自民党の有志議員らによる「真の人権擁護を考える懇談会」の設立(4月5日)を受けて、緊急アピールに一部加筆しました。
誤記を訂正します。
1 私たちの基本的立場
私たちは、人権救済のために政府から独立した人権救済機関(国内人権機関)が速やかに設立されるべきであるという立場に立って、政府の提案する人権擁護法案について、少なくとも
1)人権救済機関を内閣府の外局とするなどして、政府からの独立性を担保すること、
2)表現の自由に対する重大な制約をもたらすメディア規制(取材・報道を特別調査の対象とすること)に関わる条項を削除すべきであること
を求めてきた。
のうち、
1の2)の「メディア規制(取材・報道を特別調査の対象とすること)」を「メディア規制(取材・報道を特別救済の対象とすること)」に訂正します。
そのほか、誤記などあればご指摘下さい。
1 私たちの基本的立場
私たちは、人権救済のために政府から独立した人権救済機関(国内人権機関)が速やかに設立されるべきであるという立場に立って、政府の提案する人権擁護法案について、少なくとも
1)人権救済機関を内閣府の外局とするなどして、政府からの独立性を担保すること、
2)表現の自由に対する重大な制約をもたらすメディア規制(取材・報道を特別調査の対象とすること)に関わる条項を削除すべきであること
を求めてきた。
のうち、
1の2)の「メディア規制(取材・報道を特別調査の対象とすること)」を「メディア規制(取材・報道を特別救済の対象とすること)」に訂正します。
そのほか、誤記などあればご指摘下さい。
人権擁護委員の国籍条項の導入などに反対する緊急アピール
2005年3月14日
(懇談会設置を受けて4月10日一部変更)
1 私たちの基本的立場
私たちは、人権救済のために政府から独立した人権救済機関(国内人権機関)が速やかに設立されるべきであるという立場に立って、政府の提案する人権擁護法案について、少なくとも
1)人権救済機関を内閣府の外局とするなどして、政府からの独立性を担保すること、
2)表現の自由に対する重大な制約をもたらすメディア規制(取材・報道を特別救済の対象とすること)に関わる条項を削除すべきであること
を求めてきた。
ところが、政府は、この機関を法務省の外局としたままで、メディア規制についても削除するのではなく凍結するにとどめた法案を提案するための準備をすすめている。
2 自民党の法務部会と人権問題等調査会の合同会議における議論
しかし、驚くべきことに、3月10日の自民党の法務部会と人権問題等調査会の合同会議で、政府案に対して、城内実、古川禎久両議員らが、次のように主張して法案の了承を拒否したため、結論は3月15日に開催される次の法務部会に持ち越されたと報道されている。
1)人権擁護委員(委員会を構成する人権委員とは異なる)の選考過程が不透明で、外国人も選任されるのは問題である。
2)特定の団体の影響力が強まり、法の理想どおりに運用できないおそれがある。
3)法案の定義する人権侵害、とりわけ差別の定義が明確でない。
4)委員会に与えられた出頭要請や立ち入り調査などの権限が濫用されれば、新たな人権侵害につながるおそれがある。
このような意見に対し、与謝野自民党政調会長は、党内の懸念が払拭されるまで、法案を提出しないと表明したとしている。
さらに、自民党の有志議員らは、4月5日、「人権擁護委員の選考過程が不透明であり、国籍も規定されていないため、偏った特定団体等の影響を強く受ける恐れがある」などという設立趣意書に基づき、「真の人権擁護を考える懇談会」を設立した。
3 一部自民党議員の見解について
しかし、このような意見の大半は、これまでの人権擁護法案の策定の経緯に照らして、的はずれであり、有効な人権救済機関を設けることに反対しているかのようですらある。
1)人権委員会の行う特別調査は人権委員と委員会事務局の職員のみが行う権能である(44条2項)。人権擁護委員は、従来の相談業務に加えて、一般調査に関わることは認められているが(39条2項)、特別調査の権限は認められていない。人権擁護委員の業務は、いずれも権力的な業務とは言えない。したがって、人権擁護委員の一部に外国人が選任され、相談業務などに関与することに問題はないし、むしろ話し合いをスムーズにすることに寄与するであろう。
人権擁護委員は全国で2万人以内とされるほど、多人数選任されるのであり、人権擁護委員から、外国人を閉め出そうとする自民党の一部議員の主張は国際化の流れにも沿わない、差別的で排外的なものと言わざるを得ない。
2)人権擁護委員は市町村長が推薦した候補者の中から人権委員会が委嘱することとされている。しかも、人権委員会は候補者が適当でないと認めたときには候補者リストを再提出するよう求めることができる。したがって、特定の団体に偏った委員の選任などはあり得ない。
3)法案の定義する差別の定義があいまいであるという意見も誤解である。3条2項の「不当な差別的取り扱いをすることを助長し、又は誘発する」という文言が無限定であるとする意見があるようであるが、3条2項は「不当な差別的取り扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で」「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為」を人権侵害としているのであり、これに該当する行為は地名総鑑の出版など極めて限定された行為を対象としていることは文言上も明らかである。
