角灯と砂時計 

その手に持つのは、角灯(ランタン)か、砂時計か。
第9番アルカナ「隠者」の、その俗世を生きる知恵を、私にも。

#097 ハンナ・アーレント、右にも左にも。

2015-10-04 06:59:30 | ぶらり図書館、映画館
『イェルサレムのアイヒマン』ハンナ・アーレント。
どちらも聞いたことがあると思います。

「悪の陳腐さについての報告」という副題がついています。
(みすず書房:イェルサレムのアイヒマン
 →http://www.msz.co.jp/book/detail/02009.html

色々と忙しくて、
じっくりと本を読んだりできない今日此の頃ですが、
映画なら、ほぼ2時間。

で、だいたい解った気分にもなれてしまいます。
あくまでも「気分」なんですが、
全然解らない、よりは良いんじゃないかと、
前向きに考えましょう。

というわけで、
(今頃になって観た)
映画『ハンナ・アーレント』です。

ハンナ・アーレント 予告編


誰からも敬愛される高名な哲学者から一転、世界中から激しいバッシングを浴びた女性がいる。彼女の名はハンナ・アーレント、第2次世界大戦中にナチスの強制収容所から脱出し、アメリカへ亡命したドイツ系ユダヤ人。
1960年代初頭、何百万ものユダヤ人を収容所へ移送したナチス戦犯アドルフ・アイヒマンが、逃亡先で逮捕された。アーレントは、イスラエルで行われた歴史的裁判に立ち会い、ザ・ニューヨーカー誌にレポートを発表、その衝撃的な内容に世論は揺れる…。
「考えることで、人間は強くなる」という信念のもと、世間から激しい非難を浴びて思い悩みながらも、アイヒマンの<悪の凡庸さ>を主張し続けたアーレント。歴史にその名を刻み、波乱に満ちた人生を実話に基づいて映画化、半世紀を超えてアーレントが本当に伝えたかった<真実>が、今明かされる─

(映画『ハンナ・アーレント』オフィシャルサイト
 →http://www.cetera.co.jp/h_arendt/

という、なかなかに、唸るモノです。

アイヒマンの裁判記録を出版して、
激しい批判に晒されている時、
友人に、

何を議論するの?
まともな批判はひとつもないのよ
記事を読んでもない人に何を言ってもムダ
バカな人に話す気はないわ


と話していたアーレントですが、
やがて、大学での講義というカタチで「反論」を試みます。

まず、裁判記録の主眼について、

世界最大の悪は ごく平凡な人間が行う悪です
そんな人間には動機もなく
信念も邪心も 悪魔的な意図もない
人間であることを拒絶した者なのです


と再確認。

そして、
今でこそ、ある程度知られていることですが、
当時激しいバッシングの要因となった、
ナチスに「協力」したユダヤ人指導者について、

彼らはナチスの要請に従って、
「移送」するユダヤ人名簿を作成していたりしたわけですが、

違う振る舞いができた指導者もいたのではないかと
迫害者のモラルだけではなく
被迫害者のモラルも


問わなければならないのではないかと「挑発」します。

アイヒマンを擁護しているのではないかという「誤解」については、

理解を試みるのと許しは別です

と、自分の意図を明確に主張しています。

多くの聴衆が理解を示すなかで、
最も伝えたい人々には結局伝わらないというところが、
切ない現実ではあるのですが、

誰にとっても、
自分の中にある善と悪との価値基準そのものを揺り動かされるのは、
愉快ではないということでしょうか?

考えさせられるセリフ満載の映画ですが、
気を抜くと、つい、
自分を省みるのではなく、
誰かを批判するために引用したくなってしまいます。

その辺り・・・

映画でちょっとしたアーレントブームが来るよりずっと前に、
仲正昌樹さんという人が
『今こそアーレントを読み直す』という本を出しています。

(講談社現代新書:『今こそアーレントを読み直す』
 →http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062879965

帯がイイんですよね。

アーレント的思考が、現代社会を救う!
閉塞した時代だからこそ、全体主義を疑い、
人間の本性・公共性を探る試み

「分かりやすさ」を疑う


・・・分かりやすい。

裏には、

「右」にも「左」にも人気があるアーレント
1906年にドイツで生まれ、75年にアメリカで亡くなったハンナ・アーレントという政治哲学者がいる。1950年代から60年代にかけてアメリカとドイツを中心に、西欧諸国の政治思想に大きな影響を与えた。70年代にはそれほど注目されなくなったが、90年代に入って東西冷戦が終焉した頃から再び注目されるようになり、狭義の政治哲学の枠を越え、社会哲学、法哲学、社会学、歴史学、文芸批評等、様々なジャンルで参照されている。それほど大きなアーレント・ブームは起こっていないが、不思議となかなか「過去の人」にならない。ー「序章」より

とあります。

仲正さん自身が、
いわゆる右左、どちらの媒体にも出てくる人で、
結果どちらにも人気がない人(?)なんですが、
私は結構好きです。

というか、仲正さんの、
「え〜、あの人、よく分からん」
と言われてしまうところが良いんです。

他には、
『日本とドイツ――二つの戦後思想』光文社新書
『日本とドイツ 二つの全体主義――「戦前思想」を書く』光文社新書
『精神論ぬきの保守主義』新潮選書
なんていうものも、それなりに面白いと思います。
(Wikipedia:仲正昌樹→https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%B2%E6%AD%A3%E6%98%8C%E6%A8%B9

映画のアーレントは、
件の「講義」を、

思考ができなくなると
平凡な人間が残虐行為に走るのです


という言葉で締めくくっています。

SEALDsのあの子や、
民主党のあの人なんかを思ってしまいますね。

あ、イケナイ。
つい、他人を批判するために引用しちゃった。

*参照;NHK解説委員室アーカイブス 視点・論点:視点・論点 「ハンナ・アーレントと"悪の凡庸さ"」
    →http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/191681.html
    FilmGoesWithNet:映画「ハンナ・アーレント」レビュー、思考し続ける大切さと意志の強さ
    →http://hotakasugi-jp.com/2014/01/04/movie-review-hannah-arendt/


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