*** june typhoon tokyo ***

それぞれのレトロ@下北沢BAR?CCO

 三者三様のアプローチで過去と今を繋げた、モダンなポップショー。

 ジャズをベースに“ヒップな”楽曲を生み出すシンガー・ソングライター/ピアニストで、近年は星野みちる、脇田もなりへの楽曲提供やミア・ナシメントをヴォーカルに据えたバンド、MILLI MILLI BARでも活動する矢舟テツローが、“レトロ”をコンセプトに自身がアンテナを張って得た個人的な趣味で送る主催イヴェント〈それぞれのレトロ〉。矢舟が感化されているという加納エミリ、智本莉加の女性ソロ・アーティスト二人に交流の深いユメトコスメを加えたラインナップ。ジャンルの異なる3組がどのような反応を起こすのかということも含め、ミッドウィークの夜にアットホームな寛ぎとともに歌を楽しむリラクシングな音空間へと足を運んでみた。会場はこじんまりとしながらも洒落っ気とハートフルな雰囲気が漂う下北沢のBAR?CCO。所用により途中からの観賞となったのは残念だったが、嗜好の異なる3組のフレッシュなオードブルを堪能したひとときとなった。

◇◇◇

 トップバッターはユミと長谷泰宏による“一冊の少女漫画を読む様な、オトメティックな美観”をコンセプトとする男女ユニット、ユメトコスメ。彼らのライヴは約1年前にMILLI MILLI BARとの2マンとして行なわれた〈MILLI MILLI BAR × ユメトコスメ 〜swing Avenue autumn 2017〜〉(その時の記事はこちら→「MILLI MILLI BAR@代官山WEEKEND GARAGE TOKYO」)以来。前述したように到着が遅れたため、2曲ほどしか観賞出来なかったが、それでも一聴して伝わってくるメルヘン&ドリーミングな風合いにブレはなし。少女コミックよろしく非日常的なトキメキを歌とサウンドでフロアを包み込んでいく。特にラストの「絶対!ラヴモーション」はラヴリー・ポップという言葉がしっくりくるほど煌めきが全開で、ユミのタンバリンでファンシーな彩色をプラス。季節柄、これからの冬を温めるハートフルなシチュエーションにもってこいの一曲となった。

 終演後に(今回は披露しなかったようだが)現時点での最新作となる7インチ・アナログ「嘘だよ、過去形じゃなくて…!」(CD-R封入)をゲット。タイトル曲は小西康陽がアイドルに提供しそうなピチカートファイヴ+アイドル歌謡風で、ハープシコードの音色に可憐なメロディという組み合わせが“髪の先まで魔法にかかれ”のフレーズのごとく、魔法が降り注いだかのようになんともラヴリー&ファンタジックでツボ。いつかステージで聴いてみたい。


◇◇◇

 続いて登場したのが、70・80年代の昭和歌謡曲を好むという1993年生まれのシンガー、智本莉加(ちもと・りか)。“昭和浪漫プロジェクト”のメンバーとして各地で昭和歌謡を歌っているとのこと。初見ながらもどこかで見たことある顔だと頭を巡らせていたのだが、以前TV番組『THE カラオケバトル』に出演していた模様。おそらく家族が観ていた番組をどこかで記憶していたのかもしれない。
 全7曲のうち冒頭2曲はソロで天地真理「水色の恋」、岩崎宏美「ロマンス」を。以降は自身いわく“初めてのピアノ生演奏での歌唱”とのことで、矢舟テツローが鍵盤でサポートに入って5曲を披露した。

