おもちゃ屋店員のたわごと

大阪にある某おもちゃ屋に勤務する一店員の駄文

新品なのに傷がついてる? の話

2009-07-25 18:25:23 | Weblog
おもちゃを扱ってる小売は、大半が新品の商品のみを扱ってるお店となっています。

「新品」というと、みなさんどんなイメージがあるでしょうか?
汚れもなく、傷もついていないまっさらな状態……というイメージを思い浮かべるのではないでしょうか。

でも実際の新品のおもちゃって、汚れの方は当然ついてはいないのですが、「傷(あるいは傷のように見える点や線)」がついているのは非常によくある事なのです。
ご購入されるお客様が意識されてないだけで、実際はほとんどのおもちゃでこのような「傷(あるいは傷っぽく見える点や線)」が大なり小なりついているのです。
試しに近くのおもちゃ屋さんで未開封の商品のパッケージ透明部分から中の商品をよく観察してみてください。新品なのにところどころに細かい傷や線みたいなのがついているのが確認できるはずです。
一箇所どころか数箇所に。 

「新品のはずなのに傷がついてる」のは一見おかしい事のように思いますが、それには以下のようないくつかの理由があるのです。

1.製造組立て工程やパッケージに梱包する作業中に細かい傷がどうしてもついてしまう
2.金型がよく洗浄されておらず線や点状のカスがついた状態で成形されると同じロットでは同じ箇所に同じような点や線状の傷っぽいものがつく
3.樹脂成形時のウェルドライン


・1.製造組立て工程や梱包作業での傷
おもちゃによっては、機械がパーツをはめていったり、人間の手作業で組立てたりと異なるのですが、パーツがランナーから切り出されてベルトコンベアで運ばれる時や組立てられる時、また梱包される時に細かい傷がついてしまう事はよくあります。
プラスチックは加工しやすい反面、樹脂が固化した後はちょっとした事で簡単に傷がついてしまうという性質があります。そのせいで組立てや梱包工程で傷がついてしまう事はある意味仕方ないでしょう。
高額商品ならより傷がつきにくいよう慎重に組立作業されるようですが、コスト重視のおもちゃでは傷がつかない事よりも作業効率が優先されてしまいます。
この場合の傷は個体毎に異なる場所、異なる具合で傷がついています。

・2.金型にカスがついた状態で成形されてついた点や線状の傷っぽいもの
厳密にはこれは「傷」ではないのですが、まぁ見た目的には傷と同じ感じに見えます。
これによってついた「傷」の場合、同名の商品ではまったく同じ位置に同じような点や線がつく事になります。
金型がこまめに洗浄されたならこの傷がつかなくなるのですが、中にはきちんと洗浄されず大量に「傷(っぽいもの)」がついた状態で量産されるものも。
古い商品となりますが、仮面ライダーファイズのファイズショットで目立つ線状の傷っぽいものがついてましたね。
当時入荷した商品全てに同じ位置に同じ線状の傷っぽいものがついていました。(この線は意図したデザインとかでないのは一目みてわかります。)
ファイズショットとカイザショットは商品名は異なるのですが、使ってる金型が同じでして、同時期に同じ金型で作られたせいか、なんとカイザショットにもファイズショットと同じ位置に同じような線状の傷っぽいものがついていました。
爆竜戦隊 アバレンジャーのアバレイザーとバクレイザーも一部のパーツが同じ金型で作られており、やはり同じ位置にちょっとした線が入ってたりも。

