*** june typhoon tokyo ***

Perfume@東京ドーム



 紆余曲折を乗り越えてきた“キューブ”が示した、感謝とまだ見ぬ未来へのヴィジョン。

 2002年の結成から20年、2005年のメジャー・デビュー・シングル「リニアモーターガール」から15年という節目を迎えたPerfumeが、ベスト・アルバム『Perfume The Best “P Cubed”』を引っ提げて全国4都市(大阪、福岡、名古屋、東京)を巡るドームツアー〈Perfume 8th Tour 2020 “P Cubed” in Dome〉を開催。そのファイナルとなる東京ドーム公演(初日)を観賞。Perfumeの東京ドームでの公演は、2013年以来約6年ぶりとなる(その時の記事はこちら→「Perfume@東京ドーム」)。
 チケットには座席番号は明記されず、入場時にコードを読み取ってプリントアウトされた用紙を渡される。野球開催時で言えばバックネット裏2階席、ステージをほぼ真正面に見る上段の席で観賞することに。ステージとの距離は一番遠い部類だろうが、角度的には悪くなく、Perfumeのライヴは常にステージのみでパフォーマンスする訳でもないので(後述)、観客を含めた全体像を見られるという良さも。ドーム内を飛び交うレーザービームや照明効果を俯瞰しながら楽しめる席だ。

 開演前の各スクリーンには、Perfumeがこれまでリリースしたアルバム収録曲が曲順に表示されたり、ツアータイトルを告げる音声やミュージックヴィデオがダイジェストでエディットされたティザー映像が流れるなど、初のベスト・アルバム『Perfume The Best “P Cubed”』(2006年の『Perfume~Complete Best~』はオフィシャルとしては“初”ベストではないらしい)よろしくPerfumeの20年の軌跡を辿るような演出が施されるなか、多くのPerfumeファンたちが東京ドームの席を埋めていくが、やはり新型コロナウイルス感染の影響で、ところどころに連なる空席も。
 俯瞰すると、アリーナにはステージから奈良盆地の大和古道(上ツ道・中ツ道・下ツ道)のように3本の同幅の道が敷かれ、その3本の道を繋ぐようにアリーナ中央部とアリーナ後方部に並行する横大路のような道が敷かれている。いくらか客席を削ってまで幅を取っていたので、何かを駆使して3人が後方まで来るタイミングがあるか、という想像は出来た。ステージ前面左側には「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11」の数字が書かれてあり、これは2010年に行なわれた結成10周年、メジャーデビュー5周年記念となる東京ドームでのライヴ・タイトル〈1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11〉とのこと。その右側にはそこから現在、さらに未来へと続くことを意味する12から21までの数字が書かれてあり、3人にとって東京ドームでの公演は名実ともに“節目”となる印象深いステージなのだということも伝わってきた。 

 前回のツアー〈Perfume 7th Tour 2018「FUTURE POP」〉(その時の記事はこちら→「Perfume@横浜アリーナ」)では、前半の最新技術を駆使した驚異的にテクニカルな演出に面を喰らってかえって“ノレず”ということもあったが、もちろんCGやLEDを用いた技術の粋を集めたテクニカルな演出で幕を開けたものの、今回はドーム全体を俯瞰できるステージとの距離感も手伝ってか、前回ツアーの時のような違和感は覚えず。ただ、細部を見ようとすると(双眼鏡を持参しても)どうしてもスクリーンのズームアップ映像を見てしまうのは、ドーム公演では致し方ないところ。
 構成はファンからの人気投票上位の結果を加味したものに。幾何学的なデザインとPerfumeの3人をキャプチャーしたピクチャーを複雑に組み合わせた映像を基盤としながら、フューチャリスティックなヴァーチャル空間を展開。目まぐるしく変化するヴィジュアルのなかで3人の影が浮かび上がると割れんばかりの歓声が響き、1stアルバム『GAME』のタイトル曲「GAME」からエレクトロなビートがドームを包んでいく。

 赤や青のレーザー光線が飛び交う「Dream Fighter」「レーザービーム」など序盤から人気曲を惜しみなく披露していく構成は、さすがベスト・アルバムを引っ提げてのツアーといったところ。一息おいてパーティ・ライクな「Hurly Burly」やコンパクトながら緩急あるインパクトの強い振付が特徴の「ナナナナナイロ」、クイックなリズムと顔前で“イヤイヤ”と手を振るポーズが印象的な「だいじょばない」という流れでは、よりカラフルでヴィヴィッドな色彩の映像でドームを華やげていく。

