東京でカラヴァッジョ 日記

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ティントレット《天の川の起源》

2020年10月14日 | ロンドンナショナルギャラリー展
ティントレット
《天の川の起源》
1575年頃、149.4×168cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
   ロンドン・ナショナル・ギャラリー展に出品されているティントレット。ティントレット作品は、時折展覧会で見かけるが、このレベルの作品の来日は珍しいことだと思う。
 
 
 
   ギリシャ神話である。
 
   神々の王ユピテルは、人間の女性との間に生まれた息子ヘラクレスに、永遠の命を与えようと、妻である神々の女王ユノが寝ている隙に、その母乳を狙う。
   しかし、ヘラクレスが乳を余りにも力強く吸ったため、ユノは目を覚まし、あわててヘラクレスを突き離す。
   左胸から溢れた母乳は、天に向かい、星になって、天の川を形成する。
   右胸から溢れた母乳は、地に向かい、大きな百合の花を咲かせる。
 
 
 
   本作品は、画面下部3分の1ほどが切断されているという。だから、右胸から溢れた母乳の行き先は、現状の画面からは分からない。切断前の本作品を模写した17世紀の作品が残っているらしい。現在ドイツの個人蔵のようである。
 
   その画像が掲載されているサイトがある。
 
   画面下部に横たわる女性は、大地の化身オプスで、母乳により命を取り戻しており、また、母乳は、大きな百合の花を咲かせているという。
 
 
 
   本作品の制作には、ヴェネツィアの海軍軍医長で医師のトンマーゾ・ランゴーネ(1493〜1577)が深く関係しているという。
   図録解説によると、画家がサン・マルコ大同信会の「聖マルコの奇跡」連作の注文を獲得するにあたっては、ランゴーネの尽力があったとのこと。
   また、本作品はランゴーネの注文によるもので、のちにランゴーネは皇帝ルドルフ2世に贈ったとみられるとのこと。
 
   また、ランゴーネは、ヘラクレスのこのテーマに強いこだわりがあったようだ。
   ランゴーネの横顔の肖像を刻んだメダルは、世界各地の美術館に多数残っているようだが、そのうち大英博物館が所蔵するメダルには、その裏側に、鷲(ユピテルが変身)が裸の女性(ユノ)の胸元に赤ん坊(ヘラクレス)を置く場面が刻まれる。星の環や百合も見られる。
 
 
 
   本作品を制作した、西洋美術史に名を残すティントレットの名前は、「ヤコポ」である。
   息子の「ドメニコ」も、肖像画を得意とする画家で、父親の死後その工房を受け継いでいる。日本の展覧会にも「ドメニコ・ティントレット」の表記で結構その作品を見かける機会がある。
   娘「マリエッタ」(別名「ティントレッタ」)も、父親の工房で修業し、その助手を務めた画家である。30歳頃と若くして亡くなったようだ。10年ほど前にウフィツィ美術館所蔵のマリエッタの自画像が来日したことがある。

 



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