*** june typhoon tokyo ***

加納エミリ@新宿Motion



 バースデイとリリース、二つの誕生が重なる日に喜びで示した愛情と感謝。

 “I don't know もう ずっと前のことは忘れたの”……「ごめんね」の歌詞にある心境が、もしかしたら近い将来にやってくるかもしれない。そう思わせるほどの話題性という成長曲線の上昇を感じる、北海道出身の自作自演“NEO・エレポップ・ガール”加納エミリ。彼女の24歳のバースデイと2月13日に自身初の7インチシングル「ごめんね」の発売を祝した〈加納エミリ大生誕andリリースパーティ〉が新宿・歌舞伎町にあるライヴハウス「Motion」にて開催。2018年5月にソロ活動を開始するも、当初はほぼ集客がない辛酸を舐める日々。だが、シンガー・ソングライター/鍵盤奏者の矢舟テツローが投稿した動画などからSNS上を中心に注目されると、徐々にメディアにも採り上げられる存在に。そんな彼女の成長曲線の端緒ともなるイヴェントには、彼女自身が好きだと公言するSAKA-SAMA、KOTO、そして脇田もなりの3組が共演。カラフルな衣装やパフォーマンスで彩る女性陣が、文字通り加納エミリのバースデイに華を添えたステージとなった。

 会場に到着したのが2番手のKOTOの演目の終盤だったゆえ、実質しっかりと観賞出来たのは脇田もなりと加納エミリの2組のみとなってしまったが、フロアに入るやいなや予想以上の観客数と熱気に驚いた。もちろん、ゲスト3組のファンたちが集ったという影響は少なくないが、それでもラストに演じた加納エミリのステージまで多くの観客が見届ける盛況ぶりだった。

◇◇◇

■ 加納エミリ

 急成長というのをこれほど実感した時期もないだろう。“飼い殺し”にされていたプロダクション所属時代、憂き目を見ていたデビュー当初と腐りかけていたなか、半年で小箱とはいえ満員の観客で埋め尽くすステージに立つまでとなった加納エミリ。詞、作編曲から振付まで完全自作自演の“NEO・エレポップ・ガール”が、自身の誕生日というまたとない好日に自身の“晴れ姿”を披露することとなった。

 歌うこと以上にサウンドメイクが好きという彼女ゆえ、自身の生誕という舞台に何か仕掛けてくるのではないかと予期はしていたが、それが結実し、フロアを沸かせたのが、本編の終盤「Next Town」から彼女の存在を広めるキラー・チューンとなっている「ごめんね」への繋ぎ。アウトロのバックにユーロビートやニューウェイヴのトラックでよく耳にするリズミカルなバス・ビートから弾けるようなポップな彩色の上モノへと移行するノンストップなエディットは、曲間のMCにおけるBGMも自作して流す“凝り性”の彼女の真骨頂が発揮され、フロアからも思わず歓声が溢れた。また(彼女自身は意識していないかもしれないが)、憧れの街へ辿り着くも夢が思うようにならず、挫けそうな自身を“今がチャンス ここでアガれ!”と励ます「Next Town」から自身が注目される契機となった「ごめんね」へという展開も、自身の成長の跡をなぞらえているようで意義深い気もした。

 アンコールでは“ちょっと待った!”(矢舟テツロー?)の声から暗転のままバースデイケーキが登場するというサプライズ。脇田もなりが「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」を歌い終える前にケーキのロウソクの火を吹き消してしまうというサプライズをサプライズで返り討ちにする彼女らしい“飛び道具”で迎え撃ちながら、この日の出演者たちや集った観客への感謝を述べていた。“24年間で一番いい誕生日になった”“音楽をやっていてよかった”というのは、偽りない心底からの言葉だったと思う。
 そして「恋愛クレーマー」では自身の声に耳を傾けて視線を注ぐ眼前の多くの観客の存在に喜びと安堵を噛み締めながら、楽しげに歌い踊ってエンディング。“みんなありがとう、大好き”の投げキッスとともに颯爽とステージを後にする姿に、歓声を上げ、充実感漂う微笑みを見せていたファンの表情が印象的だった。

 前述の「Next Town」や「ごめんね」では観客の多くがその振付を真似るなど、コミカルなダンスの浸透ぶりが窺える光景も。コミカルだがくだらなさの手前のラインを攻めるダンスや、音圧や音数は少ないながらも中毒性を生む(嫌厭を起こさないオマージュやパロディを取り込んだ手法を含めた)絶妙のバランスによるサウンドは、音楽好きのリスナーのアンテナに触れる頻度も低くないはず。2019年はシングルのほか、年末あたりにはワンマンライヴやアルバムも予定しているとのこと。腐った過去を“もう ずっと前のことは忘れたの”と置き去りにし、“今がチャンス ここでアガれ!”とばかりに突き進む……そんな意欲が漲る彼女がどこまで弾けることが出来るか。衣装も新調した2019年のニュー加納エミリが予想以上に見ものになってきた。