・3.樹脂成形時のウェルドライン
成形技術が発達した現在でも、形によってはやはりウェルドラインは発生するようになってしまってます。
ウェルドラインとは何かというと、樹脂が流れこむ際に樹脂同士の接合部分にできる線状の亀裂です。
よく説明では「成形不良」と書かれたりするのですが、「不良」といわれるわりに、ウェルドラインはプラスチック製品では頻繁にみかけられます。
回避するには金型のデザインを工夫する必要もあったりして、コストをかけれないおもちゃやプラモデル用の金型ではウェルドラインの発生は半ば目をつむられてしまっています。
未開封の組立て式のプラモデルをお持ちなら、どれでもいいので試しに中身を確認してみてください。いくつかのパーツにウェルドライン(線状の亀裂)が入っているのが確認できるはずです。
ほとんど全てのプラモデルで、いくつかのパーツにウェルドラインによる線状の傷がついてるのが確認できるでしょう。むしろ全パーツにまったくウェルドラインがついていない方が珍しいです。
おもちゃにおいては、戦隊もの、仮面ライダー、ゾイドなどはもちろん、トミカの窓パーツなどでもウェルドラインによる線状の亀裂がついてる事はよくあります。
線状の亀裂ではないのですが、マーブル状の模様が出る場合もあります。仮面ライダー響鬼のDX音撃棒や、仮面ライダーカブトのゼクトマイザーなどでもマーブル状の模様がついてたりしてましたね。
ウェルドラインによる線状の亀裂は、同じ商品名のおもちゃだとだいたい同じような位置にできてますが、個体毎に微妙に亀裂具合が違ったりします。

傷あるいは傷のようにみえる点や線は、プラスチックの色や素材によっても目立ったり目立たなかったりします。
素材が黒い場合や、金ピカあるいは銀ピカのメッキ塗装やクリアパーツでは細かい傷も特に目立ちます。
最近では仮面ライダー響鬼のディスクアニマルとかで顕著でしたね。あれ細かい傷や線がつきまくりで、しかも反射率が高いためより傷が目立ちやすくなっていたという……。
めちゃくちゃ古い話になるのですが、ファミコンの「スーパーゼビウス ガンプの謎」や「ドラゴンバスター」も新品なのにゴールドメッキ塗装のせいで製造工程についたであろう細かい傷がひどく目立っていました。
ナムコさんのファミコンソフトやメガドライブソフトでは黒いソフトが多かったですが、黒もやはり目立ちやすく、それで当時トラブルになった事も……。(「新品なのに傷がついてるじゃないか」と)
うちはもうゲームソフトを取り扱ってないので今じゃまぁ笑い話ですが、今でも未開封新品の昔のゲームソフトを販売してるところはこれでトラブルになる事もあったりして…。
ファミコンやSFCソフト、メガドライブのソフトも、PCエンジンや今のゲームソフトみたいにビニールパッケージがされていたなら「未開封新品」という事は一目瞭然で、例え開封時に中身のカセットに製造工程でついたであろう細かい傷がついてても新品だという事は疑いようもないんですがね。


パッケージ用の画像では傷やウェルドライン、マーブル状の模様が全然ついてなかったりするので余計話がややこしくなったりするんですよね。
パッケージ用の商品画像は実物のように見えて実は3DCGだったり(今じゃ珍しくないです)、試作用の金型で作られたり、見映えを考慮して細かい傷がつかないように慎重に組立てられたり、傷を消す上薬を塗っていたり、画像ソフトで傷を修正してたりと、まぁいろいろ手を尽くして見映えをよくしてるんですよ。
前述のディスクアニマルもパッケージの画像や試作品画像では傷なくピカピカなんですが、実物はウェルドラインによる線状の傷や製造組立て工程についた傷がところどころにつきまっくっており、ひどかったです。
おまけに「作業員が素手で組立てたんじゃないの?(普通はありえないんですが…)」と思えるような指紋っぽい模様がついていた事も。
パッケージと実物の具合が異なるから、「パッケージの画像と実際の商品では品質が異なります」ってのは常套文句になっています。


傷以外にも、塗装のムラが発生してる場合があります。
ブツブツの団子状のムラや、最近たまに見かけるのが黒い塗料をエアスプレーで拭いたように粒粒の染みっぽいものがついてるなど。
後者は獣拳戦隊ゲキレンジャーの変身アイテム ゲキチェンジャーでよく見かけました。
仮面ライダーファイズのファイズショットでも入荷した商品の大半になんか汚れみたいな黒い染みがついていた事も。
これについては、バンダイさんにもっと製造管理をきちんとしてもらいたいところですね。(明らかに塗装失敗してるのは不良品として流通しないでいただきたいです)


