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*** june typhoon tokyo ***

D'angelo And The Vanguard@Zepp Tokyo


 Dがヴァンガードとやりたかったこと。プリンス、JB、それらを包み込むファンクの全部。

 まさに“ディス・イズ・ザ・ファンク”なエンターテインメント・ショウだった。約14年ぶりとなる久しぶりの新作『ブラック・メサイア』をリリースし、この夏のサマーソニックでまさかの来日。そして、そのエクストラとして開催された単独公演“SUMMER SONIC EXTRA”を体感。会場は東京・青海のZepp Tokyo。チケットは当然のごとくソールドアウト。開場前から“D”ことディアンジェロのライヴに胸躍る人たちが四方八方から集い、暑い夜の温度をさらに高めていた。

 開演予定は19時30分だったが、実際にスタートしたのは20時14分。約45分遅れての幕開けは、焦らして焦らして高揚を増長させるファンク・ミュージシャンのステージ・マナーに則ったものともいえるか。呆れ返るオーディエンスは皆無で、BGMが途切れる瞬間ごとに大きな歓声を上げ、常にステージに視線を注ぐ。いかにこの男=ディアンジェロを待ちわびていた、期待に胸を膨らませていた人たちが多かったか、ということを証明していたのではないだろうか。

 左側の高台にクリス・デイヴ、その下にはバックコーラスと元タイムのジェシー・ジョンソン、右側の高台にはホーン・セクション、キーボード、その下には女性バックコーラスとベースのピノ・パラディーノ……ディアンジェロを取り巻くバンド・メンバー11名、総勢12名の凄腕たち=“ザ・ヴァンガード”が眼前に現れた瞬間、演奏やパフォーマンスを繰り広げる以前に、待ちわび果てた日本のファンたちは既に幾重の興奮の渦をフロアに生み出していた。ハットにコート姿の生身のディアンジェロがステージ中央に歩を進めると、フロアのヴォルテージは初っ端から最高潮に達していたといってもいいくらいだ。

 ただし、ケチをつける訳ではないが、無闇に褒め上げるだけにならないよう、最初に言っておくと、会場のPAの問題なのかどうか分からないが、音に関してはもう少し配慮があっても良かったのではと感じた。全体的に音量が大きかったこともあるが、たとえばドラムのスネアだとかベースなど骨格となる音がしっかりと伝わるような音調整がなされてあれば、より完成度は高まったはずだ。もちろん、それだけによってステージのパフォーマンスや観客の熱量がガクンと落ちるということは全くないが。ヴォリュームが大きくなるにつれて全体的に各パートの音が潰れ加減だったのは、やや気になるところだった。
 そのあたりが気になるのも、単なるバンド・メンバーではなく、クリス・デイヴをはじめとする辣腕集団=“ザ・ヴァンガード”がバックを務めているからともいえる。彼らそれぞれが奏でる音や声までをも充分に堪能したいという思いに駆られた、自身の期待値の高さゆえの感覚だったのかもしれない。

 それと、『ブラウン・シュガー』『ヴードゥー』の幻想的で酩酊感を誘うようなサイケデリックなネオソウル、はたまた新作『ブラック・メサイア』のどちらかというとソリッドなロックに寄ったようなサウンドをこのステージで期待していた人たちがいたとしたら、完全に当てが外れたと言わざるをえない。“ライヴは別物”……その言葉がこれほど当てはまることもない、徹頭徹尾“ファンク”に満ち満ちたステージだったからだ。

 本編終盤の「ブラウン・シュガー」でさえファンキーで、ワシントンDC発祥の(チャック・ブラウンによる)ゴーゴーとすら思えるほどの展開も。開演から25~30分くらいはノンストップでソウル/ファンクを連ねていき、その後も曲間をMCなどで埋めることはなく、ひたすらザ・ヴァンガードと生み出す音の楽園にどっぷりと浸かってくれと言わんばかりの攻めのステージで、観客を熱狂と陶酔の世界へと導いていく。



