会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

会計スキルがなければ、モラル勘定もできない(現代ビジネスより)

会計スキルがなければ、モラル勘定もできない

会計の歴史を取り上げたコラム記事。ニューヨークタイムズに掲載されたものの翻訳のようです。

マックス・ウェーバーはどのように考えていたか・・・

「ドイツの経済思想家であるマックス・ウェーバーは、資本主義を機能させるためには、平均的な国民が複式簿記の記帳法を知らなければならないと考えていた。それは単に、複式簿記によって貸方と借方の差引を勘定し、利益と資産が計算できるからという理由だけではなく、健全な帳簿はモラルの観点からも「均衡がとれている」からだ。それは正に、「アカウンティング(会計)」という言葉が語源の、「アカウンタビリティ(説明責任)」の大元となるものなのだ。」

ルネッサンス期のイタリアでは・・・

「イタリア・ルネッサンス期に関することのなかで、あまり魅力的ではないため、忘れられてしまったもののひとつは、当時の市民が会計スキルに長けていたことが、社会的に大きな役割を果たしていたという事実だ。1400年代をとおし、フィレンツェでは当時12万人程度いた住民のうち、およそ4000人から5000人が会計学校に通い、下層階級の労働者ですら帳簿をつけていたという記録が多く残されている。

・・・

農民から薬剤師、商人、そしてニッコロ・マキャヴェッリ・・・でさえも複式簿記の心得がある社会では、それはごく当たり前のことだった。政府がある程度の透明性を求めたフィレンツェ共和国では、公職においても有用なことだった。」

オランダ(16世紀ごろ)では・・・

「売春婦から学者、商人から、プリンス・オブ・オレンジのオランダ総督、マウリッツ・オブ・ナッサウに至るまで、オランダの社会ではあらゆる階層の者が複式簿記を実践していた。画家は帳簿をつけている商人の姿を多く描いており、クエンティン・マサイスの「両替商」(1549年頃の作品)は、熟練した会計士でさえ不正を犯す可能性があることを示している。つまり、会計の利点と落とし穴が市民の良心の一大懸念事項となっていたということだ。

オランダ人は金融管理の基礎的スキルを備えていただけでなく、差引勘定された帳簿、監査、勘定のコンセプトをしっかり理解していた。と言うよりも、そうすることが必須だった。地域の治水管理委員会の帳簿がいい加減であれば、オランダの堤防や運河のシステムはうまく維持されず、国は壊滅的な洪水に見舞われかねなかったからだ。」

「国は東インド会社の帳簿をおおやけに監査することは許可しなかったものの、マウリッツ皇太子が本格的な内部監査を実施したため、オランダの中産階級は、会社と国のアカウンタビリティに満足した。これで、文化的な理想形が定められることになった。

次の一世紀にわたり、公務執行者が、みんなが見えるように会計帳簿を開いて持っている自分の肖像画を描かせることが一般化し、時には、そこに実際の計算が書き込まれていることもあった。」

そして今の時代は・・・

「過去50年間でわれわれは複式簿記の学習をやめ、専門家やコンピューターによる銀行業務に任せるようになったため、複式簿記が何であるかを知っている人はわずかになってしまった。持続可能で安定的な資本主義を望むなら、ルネッサンス時代のフィレンツェやアムステルダムのように、まず、高校のカリキュラムに複式簿記と財務の基礎を組み込むことからはじめるのがよいだろう。

国民が複式簿記に精通したところで、現在直面している複雑な金融問題が即座に解決するわけではないが、平均的な市民がバランスシートや住宅ローンの利子、減価償却や長期リスクといった金融の基礎を理解できるようになる。さらにそれによって、金融におけるアカウンタビリティの真の意味は何か、また、どのように監査を要求したり評価したりするのか、といったこともよりはっきりと分かるようになるだろう。」

わが国では、東京電力の巨大な粉飾スキームを政府が主導して構築し実行したという例があります。市民(納税者、投資家・・・)の会計知識不足に付け込んで、実態を隠そうとするものであり、モラルに反する行為です。

こちらが原文。
No Accounting Skills? No Moral Reckoning

翻訳では引用しませんでしたが、帳簿が汚れているといって、1622年にオランダ東インド会社の株主が「反乱」を起こし、監査を要求したという部分。

This desire for accountability was what pushed the Dutch to reform their financial system when it began to collapse under the weight of fraud. The first shareholder revolt happened in 1622, among Dutch East India Company investors who complained that the company account books had been “smeared with bacon” so that they might be “eaten by dogs.” The investors demanded a “reeckeninge,” a proper financial audit.

記事を書いている米国の学者はこういう本を出しています。「アカウンタビリティと国々の興亡」という副題がついています。

0465031528The Reckoning: Financial Accountability and the Rise and Fall of Nations
Jacob Soll
Basic Books 2014-04-29

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紹介文より

「15世紀のメディチ家は複式簿記の使用により顧客の信頼を獲得したが、やがて粉飾を行うようになり、最後にはフィレンツェの経済的没落につながった。」

The Medici family of 15th century Florence used the double-entry method to win the loyalty of their clients, but eventually began to misrepresent their accounts, ultimately contributing to the economic decline of the Florentine state itself.

政府が粉飾を行うようでは、国が滅んでしまうということでしょう。

こちらは日本の学者による書籍。以前当サイトで紹介しました。

449520081X会計の歴史探訪 -過去から未来へのメッセージ-
渡邉 泉
同文館出版 2014-07-10

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