隠れ家-かけらの世界-

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魂の再生と巨人のオーラ~映画 「マンデラの名もなき看守」

2009年11月15日 19時33分25秒 | 映画レビュー
マンデラの名もなき看守 
  (2007年 制作国: フランス/ドイツ/ベルギー/南アフリカ)

監督   ビレ・アウグスト
出演  ジョセフ・ファインズ/デニス・ヘイスバード/ダイアン・クルーガー


■釈放までの日々を
 1968年、アパルトヘイトが施行されていた南アフリカ共和国のロベン島にある刑務所から映画は始まる。
 アパルトヘイトに反対する反政府運動の首謀者ネルソン・マンデラ(デニス・ヘイスバード)と、看守ジェームズ・グレゴリー(ジョセフ・ファインズ)の出会いからマンデラの釈放までの27年間のドラマ。
 ドラマティックな扇情的な手法をとっているわけではないのに、歴史的な事実そのものの力だけで引き込まれる場面の連続。
 「黒人と白人の違いは神が作り上げたもの、だからそれに背くことはできない。アヒルとネズミが違うように、もともと違うものなの。黒人は白人からすべてを奪って破滅させようとしているから、危険な黒人を捕らえるのはしかたのないことなのよ」
 町で偶然見かけた警官による黒人への暴行に脅え、「なぜあんなことをするの?」と脅えて尋ねる娘に、グレゴリーの妻は平然と答える。普通の健全な知的な女性が、当時はそれを当たり前のように語っていることに、アパルトヘイトが当時の白人にはごくごく普通の常識であったことを知る。
 グレゴリーも普通の白人。なんの迷いもなく、その事実を受け入れ、ただ昇進を家族の幸せを願う若き看守だった。そして、彼には幼い頃に黒人の少年BAFANAという友人と過ごした日々があり、そこで覚えたコーサ語を使ってマンデラを監視することを命じられる。それが紆余曲折の中でのマンデラとのつながりの始まりだ。
 看守と囚人として出会った二人だが、グレゴリーは次第にマンデラの毅然とした佇まいに心を惹かれていく。禁書とされ図書館の地下に保管されているマンデラの記した「自由憲章」を読み、そこに書かれていることにも共感を覚えるようになる。
 それでも彼は特別の人ではない。過酷な事実に立ち向かえるように訓練を受けているわけでもない。かわいい子どももいる、妻はグレゴリーの変化を恐れている。
 異動を願い出たり、離れたりしながらも、結局、彼はマンデラの解放までの時間に最も身近でマンデラを見続ける。かつての人種差別者はマンデラへの深い畏敬の念とともに解放までの時間を過ごし、別れの日には、かつて勤務とはいえマンデラの仲間や息子の情報を上司に報告したことで彼らの死の原因をつくったこと、それを悔いていることを告げる。

■「Goodbye, Bafana」
 声高に何かを訴えるわけでもなく、物語は進む。監督の視線はたぶん、黒人側でも、マンデラ側でも、看守グレゴリー自身でもなく、あえて言うなら画面を見ている私の脇にあったような。
 マンデラはあくまで気高く器が大きく、信念と深い洞察力を静かに感じさせる。
 グレゴリーは熱い男というわけでもなく、猪突猛進でもなく、普通の職務に忠実な平凡な男なんだけど、きっとマンデラと出会ったことで、「歴史の傍観者ではない人生」を手に入れたのだろう。彼が戸惑いながらも少しずつ変わっていくところがつくりものめいていないところがいいのだ。
 グレゴリーの魂の成長と、マンデラの釈放までの長く過酷な日々二本の糸になって、織り上げられた映画と言うべきか。
 釈放されるマンデラを見送ったあと、大勢の人の歓喜の声に迎えられる彼の姿をテレビで見ながら、グレゴリーはそっとつぶやく、「Goodbye, Bafana」。
 Bafana は彼の幼なじみの黒人の少年の名前。
 なぜマンデラに幼なじみの名前を重ねたのか。
 マンデラと出会い、忘れていた幼い頃の黒人の少年との日々を思い出したことが、グレゴリーの魂の再生の第一歩だったのだろうか。

 最後に彼ら二人のその後を映画は伝える。
 マンデラが釈放後の新しい選挙で大統領に選ばれ、のちにノーベル平和賞を受賞したことは周知のことだが、「名もなき看守」グレゴリーは歴史的な事実を見届けたあと、2003年にガンで亡くなったそうだ。
 またアパルトヘイトが撤廃されたあとも依然として白人・黒人間のさまざまな格差がなかなか解消されないでいたのは、アパルトヘイトが彼らの教育水準の格差にも大きな影響を与えていたことが大きな原因とも言われているそうだ。長い差別が産み出す悲劇の執拗さに歴史の怖さを知る。

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