まいど!にゃんこふです。
不動産屋さん、ちょっと考えるような表情になりましたが、すぐ笑顔になって話し始めます。
話はそれで終わり、A君は不動産屋さんを出て家路についたのでした。
さて、またしても長くなりましたが、A君の不思議なアパートの話はこれでおしまい。
色々と不思議な事を経験したA君ですが、やはり特にそれを気にすることもなく生活していました。
それでもどこか気にはなっていたのでしょう、火災保険の手続きでアパートを仲介した不動産屋さんを訪れた際に話を聞くことにしました。
保険の書類にサインを終えると、不動産屋さんがお茶を出してくれました。
最初は大学の話なんかをしてたらしいのですが、A君思い切って切り出しました。
「あの部屋って言うかアパート、なんか変ですよね?」
不動産屋さん、A君のいきなりの言葉に一瞬動きが止まったそうです。
それでも気を取り直してタバコに火を着けるとひと言。
「ん?なんかあったの?」
A君はこれまでにあの部屋やアパートで経験した事を話しました。
不動産屋さん、ちょっと考えるような表情になりましたが、すぐ笑顔になって話し始めます。
「あそこっていわくつきって言えばそうなんだけど…あ、以前に事件があった、よく言う事故物件って意味じゃないよ」
ひと息ついてお茶を呑む不動産屋さん。
「まあA君は若いから信じないかも知れないけど…あのアパートの敷地、神様がいるんだって」
「へ?!」
A君、思わず持っていた湯呑みを落としそうになります。
「神様、ですか?」
「うん、でもまあ誰も見た事ないからね、ははは。実際は神様を祀った祠みたいな物があるって事かな」
「あれ、あそこにそんなのありましたっけ?」
A君はブロック塀で囲われたアパートの敷地を思い浮かべましたが、そんな物のきおくはありません。
「う〜んとね…そうそう、アパートの窓側の角、桃の木のある所」
山桃、春先に桃色の花が咲いてる木があって満開になるととても綺麗だった。
「あの木の根元に潰れたバレーボールみたいな石があるんだ。元はちゃんと木で作られた、なんて言うか…そう神棚みたいなのがあったそうなんだけどね。いや、それがあったのは百年以上前っていうから明治時代かな。一度作り直す話も出たらしいんだけど、地主さんの家に“古くなってもそのまま朽ちるままにせよ”っていう言い伝えがあって、そのままにしてるんだそうだよ。その根元にある石が祠の中にあった御神体なんだって」
「御神体…でも、そんな大事な物雨晒しにしちゃってていいんですか?なんかバチが当たりそうですけど…」
「うん、これも地主さんの意向なんだよ。変に扱うと逆に怖い事になったりしてね、ははは」
「怖い事ですか…」
「僕も気になってちょっと調べた事もあるんだけど…昔、そう大昔ね、あの辺は森だったみたいなの。大きな木があって、いわゆる鎮守の森ってやつかな。地元の祭礼とかもそこでやってたらしいのね。つまり、何か神聖な土地だったんだろうね、壊れて無くなってしまった祠もその名残りだったんだろう」
「なんかすごい話ですね」
「はは、地主さんは土地神様なんて言ってたけどね」
「土地神様か…」
話はそれで終わり、A君は不動産屋さんを出て家路についたのでした。
その後?
A君は特に「土地神様」を気にする事もなく過ごし、卒業して故郷で就職しました。
卒業間近のある日、A君ちで飲んだ時の事です。
例によって夕方から飲み始めた私たち。
その頃私はカメラを持ち歩いてて、色んな所でパシャパシャやってました。
この日もA君の愛猫「また」をメインに撮影。頭に乗せたり、ひっくり返してお腹わしゃわしゃしたりしてシャッター切ってました。「また」もおつまみのおこぼれ狙いで嫌々つきあってくれました。
その後はいつも通り二人共寝落ち…。
そして一週間後。この日の写真が出来上がって来たのですが、その中に一枚とても不思議な写真がありました。
そこに写っていたのは…
うつ伏せでお尻半分出して寝てるA君とこれでもかって位に体を丸めて寝てる私が写ってました。
え?普通ですって?いえいえ、問題は被写体じゃなくてアングルなんです。
ほぼ真上から撮られてるんです!部屋のほぼ全景が写ってました。
もちろん撮ったのは私じゃありません。
不思議な写真なのでもちろんA君にも見せましたよ。
「へえ〜面白い写真だな。でも、誰が撮ったんだろね」
特に驚く風もなく言うA君でしたが、写真のある部分を指でトントン叩きます。
「ここ見てみ」
A君の指の先には「お食事処」の段ボールに入った「また」が写っています。
「へ?」
写真を改めて見て私も気付きました。
「また」の視線は、しっかりこちらに向けられているのです。
「あいつは見てたんだろうな、この写真を撮ったヤツの姿…」
さて、またしても長くなりましたが、A君の不思議なアパートの話はこれでおしまい。
まだいくつか不思議話のストックはありますが、それはいずれまた。