*** june typhoon tokyo ***

The Free Nationals @Billboard Live TOKYO




 個性と緩急の使いどころを熟知した、“新人”バンドが見せた饗宴。

 アンダーソン・パークのライヴ・バンドとして知られる米・ロサンゼルス出身の4人組、ザ・フリー・ナショナルズ。だが、アルバム・デビューは2019年12月とかなり最近のこと。アンダーソン・パークのバック・バンドとしての位置づけとはいえ、一心同体的に活動。その確かな実力は、彼らがサウンドの下敷きを構築していたアンダーソン・パークのアルバム『ヴェンチュラ』が2020年のグラミー賞最優秀R&Bアルバムを受賞したことでも証明されている。そのホットなニュースの余韻が残るタイミングで、バンドの単独名義としては初となるライヴが、ビルボードライブ東京で開催。ジ・インターネットのシド、ダニエル・シーザー、2018年9月に惜しくも26歳の若さでこの世を去ったマック・ミラーなどが参加した『フリー・ナショナルズ』の楽曲を、フィーチャリング・アーティストなしでどう料理するのか。期待を膨らませながら、夜の六本木へ足を滑らせた。

 バンドは左前方にギターのホセ・リオス、その奥にキーボードでヴォコーダー使いのロン・“ナヴァ”・アヴァント、右前方にベースのケルシー・ゴンザレス、その奥にドラムのカラム・コナー。そして中央に紅一点のヴォーカル、インディア・ショーンが陣取る。リオスはニット帽、ゴンザレスとコナーはキャップを被り、巨漢のアヴァントとショーンの褐色勢はドレッドと多様。ショーンは鮮やかなイエローグリーンのセパレート風ドレスを纏った、エレガントな面持ちが目を惹く。ジャスティン・ティンバーレイク『ザ・20/20・エクスペリエンス』のソングライター、ジェイムス・フォントルロイとのコラボレーション作『アウター・リミッツ』を発表するほか、ソランジュによるコンピレーション作『セイント・ヘロン』への参加、ポロウ・ダ・ドンの〈ゾーン・4〉と契約していた経歴を持つ、米・アトランタ出身の女性R&Bシンガー・ソングライターだ。可憐ながらも声の通りのいいヴォーカルワークは、時折ブランディやらヴィヴィアン・グリーンあたりを感じさせる。

 西海岸特有のカラッとしたフレンドリーな一面があるのは、カリフォルニア州ロサンゼルス出身というバンドの特性か。ギターのリオスが一応統率を取って話そうとするのだが、オハイオ出身のアヴァントがしたり顔で話を割ってぶち込んできたり、ベースのゴンザレスがグラスに口をチビチビと運びながらズルズルと話し出すなど、良くも悪くも個性が強いメンツの集まり。ゴンザレスは「コイツ、今独り身なんだぜ」などと突っ込まれたりもしていた。



 音源ではサー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズのシャフィーク・フセインの語りがミステリアスを高める「オビチュアリー」から幕を開けるが、続いて披露したのはハービー・ハンコックの「トラスト・ミー」のカヴァー。早速アヴァントのヴォコーダーが飛び出すのだが、このヴォコーダーが楽曲に煌めきとともにいい意味での軽薄をもたらし、享楽というグルーヴを生み出していく。アヴァントはキラキラと装飾されたサングラスをしていたが、それはPファンク的なパーティマナーを意識してのものか。もちろんヴォコーダー使いゆえ、時折オハイオの同郷のザップ&ロジャー曲らしきフレーズをサラッと繰り出してくるあたりに“らしさ”が垣間見えてくる。

