会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

シェール資源開発失敗に「リスク」の考え方を問う(日経ビジネスより)

シェール資源開発失敗に「リスク」の考え方を問う

住友商事のシェールオイル開発失敗について専門家に聞いたインタビュー記事。会計処理のことについてもふれています。

「探鉱、開発、生産」の三段階のそれぞれで会計処理が異なるというところから説明しています。


「岩瀬:基本的なところから説明しましょう。

 石油開発とは、「探鉱、開発、生産」の三段階から成り立っているんですね。最初の「探鉱」というのは、地下に石油やガスが本当にあるかないか分からない段階の調査作業です。

━━いわゆる「山師」的な、当たるかどうか分からない部分ですね。

岩瀬:そう、この段階は俗に「千三つ」というほどリスクが高い。試せる限りの、あらゆる調査を経て可能性大、と判断しても、掘ってみたら石油やガスがない、ということはよくあります。これが石油開発の最大のリスク、「埋蔵量リスク」です。ですので、基本的には探鉱活動は手金でやるんですよ。

━━ん?

岩瀬:誰からも借金をしないで、自分のお金でやるわけです。そして、使用コストは発生した都度、費用で落とすんですよ、損金処理するわけです。探鉱の場合はね。

━━なるほど。投資ではなく費用だと。すぐ損益計算書(PL)に反映させるんですね。

岩瀬:次の段階が「開発」です。探鉱を経て「埋蔵量(資源量ではないですよ!)がある」と分かっているから、それをより効率的に回収、生産するためにプランを作り、関連施設を設置する作業です。この段階では手金だけではなくて銀行団等によるファイナンスを組むことも可能です。そして、最後は「生産」になる。果実の収穫ですね。このキャッシュフローが次の投資の財源になる。

━━ははあ、石油開発でのリスクは「探鉱」の段階に偏っているんですね。

岩瀬:ハイリスクの「探鉱」は手金で行い、発生したら損金処理をする。一方、(ローリスクの)「開発」のコストは、減価償却するんですよ、バランスシート(BS)の、固定資産に載せて。

住友商事の場合は、今回まとめて損金処理をしました。2012年に参画した時、13億6500万ドルの取得コストを含め、向こう3年間で20億ドル使うと言っていましたが、今回2年経った段階で全額を損金処理することになったようです。2012年からの正確な平均円ドルレートは分かりませんが、為替を1ドル85円で見ると、20億ドルは1700億円になりますよね。

━━この案件での減損額に見合いますね。

━━「開発」コストはBSに、「探鉱」コストはPLに反映させる。今回住友商事は「開発」として計上して、資産を減損する形で処理をした。言い換えますと、商社は「探鉱」をやりたがらないということでしょうか。

岩瀬:「探鉱」をなりわいとする石油開発会社の常識からすると、さっき言ったように探鉱でロスをしたら、かかった費用、損失額を決算に即計上するというのが当たり前なんですよね。ところが商社の決算にはそれは馴染まないのです。「今期100億円使って探鉱しました。当たらなかったので、100億円の損失を計上しました」というのは。」

「━━長期にわたって使用する資産として、減価償却で計上していく。儲けと連動させながら。

岩瀬:このやり方ならば、商業資本としての立ち居振る舞いに適合するんですよ。だから商社はシェールビジネスに乗り出しやすいわけです。「埋蔵量が確認できている」から。しかし、問題は「本当にシェールの開発が在来型で言う、いわゆる『開発』なのか」ということです。

 埋蔵量があるのは分かっていて、より利益の出る生産に結び付けるために、それをどうやって効率的に回収するか。そのための施設をどうつくるかというのが在来型の「開発」ですが、シェールの「開発」ってそれとは概念が違うんじゃないのかな、というのが今回の件を見て私が考えたことです。

━━「埋蔵量として確認されているんだから、これは開発でいいでしょう」と考えているのではないかと?

岩瀬:実際に、そういうふうに考えてやっているんですよ、今は。問題は、シェールの「埋蔵量」には、先ほど申し上げたような、在来型の石油開発とは違うリスクがあるかも知れない、という認識がなかったということですね、おそらく。

岩瀬:シェールというのは「根源岩」という石油、ガスを生成するための岩石そのものでもあるのです。通常、生成した石油、ガスは「マイグレーション」といって、生成された岩石から移動していくのですが、シェールそのものは硬く、浸透性が低くて、その中を容易には動けないから、シェールガスやオイルは生成したところにずっと残っているのです。

━━なるほど。だから「存在するのはほぼ確実」といえる。でも、回収するコストや、存在する状態については、やはりある程度掘ってみないと分からない。

岩瀬:今までの概念でいったらこれは間違いなく開発なんです。埋蔵量があるのは分かっていますから。だが、冷静に考えると「探鉱」に近いところがかなり残っている。これが、今回の教訓でしょうね。」

会計処理としては、支出時に費用にするか、固定資産(開発費)として資産計上するかの二者から選択せざるをえないのですが、実態は簡単にそのように割り切れるものではないようです。
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