道と合流します。ゆっくり歩いているわりにはコースタイムどおりです。
再び傾斜が強まってしばらくするとだんだんと周りの木々も低く、間隔が空くようになってきました。左手には樹間から中山が見えてきました。振り返ると遠く乗鞍岳がくっきりと見ることができました。
樹々の間から中山を見上げる 振り返ると乗鞍岳
あたりが開けてきたと思ったところで9時12分黒百合ヒュッテに到着。ほぼ2時間、予定よりも早く着いてしまいました。小屋の前の急斜面では、件の高校生が雪上訓練の最中でした。小屋前のテント場にはカラフルなテントが数十張、確かに賑わっています。
黒百合ヒュッテに到着 気温8℃(暖か~い)
雪上訓練中 テント場
小屋前のベンチを借りて早めの昼食にします。といっても、お湯を注いで食べることのできるパスタと行動食くらい。小屋前の温度計はプラス8℃を指しています。風も穏やかで暖かくて、もう春山という感じです。しかしここからが、この山行のハイライトである本格雪山です。40分ほど休憩したのち、アイゼンを装着し、ポールをピッケルに持ち替えていよいよ天狗岳への稜線へと出発します。
中山峠の分岐を右に折れると、左が切れ落ちた急登になってきます。一段上がった天狗の奥庭という台地からは荒々しい東天狗岳の岩峰と真っ白に雪化粧した穏やかな西天狗岳が望めます。それにしても素晴らしい青空です。
正面に東天狗岳、右に西天狗岳
そして西を見ると、北アルプスの雪をかぶった峰々の連なりがくっきりと見ることができます。あまりの素晴らしさにしばし見とれてしまいます。ここは東側も開けていて、明日の朝はここで日の出を迎えるのが良さそうです。
北アルプスもくっきり
しばらく絶景に見とれていると、一人で登ってくる女性がいたので声をかけると、なんと四国・香川県から来たとのこと。昨日は赤岳鉱泉に泊まって硫黄岳に登り、今日は天狗岳に登って自分と同じく黒百合ヒュッテに宿泊するそう。彼女とはこのあと多くの時間をご一緒させていただきました。
天狗の奥庭からはさらに急な長い雪の斜面を上がって行きます。多くの人が登っているのでステップができていて、アイゼンもしっかり効くので急な割には登りやすいです。
雪の急登 浅間山を背に急登をいく
急登を登りきると、徐々に岩と雪のミックスになってきます。アイゼンを付けて岩に立つのはバランスも必要で、刃を岩に引っ掛けないように慎重に歩きます。天狗の鼻と呼ばれる岩場の通過は少しですが高度感もあり緊張するところです。見下ろすと、先ほどまでいた黒百合ヒュッテもかなり小さくなってきました。
天狗の鼻の岩峰 眼下には黒百合ヒュッテ
頂上も見えてきていよいよ最後の登り。小屋から1時間ちょっと、11時04分、思ったよりあっけなっく山頂に着いてしまいました。
山頂が見えてきました 山頂に到着
山頂
山頂からは360度の眺め。南側には赤岳、阿弥陀岳、硫黄岳などの南八ヶ岳の峰々と南アルプス。西には真っ白な西天狗岳、北西には北アルプスの山並み、北には蓼科山から北信越の妙高山なども見えます。北東側には浅間山から谷川岳などの山まで見えます。あまりに見えすぎて分からないほどです。
北アルプス(穂高、槍など) 蓼科山と北アルプス北部(鹿島槍、白馬など)の山々
浅間山と越後の山? 西天狗岳
南八ヶ岳(左から硫黄岳、赤岳、阿弥陀岳)
南アルプス(左から北岳、甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳)
しばらくすると根石岳方面から年配の3人が上がってきました。赤岳鉱泉を今朝出発して、硫黄岳~根石岳を経て来たとのこと。学生時代の山岳部の同級生だそうで、昔ながらの木製のピッケルを持っていました。格好良いです。
荷物を山頂において、西天狗岳に向かいます。岩混じりの道を鞍部まで降りて、真っ白な西天狗岳へ急登します。20分ほどで西天狗岳に登頂です。ここからは木曽御嶽山も望むことができます。富士山だけが南八ヶ岳の陰になり見えないのが残念です。
鞍部からの西天狗岳(先を行く3人の登山者)
西天狗岳山頂 山頂で記念撮影
木曽御嶽山 西天狗岳から見た東天狗岳
再度東天狗岳に戻り、しばらくゆっくりしてから、また鞍部まで下ってから東天狗岳のトラバース道から黒百合ヒュッテに戻ります。天狗の庭からはトレースがいくつかできていて、行きとは違う道を通りながらいつの間にか小屋の前に出てきました。
受付を済ませてもまだ午後2時過ぎ、天気が良いので小屋にいるのももったいなくてしばらく外にいましたが、さすがに寒くなってきて、小屋に入れさせていただき、先に入っていた山頂でお会いした3人の方とお茶をしながら過ごしました。
薪ストーブやこたつなどで部屋は快適です
午後4時半になって大部屋に案内されます。30人ほども入れそうな部屋に、今日はたった8人だけ。個室のお客も含めても12人。全員とお話できるほどでした。遠くは長崎、香川から来た方、自分の隣市に住んでいるという方、親子や旧友同士で来た方など様々ですが、今日の天気に皆さん満足そうな笑顔でした。明日も晴れるといいな。
ハンバーグがメインの夕食
【2日目 3月28日】
