会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

〈社説〉四半期の見直し 長期的経営につながるか(信濃毎日より)

〈社説〉四半期の見直し 長期的経営につながるか

四半期開示見直しに関する地方紙の社説。

当サイトで取り上げた各社社説では、日経と読売が四半期決算短信に一本化後も開示内容は維持すべきといった意見なのに対し、産経は、短期志向経営是正のためにはそれでは不十分だという主張でした。

今回の信濃毎日の社説は、後者に属するもののようです。

「見直しは、岸田文雄政権が掲げる「新しい資本主義」の具体策の一つだ。長期的な経営を促す手段として開示義務の廃止も検討したが、否定的な意見が多く、書類に関する議論にとどまった。」

「透明性確保の観点では開示の充実が求められてもいる。一方、事務負担が軽くなれば、経営資源を他に振り向けられる。書類一本化が今回の議論の落としどころとなったのは、仕方ない面もある。

ただ、見直しの出発点は、経営者を短期志向へと走らせる現在の金融市場の在り方に対する疑問だったはずだ。事務負担の軽減だけで終わってよいはずがない。」

「企業の短期志向を招いた背景として重要なのは、この数十年で強まった「株主中心主義」とも評される金融市場の傾向だ。」

「従業員や取引先も考慮した企業戦略を広い視野で長期的に練るのではなく、投資家の短期的な利益を重視する傾向が強まった。

その投資家のかなりの部分が外国人か海外に拠点を置く現実も見過ごせない。利益が国内に再投資されなければ、日本経済の活性化にはつながらない。」

四半期開示短期主義経営助長説は、海外にもあるようですが、今回の日本での震源地は...

政府が「四半期報告書」を廃止する理由 専門家は「外国人投資家が逃げ出し株価にマイナス」(デイリー新潮)

「(四半期開示は)いうなれば、低迷を続けていた株式市場のテコ入れ策だったのだが、なぜ今になって“後戻り”の選択をするのだろう。

「政府が四半期報告書を廃止する理由として、企業の事務負担が重いことを挙げています。しかし、それより岸田首相のブレーンとして知られるベンチャーキャピタリストの原丈人氏からのアドバイスが大きいと見られている。その著書からも分かるように、原氏は四半期開示が日本企業をダメにしていると考えています」(同)」

「実際、米ブルームバーグによるインタビューでも原氏は、

〈四半期決算内で業績を上げるというプレッシャーで多くの経営者が短期志向になってしまう〉

〈中長期の視点で設備投資や商品開発、研究開発投資をやっていくことを日本人は忘れてしまった〉

と断言している。」

四半期レビューがなくなりそうだという点にもふれています。

「政府は、四半期報告書を止める代わりに「決算短信」に一本化する予定だというが、

「決算短信は公認会計士による監査の必要がありません。内容もA4紙で数枚という会社もあります」(前出の経済紙デスク)」

金融担当大臣は、四半期開示の必要性については両論あると述べています。

鈴木財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要
(令和4年4月15日(金曜)9時10分~9時18分)
(金融庁)

「問)
4月12日に行われた新しい資本主義実現会議で大臣がご提出された資料で四半期開示の見直しの関係で書かれていた点について伺わせていただきます。法令上の四半期報告を廃止し、取引所の四半期決算短信に一本化するという方針を示されましたけれども、新しい資本主義で岸田首相も四半期開示の見直しを柱に掲げておられましたが、この四半期報告の廃止で短信に一本化することによって新しい資本主義にどういった形で貢献する、ショートターミズムの是正だったりとか株主利益偏重の是正だったりとか、その意義について大臣から改めてお話を伺わせていただけますでしょうか。

答)
ご指摘のとおり、四半期開示につきましては、12日の新しい資本主義実現会議で取引所の四半期決算短信に一本化するということを発言したところでございます。法令上の四半期報告書と取引所規制の四半期決算短信が重複しておりまして、コスト削減の観点から見直すべきというご意見があることを踏まえまして一本化をしたいと考えております。この方向性のもとで金融審議会におきまして、さらに検討を深めまして来月にも取りまとめに向けた議論を進めてまいりたいと思っております。よく四半期開示が企業の短期主義を助長しているという意見がございますし、また長期的な企業の動きを見るためにも、ある意味短期的な進捗確認も必要なんだというふうに、意見が分かれているところもあるわけでございますので、引き続き検討していきたいと思っております。」

「新しい資本主義」といった大きな話から、結局、企業のコスト削減というところにおさまってしまったようです(それはそれで大事ですが)。

四半期報告廃止、四半期短信への一本化が決まったとすると、あとは、議論の第2ラウンドとして、一本化後の短信の中身をどうするのかという話になるのでしょう。

また、第2四半期の開示やレビューをどうするのかという話も、固まっていないようです(「中間監査」だけはやめてほしい)。

(一本化で2つの開示がひとつになるからといって、コストが2分の1になるわけではありません。外部開示できるだけの信頼性のある四半期決算数値を固めるというプロセスは、一本化する前も後も同じはずであり、コスト削減効果は限定的ではないかと思います。もちろん、四半期決算短信の中身を大幅に簡略化して、財務諸表不要というところまで行けば、だいぶ変わるかもしれません。)
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