◇◇◇

■ SAKA-SAMA

 トップバッターは〈TRASH-UP!!〉初プロデュースとなる“Lo-Fiドリームポップアイドル”グループのSAKA-SAMA。2018年リリースの1stアルバム『It's A SAKA-SAMA World』が音楽ライターの南波一海が主催するアイドル楽曲紹介番組『南波一海のアイドル三十六房』の年末企画〈三十六房 2018年 R-グランプリ〉でアルバム部門グランプリに。同企画では加納エミリの『EP1』が“R-グランプリ”7位にランクインしており、“三十六房”つながりともいえそう。

 自身のパフォーマンス後も全演目が終了してのカーテンコールにも赤を基調に白のラインが入ったファンシーなドレスで登場したが、加納エミリが“当日お披露目となった(自分の)新しい衣装と似ている”“(人気曲)「デジタルリレーション」の時に右隅後方で混ざって踊っても違和感ないよね?”と嬉しそうに語っていたのが印象的だった。



◇◇◇

■ KOTO

 二組目はKOTO。日本初のキッズダンス映画『SHAKE HANDS』の主題歌オーディションに合格して歌手デビューを果たした実力派アイドルで、ダンスも武器とする。2015年には新木場Studio Coastで主催イヴェントを成功させるなどアイドルシーンでは名が知られているようで、加納エミリが憧れやリスペクトを抱いている人と以前から話すアイドルだ。

 恥ずかしながら個人的には全くの初見。何の知識もなく“どこか顔立ちの雰囲気が(以前、日本のハウス/クラブシーンの面々のプロデュースで作品をリリースした)SAWAに似ているか?”と思っていたら、そのSAWAから楽曲提供を受け、共演しているということが判かり、漠然と“ペットは飼い主に似る”ようなものか、などと思ってしまった次第。147センチとかなり小柄ながら、BPMの速いアッパービートをバックにキレよい弾けるダンスで一気に世界観を構築。ファンの掛け声(ミックス)もかなりハイテンション。生誕祭ということで“愛”をテーマにした楽曲を並べていたようだが、最後の曲「プラトニックプラネット」を聴くに、ニューウェイヴやテクノポップの要素が散りばめられた“電波”チックなサウンドはサブカル嗜好層に受けそうで、加納エミリが嗜好するジャンルとの親和性も高そうな気がした。

◇◇◇

■ 脇田もなり

 トリの加納エミリへ繋ぐのは脇田もなり。先日、Motion Blue YOKOHAMAでの公演〈Monari Wakita“Almost a Lady Live”〉(3月15日)開催を発表し、一層高いレヴェルへのチャレンジを表明したばかり。加納からすれば、同い年ながらもシンガーの成長度という意味では高みへ上っているリスペクトの対象でもある。

 その脇田は通称“ジャスクラ”こと最新シングル「Just a“Crush for Today”」からもなり流ニュージャックスウィング「PEPPERMINT RAINBOW」、伸びやかなハイトーンとソウル・ポップがハピネスな空気を生む「やさしい嘘」、福富幸宏産のハウス・ダンサー「I'm with you」を経て、コール&レスポンスが飛び交うPWLマナーの「Boyfriend」でフィニッシュ。自身のライヴではないからといったら語弊があるかもしれないが、リラックスした心持ちが奏功し、歌唱や表現ともに非常に聴きごたえある仕上がりに。楽曲数や会場の違いなどはあるものの、この日くらいに肩の力を抜いて歌うことが継続出来れば、より歌唱力や訴求力に厚みや深みが加わるのではないか。自然体によって余計な“力み”を排除したことが好パフォーマンスを呼んだ、そんな感じも窺えたステージだった。


◇◇◇

<SET LIST>
【SAKA-SAMA】
寿司でぃ・ないと・ふぃーばー!!
すいみんぐ
デジタルリレーション
終わりから
朝日のようにさわやかに

【KOTO】
愛を届けるお人形
らぶそんぐ
バレンタインズバレリーナ
たまにきみにまるまって
それが愛だ
プラトニックプラネット

【脇田もなり】
Just a“Crush for Today”
PEPPERMINT RAINBOW
やさしい嘘
I'm with you
Boyfriend(Extended Mix)

【加納エミリ】
1988
Been With You
ハートブレイク
二人のフィロソフィー
Next Town
ごめんね
≪ENCORE≫
~ Birthday's Surprise ~(“Happy Birthday To You”sing by Monari Wakita)
恋愛クレーマー

<MEMBER>
加納エミリ

SAKA-SAMA are:
 Dr.まひるん
 寿々木ここね
 あいうえまし子(欠席)
 ミ米ミ(みーまいみ)
 瀬戸まーな
 つつみ
 水野たまご

KOTO

脇田もなり

◇◇◇

■ 加納エミリ「ごめんね c/w Been With You」(2019/02/13) ≪通常盤≫
 なりすレコード NRSP-755(1500円+TAX)7インチ・シングル



[収録曲]
SIDE A ごめんね -Single Ver.-
SIDE B Been With You

※ パイドパイパーハウス(タワレコ渋谷6F)&六本松蔦屋限定仕様ジャケット



※ HMVrecordshop限定仕様ジャケット



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