客観的行為を特定した上で、それに差別目的があったことを加重要件として挿入された文言を、あたかも、行為の特定のための文言であるかのように取り上げて議論していること自体が誤りである。
4)委員会に与えられた出頭要請や立ち入り調査などの権限は濫用されてはならないことは当然である。確かにこの委員会を政府案のように、法務省の外局とした場合、政府からの圧力によって、そのような懸念が現実のものとなるかもしれない。であるからこそ、この委員会は政府から独立性の高い内閣府に置かれ、またその委員に「人格が高潔で、人権に関して高い識見を有する者」(法案9条)を確実に選任しなければならないのである。
4 結論
以上のとおり、私たちは、よりよい人権救済制度の創設を求める立場から、一部自民党議員の意見に基づいて法案が修正されることに強く反対する。
私たちは、政府の原案については改善すべき点を冒頭に掲げたところであり、これらが修正されない限り、法案の再提出にも反対である。しかし、今回、自民党の前記会議で出された意見に基づいて人権救済機関の性格を更にゆがめるように法案を修正することには強く反対する。
【2月のアピールへの賛同者が母体となって行ったアピールです】
2005年3月14日
(懇談会設置を受けて4月10日一部変更)
1 私たちの基本的立場
私たちは、人権救済のために政府から独立した人権救済機関(国内人権機関)が速やかに設立されるべきであるという立場に立って、政府の提案する人権擁護法案について、少なくとも
1)人権救済機関を内閣府の外局とするなどして、政府からの独立性を担保すること、
2)表現の自由に対する重大な制約をもたらすメディア規制(取材・報道を特別救済の対象とすること)に関わる条項を削除すべきであること
を求めてきた。
ところが、政府は、この機関を法務省の外局としたままで、メディア規制についても削除するのではなく凍結するにとどめた法案を提案するための準備をすすめている。
2 自民党の法務部会と人権問題等調査会の合同会議における議論
しかし、驚くべきことに、3月10日の自民党の法務部会と人権問題等調査会の合同会議で、政府案に対して、城内実、古川禎久両議員らが、次のように主張して法案の了承を拒否したため、結論は3月15日に開催される次の法務部会に持ち越されたと報道されている。
1)人権擁護委員(委員会を構成する人権委員とは異なる)の選考過程が不透明で、外国人も選任されるのは問題である。
2)特定の団体の影響力が強まり、法の理想どおりに運用できないおそれがある。
3)法案の定義する人権侵害、とりわけ差別の定義が明確でない。
4)委員会に与えられた出頭要請や立ち入り調査などの権限が濫用されれば、新たな人権侵害につながるおそれがある。
このような意見に対し、与謝野自民党政調会長は、党内の懸念が払拭されるまで、法案を提出しないと表明したとしている。
さらに、自民党の有志議員らは、4月5日、「人権擁護委員の選考過程が不透明であり、国籍も規定されていないため、偏った特定団体等の影響を強く受ける恐れがある」などという設立趣意書に基づき、「真の人権擁護を考える懇談会」を設立した。
3 一部自民党議員の見解について
しかし、このような意見の大半は、これまでの人権擁護法案の策定の経緯に照らして、的はずれであり、有効な人権救済機関を設けることに反対しているかのようですらある。
1)人権委員会の行う特別調査は人権委員と委員会事務局の職員のみが行う権能である(44条2項)。人権擁護委員は、従来の相談業務に加えて、一般調査に関わることは認められているが(39条2項)、特別調査の権限は認められていない。人権擁護委員の業務は、いずれも権力的な業務とは言えない。したがって、人権擁護委員の一部に外国人が選任され、相談業務などに関与することに問題はないし、むしろ話し合いをスムーズにすることに寄与するであろう。
人権擁護委員は全国で2万人以内とされるほど、多人数選任されるのであり、人権擁護委員から、外国人を閉め出そうとする自民党の一部議員の主張は国際化の流れにも沿わない、差別的で排外的なものと言わざるを得ない。
2)人権擁護委員は市町村長が推薦した候補者の中から人権委員会が委嘱することとされている。しかも、人権委員会は候補者が適当でないと認めたときには候補者リストを再提出するよう求めることができる。したがって、特定の団体に偏った委員の選任などはあり得ない。
3)法案の定義する差別の定義があいまいであるという意見も誤解である。3条2項の「不当な差別的取り扱いをすることを助長し、又は誘発する」という文言が無限定であるとする意見があるようであるが、3条2項は「不当な差別的取り扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で」「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為」を人権侵害としているのであり、これに該当する行為は地名総鑑の出版など極めて限定された行為を対象としていることは文言上も明らかである。
