その後 ７ 壊れる・・・ (木曜日)

携帯での業務連絡

○○の顧客台帳を調べといてくれ

○○って何台もあった？

1台だけ！

1台しかないんだね

違う！何台もある！

？？？


おかん　スマホは高いから
投げるなよって
以前息子から言われていたのだが

投げた
床にばし！っと
スマホが床を滑った

○○に納品した何台もある器械のうちの
1台を調べておいてくれ
そう言いたかったらしいが

そんな風にいきなり
怒られながら言われると

半切れ氏と同じ恐怖感に襲われる

投げてはみたものの
YouTubeからジュリーが出てくるこのスマホ
実は気にいっている

すぐに拾って
電源切ってやろうと
あっちこっち押した

調べ物が見つかり
メールにしようと
あっちこっち押していたら
長男が来て言った

おやじが携帯が通じん言っとるけど
どうしたん？

その間　固定電話の方にも
何度も着信している

怒られるから電源切った

もお！　おやじあれほど怒るな
言っとったのに！

通信OFFを解除した携帯に
またかかってきた

出たくない
テーブルの上の携帯から逃げた

息子が代わりに出て

いや　おかんおるで
怒るから出たくない言っとるで

おかん　またこういうことがあったら
ちゃんと俺に言え
おやじに話しとくから


夫と半切れ社員とが
同じに思えてきそうで
思わず息子に言っていた

わたし
どこまで壊れるんだろう・・・

その後 ６ ぷちはっぴい（水曜日・木曜日）

水曜日

病院から帰ると
いただいたお薬を１錠飲んだ



にいちゃん
ぷちはっぴいなんだけど・・・
眠い

寝りゃあええ

しばらく休んでから仕事にもどった

病院に行ったのが午後からで
帰ってすぐ１回目の薬を飲んだので

夕食後はやめておいた

よく眠れてしまうと
わたしは
母が夜中に死んでいても
気付かないかも知れない

翌朝　木曜日　

せまい事務所内に全員でいるうちに
半切れ氏の声が聞こえているだけで
どきどきしてきた

やばい　発作が・・・と
急いで１錠のんだ

なんか
まっすぐ歩けないし
壁にぶつかるし
頭まわんないし(それはいつもか?)
とろんとするし
ぼお～～とするし(いつもか？)
眠い

夜

1錠飲むと階段1段
踏み外しそうになった

そのあと床について
夜中に1度目覚めるまでの
記憶が少しあやしい

らりってなかったか？

効き過ぎ？

あぶね～～～～！

その後 ５ デパス錠（水曜日）

ぽろぽろ涙をこぼしながら
パソコンに向かい
手形送付案内書を打っていたら

夫から連絡を受けた長男が
やってきた

おかん
調子悪いんだって？

いつもは厳しい息子が
やさしい顔でそう言った

泣けてきて
泣き出してしまった

キッチンの椅子に腰かけたまま
息子にそっと抱かれていた


泣きながら
な　何なんだこれは！と
我に帰り
息子の腕をふりほどいた


この子が小さい頃
かわいくてかわいくて
何度も抱きしめたものだったけど

何なんだこれは！


79歳
認知症を発症した母と
職場でもある実家で暮らし始めてから

わたしが病院に行くのは
いつも土曜日

それまで持ちそうにない

去年から軽い高血圧でかかっている
近くの内科に
長男が一緒に行ってくれた

降圧剤のアムロジピンはまだあるし
当の本人はすすり泣いているし
うしろに息子が付き添っているし


きょうはどうしましたか？
なにかありましたか？


お坊ちゃんがそのまま
年を重ねたようなドクターが言った

息子が代わりに答えた


更年期障害に加えて
言葉の荒い社員がいまして
そのストレスが重なったようなんです


症状は？


発作が・・・起きる

やっと出た言葉


仕事でいろいろあるんですね？


とっさに

いろいろじゃないです！

その人の顔見るだけで
ひいい～～～って
なるんです


ドクターは
心療内科の受診を勧めようとしたが
そんな暇はないとわかって

内科でも普通に出す安定剤を