 三木聖子のオリジナルでその後石川ひとみのカヴァーでヒットした「まちぶせ」を歌う際には「男性からみると詞の内容が(ストーカーっぽくて)でちょっと怖い」との矢舟の発言に淡々と応えたりとか、矢舟いわく「途中から急にタメ口になるので、ちょっとドキッとする。しかも気づいてなさそう」のフリに「そうみたいですね」と返すなど会場内に笑みのこぼれるトークも。おっとりした清純な和風の顔立ちとマイペースなキャラクターと、もちろん『カラオケバトル』に出演するほどの安定したピッチと歌唱力とのギャップも魅力だろうか。ただ、歌に関してというか好きなものに対する拘りは強そうで、これは自分だけかもしれないが、柔和な表情で歌いながらも負けず嫌いが見え隠れする強い意志も感じられた。

 歌唱のピッチが的確なことは優れた才能だが、それだけで心を揺さぶる歌になるかどうかは別、と昨今の人気の高い一連のカラオケバトル番組を観て思うが、彼女からはそういった歌を“なぞる”のではなく、しっかりとその歌の背景を汲み取ろうとする意志が伝わってきて、聴いていて非常に清々しい。しかしながら、ピュアな面持ちが強いものの、前述の「ロマンス」や「まちぶせ」などでも魅せたように、ほんのりと艶を上塗りして色香をほのかに放つなど若さだけではない女性のしなやかさ、したたかさみたいなものを歌唱に織り込ませてくるところに好感。ただ若い世代が昭和歌謡を歌うという“懐古”のみに落とし込むのではない、智本莉加なりの昭和歌謡像を築きつつあるところは、リアルに昭和歌謡に触れてきた世代にも曲先行ではなく歌い手先行として“ウケる”資質も有しているのではないかと思う。
 阿木燿子&宇崎竜童夫妻による山口百恵「夢先案内人」のカヴァーも、山口百恵ほどの落ち着きと貫禄まではいかないが(とはいえ、山口百恵が若さを疑うほどの別格な雰囲気を持ち得ていたというのもあるが)、変に原曲に準ずるでもなく、個性を強めようとするでもなく、自身が持つ瑞々しさで歌に向かっていたのも良かった。

 松田聖子の「赤いスイートピー」、薬師丸ひろ子、原田知世と“角川三人娘”と呼ばれた渡辺典子の「晴れ、ときどき殺人(キルミー)」を経て、ラストはキュートなフリで目でも楽しませた麻丘めぐみのヒット曲「わたしの彼は左きき」のカヴァー。リズミカルなテンポとカラフルな音色を醸し出した矢舟が智本のチャーミングな部分を発露させたステージで、甘酸っぱい薫りと微笑みに包まれたエンディングとなった。

 





◇◇◇

 トリは詞曲にトラックメイクなど完全セルフプロデュースを行なう“ネオ・エレポップ・ガール”として2018年5月に始動した加納エミリ。普段はシルヴァーのミニスカートというコスチュームらしいが、この日は会場のムードに合わせて、ピンク系のトップスにロングスカートという出で立ち。元ももクロの早見あかりや西恵利香あたりを感じさせるモデル系のルックスながら、こちらも自らはリアルでリンクしていないだろう80年代エレクトロ・ポップやニューウェーヴ、エレポップ歌謡などにアプローチする自作自演家。ラップトップからの音源のみながら、時にコミカルなダンスも織り交ぜて緩やかにジョイフルな空間を創り上げてくれた。
 MCでは彼女のことが大好きな父親の話を。SNSもチェックしていて、あれはどうか、これをやったらどうかと積極的なアドヴァイスをくれるらしく、気軽に呟きにくくなっているとのエピソードも挟んでくれた。

 ステージでは、日本でも人気の1996年のカーディガンズのヒット「ラヴフール」を意識したフックが耳に残る「Been with you」、これまで未披露で音源も出していない“幻の曲”という憂いを帯びたメランコリックなテイストで展開する「Lost Love」(これが“幻”なのがもったいないなかなかいい曲)、“OK”“All right”のコール&レスポンスで盛り上げた「Next Town」、片足を上げて頭上で手刀を作るサビのポーズをはじめ随所で楽しい振付が、松本伊代「TVの国からキラキラ」や松本隆&細野晴臣コンビによる「ハートブレイク太陽族」でデビューしたスターボー、「妖精ポピンズ」でデビューしたポピンズなど80年代アイドルの“ダサさ”を想起させる「ごめんね」など、ヴァラエティに富んだ耳目を刺激する楽曲を展開。 

