会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

南山学園資産運用問題総括委員会の報告について(南山学園)

南山学園資産運用問題総括委員会の報告について

南山大学を運営している学校法人がデリバティブ取引で巨額の損失を出したことは当サイトでも取り上げましたが、その学校法人が設けた資産運用問題総括委員会による報告書が公表されています(当サイトへのコメントで知りました)。

この委員会は、5名の委員(外部弁護士2名、顧問弁護士1名、学校法人関係者2名)から構成されています。デリバティブ取引の専門家は含まれていない模様です。

7回の会議が開催され、そのうち2回の会議で関係者からの事情聴取が行われています。

報告書ではまず、デリバティブ取引の種類や損失の規模についてふれています。

「2008 年6 月までの間にA証券、B証券、C証券、D證券、E証券、F証券の6 社と有価証券店頭指数等スワップ取引、通貨スワップ、為替レート連動金利スワップ、プットオプション、日経平均トリガー型 CMS 連動スワップ、日経平均及びFXトリガー型金利スワップ、2通貨為替連動スワップ、長期為替取引、シンセティク CDO などのデリバティブ取引を36 契約締結した。」

「一連のデリバティブ取引による損失総額は約259 億7775 万円、利益総額は約30 億7935 万円となり、結局のところ、差引約228 億9840 万円の損失を計上してその処理を終えた。」

金額的な影響についてふれているのは、ほぼこの箇所だけで、当該取引が行われた各期間における実現損益や各期末の時価の推移などについては、明らかにされていません。2005年から2012年まで取引が継続しているわけですから、全期間を通じた損益だけを示しても不十分でしょう。約4 億4000 万円程の損失が発生して最初に問題になったという2007年の時点ではどうだったのか、巨額の損失が明らかになった2009年の時点ではどうだったのか、解約を延ばしたことによって損失は縮小したのか拡大したのかなどについて、金額によって示すべきでしょう。

ただし、デリバティブ取引を行ったこと自体は、不当であったと明確に認めています。

「デリバティブ取引は、その仕組みや取引の方法が複雑であり、かつ通常の株式の運用などとは異なって、最大損失の特定ができないことから、膨大なリスクを伴う取引である。 為替のデリバティブ取引は、外国と取引をする企業が、為替の変動による損失をヘッジするために行うことには経済的合理性があるが、学校法人は、学納金により運営経費を賄うことを基本とするのであるから、為替変動による損失をヘッジする必要など全くないことから、学校法人である南山学園が、為替のデリバティブ取引をはじめとするデリバティブ取引を敢えて行う合理的な理由は全くなかった。デリバティブ取引によって、利益が出ようが、損が出ようが、いずれにせよ、デリバティブ取引は学校法人たる南山学園が行ってはならない取引であったと考える。」

(この結論自体はおおむね正しいと思うのですが、デリバティブ取引は「最大損失の特定ができない」とか、別の個所で「デリバティブ取引には時価総額というものはなく」と述べており、デリバティブに関する正確な理解がなされていないようです(最大損失の特定ができるデリバティブも存在しますし、また、デリバティブには当然「時価」があります)。)

それでは、行ってはいけなかったデリバティブ取引を行ったり、承認した責任はどうなのかというと、いろいろと議論してはいるものの、だれにも刑事上・民事上の責任はないという結論になっています。また、取引相手の責任についての検討もなされていません。

公的な機関や上場会社ではないので、この程度の報告書でもしょうがないのかもしれません。

ちなみに、問題のデリバティブ取引については、会計士からも指摘がなされていたようです。「公認会計士から財務事務室長に対してデリバティブ取引のリスクの指摘やデリバティブ取引の額が大きすぎるとの指摘はあったものの、リスクに対するそれ以上の指摘はなかった」とされています。

学校法人会計では、デリバティブは時価評価ではないので、会計処理自体が間違っていたというわけではないと思われます。会計処理に結び付かない以上、会計士からはリスクの存在を指摘するのが限度だったのかもしれません。

先月末に公表された文部科学省の「学校法人会計基準の在り方について」という報告書(ひとつ下の記事参照)によると、金融商品の時価情報の開示を充実させる方向で学校法人会計基準の改正を進めるようですが、このような危険な資金運用を抑止する効果はあるのでしょうか。

当サイトの関連記事
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「企業会計」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事