 「オスロ」「オン・サイト」「ビューティ&エセックス」とアルバム『フリー・ネイションズ』でのフィーチャリング・ヴォーカルパートをショーンを軸にして務めるのだが、これが自己を主張するのではなく、楽曲に寄り添うような気品と可憐を漂わせるヴォーカルワークゆえ、違和感は覚えず。アルバムでは多くのゲストを迎えて、楽曲の世界観を構築しているため、その楽曲性をいかに表現するかはやはりヴォーカルに依るところは大きいと思われるが、ショーンはアルバムを再現するのではなく、あくまでも自身に内包するパッションやヴァイブスで表現。誇張せずとも浸透するのは、ネオソウルやR&Bの作法ともいえるが、その形をしなやかに実践していた。だからといって楽曲がメランコリックにはならず、ドライな感覚がどこかしらに通底しているのは、彼らが持つ陽気さからくるのだろう。

 原曲ではベニー・シングスが客演する「アパートメント」ではベースのゴンザレスがヴォーカルを執り、清々しい青空を想起させるAORマナーのムードを漂わせたかと思えば、「レネ」ではゴンザレスのほかドラムのコナーやアヴァントのヴォコーダーもヴォーカルに加わりながら、思わずトレンディと言ってしまいそうなほど颯爽としたサウンドスケープを描いていく。原曲はマック・ミラーが参加した「タイム」では、冒頭より追悼を捧げ、ミラーの歌声の音源を活かしながら、各々が歌い、各パートを演奏。アヴァントは指でハートマークを作りながら、フロアにもミラーへの称賛を喚起していた。


 この日のトピックの一つとして挙げられるのは、次の「シブヤ」だ。アヴァントが「東京、ここに来られて嬉しいんだ」と陽気に語ったが、これが新型コロナウイルス感染の影響で軒並み海外アーティストが来日公演をキャンセルしているなかでの発言ゆえ、オーディエンスも平時のリップサーヴィスとは捉え方も変わろうもの。アヴァントはヴォーカルのショーンを紹介しながら「可愛いだろ?(Isn't she lovely?)」と言うさなかに“Isn't she lovely~”とスティーヴィー・ワンダー「可愛いアイシャ」を口ずさんだりと、どこまでもユニークに振る舞うのがバンドのスタイルだ。
 
 これまではどちらかというとヴォコーダーを絡めたレトロ・フューチャー・ソウル的なアプローチが目立っていたが、「シブヤ」ではジャジィな佇まいが横溢。その瀟洒な彩りからショーンのオリジナル曲「カリ・ラヴ」へ。さすが自身の曲だけあって、音鳴りをグッとネオソウルやR&Bサイドへと寄せた演出に。かと思えば、インストゥルメンタル曲「レスター・ダイアモンド」では、ギターと鍵盤の丁々発止。メロウ&ドープな世界観はどこへやらのファンキー・フュージョン・ワールドへといざなってくれた。
 ファットなヴォコーダーによるやや歪みをもたらした音空間が彼らのフリーキーな部分を醸し出す「ライト・ウェイト」で、メンバー紹介も含めてフロアの熱量を上昇させていくと、やや粗削りなラップを繰り出すリオスと対照的な瑞々しさを湛えたシルキーなコーラスで潤いを呼び覚ます「ザ・リヴィングトン」を経て、冒頭の“グッド・ヴァイブレーション”のフレーズが耳を惹く「エターナル・ライト」へ。ここではグッド・ヴァイブレーションよろしくレゲエ/アフタービートを強調したリズムでカリビアンな明朗さへとアプローチ。とはいえ、まるまるのラスタなムードへ引っ張るのではなく、70年代のジャズ・ファンク、モダン・ファンクネスの薫香をほのめかせるサウンドメイクも忍ばせる。序盤にハービー・ハンコックの「トラスト・ミー」が飛び出したが(アンコールでもハンコック曲が登場)、ハンコックやヘッドハンターズあたりの音色は、フリー・ナショナルズを構成する上で避けて通れない“ルーツ”といえるのかもしれない。

