*** june typhoon tokyo ***

リリリップス @新宿MARZ




 2年間の集大成は、感謝と愛情が渦巻いた躍動のステージ。 

 NOZOMIがフロントマンを務めるエレクトロポップ・プロジェクト“リリリップス”を知ったのはつい先日のこと。HALLCAら4組の関西出身女子が集った出演の六本木Varit.でのイヴェント〈FRESH!!〉(その時の記事はこちら→「〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.【HALLCA】」)になるから、約1ヵ月前になる。しかしながら、約2年の活動をもって活動を休止するとの報せを耳にすることに。当イヴェントでは7曲しか観賞出来なかったが、ワブルベース使いのエレクトロな「JELLY MONSTER」やフロアに飛び入りして披露した「秘密のファンキータウン」などなかなか面白いと思わせるアクトに興味を抱いたこともあって、活動休止前のワンマンライヴ〈DRAMATIC〉の会場・新宿MARZへと足を運んだ。

 リリリップスについてはほとんど知識がなく、これまでの活動経緯は2年ほどで、リリリップスへの改名以前に“\C.C.F/”名義で活動していたということくらいしか分からず。活動休止へと至る過程がさまざまあるだろうが、当日は午前11時からの開演という休日としてはやや早めの時間的状況があったとはいえ、300名の収容人数のライヴハウスにその半数を欠く集客というのは、寂しさを拭えない。ファンにとっては重要度の高い位置付けと思しきラストライヴであればなおさらだ。当初の思惑通りに至らず、中・長期的なファン獲得に苦戦したというのも、活動休止を決断する要素の一つになっていたのだろうか。

 とはいえ、集客が多いほどアーティスト性や楽曲性のクオリティが高いという訳ではないし、その逆もしかり。NOZOMIは「最初は歌もダンスもやったことがない関西の女の子」「ルックスも歌も特にずば抜けてる訳ではないのに」などと謙遜していたが、身近で目にしそうな普通の女子が何気ない日常をヴァラエティに富んだ楽曲でパフォーマンスするというコンセプトは、親和性とともに意外性をもたらすという意味でも、さまざまな可能性を有しているはずだ。自分にはいわゆる相馬眼的な見抜く力などは持ち得ていないけれども、六本木Varit.での〈FRESH!!〉のステージアクトの僅かな時間だけで「ワンマンライヴを観てみたい」と思わせたのは、NOZOMIというフィルターを通したリリリップスの音楽が魅力的だと感じたことに他ならない。それから1ヵ月が経ち、開演前に流れるダフト・パンク「ゲット・ラッキー」などのBGMに身体を揺らせながら、多くのファンの胸にこみ上げているだろう“最後の日”を迎えてしまうという感傷もなく開演を待ち侘びていたのは、おそらくフロアに集うオーディエンスの誰よりも“リリリップスを知らなかった”自分だけの感情なのかもしれない。



 暗転し、ステージを遮っていた幕が上がると、イントロダクションのBGMが流れ、薄っすらと青白い光が注がれるなかをNOZOMIが登場。エキゾティックなリズムやメロディとともに青く光るスティックで電子ドラムパットを叩く「ADDICTION」がラストワンマンライヴの狼煙となった。最初のMCで「(最後の日を迎えているという)まだ実感が沸かない」と話していたが、「ADDICTION」の最後にスティックを高く天に翳したポーズは(普段からやっている振付なのかもしれないが)、ラストライヴでも存分にリリリップスとして演じ切るという意気込みにも見えた。一方で「ちょっと年齢層が高めだけど(笑)、大丈夫? 今日は思いっきり踊れますか!」と観客を弄っていたが、そうすることで彼女自身にジワジワと宿る高ぶる感情を少しでも抑えようとしていたのかも……と考えるのは邪推が過ぎるか。
 「最初はみんなのことを“お客さん”と呼んでいて……当初は私みたいなのがみなさんをファンと呼ぶのがおこがましいと思っていたけど、今日ここに集まってくれたのは、私や私の楽曲を好きで来てくれている人たちだから、堂々と私の“ファン”と呼びます!」「2年間の活動を支えてくれたファンのために、心を込めたセットリストを作ってきたので、今日はいっぱい踊ってください!」と笑顔で話すなかでも、時折噛み締めるような表情が垣間見えた気もした。

