【道:前田 法重・村川 慎太郎・富田 剛・大塚 仁・本田 仁・富田 穂樽・大塚 瀬名・村川 梨花・福田 太陽】
「でわでわ、子供達の全員合格を祝してカンパーイ」
右手にジョッキを持ち、富田 剛が上機嫌でジョッキを上に上げ、参加メンバーも全員自分の飲み物を上にあげた。ここは居酒屋『道』。本日もたくさんの客が美味しい料理とお酒を楽しみに来店している。昨日の熊本大学の合格発表で無事合格した富田 穂樽・大塚 瀬名・村川 梨花・福田 太陽の合格祝いを本日ここで行っているのである。
「それにしても全員合格するとは思っていたけど、実際発表があると感慨もひとしおやな」
「でもこれで冒険者になるのを認めざるを得なくなりましたね」
興奮気味に話す富田に本田 仁が冷静に言葉をかける。今回熊大に合格した4人は全員が冒険者になることを希望しており、それを認める条件として熊大に入学するということ決めていたのである。なので、熊大の合格した以上、冒険者になることを認めないわけには行かないのである。
「太陽君も冒険者になるんだよね?」
「はい。両親にもそのように話して、了承は得ました」
目の前で烏龍茶を飲んでいる福田に大塚 仁が質問し、それに対して真剣に返事を返した。今回熊大に合格した4人のうち、富田、大塚、村川は家自体が黒髪にあるが、福田の両親は福岡で生活している。福田の両親はできれば子供には冒険者になって欲しくはなかった様であるが、自分たちも冒険者だったことを考えると、強く止めることは出来なかったのである。
「いやー、それにしても子供達が冒険者になるんだからな。俺たちも歳を取ったもんだよ」
「前田さんのところもあと3年後ですからね。正直あっという間ですよ」
感慨深げに言葉を発した前田 法重の言葉に、村川 慎太郎が思いを伝える。前田には2人の娘がおり、上の娘である綺羅は4月から高校1年生になるので、3年後は同じ状況になるのである。
「お待たせしましたー」
「おー、マエーダ伯爵夫人自ら持ってきていただけるとは、言って貰えば取りに行ったのに」
『道』のママさんであり、前田の奥さんでもある前田 雅美が大量の料理を運んできたので、即座に本田がフォローの言葉をかけた。『道』には常時スタッフが他に2名程度いるので、雅美が直接食事を持ってくることはあまり無いのであるが、たまたま何かがあったらしく、自ら持ってきてくれたのである。ちなみに本田は今マエーダ伯爵夫人と呼んだが、普段からその様に読んでいるわけではなく、思いついたことを口にしただけである。それを聞いて、前田は少し訝しげな表情をしていた。
「それはそうと、皆さん熊大合格おめでとうございます。これから大学生として4年間を過ごすと思いますが、人生においてこの4年間は非常に有意義な期間となりますので、しっかりと頑張ってください」
合格した4人に対して、雅美が気持ちを伝え、その言葉でここにいる全員が感動した。1人を除いて。
「あれ、富田さんどうしたんですか、難しい表情して」
何やら考え込んでいる富田に気付き本田が声をかける。
「いやー、俺の大学生活有意義だったかなと思い返してた。多分有意義じゃなかった」
「まあまあ俺もそう思いますけど、ささ、飲んで飲んで」
そう言われたので、富田はジョッキのビールを開けて、おかわりを本田が注文する。ちょっとだけ今の本田の俺もそう思いますけどという言葉が引っかかったが、楽しい合格祝い中なので、気にしないことに決めた。
【熊本大学:富田 穂樽・大塚 瀬名・村川 梨花・福田 太陽】
「あったあった!」
「私もあった。良かったー」
富田 穂樽と大塚 瀬名は合格発表板に自分の受験番号が記載されているのを確認し、喜びあった。ここは熊本大学武蔵ヶ丘キャンパス。本日は前期試験の合格発表が行われている。一緒に文学部を受けた富田と大塚は一緒に熊大を訪れ、合格発表板を確認したのである。熊大に合格するのが直近の目標であったので、2人の喜びはひとしおである。特にセンター試験の点数が多少足りてなかった富田は2次試験で多少の手応えはあったが、自分的に五分五分ぐらいと感じていたのである。
「さあ、後は梨花と太陽だよね」
「多分受かってると思うけどねー」
そう言って大塚はスマホを取り出したが、大塚がかける前に着信がかかってきた。
「梨花?こっちは受かったよ。あ、梨花達も受かったんだおめー」
スマホを耳に話をしている大塚の声を聞いて、富田も大きなため息をつく。どうやら理系の2人も合格したようだ。
「うんうん、じゃあさっきの所に集合ね」
そう言って大塚はスマホを切る。富田と大塚、村川、福田は元々父親が全員冒険者であり、昔から親しい間柄である。なので、小さい頃から一緒に遊んだり何処かに行ったりする仲であり、俗に言う幼馴染ということになるのだ。
「では正門に戻りましょうか」
「そうだね。一旦黒髪に帰ってってお母さんに電話するの忘れてた」
「あ、私もだ」
合格したことが余りも嬉しく、家に合格の連絡をするのを忘れていた2人である。2人は合格した事を母親にきちんと報告した後、正門前で村川 梨花と福田 太陽と合流し、一緒に黒髪方面へ戻ることとなったのである。