*** june typhoon tokyo ***

ALLI @渋谷マルイ【インストア】


 限りない可能性を帯びた表現力と天性の資質の一片を感じた、ALLIとの初遭遇。

 アイドル然としたキュートなルックスでR&Bマナーの楽曲も歌うとしてその存在を知りながら、なかなか“頭の片隅で気に掛けている”程度から進展していなかったフィメール・シンガーのALLI(アリ)。その彼女が東京へやって来るということで、9月入りたての月曜の夜に渋谷マルイへ。連日行なっている1stミニ・アルバム『reflection』(8月28日リリース)発売記念イヴェントの関東での最終日ということもあってか、急遽浴衣姿で登場というサプライズとともに、『reflection』収録曲を惜しみなく披露してくれた。クールな眼差しで見つめるジャケット・ヴィジュアルとは対照的な、クルクルと表情を変える愛くるしさとのギャップ(そして時折口から出てしまう博多弁萌え)にヤラれているファンが多いのだろうなと、ステージに集うファンを見て思った次第(微かに水樹奈々感もアリ)。

 “アリリ”の愛称で親しまれているらしいALLIは、福岡県福岡市出身の1996年2月15日生まれの23歳。『reflection』のCDの帯に「ねぇ、石ころのあめ玉ってどんな味か知ってる?」という一瞬首を傾げてしまうキャッチコピーが書かれてあったのだが、ネット上の記事などを読むと、幼少期には恵まれない環境ゆえ「お腹が空いたら石を舐めていた」だとか「真夏の暑い日に車中で生活」「中学の1年半は養護施設で過ごした」などの貧困のエピソードが出てきたりと、なかなかの紆余曲折ののちにオーディションでグランプリを勝ち取り、歌手デビューしたようだ。その一端は『reflection』のタイトル曲「reflection」の詞にも窺える。



 ただ、誤解を恐れずに言えば、楽曲を気に入る際にあまり歌詞の内容を気にしない性質を含めた個人的な嗜好からすると、過酷な過去のエピソードを前面に出すことが楽曲そのものに惹かれる有力なフックになりえるとはそれほど思えない。同時かその後にエピソードを聞くことで、その楽曲の解釈やシンガー個人のパーソナリティが補完され、より愛着を増すことはもちろんあるが。
 なぜそう思ったのかといえば、初めて「reflection」のミュージックヴィデオを視聴した時に、クールでスタイリッシュなサウンドやスムーズで浸透力の高いヴォーカルという楽曲性とは裏腹な詞世界に、アンバランスやミスマッチという違和感を覚えたからかもしれない。しかしながら、逆を言えば、それほど歌詞を意識しないで曲を聴くタイプの自分が気になるくらい訴求力を持った詞世界ということだとも言える。聴こえがいいか悪いかはあくまでもリスナーの趣向だが、どちらにせよ耳が向いてしまうパワーを持ったリリックには間違いなく、それが彼女のまだ短い半生での“リアル”として、他でもないALLI自身の歌唱によって描出されているということなのだろう。

 そんな堅苦しいことが頭をもたげながら登場を待っていたのだが、晴れやかな浴衣姿以上に屈託のない笑顔が目に飛び込んできた。時期としては夏の終わりの9月にピッタリの「キミといた夏」からステージはスタート。宇多田ヒカル「Distance」を想起させるメロディと2000年代後半の“キラキラR&B”などとも言われたハウシーなアプローチを持ったトラックが印象的だ。次に披露されたのがリード曲の「reflection」だったが、前述の頭をもたげていた詞世界とのミスマッチはさほど感じず、「キミといた夏」から一転してグッとアダルトなモードへとシフトチェンジした歌唱に掴まれるものが。そのムードある色香の発露は楽曲の影響も大きく、ハウス・ダンサーの定番曲として知られるアリソン・ライムリック(リメリック)「メイク・イット・オン・マイ・オウン」が脳裏をよぎるメロディと初期DOUBLEほかを手掛けた今井了介や安室奈美恵作品プロデュースで名を馳せたNao'ymtあたりのR&Bマナーのトラックは、ややハスキーな彼女の声質にもフィット。陰りある物憂げなトーンの作品との相性の良さを感じさせていた。


 ファンから多くの好評を得ていたというバラード「Call」は、煌びやかな音とピュアな鍵盤を駆使した(加藤ミリヤはじめ、BENI、AZU、Ms.OOJA、YU-Aら)2000年代に多く見られた“R&Bテイスト”をアップデートした風で個人的にはそこまで耳を惹かなかったが、同じミディアムであれば、コード進行やポコポコと弾けるアレンジ、譜割りなどが印象的な「会いたいでも会えない」が面白い。アンビエントR&B/インディR&Bのメロウネスと宇多田ヒカルライクな作風との融合といったところか。

 ラストはダンサブルな2曲「踊ろ Dancing!!」と「You will be alright」で締め。何だか“壮大なバラードを歌える=歌姫”像が邦楽音楽シーンに久しく蔓延ってるようで、グルーヴィなアッパーでもしっかりと表現出来るという点がやや軽視され過ぎているきらいを感じるのだが、その意味でALLIは問題なし。シック/ナイル・ロジャースにリスペクトを捧げたようなカッティング・ギターが全編で心地よく鳴るファンキー・グルーヴ「踊ろ Dancing!!」では、そのギターが放つグルーヴの波に呑まれるどころか、バックコーラス含めて推進力あるヴォーカルで腰を揺らしてくれる。かつてのCargoやMAKAIあたりの美メロ/スタイリッシュ・ハウスとの親和性も感じさせる「You will be alright」を楽々と歌いこなすあたりにも、ヴォーカルワークや表現における懐の深さや音楽的振幅の広さが垣間見られた。
 
 アルバムはまだ『reflection』のみと今後の方向性がどうなるかは分からないが、さらなる可能性を探りながら“楽をしない”で表現出来る楽曲との出会いを個人的には期待したいところ。福岡を拠点としているゆえ、東京でのステージは現段階ではあまり多くはないようだが、近い将来のフル・アルバム、ワンマンライヴを待ち望みたい一人になりそうだ。


◇◇◇

<SET LIST>
01 キミといた夏
02 reflection
03 Call
04 会いたいでも会えない
05 踊ろ Dancing!!
06 You will be alright

◇◇◇



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