 機材前での演奏からワイヤードマイクを持ってステージ前方へ進み、軽快なリズムとともに手を挙げながらフロアの熱度を高める「二束三文」を終えた後は、長く応援してきてくれたファンのために、懐かしい楽曲もセットリストに組み込んできたと語りつつ、1stアルバム『MAKE YOU POP』収録曲を連投。「振り付け覚えてますか?」という声に観客がNOZOMIの後を追うように振りで応えるも、その反応に「まあいいでしょう(笑)」というお茶目な上目線発言をしながらも嬉しそうだった「xoxo」をはじめ、指で“L”を作ってリズミカルに手を突き上げる「LIKE IT」や「WTH」「Hand in the Ray」という展開は、初期からのファンには感慨深いセレクトだったようで、フロアのヴォルテージも加速度を高めていく。

 「私はやり始めたらとことんやらないと済まない性格」「目の前のファンを幸せにするような楽曲や演奏を届けたいと思っていながら、活動休止という選択をすることでファンを幸せにしたいという思いに逆行するのではないかと自問自答を繰り返した」「人生は変化の連続だと思っていて、だから、今回も私自身葛藤したけれど、納得するために変わる(=活動休止)という選択をした」「実力は及ばないことが多いけれど、ファンを幸せにしたいという気持ちだけは誰にも負けないという思いでやってきた」といった曲間の節々に語られる言葉からは、まだ“リリリップスに休符を打ちたくない”という葛藤も見え隠れ。



 それでも、笑顔でドラムパットを叩きながら歌う姿に歌うことへの喜びも窺えた「フレンチブルー」や、メランコリックな音像が深夜の物思いに耽る姿を想起させる「SIGH」というドラムスティック曲でリズムを走らせると、そのリズムに呼応してフロアに熱気が立ち込めてくる。
 「いくぞー!」という掛け声から畳み掛けたのは、リリリップス史上随一のハード&エッジィな楽曲といってもいい「JELLY MONSTER」。それまで見せていた微笑ましさから一転、サンプラー/シーケンサーを叩いて硬質なビートを刻み続けながら身体を揺らす、クールでパッションに溢れたNOZOMIに、思わずオーディエンスからも声が上がる。続けて「問題作にいくよ」との前フリから「会社の近所の中華料理」へ。太極拳をしながらポエトリーリーディング調のラップを展開するスタイルは斬新。「(その時々にいろんなジャンルの曲をやって)急に中国風の曲をやったりして何なんだと思ったと思う」というのが“問題作”とするゆえんらしいが、彼女が持つ良い意味での“それほど擦れてない”人懐こさを感じる歌唱やラップが、コミカルながらも中毒性のあるトラックとマッチ。

 ドラを模したドラム音を刻みながら、中華風のムードをシームレスに保ったまま「上上上海」へと移行すると、NOZOMIがステージを降りてフロアへ。ファンに囲まれながら“シャン・シャン・シャンハーイ!”と思いの丈をぶつけるように歌い踊る姿は、“ラストライヴ”というある種の悲しみの感情が消し去られた瞬間でもあった。「みんな、これがやりたかったんでしょ!」「あー、楽しい」と胸の内を赤裸々に吐露する彼女の顔は、充実感に満ち溢れていた。


 だが、曲間のMCでリリリップスの活動を振り返るうちに、熱いものが込み上げて、微笑みでいっぱいだった顔も涙でにじんでいく。「普段は泣くタイプじゃないんですけど」と言う顔も今にも号泣しそうな時に鼻をすする音をマイクが拾ってしまい、フロアに笑いがこぼれる。「(マイクを)離せって話ですよね」と恥ずかしながら話すNOZOMIとそれを見つめる観客とには、リリリップスを愛してやまない者同士の一体感が伝わってきた。