出してみましょうと
言ってくれた

デパス錠

朝晩１錠
もししんどかったら
それ以外にも飲んでいいですよ
１日４回まで大丈夫です

と　薬局でも言われた

その後 4 病院へ（水曜日）

社長である夫から
電話でいつもの業務連絡

外面人当たりはいいのだが
わたしにはいつも
イライラをぶつけてくる

きょうも・・・


そんなに怒らないで
わたしね
発作が起きるの

彼はとまどったように
怒ってるわけじゃないけど・・・
と口調がやさしくなる

わたしはすすり泣き
また　ひいい～～という
声が出てしまう

病院に行けえや
いつもの内科でいいから

うん　土曜日でいい
電話番がいないから

長男に連絡しておくからと
彼は電話を切った

パソコンに向かいながら
涙がぽろぽろぽろぽろ
流れてくる

その後 ３ 水曜日

水曜日

なんだかよく思い出せない

朝　PCで調べ物をしていた

ふたりの社員が出勤してきた

ふたりのうちのどっちが
近づいて来るのか
恐る恐る顔をあげた

もうひとりの社員だった

おはようございますと
少し気遣うかのように
やさしくほほえんでくれた

次に半切れ氏が
電話連絡ノートを見るために
近づいてくる
あわてて　プリントした紙を3枚持って走る
奥の自宅部分のキッチンに飛び込み
バタン！と硝子戸を閉めて床に倒れ込んだ

どうしたの？
何をそんなにあわててるの？
よく椅子に頭ぶつけなかったね

79歳の母が笑っている

顔をあげ
声にならない声で
母に訴えた

こわい…　こわい…
○…○…さんが…こわい…
○…○…さんが…こわい…

おかあさん！おかあさん！
あああああ～～～
こわい　こわい　こわい
あああああ～～～

もう少しで
デイサービスのバスがお迎えに来る母が
一緒に床に座って抱いていてくれた

ああ～～！ああ～～！
ああ～～～こわい

落ち着くまでしばらく
そうしていてくれた

事務所の前にマイクロバスが着き
お迎えの介護士さんが呼ぶ

母が小走りにかけて行った

わたしは足が進まないので
とどまっていた

しかし
この日までに風邪のため
母は3回デイサービスを休んでいて

介護士さんが健康確認をする
風邪はいかがですか～
お風呂は大丈夫ですか～

行かないわけにもいかず
表まで出て行く

すっかり元気です
デイサービスに行きたくて行きたくて
お風呂にも入りたくて
よろしくお願いします

と見送った

さて定位置に戻るには
半切れ氏の横を通らねば

だめだ・・・
声が・・・

うう・・・うう・・・
口を押さえて奥まで走り込んだ

その後 ２ 火曜日

どうしてわたし
ここにいるんだろう

どうして
こうなったんだろう



火曜日

半切れさんは朝　直出でいなかったが
午後から帰ってきた

表に姿が見えると
ほとんど反射的にわたしは
書きかけの配送伝票と住所録ファイルを抱え込んで
奥のキッチンに駆け込んだ

キッチンの戸をそお～っと開け
半切れ男がいないのを確認しては事務所に出た

それでも狭い事務所内
半切れ氏との距離がせばまり

どうしても
ああ…ああ…と声が出てしまう
そのまま奥のキッチンに
ばたばたと走り込む

いくらなんでも気付いたようで

半切れさんは
わたしが出て行くと
顔も姿も見えないように
さっと向こうを向いたり
デスク上の本棚のファイルの後ろに隠れたり
してくれた

顔が見えないだけでもいくらか違った

そうしてこの日は
姿が見えると奥に駆け込み
硝子戸をぴしゃっと締める

繰り返しだった

その後 １ 月曜日

金曜日のことだった

どうしていつもケンカ腰なんですか！！
それで普通と思ってるのかも知れないけど
お得意様からいやがられてるでしょ

あんたに言われるすじあいはない！！

わたし事業主の妻　雇い主

頭に来ることもあるんじゃ！

いつもわたしに
頭に来てるというわけですか


自分が気付かないだけで
いつもケンカ腰ですよ

そんなのはあんたが思うだけじゃ!