 中盤の〈P Cubed Medley〉はまさにPerfumeの辿ってきた歴史を凝縮したダイジェストといえるアクトで、3人が踊る背にあるスクリーンに当時のミュージックヴィデオが編集して流れるなど、懐かしい表情と31歳になった3人の今とを対比出来るファンにとっては感慨深いパフォーマンスに。いまや定番ヴァレンタイン・ソングでPerfumeの代表曲の一つ「チョコレイト・ディスコ」から畳み掛ける展開は、ファンの興奮のギアを高めるに容易かったが、なかでもまだあどけない表情のヴィデオとシンクロした「コンピューターシティ」が一番歓声が響いていただろうか。

 毎回ライヴの転換を兼ねて登場する中田ヤスタカによるインターミッション・トラックだが、今ツアーでは「Chrome」と題した曲。ウェブブラウザ「Google Chrome」でも馴染みある“クローム”は、元来クロミウム元素でクロム合金やメッキを意味する言葉。酸化の仕方でさまざまな色に変化する銀白色の金属にちなみ、ギリシャ語で色を意味するクローマから名付けたものだ。派手な抑揚がなく硬質かつ無機質なビートが進むなかで、マネキンかAIロボットかと思わせる無表情なロボットダンスを披露すると、スクリーンにもリアリティはあるものの明らかにアンドロイドやクローン、AIといった類とわかるそれぞれ3人を模した顔が映し出される。のっち、あ~ちゃんは目元や目の間隔が微妙(故意的に異なるようにしているのかも)というくらいだったが、なかでもかしゆかのそれは薄気味悪さも覚えるほどの表情に。それを受けて「edge」「kiseki」「再生」と展開するのだが、どこか“複製”が感じられるカクカクとしたダンス・パフォーマンスを繰り広げ、次第にそのぎこちなさを模したダンスにも滑らかさが芽生え、タイトルどおりに人らしく“再生”していくような動きに。

 感情を込めて歌えと教えられてきたものの、中田ヤスタカに感情はいらないと突き放され、葛藤とともに歩みながらようやく「ポリリズム」でブレイクすれば、なかにはやれリップシンクだ、無表情だとの声も受けて……そんな苦悩を乗り越えて、世界を渡るグループにまで飛躍した3人。そんなPerfumeを揶揄する人たちへの強烈なアンサーがこのセクションには意図されているのではないか。“だんだん 好きになる 気になる 好きになる……”“一番硬くてとがった部分を ぶつけて see new world”と歌う「edge」をこのセクションに組み込んできたのも、さまざま言われながらも、20年培ってきたオリジナルのPerfumeがドームという大舞台に立っているよというメッセージなのでは……そんな思いも浮かべながら、振り返れば長い月日を成長し続けてきた3人の勇姿を見つめていた。

 P.T.Aのコーナーは、チャットモンチーが作ったという「はみがきのうた」と(written by チャットモンチー)と“ノッポさん”と“ゴン太くん”が登場するNHK教育(現・Eテレ)で70年~90年まで放映されていた教育番組『できるかな』のテーマ「できるかなテーマ」のアレンジ・ヴァージョンとともに観客がダンス。MCが短い訳ではなかったが、冗長過ぎるほどでもなく、個人的にはコンパクトになったイメージが(麻痺してるのかも)。『できるかな』は3人が生まれて間もなく終了したので、リアルでは知らないはずだが、どこからネタを“仕入れ”てきたのだろうか(笑)。

 このあたりまでに、当初ステージにいた3人は、前述したようにステージを離れ、ベスト・アルバムにもツアータイトルにもなっている“キューブ”のコンセプトよろしく、左、中央、右の道を動くキューブ(立方体)でそれぞれ移動。遅れてついてきたもう一つの4つ目のキューブと合わさってアリーナ中央でミニステージを作ったかと思えば、3人を乗せたまま移動して再び3手に分かれ、アリーナ後方列前まで移動。広いドーム会場というハンデを逆手に取り、ステージから遠い観客にも肉眼ではっきりと見える距離に3人を配する着想は、Perfumeを愛するファンたちへの感謝の表われの一つともいえよう。
 3人の絶妙な距離感を“トライアングル”(⊿)で示したり、今回のようにキューブ(“3”乗の意味もある)で表わしたりと、明確にコンセプトをデザインするアイディアは、Perfumeを活かす上で非常に重要なアイテムやアイデンティティになっている。それゆえ、さまざまなスタイルでパフォーマンスする3人を乗せながら変化し移ろうキューブは、このツアーを構成すると同時に、3人の歩んできた軌跡をも意図していた……というのは、少し大げさだろうか。

