超高速取引を前に、投資家は無力なカモ
米国の超高速取引を扱ったマイケル・ルイス著『フラッシュ・ボーイズ』日本語版の解説文。
面白いたとえで説明しています。
「その仕組みはまさしく、東京大学工学部の石川正俊教授の研究室が開発した「勝率100%じゃんけんロボット」と同じだ。・・・」
人間の手のひらと、3本指の機械の手が対峙する。ジャンケンポン! 人間がグーを出しても、パーを出しても、チョキを出しても、ロボットは絶対に負けない。」
「その種明かしは――ポンのタイミングで人間の出した手の形を認識し、 1ミリ秒後にそれに勝つ手をロボットハンドが出す「後出しジャンケン」なのだ。」
米国だけの問題ではないようです。
「「フラッシュ・ボーイズ」は日本にも上陸している。東京証券取引所は2010年1月、立会場を廃止して超高速の現物株式売買システム「アローヘッド」を導入した。同時に「売買システムや相場報道システムを設置してあるデータセンターを擁するプライマリーサイトにおいて、コロケーションサービスを提供する」と謳っている。東証と合併した大阪証券取引所も、2013年11月から先物売買でコロケーションサービスを始めた。
コロケーション。証取が取引所のデータセンターのすぐ傍に、超高速業者などのサーバーを有償で設置させるサービスのことである。日本のある大手証券会社によれば、「すでに約定(成約)の4割、発注の6割がコロケーション経由で占められている。そのすべてが超高速取引業者ではないにしても、実感ではマイクロ秒を争う業者のシェアは約定ベースでおよそ3割、欧米の水準に近づいている」という。」
「「日本のフラッシュ・ボーイズ」とは、太平洋を渡って上陸したヴァーチュ、KCG、サントレーディング、クオンツラボなど、本書にも顔を出す外来種の〝猛者〞たち十数社のことなのだ。ただ、上陸したとはいっても、日本にオフィスもおかずに、JPXとコロケーション契約を結び、彼ら独自のアルゴリズムを仕込んだサーバーが、データセンター近くの一角に置いてあるだけだ。
オペレーターはアメリカやシンガポールなどにいて、遠隔操縦でサーバーのプログラムをときおり微調整している程度。売買注文はすべてこの〝青目〞の「無人ロボット」がプログラムに従って自動的に出している。海底に身を潜めるアンコウのように市場の動きに目を光らせ、大きな獲物がみつかるやいなや、東証や大証会員の日系証券会社を通じて大量の注文を浴びせかけては、広く薄く荒稼ぎしている。」
「ルイスは超高速取引業者をプレデター(捕食者)と呼ぶ。彼らに食われるのは、主に生命保険や投資信託などの大手の機関投資家だろう。その大口注文を先回りして、気づかれないように後出しで薄く利を剥ぎとる―コストを支払わされるのは、年金を積み立てているあなた、NISA(少額投資非課税制度)口座を開いたあなたなのだ。」
この解説文では、日本のFX取引におけるフロントランについてもふれています。
「フロントランは株式取引に限らない。日本ではまずFX(外国為替証拠金取引)で横行した。規制緩和により銀行だけでなく中小商品取引業者にも外貨取引を開放したせいで、FX業者(なかには堂々とアダルトサイト兼業の業者もいる)がサイトに載せている外貨の気配値は、実は見せ球だったケースが少なくない。いたいけなデイトレーダーがそれを信じてクリックした注文が、フロントランの餌食にされてもほとんど気づかれなかった。」
フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち マイケル ルイス Michael Lewis 文藝春秋 2014-10-10 by G-Tools |