「新品なのに傷がついてる」という事でトラブルになるケースは現時点ではそんなに多くはありません。
理由としては、一つはおもちゃのメインターゲットはお子様で、開封した後おもちゃで遊ぶ前にじっくりと観察したりしないからというのがあります。
しばらく遊んだ後に傷がついてるのを発見しても、「自分でつけた」と思ってしまうでしょう。
マニアの方なら開封後にじっくりと眺めて製造工程についたであろう傷やウェルドラインに気付くかもしれませんが、おもちゃを普段よく買ってる人ほどこの手の話は知ってたりするので、「あぁ、製造工程についたやつだな。」とか「これはウェルドラインだな。」と理解して特にトラブルになったりはしません。
プラモデル模型をよく組み立ててる人にとってはウェルドラインは常識ですしね。


ただ、以前書いた「二重テープの話」と一緒になると面倒くさい事になるんですよね……。
参考・・・・二重テープの謎(4年前のエントリです)

「購入した商品の箱を見るとテープが二重になってる。(一度開封した上、その上にテープを貼ってる)」→「おもちゃを取り出してからじっくりと観察すると、ところどころに傷のようなものがついている」というコンボになると、お客様としてはどう思います?
「開封したものを販売したのではないか(中古を買わされたのでは)」と思っても不思議ではないと思います。
返品OKの一部の大手チェーン店ならともかく、普通の小売ではどんな理由があっても一度開封した商品の返品は一切受け付けておらず、中古品を売るなどという事はありえないのですけどね。

実際に一例ではありますが、トラブルになりそうな事が過去にありました。
商品を購入されたお客様が夜にまたご来店されまして、「昼に商品を買ったのだが、テープを開封した跡があった上、商品も傷がついていた。中古品ではないのか?」とすごい剣幕です。
こちら側としては紛れもなく新品を販売したという自負があり(中古品は一切お取り扱いしてませんし、開封後の返品も一切受け付けてません)、それは単に検品による二重テープや製造工程での傷・ウェルドラインなどが重なっただけというのはわかりきっていました。
しかし一度疑心暗鬼になったお客様は最初は信じてくれないのですよね。
これについては順を追ってゆっくりと説明していったため、最後にはお客様もきちんと納得していただけました。(「申し訳ない」という事で帰り際にまた別のおもちゃをご購入されたりも)
店頭販売した商品なら、パッケージ透明部分から中の見える別の商品を見せて「製造工程で傷やウェルドラインがつくのは普通ですよ。例えばこれを見てください。」とご説明すれば、苦もなく理解してもらえます。
しかし通販で販売した商品の場合、うまく説明できるか難しいですね。
店頭販売の時のような感じで他の商品の実物をお客様に直接見せれないので。
デジカメで別の商品の画像を撮影して送ろうとしても、高解像度のデジカメでも肉眼で見る時と違って細かい傷ってきちんと写らないんですよね。まるで傷がついてないように写ってしまいます。


通販が主流になってくると、もしかしたらこの手の話でトラブルが起きるかもしれません。
中にはお客様がブログなどで「とある店でおもちゃを買ったら、テープが二重になっている上、中の商品にも傷がついていた。この店中古品を新品と偽って売ってるんじゃないか?」みたいな記事を書いて一時的に騒ぎになったりも。
でもおもちゃを買い慣れてて二重テープや製造工程の傷について知ってるマニアの方、あるいはおもちゃ店に勤めてる方からつっこみが入って騒ぎはすぐに治まると思いますが。

この手の傷関係でもしお客様から文句を言われてトラブルになりそうな同業者の方(おもちゃ店の方)は、このページを見せたら納得してもらえると思います。
二重テープの時もそうでしたが、この手の話は販売したお店が説明すると言い訳や嘘をついてるようにお客様は感じるでしょうが、私みたいに他のお店が順を追って説明したなら、納得できないお客様でもきちんと理解していただけると思います。