 「ここからは踊れる曲だけしかありません!」と叫んでスタートした「Party Maker」からは、興奮を恍惚へと橋渡しするクライマックスへ。『Perfume~Complete Best~』に新曲として収録された初期曲「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」、東京タワーを中心とした東京の夜景をバックに踊る「TOKYO GIRL」、火炎も飛び出したPerfumeのエポックメイキングな「ポリリズム」を経て、緩やかなレトロ・フューチャー感が耳を惹く「Challenger」へ。「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」で歌った“手を伸ばしても もう届かない パーフェクトスター”に憧れていた3人が、「ポリリズム」との化学反応で加速して、現状に満足せずにまだ見ぬ未来への高みへ走り続けるんだという強い決意を“We are challenger”というフレーズで誇示していく。笑顔で歌い踊り続けながらも、“これからも挑戦者”という想いがヒシヒシと伝わる瞬間でもあった。

 デビューから憧れていた東京ドームというステージに立ち、次々と体験したことのない景色を見ることが出来るまでになった今も驕らずに、関係者やファンをはじめ多くの人への感謝をそれぞれの言葉で述べた3人。ここまで辿り着けたのは、Perfumeを支え、応援してくれた人たちのお陰だと発するのはいつものことだが、涙しながら語る彼女たちは心底そう感じているのだろう。“人から人へ繋ぐコミュニティ”が“世界中へ繋がるウィンドウ”なんだ……そんなメッセージをしたためたラストは「MY COLOR」。ドームいっぱいに掲げられた無数の手のひらが、Perfumeを優しく包み込む……そんなファンの愛情に満ち溢れたエンディング。、歓喜と名残惜しさや安堵がないまぜになった溜息が渦巻いた光景を目にしながら、興奮の余韻が残る東京ドームを後にした。


 余談だが、個人的なマイ・フェイヴァリットなPerfumeソングをどのくらい選曲してくれるかと薄っすら期待を抱いてはいたものの、蓋を開けてみると、マイ・ベスト・オブ・ベストな「ビタミンドロップ」や、「引力」「ファンデーション」の初期曲は仕方ないとしても、「575」「love the world」「不自然なガール」「FAKE IT」「GLITTER」などが軒並み選ばれなかったのは、自分の日常の振る舞いに問題があるんだろうなと痛感させられた次第。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 GAME (*G)(*PC)
02 Spending all my time (*L)(*PC)
03 Dream Fighter (*T)(*PC)
04 レーザービーム (*J)(*PC)
05 Hurly Burly (*P)(*PC)
06 ナナナナナイロ (*PC)
07 だいじょばない (*L)(*PC)
08 SEVENTH HEAVEN (*PC)
09 ~P Cubed Medley~
  チョコレイト・ディスコ (*G)(*PC)
  Baby cruising Love (*G)(*PC)
  ねぇ (*J)(*PC)
  コンピューターシティ (*P)(*PC)
  Spring of Life (*L)(*PC)
  Sweet Refrain (*C)(*PC)
  NIGHT FLIGHT (*T)(*PC)
  未来のミュージアム (*L)(*PC)
  STAR TRAIN (*C)(*PC)
10 Chrome by 中田ヤスタカ
11 edge (*T)(*PC)
12 kiseki
13 再生
14 P.T.Aのコーナー
  はみがきのうた(written by チャットモンチー)
  できるかなテーマ
15 Party Maker (*L)(*PC)
16 パーフェクトスター・パーフェクトスタイル (*P)(*PC)
17 TOKYO GIRL (*F)(*PC)
18 ポリリズム (*G)(*PC)
19 Challenger (*PC)
20 MY COLOR (*J)(*PC)
(Leaving BGM Dream Fighter)

※(*P): songs from album“Perfume~Complete Best~”
※(*G): songs from album“GAME”
※(*T): songs from album“⊿”
※(*J): songs from album“JPN”
※(*L): songs from album“LEVEL3”
※(*C): songs from album“COSMIC EXPLORER”
※(*F): songs from album“Future Pop”
※(*PC): songs from album“Perfume The Best〈P Cubed〉”

<MEMBER>
Perfume are:
a-chan / あ~ちゃん(Ayaka Nishiwaki / 西脇綾香)
Kashiyuka / かしゆか(Yuka Kashino / 樫野有香)
Nocchi / のっち(Ayano Omoto / 大本彩乃)

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【Perfumeに関連する記事】

・2008/11/06 Perfume@日本武道館
・2010/02/13 Perfumeにおけるディスコ論?
・2012/01/28 Perfume@さいたまスーパーアリーナ
・2012/09/02 SWEET LOVE SHOWER 2012@山中湖きらら
・2013/12/25 Perfume@東京ドーム
・2014/09/18 Perfume@代々木第一
・2015/09/29 Perfume@日本武道館
・2016/06/19 Perfume@幕張メッセ
・2017/11/26 NHK WORLD presents SONGS OF TOKYO@NHKホール
・2018/12/11 Perfume@横浜アリーナ
・2020/02/25 Perfume@東京ドーム(本記事)




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