 クラップを重ねた「月と流れ星と君と」を経ての本編ラストは「DRAMATIC」。“誰も結末を知らないTV SHOW”のフックで始まるこの曲は、どこか苦悩とともに何にも代えがたい体験を経てきたリリリップスの変遷を俯瞰しているような詞世界が印象的。活動休止前に放ったラスト・ミニ・アルバム『DRAMATIC』のタイトル曲ということからも、一言では言い表わせない心境が投影されているようだ。“少し刺激の強すぎるストーリーを 選んでしまう事もあるたまには / これ以上見てらんないって気分なら チャンネルを回してしまえばいい”というフレーズには、自らの信条と葛藤に苛まれながら決意した感情が詰め込まれているようにも思えた。

 「終わりたくない!」と叫んでいたステージもアンコールへ。ゆらゆらと腕を揺らす「クラゲ」を終えた後に再び暗転し、ダブルアンコールへと突入。ここでファン一同から花束の贈呈で、一気に感情が溢れ出す。“普段泣かない”NOZOMIも号泣。胸がいっぱいになりながらも「最後はリリリップスらしく終わりたい」「まだやってない曲があるよね!」と止めどなく出る涙への踏ん切りをつけるように再びフロアへと降りて「秘密のファンキータウン」へ。オーディエンスに囲まれながら、また、フロアで共に歌い踊るファンの顔を見逃すことがないように踊り歩くパフォーマンスには、ファンへの感謝とリリリップスの楽曲やライヴは楽しさに包まれているという想いが解き放たれ、これまでにファンと共に積み重ねてきた“リリリップス愛”がうねりとなってフロアを渦巻いていた……そんな光景にさえ思えた。

 「これでリリリップスのNOZOMIとしては一区切りとなるけれど、素敵な楽曲は残ります」「まだ先のことは分からないけれど、またステージに上がる機会があったら」と“解散”という言葉を使わなかったのは、リリリップスの活動が有意義であったという証左だろう。今は続けるタイミングではないということであって、消し去るものでもないというのが偽らざる胸の内と察するが、果たして。

 これまでリリリップスを観てきたほとんどのファンに去来するだろう“リリリップス・ロス”は、ライヴでの姿を観ることが出来ないのは残念という思いがあるものの、つい最近知りえた自分にはそれほどロスを実感しないのが正直なところ。語弊があるかもしれないが、活動休止前に滑り込むようにしてラストライヴに間に合ったことで、これまでに知らなかった楽曲を聴き漁ってみたいという好奇心が生まれていたりもする。NOZOMI自身が言っていたように、これからも楽曲は残り続けるし、リリリップスの音楽を愛することが、リリリップスの存在意義を高めることにもなる。先のことは分からないが、楽曲を愛で続けた先に再びステージへ戻る時が訪れたら……という思いを微かに片隅に残して、リリリップスの楽曲をリプレイしていくつもりだ。

 ラストワンマンライヴという節目は、ある意味限られたファンたちを中心としたものになってしまったのは否めないが、それがむしろ“秘密のファンキータウン”なのではと思えてくるほど、局地的な最大瞬間風速を記録したような充実感に包まれたステージ。伝説や噂に留めてしまうのはもったいない“NEW WAVE STYLE”。そんな感情を抱きながら、またCDをプレイする日々を重ねていきたい。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 ADDICTION (*DR)
02 二束三文 (*CK)
03 xoxo (*MY)
04 LIKE IT (*MY)
05 WTH (*MY)
06 Hand in the Ray (*MY)
07 DIARY (*DI)
08 フレンチブルー (*CK)
09 SIGH (*DR)
10 JELLY MONSTER (*ME)
11 会社の近所の中華料理 (*CK)
12 上上上海 (*ME)
13 月と流れ星と君と (*CK)
14 DRAMATIC (*DR)
≪ENCORE #1≫
15 クラゲ (*ME)
≪ENCORE #2≫
16 秘密のファンキータウン (*MY)

(*MY): song from album『MAKE YOU POP』
(*ME): song from album『目は口ほどに物を言うEP』
(*CK): song from album『ちょっと工夫でこのうまさEP』
(*DI): song from album『DIARY』
(*DR): song from album『DRAMATIC』

<MEMBER>
NOZOMI / Lililips(vo,key,perc) 

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【リリリップスのライヴ観賞記事】
・2020/01/25 〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.【HALLCA】
・2020/02/24 リリリップス @新宿MARZ(本記事)


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