WANDER THIS WORLD

こよなくJonnyを愛す

祐一の章から

2006-01-24 21:01:10 | 創作系
これは創作です Ⅲ

お店をやっていた時に出会った人や忘れられない場面を参考に創作したもの
どちらかというとその場面場面の好きな雰囲気を情景描写したもので、話に発展性はないことが多いです

祐一の章~



こんな事はもう初めで終わりに違いないと今は思う。
私はお店をやって初めて、客である祐一を自分の中に受け入れてしまった。

初めて祐一がお店に現れたのは、6月。
お店を始めて1年半がたとうとしている頃だった。
東京は、ちょうどこれから梅雨という時期。
常連の山ちゃんがフラッと連れてきてくれたのだ。
なんでも二人が共通のファンだというKというアーティストのライブに行ってきたらしい。
私は、Kのことを全く知らない。名前すら聞いたことがなかったので、Kに関してはその時はさほど関心がなかった。
そして初めて会ったその日は、祐一にもさほど関心がもてなかった。
ただ一般的に見て全体に整っている人だなと思ったのと、
立ち居振る舞いがなんてカッコつけた人なのという印象だった。

その後も祐一はよく一人でお店に現れた。
お店に来るとまず上着を脱いでハンガーに掛けに行く、
そしてカウンター席におもむろに座る、
その立ち居振る舞いのいちいちが、相当カッコつけてて気にはなった。
おまけにお勘定の際に出す財布は私の中でチャラ男が持つイメージのあるブランドの物で、香水も女性を充分意識させるものをつけていた。
しかし私から見れば、そのどれもが祐一には不似合いなのだ。
私の中の祐一の位置づけは、決して垢抜けないタイプの純朴な田舎から出てきて数年経った青年というものだった。
そのうちにそれも祐一の個性の一部だなと私は思えるようになってきていた。
来ても話をすることもなく携帯でメールしていたり、本を読んでいたり、
こちらもだんだん心得てきていて、ほっておいたら結構居心地がよさそうだった。

祐一は山ちゃんよりも頻繁に来るようになっていて、しかも閉店の3時になっても帰らなかったりするのだ。
今までそんなお客さんはいなくて、私はすっかり面食らっていた。
最初のうちはこちらが気を使って、始発まで時間をつぶすために好きでもないカラオケを付き合ってあげたり、話に付き合ったりしていた。
その頃は祐一に対してそれ位の思いしかなかったのだろう。今思うと。

しかも祐一は感情を表さないため、私の中では何を考えているのかわからない人というイメージになっていた。
なにより、なぜうちの店じゃなきゃいけないのだろうという疑問さえうかんできていた。
だって、メールや読書するのだったら、駅前のコーヒーショップでも充分じゃないかと。
単にうちが遅くまで営業していて、自分の住む沿線にあるからなのか?
そんなことを思いながら毎日お店にでていた。

ところがある日、予期せぬ事が起こってしまった。

続く









圭介の章から

2005-12-30 00:54:34 | 創作系
これは創作ですⅡ
またまた以前に書き溜めていたものの中から手直しして披露
こんな年の瀬に大掃除もしないでなんと暇人なんでありましょ私って



圭介の章~

中略

そんなある日、映画の試写会が当たって、映画好きの圭介をメールで誘ってみた。
予定の日間近にメールしたこともあって、やはり仕事も忙しいのか返事がなかなか来なくて諦めかけていたが、
試写会の前日に圭介は突然お店に現れた。
また少し前の感じに戻りつつはあった。
ということは、行くのか?と思い、口頭で聞いてみるとその時間に仕事を抜け出せるという。
その時きちんと約束した訳でもなかったので、当日の映画が始まる寸前まで本当に来るのか半信半疑だった。

結局、滑り込みセーフ位のタイミングで、二人はすでに暗くなった場内の席に着くことができた。
座って一呼吸おいた後には、その映画の最初の音楽がすでに流れ始めていた。
私は、その映画をとても楽しみにしていたのと久しぶりに圭介とプライベートで会えたのとですっかり満たされた気持ちになっていた。
映画もおもしろかったが、手を伸ばせばすぐそこに圭介がいる、
圭介愛用のD&Gライトブルーの香りが穂のかにいやかなりこちらにもただよってくる、自分の香りとそれが入り混じってもうなんともいえぬ甘美な気分、
たまに足を組み替えたりするのに軽く触れたりする、
触れたままが少し続くと圭介の体温が感じられてうれしい、
そんないかにも時間を共有しているという事実がとても心地よかった。
いっそ、このまま時間が止まってしまわないかと思った。

映画を観た後、本当はすぐにでもお店に戻らないといけない状況だったが、少しだけお茶することにした。
それだけで別れるのは名残惜しすぎた。このまま圭介の手を引っ張ってどこかに逃げてしまいたかった。
銀座の街を圭介と手を組んで歩くのがうれしくて、ついはしゃいでしまう。
学校をサボってしまった女子高生のようにウキウキしてしまうのだ。
私は得意げになっていた。今日だけは、この時間だけは、私のもの。
少なくても私は、その時間を惜しんで、たわいもない話をしていたが充分に意識していた。

そんな楽しい時間もあっというまにすぎて、20分程で一緒に地下鉄に乗った。
圭介の仕事は現在は新橋で、次の駅でお別れしなければならない。
そう思うと その一駅間がほんとうに貴重に感じられた。
降り際に軽く圭介の耳にキスしてありがとうとお礼を言う。
その後一人になっても満たされた気持ちでいっぱいだった。ひさしぶりだった。
でも、こんな気持ちも私の中で長くは続かないのだろう。またすぐに満足できなくなるのだろう。

お店を女のこに任せて映画を観に行くなどということはごく稀なことだ。
おみせに戻ると一機に現実に戻った。常連や通常のお店での仕事によって引き戻された。

続く





孝之の章から

2005-12-11 14:42:02 | 創作系
これは創作ですⅠ
お店をやっていた時にあったお客さんとの事や聞いた話などをヒントに自分風にアレンジして書き溜めていたものです。
そこから小出しに抜粋して紹介します。感想などありましたらお願いします。
なお登場する人物等はすべて仮名です。



孝之の章~

中略

お店も10年たった時に終止符を打つことにした。
その混雑する最後のパーティーの終盤に何の因果か孝之といっしょにお店で過ごせる時間があった。
孝之と出会ったこの店でそうできたことが最後にとても嬉しかった。
肩に寄りかかって少し眠ったふりをしたり。みんなの前で甘えてみたかった。
孝之の肩は痩せていて頼りなく、それがその人物のすべてを現していた。
私のアップした髪に散りばめられた金の粉を孝之にそっとこすりつけてみる。
忘れかけた頃に孝之はスーツにその金の粉の一粒を見つけて、きっと私を思い出してくれるだろう。
そんな店があったことを。そこに私という女がいたことを。
そういう思いで飼い猫のように何度も執拗に孝之に頭をこすりつけていた。

その日着物姿の私は、孝之をタクシーに乗せようと待っているその間
しばらく二人でたたずんで、軽くおやすみのキスをねだってみた。
孝之は唇が薄く、その薄さだけが感じられる全く性的魅力のないキスをくれた。
そして私は銀座のママのようにタクシーに乗った孝之に手を振って見送ってみた。
満足だ。
その時、お店も孝之に対してもこれで本当に終止符が打てると思った。

続く