 ちなみに、メンバー紹介の流れで、アヴァントが“ウィー・アー”とオーディエンスに振ったつもりがレスポンスなしに苦笑いという場面もあったか。おそらく“フリー・ナショナルズ”と返してほしかったと思われるが、早口でそれぞれがその時のテンションで話始めるから、会話も重なって聞き取れなかったか。といっても、全体的に日本は言われているほどMCを理解する英語力=リスニング力はないとライヴを観賞する度に痛感するので、アーティストに分かりやすく話してもらうか通訳を付けてもらった方がいいと思ってしまうが。



 終盤に差し掛かると、サプライズとしてオマー・アポロが彼のバンド・メンバーとともにステージイン。「スペシャルゲストとのセッションだ」とカマしてからオマー・アポロの楽曲「イグローリン」を披露。このあたりではフロアはスタンディング状態となり、怠惰でフリーキーななロック・リズムとレゲエ/ラテンビートが交錯するカオスなフィールドに。ステージ上に集ったメンバーたちのゴキゲンなテンションが印象的だった。本編ラストは、ショーンが戻っての「ギジェット」。良質なメロディもさることながら、やはりショーンによるユーティリティのヴォーカルワークによって、よりメロウなグルーヴを生み出し、心地よいヴァイブスを湛えながらのエンディングを迎えることになった。

 鳴り止まないアンコールに、再び中二階からの階段を降りてフロアへと向かうメンバーたち。ただ、そこにはドラムのコナーの代わりに10歳(小学4年生)のドラマー少女“CHITAA”がスペシャルゲストとしてステージイン。CHITTAは東京・町田出身の英語も話せるバイリンガル・ドラマーで、“手数王”こと菅沼孝三に師事。ドラム演奏のYouTube動画が世界各地で注目されると、さまざまな一流アーティストと共演。2019年の世界的ドラムコンテスト〈DRUM-OFF GLOBAL 2019〉のガールズ部門(35歳以下)でカテゴリー最年少出場で優勝したという逸材だ。小さな身体の彼女が飛び入りして奏で始めたのは、ハービー・ハンコックの「カメレオン」。インストゥルメンタルながら、終盤のドラムソロで大きな歓声が渦巻くなど、“フリー・ナショナルズ”の名前らしく、自由な感覚から生まれるパフォーマンスを組み入れながら、オーディエンスを魅了してくれた。

 ギターのリオスとベースのゴンザレスが演奏後に頭を突き付け合ってじゃれ合ったり、アヴァントがヒップホップマナーよろしく掛け声を随所に入れたりと(ドラムのコナーは寡黙気味)、ヤンチャ加減も見せながら、演奏は西海岸/LAのネオソウル/R&Bシーンのラフなムードを持ちつつも抜群の安定感。そこへさまざまなフィーチャリング・ヴォーカルの再現への懸念を払拭したショーンの麗しきヴォーカルが絶妙に合致して、ライヴならではのフューチャー・ソウルなグルーヴネスを湛えていた。緩さがありながらも、アンダーソン・パークのバックで手慣れたと思しきバランス感覚は見事。気を張らずに身体を揺らせる術を知る、2020年代らしいアティテュードが痛快だった。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Obituaries
02 Trust Me(Original by Herbie Hancock)
03 Oslo
03 On Sight
04 Beauty & Essex
05 Apartment
06 Rene
07 Time
08 Shibuya
09 Cali Love(Original by India Shawn)
10 Lester Diamond
11 Lite Weight(Original by Anderson .Paak feat. The Free Nationals United Fellowship Choir)
12 The Rivington
13 Eternal Light
14 Ignorin(special guest with Omar Apollo)(Original by Omar apollo)
15 Gidget
≪ENCORE≫
15 Chameleon(special guest with CHITAA)(Original by Herbie Hancock)

<MEMBER>
The Free Nationals are:
Jose Rios(g,vo)
Kelsey Gonzalez(b,vo)
Ron “Tnava” Avant(key)
Callum Connor(ds)

India Shawn(vo)

Omar Apollo(vo)
Chitaa(ds)

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