判決文が長々と引用されたりして、あまり読みやすくはありませんが、不正会計事例として参考になります。また、細野氏は、これは粉飾決算ではないと主張しており、その主張が正しいのかどうかを判断する材料にもなります。
結論的には、弥永教授は、重要な虚偽記載があったと認定した、第1審、控訴審、上告審の判決・決定を是認しています。
この事件はキャッツの平成14年6月中間期と12月本決算が問題となっています。監査人は「KPMGジャパン」と書かれていますが、当時は監査法人としては「太田昭和センチュリー」でしょうか。
キャッツの代表取締役(論文では「A」)が、キャッツから、アグリシステムという別会社を経由して、60億円を借り受けたことが、直接の発端となっています(Aはそのカネでキャッツ株を仕手筋から買い取り)。
Aは、平成14年6月中間期末を前にして、返済のめどが立たなかったため、額面30億円のパーソナルチェック2通をキャッツに差し入れ、キャッツは60億円返済の会計処理を行います(ただし、経理担当取締役は支払提示しないよう指示)。
中間監査を迎えるに際し、AはBという人物に協力を依頼し、Bが経営するグローバル・エクイティ・インベストメントに、このパーソナルチェックを預けて、資金運用を任せた形に仮装することにしました。その契約書は、上期末より前の日付にバックデートして作成されました。この中間期において、キャッツはこれを預け金60億円として計上しています。
本決算では、またまた、AはBに協力を依頼し、Bが経営していたファースト・マイルという会社の株式を、Aの実質支配するファースト・ハウスという会社が買い取り(2100株で5億2,500万円)、それを、ファースト・ハウスが自社保有分を併せて、計2,600株を、60億円でキャッツに売却する形を取ることになりました。キャッツは、平成14年12月期の有報において、「関係会社株式」として、「(株)ファースト・マイル 60億円」を貸借対照表に計上しました。問題のパーソナル・チェックは、株式購入の対価として支払った形にしていました。
巨額の関連当事者取引という面では、大王製紙事件と似ています(関連当事者取引でないかのように表示しているので、大王製紙より悪質)。また、M&Aにかこつけて、実態よりもはるかに高い金額で会社を買収し、それにより、架空(あるいは価値が大幅に水増しされた)資産(キャッツの場合はパーソナル・チェック)を解消したという点では、オリンパス粉飾事件の先駆けとも言えます。
以上、「事実の概要」部分を中心としたまとめと感想ですが、この論文では、裁判所の判決・決定の紹介(基本的に判決文などの引用で読みにくい)と、諸論点(預け金かAに対する短期債権(貸付金)か、関係会社株式の貸借対照評価額、など)の検討がなされています。
公認会計士 VS 特捜検察 細野 祐二 by G-Tools |
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以前、この本を読んだときには、過酷な取り調べを受けた著者に同情を感じたものの、粉飾ではないという主張にはついて行けませんでした。これが粉飾でなければ、細野氏が厳しく糾弾している不正会計事例のほとんどは、粉飾でないことになるでしょう。