会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

「内部統制報告制度の運用の実効性の確保について」の公表(日本公認会計士協会)

監査・保証実務委員会研究報告第32号「内部統制報告制度の運用の実効性の確保について」の公表について

日本公認会計士協会は、監査・保証実務委員会研究報告第32号「内部統制報告制度の運用の実効性の確保について」を2018年4月6日付で公表しました。

「平成28年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言「―会計監査の信頼性確保のために―」において、「内部統制報告制度の運用状況については必要な検証を行い、制度運用の実効性確保を図っていくべき」とされたことを踏まえて、内部統制報告制度について所期の目的を達成するような運用が定着しているのかどうかについて検討を行い、その結果を取り纏めたもの」とのことです。

約60ページの報告書です。約10ページの「概要」が別に提供されています。

この報告書では、近年の内部統制報告書における開示すべき重要な不備の事例分析を行って、検討しています。

「不正を原因として過年度の内部統制報告書を訂正した企業の事例を分析した結果、人事異動が停滞している事業拠点・業務や、必ずしも重要性の高くない事業拠点で発生する傾向があった。経営者による内部統制の評価においては、不正のリスクも意識して内部統制が整備されているかどうかに着目する必要があると考えられる。

監査人による内部統制の評価においては、外部の第三者として、企業の組織運営体制について包括的な評価を心掛けることと、評価範囲の決定に当たっては、金額的な重要性だけに着目せず、経営者と十分に協議することに留意する。」(概要2ページ)

事例分析を踏まえ、企業が行う内部統制の構築・評価(大規模企業、その子会社、新興企業、ITに分けて論じている)と監査人が行う内部統制監査の、それぞれの留意事項が示されています。

最後に、内部統制報告制度の運用上の課題をいくつかあげて議論しています。

「内部統制評価の実施基準2(2)(注1)においては、売上高で全体の 95%に入らないような連結子会社は僅少なものとして評価の対象からはずすといった取扱いの例示があるが、一方で、評価範囲の決定は必要に応じて監査人と協議して行われるべきものであり、特定の比率を機械的に適用すべきものではないとも記載されている。したがって、経営者は、グループ各社や各事業拠点の規模に囚われず、不適切な会計処理が発生する可能性を考慮した上で評価範囲を決定することが重要である。」(概要9ページ)

「内部統制評価の実施基準においては、重要な事業拠点の選定について、連結ベースの売上高等の一定の割合を概ね 2/3 程度という例示(内部統制評価の実施基準2(2)①(注2))や、事業目的に大きく関わる勘定科目の選定について、連結売上高の概ね5%程度以下となる業務プロセスを評価対象からはずすといった取扱いの例示(内部統制評価の実施基準2(2)②イ(注2))があるが、これらも機械的に適用するものではない。経営者は、重要な事業拠点の選定において一定の比率を過度に重視せず、不適切な会計処理が発生する可能性を考慮した上で、毎期評価範囲を決定することが重要である。また、評価範囲の決定には、監査人と適時に協議を行うことも有効である。 」(同上)

J-SOXが大変な負担になるということで、緩くした部分に不備が多く出ているということでしょうか。

「内部統制の評価を実施する担当者は、内部統制の整備及びその評価業務に精通していること、評価の方法及び手続を十分に理解し適切な判断能力を有することが必要であるとされている。担当者の交代等により制度の理解が必ずしも十分ではなくなっている場合や、企業が評価作業の効率化・負担軽減を進めた結果、制度の趣旨にそぐわない形式的な運用が行われている懸念もある。」(同上)

「訂正内部統制報告書において、不正の発覚を契機として、企業風土、コンプライアンス意識から内部管理体制といった、財務諸表の虚偽記載に直接結びつかない内部統制の不備が幅広く識別されている状況を鑑みると、財務諸表の虚偽表示の発生・発覚を伴わない限り、経営者にとっても監査人にとっても、開示すべき重要な不備と評価することは難しいようにも思われる。」(同上)

大きな虚偽記載が発覚してはじめて不備を報告するという実務慣行ができつつあるのでは。

ダイレクト・レポーティングを採用していない我が国においては、内部統制監査の実施基準1において、経営者の評価方法等を尊重することが監査人に対して求められている。この結果、監査人が経営者による内部統制の評価を尊重するあまり、職業的専門家としての懐疑心を保持し、内部統制の評価手続を実施するという監査人の意識が低下していることに対する懸念が、会長通牒に示されている。」(概要10ページ)

ダイレクト・レポーティング方式(米国で採用)の方が、会社は監査人向けに形式的な作業を行う必要が減り、監査人も会社の内部統制評価作業を意識せずに(ただし他者の利用として結果を利用することもできる)、効率的・機動的に監査を実施し、さらにサプライズの要素を加えることができて、制度の有効性を高めることができるのでは。
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