客観的行為を特定した上で、それに差別目的があったことを加重要件として挿入された文言を、あたかも、行為の特定のための文言であるかのように取り上げて議論していること自体が誤りである。
4)委員会に与えられた出頭要請や立ち入り調査などの権限は濫用されてはならないことは当然である。確かにこの委員会を政府案のように、法務省の外局とした場合、政府からの圧力によって、そのような懸念が現実のものとなるかもしれない。であるからこそ、この委員会は政府から独立性の高い内閣府に置かれ、またその委員に「人格が高潔で、人権に関して高い識見を有する者」(法案9条)を確実に選任しなければならないのである。
4 結論
以上のとおり、私たちは、よりよい人権救済制度の創設を求める立場から、一部自民党議員の意見に基づいて法案が修正されることに強く反対する。
私たちは、政府の原案については改善すべき点を冒頭に掲げたところであり、これらが修正されない限り、法案の再提出にも反対である。しかし、今回、自民党の前記会議で出された意見に基づいて人権救済機関の性格を更にゆがめるように法案を修正することには強く反対する。
【2月のアピールへの賛同者が母体となって行ったアピールです】
【掲載記事】
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050222k0000m040147000c.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050221-00000084-kyodo-soci
緊急アピール
人権擁護法案再上程を前に
2005年2月21日
第1 人権擁護法案上程の経緯と問題点
政府・与党は、国内における人権救済機関(以下「国内人権機関」という)を設置するための人権擁護法案を、今国会において、上程しようとしている。しかし、同法案は、2002年3月、国会に上程されたが、解放同盟をはじめとする各種人権推進団体から、①国内人権機関を法務省所管としていたため、独立性が担保されない、②メディアの取材が過度に規制されるおそれがあるなどの強い批判を浴び、2003年10月、いったん、廃案となった経緯がある。
人権擁護法案が、突然、今国会に再度上程されることになった背景には、解放同盟の積極的な動きがあったと報道されている。
我々も、国内人権機関の設置の必要性を否定するものではなく、適切な国内人権機関であれば、早期設置を望むところである。
しかし、再上程予定の人権擁護法案は、前回廃案となった法案において批判された上記①②の点について、まったく改善されていない。
報道によれば、わずかに、)数年後に必要な見直しをする、)メディアの報道・取材を勧告・公表・訴訟援助などを行いうる特別救済の対象とする条項(いわゆるメディア規制条項)については「凍結」し、「凍結」を解除するには別途法律を要することとする、)地方事務所の充実に努める、という点が変更されるようである。
しかし、)については、見直しの内容が全く不明確であり、見直しによって将来における国内人権機関の独立性が担保されるわけではない、)については、メディアが「凍結」解除されるのを恐れて取材を過度に自主規制するおそれがあり、本来削除すべきである、)については、法務省所管を前提に地方事務所を充実したところで、効果がある人権救済手続を行うことは困難であることから、前回廃案となった法案と比較して、国内人権機関の機能が大幅に改善されるとは到底言い難い。
そして、現時点において、一度廃案となった法案をほとんどそのまま再上程することに何らの合理性も認められないのである。
よって、我々は、今国会において上程される法案について、ア)人権救済機関を内閣府の外局とするなどして、独立性を担保すること、イ)民主主義の根幹である表現の自由が侵害されることを避けるため、メディアの取材・報道に対する規制に関わる条項を削除すべきであることを要求するとともに、次のとおり、アピールする。
第2 アピール
1 政府・与党への要求
パリ原則は、人権救済機関が真に公権力から独立したものであることを求めている。このパリ原則は、公権力自体が人権侵害の主体となりうるものであることを認識したうえで、そのような公権力による人権侵害を防ぐことが、人権救済機関の大きな使命であることを理解して作成されたものである。
このような状況は世界共通であり、日本だけが例外であることはあり得ない。現に、前回人権擁護法案が上程された際には、刑務所内での刑務官による痛ましい暴行事件が反復継続されていることが明らかとなり、法務省の所管とすることに対し、批判が寄せられた。今回の上程直前には、UNHCRによる認定難民が入国管理局によって退去強制されるなど法務省による人権侵害が問題となっている。
よって、人権救済機関を内閣府の外局とするなどして独立性を担保するよう強く求める。
また、再上程される人権擁護法案において、メディアに対して規制されることに対しては、重大な懸念が寄せられている。権力を監視するべきメディアが、権力に監視される立場に置かれることは許し難く、メディア規制条項は削除されるべきである。凍結しただけでは、メディアが凍結解除をおそれて自主規制することが懸念されるうえ、凍結解除され法的規制が行われることに歯止めをかけることができない。