 80年代のややクールなトーンのエレポップをベースにしたサウンドワークを中心とするが、個人的には特に印象的だったのがPWLサウンド(ストック、エイトキン、ウォーターマン〈SAW〉)を全編に配した「ごめんね」。昔振ったクセに今更言い寄る男に“もう名前も忘れた”と突き放す他愛もないテーマに、マイケル・フォーチュナティやシニータからポール・レカキスといったユーロビートというよりもそれ以前のイタロディスコやハイエナジーという方がしっくりくる音を合わせた、派手やかで軽薄な組み合わせがいい意味での高揚感を発揮。それもただサンプリング的に引用するのではなく、自身が持つ楽曲への嗅覚のフィルターを通した音選びのセンスがところどころに感じられるところに、単に楽曲を構成するネタとしてではなくその楽曲への愛情が窺えるのがいい。

 同曲に限らず、彼女なりにピピっと来た音やフレーズを猥雑でも偏見なく吸収する感性を備え、それを間借りするのではなく自ら咀嚼して相性を確かめながらアウトプットしようとしているからこそ、一瞬で脳内を支配するような楽曲的なインパクトや刺激はなくとも、どこか耳に残って反芻してしまう中毒性を帯びているのではないか。たとえば、細川ふみえ「スキスキスー」や深田恭子「キミノヒトミニコイシテル」といった小西康陽作品や森若香織&福富幸宏による安達祐実の「どーした!安達」、吉川ひなの「ウサギちゃん SAY GOOD BYE」(藤井フミヤ&朝本浩文)などを最初に聴いた時の野暮ったさや垢抜けない印象がなぜか次第に時間差で浸透してくるような、今で言えばDA PUMP「U.S.A.」の“ダサカッコよさ”に繋がっているとは言い過ぎか。考えてみれば「U.S.A」の原曲は1992年のジョー・イエローのイタロディスコで、そういった楽曲センスが「ごめんね」には投影されていても可笑しくはない。

 矢舟の持っていき方がやや強引な催促を挟んでからのアンコールは、軽快なダンス・ポップ「二人のフィロソフィー」でエンディング。まだまだ無名の彼女だが、レイドバック感覚と彼女の嗜好を溶け合わせた音作りのセンスやオリジナリティ溢れる表現方法とともに、このユニークなスタイルが注目されるチャンスも遠くないかもしれない。

◇◇◇

<SET LIST>
≪ユメトコスメ≫
01 ユメトコスメ
02 出会いがしらの一秒後
03 これって恋だと思うんだ(Original by Chelip)
04 ハッピーエンドをちょうだい(Original by Nao☆(Negicco))
05 睫毛の先にトゥモロー
06 絶対!ラヴモーション

≪智本莉加≫
01 水色の恋(Original by 天地真理)
02 ロマンス(Original by 岩崎宏美)
03 夢先案内人(Original by 山口百恵)with 矢舟テツロー
04 まちぶせ(Original by 三木聖子)with 矢舟テツロー
05 赤いスイートピー(Original by 松田聖子)with 矢舟テツロー
06 晴れ、ときどき殺人(Original by 渡辺典子)with 矢舟テツロー
07 わたしの彼は左きき(Original by 麻丘めぐみ)with 矢舟テツロー

≪加納エミリ≫
01 Been with you
02 恋愛クレーマー
03 Lost Love
04 Next Town
05 ハートブレイク
06 ごめんね
≪ENCORE≫
07 二人のフィロソフィー

<MEMBER>
ユメトコスメ are:
ユミ(vo)
長谷泰宏(key)

智本莉加(vo)
矢舟テツロー(key)

加納エミリ(vo)

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