東京でカラヴァッジョ 日記

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笠木治郎吉の水彩画 - 「ただいま やさしき明治」展(府中市美術館)

2022年06月21日 | 展覧会(日本美術)
孤高の高野光正コレクションが語る
ただいま やさしき明治
2022年5月21日〜7月10日
府中市美術館
 
 
 2021年9-10月に京都国立近代美術館で開催された「発見された日本の風景」展の連携展。
 
 府中市美術館としては、2019年秋に開催した「おかえり 美しき明治」展の続編となる。
 
 実業家の高野光正氏のコレクションの展示。
 
  「孤高の」と展覧会名にあるのは、高野氏のコレクションは、明治期に日本を描いた作品に限られていること、ほぼすべてがアメリカまたはロンドンで入手した海外にあった作品であること、という特性を踏まえたもののようだ。
 
 40年にわたる蒐集で、約700点。
 そのうち、出品リストによると前後期で計343点(私が訪問した後期は282点)が出品される。
 プラス府中市美術館所蔵作品も出品されて、大変なボリューム、常設展示室も会場として利用されている。
 
 構成は、京都国立近代美術館の「発見された日本の風景」展とは異なるとのこと。
 
【章構成】
プロローグ 忘れられた画家のサイン「J.KASAGI」
1.来日した英国人新聞記者ワーグマンに学ぶ
2.来日英国人画家たちの眼差しの行方
3.英国人以外の来日画家たち
4.横浜で交差する写真と絵画、写実と詩情
5.野に出でよ!バルビゾンからの贈り物
6.画家の個性と詩情にのせて!名所を謳う
7.明治の前半にアメリカに渡った画家たち
8.進路は東!海を渡った「武蔵野」
エピローグ 世界が羨む!湿潤穏和な日本の風景
 
 
 プロローグは、笠木治郎吉の水彩画18点。
 笠木は、外国人向けに制作し、その作品が国内に残らなかったことで、その名も作品も全く忘れられていたという。
 高野氏は、ロンドンで笠木作品と出会い、その収集を始め、さらには、電話帳にある笠木姓の家に手紙や電話のローラー作戦で、その子孫を探しあてたらしい。
 画廊を経営するその子孫は、自身は下絵1枚のみの所蔵で、高野コレクションで初めて完成作を実見したようだ。
 これを機に、笠木に対する研究が始まる。
 水彩だが、細部まで描きこまれた高密度の描写は油彩絵的な雰囲気。
 会場内解説に、「当時の外国人向けに分かりやすく描かれた」作品は、「現代の日本人にとっても分かりやすく」とある。当時の日本人が見たとしたら違和感しかなかっただろうけど。
 
 
 1〜3章は来日した外国人画家30人以上が、4章以降は日本人画家が外国人向けに、日本の風景・風俗を描いた作品(主に水彩画)が並ぶ。
 前後期あわせて1〜3章が140点、4章以降が約200点。
 日本美術界における水彩画の浸透は、新聞記者(挿絵画家)であったワーグマンや第2章の画家たちなど、水彩を好む英国から来日した画家の影響が大きかったようだ。
 私的には、米国のハリー・ハンフリー・ムーア(1844-1926)による庶民をエキゾチックに描いた小型油彩作品全12点や、五姓田一族の作品(芳柳《かるた遊び》、義松《北陸・東海道御巡幸記録画》5点など)、満谷国四郎・鹿子木孟郎の水彩画などを特に面白く見る。
 
 
 本展は、プロローグのみ撮影可能。
 
笠木治郎吉
《新聞配達人》
 
笠木治郎吉
右《牡蠣を採る少女》、左《猟師》
 
笠木治郎吉
右《漁網を編む男性》、左《提灯屋の店前》
 
 
 
 2019年秋の府中市美術館「おかえり 美しき明治」展も1回鑑賞しているのだが、ブログ記事にしていなかった。
 このときも笠木作品が展示されていたが、他出品作を含めて、別所蔵者のものであったと思う。
 題材も雰囲気も似た作品の大量展示は、前回も今回も同じ。
 作品の特性(詩情)を表しているのだろうが、明治を「美しき」「やさしき」で語られるとなんか落ち着かない。
 


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