じゃあ　
お客様や業者様からの苦情は？
何軒かから
あの人は来させないでくださいって
言われているのは？


翌週月曜日朝

社長である夫が出社した半切れさんに
話をした


家内ひとりが一方的に
腹を立てているわけではない

家庭で何があるか知らないが
それを仕事に持ち込んでやつあたりは困る

方々から苦情が出ている
黙って尻ぬぐいをしたことも何度もある

仕事はいつも相手先を選んで頼んでいる

先輩社員に対する
話し方態度もどうかと思う
他社の人から見ても
どっちが先輩なのかわからないと言われている

あらためてもらう気はあるのか？

あらためるっていうか・・・
わしの今までの全部を否定されるようなことを
言われたから・・・

そっと耳を傾けていたわたしには
そのことばだけがはっきりと
耳に入ってきた

ごめんなさいでもなければ
悪いことをしたでもない

わしは悪くない

そう読み取れた

少しもこたえてはいない
ただ
更年期障害のおばさんとけんかした
ぐらいにしか思っていない

この日の夕方から
わたしは壊れ始めた

半切れ男が
きょうの報告書を渡しに近づいてくる

気分が悪くなって
椅子に座りこむ

そこに置いて！

気を取り直して立ちあがり
なんとか普通に
必要事項だけ聞く

次に彼が近づいてきたとき
渡そうとする書類を受け取ろうにも
両手が固まってなかなか動かない

この程度ならまだ
自分でもわざとやっているのかどうか
わからなかった

あんたに言われるすじあいはない！！
頭に来ることもあるんじゃ！
そんなのはあんたが思うだけじゃ！

こう書いたメモを
社内のものが誰でも見えるところに置いておいたら
息子が

あれはやめとけ

こたえやせん！
わたしの気がすんだらやめる

こたえやせんとかじゃなく
人間的によくない

そういう人間だから！

わたしは涙ぐみ
帰ろうとして外に出ていた息子を
振り切るように戸を閉めようとしながら
泣き声になっていた

息子があわてて引き返し
戸を締めた

息子があたたかい手を
わたしの背中に当て

おかん辛かったんだね

って言ってくれた

おまえはダチョウクラブか！半切れ社員

きょうも朝から何かにつけ
怒ったように言い散らす

ちょっと聞き返しただけでも
怒鳴るように返す

何言われてるんだか
わけがわからなくなる

数日前

送った覚えのない修理品の修理見積が
いきなりFAXされてきた

半切れ社員に見せると
わしは知らん

し　知らん？　って・・・

見積元に問い合わせると
いつもは当社に送られてくるはず修理品が
なぜだか直接修理会社の方に送られてきたらしい

それでもいつもどおりに
当社へ見積を送ってくれているのだ

なぜこうなったのか？
それは発送元に聞いてくださいね
そう言っていただいた

直接頼めば安くなるんじゃないかと思ったのか？
単に送り先がわかっているから直接送ってくれたのか

担当者の名前が
半切れ社員の担当区域なので
知らんってほっとかれても困るし

見積がいるんじゃないですか？

どうして直接送られたかは
発送元に聞いてくださいって言われましたよ

半切れ社員がいきなり半切れて
見積のFAXを放った

それなら直接見積出せばええんじゃ！

はあ！？？？？？
ことのいきさつを伝えただけ
その切れる意味わからん！

どういうことなのか
発送元に聞いてくださいって
言ってくれてるのに
(わたしがあなたに)伝えないとわからないでしょ？

どうしていつもケンカ腰なんですか！！
それで普通と思ってるのかも知れないけど
だからお得意様からいやがられるでしょ

わしは普通じゃ思うとる
あんたに言われるすじあいはない！！

すじあいはあるでしょ
ここの社員でしょ！

いやわしは普通じゃ
頭に来ることもあるんじゃ！

ああ～
じゃあいつもわたしに頭に来てるんですか
そんなにわたしひどいですか！

自分が気付かないだけで
いつもケンカ腰ですよ

そんなのあんたが思うだけじゃ

ほかにも思う人がいるからでしょ！
考えてもわからないかもしれないですけど

おとななんだから
考えればわかると思いますけど
期待してます

はいはい

ばかにして！
女だと思って？
そういうこと？

そのあとに

ポンプの注文のFAXをしてください

って

FAX自分で書いていいですよ
わたしじゃないと注文できないわけじゃないですから

(どころか何か行き違いでもあれば
注文なんて書いた！？ってなるし！実際)

はいはい　自分で書きます

だから
ケンカ腰はやめてくれます？

思わず間近まで詰め寄っていた
敵はひるまず
よけようともしない

それはあんたがそう言うからじゃ！
ここまで言われるとはね

ここまで言うまでに
どれだけの事があったと思うんですか！

わなわなふるえた

携帯で何度も
電話に出ない息子にコールした

わざと聞こえるように
息子に電話で
ねえ　友達に就活中の人いない？
って　聞こうと思った