カロカンノート

へぼチェス日記

◆火事のあとさき

2014年11月16日 02時03分04秒 | 雑記
◆火事のあとさき

昔、中国でのこと。

ある人の家のかまどにまっすぐな煙突が立っていて、その下に薪(たきぎ)が積んであった。

これを見た客が、

「これでは火の粉が下に落ちて、火事になります。煙突を曲がったものに作りかえ、薪もほかへ移しなさい」

と注意した。

主人は従わず、そのままにしておいたところ、案の定しばらくして薪から火が出た。

幸い村人たちが駆けつけて消し、大事にはいたらなかったので主人は喜び、牛を殺し酒を出して人びとにお礼をした。

それを見た人が主人にいった。

「前に客がした注意に従っていれば火事を出さずにすみ、牛をつぶしたり酒を買ったりする必要もなかったでしょう。ところがいま、煙突を曲げ、薪を移せ、と教えた者には何のお礼もなく、頭をこがし額に火傷(やけど)して消火にあたった人たちがもてなしを受けるとは」

『十八史略』の中の、西漢宣帝の項に出てくる話だ。

     *

「私はこの話が好きで、とくに最後の部分を漢文のまま手帳にメモして、座右の銘にしています」

とマツダ元社長で取締役相談役の古田徳昌さん。

危険や危機を予想して進言しても、周囲や上司はなかなか耳をかさない。

ところが現実に危機がやってきたとき、夜も寝ないで走り回って活躍した人は周りからも上からも注目され、手柄を立てたとほめられる。

「どこの会社にも、そういう本末転倒がひょっとするとあるのではないでしょうか」

社長だった経験から古田さんはおっしゃる。

会社の経営とは、そうであってはならない。

火が出てから火傷してまで走り回る目立つ人間より、地味だが的確に状況を判断して危機を予防している人に、目を向けなければいけない。

そういう社員を育てる社風をつくることが大事なのだ。

「そんなことを考えている矢先にこの中国の話に出会ったものですから、ひときわ印象が強かったのです」

     *

「しかし、実際にはなかなかむずかしいことですね」

と古田さんご自身おっしゃる『十八史略』の原文はこうなっている。

曲突徙」薪無2恩澤1
焦」頭爛」額為2上客1耶

曲突(きょくとつ)薪を徙(うつ)せというものに恩澤(おんたく)無くして、頭を焦(こが)して額を爛(ただ)らすものを上客と為すか」

と読む。