 序盤はプリンス作風のファンクをこれでもかと落とし込んだアレンジでガツガツと音をまき散らし、フロアに巻き起こり反響した歓声や快活なうねりを貪るように肌身で受けると、それをまたヴァンガードの音とともに放っていく……といった反芻がオーディエンスの体温と異様とも思える熱気へと高めていく。エレクトロニックなどの人工的なトリップではなく、野性味と人間味を帯びた“マジック”がフロアを隙間なく覆った、そんな感覚が日常と時間を忘れさせていた。

 中盤以降はJBスタイル全開。「シュガー・ダディ」をはじめ、時折ジェームス・ブラウンの楽曲のフレーズを忍び込ませるというより重ね合わせながら、タイトなビートを効かせたJBファンクを展開。数えたカウントにバックが呼応してオーケストラヒット風のブレイクを鳴らしたり、ことあるごとに“グッゴッド(Good God)”と叫んで煽る姿は、まさしくJBのそれ。あとはマントショーだけなのでは、とも感じさせる徹底ぶりで、ザ・ヴァンガード・ワールドの栄華や隆盛ぶりに圧倒されるステージが繰り広げられた。

 アンコール明けは『ヴードゥー』からの2曲を中心に、時に“イヤァァヤァーッ”と金切り声のような叫びとともにファンクネス全開で煽る。くゆる煙が室内を覆い、アンニュイなムードが漂うような濃密なスムース&メロウの曲調はここでも皆無だ。

 ようやく“聴かせる”ムードとなったのは、ダブルアンコールの「アンタイトルド」。観客ともコール&レスポンスした“How Does It Feel”のリフレインとともに、バンド・メンバーの一人ずつにスポットライトが当たり、ディアンジェロとハグや拳同士を当ててステージを去っていく場面は、理屈なく名シーンといえるもの。ディアンジェロの復活を支え、再び大きく羽ばたく道を共に歩んでいる盟友たちへ送る、信頼と感謝がその一つ一つに詰まっているようだ。最後に一人ディアンジェロが残ってステージ・アウトする瞬間は、さながら名画のエンドロールを追っているような不思議な感覚にもなった。

 単独一般公演としては初来日となるディアンジェロ。そこにはネオソウルをどっぷりと聴かせて懐古によることもなければ、『ブラック・メサイア』色を前面に出したオルタナティヴなムードもなし。ジェームス・ブラウンやプリンスなど、自身に宿る大きな熱の塊であるソウル/ファンクをほとばしらせた約2時間となった。
 だが、それが単なるモノマネではなく彼らの継承者に、さらに言えば継承者という見方以上に“これがディアンジェロ”という存在として強く感じられるのは、久しく無沙汰となった時間の長さと彼に感じるカリスマ性によるものが大きいか。神格化はすべきではないが、あまりにも強烈なインパクトを残していったことは揺るぎない事実。この素晴らしき栄華を“真夏の夜の夢”で終わらせないためにも、なるべく近いうちの再来日を期待したい。脈々と流れるソウル・ミュージックの王道にディアンジェロの真髄が燦然と輝いている、その一端を知ることが出来た魔法の一夜だった。



◇◇◇
 
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Drone
02 Ain't That Easy(*3)
03 Vanguard Theme
04 Betray My Heart(*3)
05 Spanish Joint(*2)
06 Claire Fisher(Interlude)
07 Really Love(*3)
08 The Charade(*3)
09 Brown Sugar(*1)
10 Sugah Daddy(Including a phrase of“Ain't It Funky Now”by James Brown)
≪ENCORE #1≫
11 Left And Right(*2)
12 Chicken Grease(*2)
13 What It Do
≪ENCORE #2≫
14 Untitled (How Does It Feel)(*2)

(*1)song from Album『Brown Sugar』
(*2)song from Album『Voodoo』
(*3)song from Album『Black Messiah』

<MEMBER>
D'Angelo & The Vanguard are:
D'Angelo(vo,key,g)
Jesse Johnson(g)
Isaiah Sharkey(g)
Pino Palladino(b)
Chris Dave(ds)
Rodrick Cliché Simmons(key)
Keyon Harrold(tp)
Kenneth Whalum(sax)

Jermaine Holmes(back vo)
Kendra Foster(back vo)
Charles“Red”Middleton(back vo)
Joi Gilliam(back vo)


◇◇◇
















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