日の出を見るべく、朝5時前に起床します。冬は装備が大変なので、出発するのにも時間がかかって大変です。急いで昨日決めておいた場所まで上がります。5時35分、ぎりぎり日の出に間に合いました。空には薄雲が拡がっていて、綺麗な朝焼けが見れましたが、北アルプスのモルゲンロートは今ひとつでした。けれど、久しぶりに見た山での日の出に満足して小屋に戻ります。
日の出 北アルプスもほのかに染まる
今日は土曜日で晴れの予報。今夜の小屋の予約は70人も入っているらしい。日帰りの人も含めると100人以上が渋の湯から黒百合平、天狗岳を目指して登ってくることになりそう。本当は渋の湯にこのまま下っても良かったけれども、すれ違いも大変そうだし、夏に通った道を冬に歩いてみるのも良いと思い、四国の女性が向かうという中山、高見石へご一緒することにしました。
持参したパンを朝食で食べてから、7時過ぎに小屋をあとにします。中山峠を今度は左に折れます。少し上がったところが見晴らし台となっていて、天狗岳の双耳峰が綺麗に見ることができます。
見晴らし台からの天狗岳
中山への道は、低木の枝を避けながら進みます。冬はあまり人が通らないルートだと思いましたが、思ったよりもトレースが付いていて安心しました。藪こぎのあとは北八ヶ岳らしい縞枯れの道を登っていきます。一旦展望の良い場所に出てちょっとの急登を行くと再び樹林帯に入ったと思ったらそこが中山山頂でした。危うく通り過ぎるところでした。
縞枯れの道をいく
山頂から少し下ったところが中山展望台。西側から北側の展望が開けていて、北アルプスの眺めが良いところです。一昨年来た時は霧で全く景色が見えませんでしたが、今日は上空に薄雲が拡がっているものの、北アルプスも見ることができました。
中山展望台からの蓼科山と北アルプス
中山展望台から高見石までは一気の下りです。夏は苔むした岩がごろごろして歩きにくかった長い下りも、岩が雪に埋まっていてとても歩きやすいです。1時間弱ひたすら下って9時に高見石小屋に到着。夏に歩いた時とそれほど時間的には変わりませんが、今日は一人じゃかなかったせいもあって、長くは感じませんでした。
高見石へ下る
高見石の大岩の登りも雪があって上がりやすいです。なんなく先端に立って展望を楽しみます。氷結した白駒池が森の中にポッカリと浮かび、高見石小屋の上には中央アルプスが冬の装いで連なります。朝よりも青空が拡がってきたようです。
原生林に囲まれた白駒池 高見石小屋と中央アルプス
それにしても黒百合平の賑わいが嘘のように、こちらは静寂そのもの。そういえば黒百合ヒュッテから高見石の間にすれ違った人といえばたった2人でした。展望もいろいろ楽しめて、こちらに下ってきて正解でした。
小屋前のテラスで少し休憩をしてから、白駒池に下るという昨日からお世話になった四国の女性とここでお別れして、あとは渋の湯に下るだけです。アイゼンを外して軽い足取りで下って行きます。賽の河原と呼ばれるところでは再び展望が開けて、正面に中央アルプスと御嶽山を見ながら下ります。スキーかソリで下りたいくらい気持ちのよい雪の緩斜面ですが、ここも夏は岩がごろごろして歩きにくい場所だそうです。
賽の河原を下る
あとは谷筋に沿って、何度か沢を渡りながら、展望もない下りです。この間も全く人とすれ違わずに10時50分に渋の湯に戻ってきました。高見石から約1時間、コースタイムより30分も早く着きました。登山口にはこれから黒百合平、天狗岳に登るという人が何十人もいて、改めて今日のコースで良かったと思いました。
無事渋の湯へ
下山後の楽しみといえば温泉です。どこの温泉に立ち寄ろうか考えましたが、今回は初めての天狗岳でもあるし、駐車場を借りた手前もあり渋御殿湯にしました。温泉に入る前は温泉の良い香りが立ち込めていたのですが、いざ入浴すると匂いがしない。よく見たら大きい暖かい湯船は天然水の沸かし湯で、源泉からのお湯はとなりの小さい湯船にあった26℃というとても入ることのできない水みたいなほうでした。ちょっとこれにはがっかり。
お昼も過ぎてお腹が空いたので、続いてはお蕎麦を食べにいきます。事前にリサーチしていなかったので、何度か伺ったことのある「そば庄」へ。安定した味ですが、別のお店も今度は行ってみたいと思います。
そば庄のそばセット
朝に比べてだんだんと青空も広がり、帰るのがもったいなくなってしまい、しばらく八ヶ岳山麓をウロウロ。赤岳登山口の美濃戸に向かう途中にある八ヶ岳中央農業実践大学校というのがあったので気になって立ち寄ってみます。直売所では大学校で育てた牛で搾った乳加工品もいろいろあって、暑かったのでアイスクリームをいただきました。これ美味しかったです。
アイスクリーム@八ヶ岳中央農業実践大学校(阿弥陀岳をバックに)
諏訪で買い物をしたりしていたら、夕方になっていて、家に帰り着いたのは夜になってしまいました。
今回も天気にも出会いにも恵まれ、いつも以上に楽しい山行になりました。なかなかできないですが、土日の混雑を避けて、平日に山に入るのは静かで、小屋でものんびりできて、やっぱり良いです。雪山の経験もまた一つ増えて、次のステップにつながって行きそうです。