寮祭開催告知のため、情宣行動隊というものが編成された。高下駄にマント、法被など、こんなレトロな格好で寮歌を歌いながら街中を練り歩く。ここは松本城。当然ながら大量の酒が入っているので、勢い余って堀に落ちる者や自ら飛び込む者もあった。
駅や大学、商店街などのポイントでは隊長が巻物を広げて、口上を述べる。いついつから寮祭を開催するので見に来てくれという内容なのだが、これが古文調でいかにも仰々しい。
寮歌を歌う時にも、前口上があった。
アルペンの風 颯々として
吹き来たり吹き去る 信濃の高原に
東に千山の雲を覆い
西に万岳の雪をいただきて
今 誠寮の歌 高らかに鳴るを聞き給え
大信州大学 大思誠寮寮歌
あゝ青春
アイン ツバイ ドライ!
(解説)
・学校名、寮名にそれぞれ「大」が付いているのは、誇大妄想の表れと思われる。
・「あゝ青春」は寮歌の題名。
・「アイン ツバイ ドライ」は、ドイツ語で「1、2、3」の意味。4から先をドイツ語で言える寮生は数少ない。
このような前口上をリーダー格の者が朗々と述べ、それからやっと歌が始まる。何とも仰々しい。
まったく前時代的な光景だが、こういうのは一種のパフォーマンスであり、寮祭の内容は今様なものとなっていた。演劇や音楽会、演芸大会などが開かれ、各部屋ごとに模擬店を出した。僕は音楽会でギターやバンジョーを弾いてたし、女装コンテストなんて企画もあった(僕も出場したことがある)。模擬店ではハンバーガー、クレープ、カクテルなどを振る舞う者もあった。
広島県出身の某君がカキ鍋を出すというので、期待して食べに行ったら、鍋の中で茹でられていたのは果物の柿だったという逸話もある。
寮祭には一般学生やOBのほか、近所の住人がたくさん見に来られた。寮生がよく出入りする店の主からは、カンパと称して酒や金品が届けられた。松本の町には「学生を支援しよう」という有難い雰囲気があったが、これも旧制高等学校時代からの名残だと思う。
夜中に大騒ぎしながら町を練り歩いたり、酔った勢いでバス停を担いで帰ってきたりしても、「学生さんのすることは仕方ないねぇ」と笑って許してもらえた。おそらく旧制松本高等学校の先輩たちは、もっとひどいことをしていたのだろう。
(続く)
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