2 法務省への要求
多くの人権侵害が問題となっている刑務所、拘置所、入国管理局等を抱える法務省が所管する人権救済機関を設置しても、その人権救済機関が内部の人権侵害事件を救済することはおよそ期待できない。
パリ原則に則り、法務省は、人権救済制度について法務省の所管という発想を捨てて、政府から独立した機関による実効的な救済が不可欠であるという視点を持つべきである。
また、行刑改革会議で、刑務所内における人権侵害事件について、市民が加わった救済機関を設けることが検討された。提言は、「行刑施設における収容者の人権侵害に対し、公平かつ公正な救済を図るためには、矯正行政を所掌する法務省から不当な影響を受けることなく独自に調査を実施した上で判断し、矯正行政をあずかる法務大臣に勧告を行う機関を設けることが必要不可欠である」とし、「このような観点からは、人権擁護推進審議会の答申を最大限尊重して設置されることとなる、公権力による人権侵害等を対象とした独立性を有する人権救済機関が可及的速やかに設置されるべきであると考える」と述べている。法務省にこの人権救済機関を設置するということは、この提言の趣旨に明らかに反するものと言わざるを得ない。
したがって、再上程される法案が、従来のまま、人権救済機関を法務省の所管とすることは、人権救済制度として、到底、許されない。
3 解放同盟への要望
上記のとおり、解放同盟は、人権救済機関設置に対して積極的な立場にありつつも、従前から批判的な視座を有していた。今回の本法案に対しても、たとえば、2005年2月9日の第4回中央委員会の提案による「『人権侵害救済法』制定をめぐる情勢と当面する課題」において、「法務省所管の場合の問題点は、名古屋刑務所問題など相次ぐ公権力による人権侵害の不祥事を起こしていることもさることながら、人権委員会の3大機能(仲裁調停・教育啓発・政策提言)を発揮しにくいという限界性があるということである。」、「政府案は、従来の法務省人権擁護体制を『看板替え』するだけのものであり、この体制では『迅速性』・『簡便性』・『安心性』が確保できないことは、『答申』でも認めるように実証済みである」、「メディア規制に関わる条項は、公権力からの不当介入の危険性を排し『報道・表現の自由』を確保するために、削除すべきである。もちろん、メディア関係の過剰取材や差別問題などは重要な問題であるが、自主的な取り組みによって善処していくのが望ましい」など、極めて適切な指摘を行っているところである。
我々は、政府から独立した人権救済機関の設置のために長く尽力されてきた解放同盟の努力を高く評価する。我々も、解放同盟の指摘を踏まえた形での人権救済機関設置のため、ともに努力するとともに、今日の法制定にあたって、解放同盟が①この機関を法務省に置かないこと、②メディア規制条項は削除することという2点について、これを原則として、あくまでもその実現を追求されるよう求めるものである。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050222k0000m040147000c.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050221-00000084-kyodo-soci
緊急アピール
人権擁護法案再上程を前に
2005年2月21日
第1 人権擁護法案上程の経緯と問題点
政府・与党は、国内における人権救済機関(以下「国内人権機関」という)を設置するための人権擁護法案を、今国会において、上程しようとしている。しかし、同法案は、2002年3月、国会に上程されたが、解放同盟をはじめとする各種人権推進団体から、①国内人権機関を法務省所管としていたため、独立性が担保されない、②メディアの取材が過度に規制されるおそれがあるなどの強い批判を浴び、2003年10月、いったん、廃案となった経緯がある。
人権擁護法案が、突然、今国会に再度上程されることになった背景には、解放同盟の積極的な動きがあったと報道されている。
我々も、国内人権機関の設置の必要性を否定するものではなく、適切な国内人権機関であれば、早期設置を望むところである。
しかし、再上程予定の人権擁護法案は、前回廃案となった法案において批判された上記①②の点について、まったく改善されていない。
報道によれば、わずかに、)数年後に必要な見直しをする、)メディアの報道・取材を勧告・公表・訴訟援助などを行いうる特別救済の対象とする条項(いわゆるメディア規制条項)については「凍結」し、「凍結」を解除するには別途法律を要することとする、)地方事務所の充実に努める、という点が変更されるようである。
しかし、)については、見直しの内容が全く不明確であり、見直しによって将来における国内人権機関の独立性が担保されるわけではない、)については、メディアが「凍結」解除されるのを恐れて取材を過度に自主規制するおそれがあり、本来削除すべきである、)については、法務省所管を前提に地方事務所を充実したところで、効果がある人権救済手続を行うことは困難であることから、前回廃案となった法案と比較して、国内人権機関の機能が大幅に改善されるとは到底言い難い。
そして、現時点において、一度廃案となった法案をほとんどそのまま再上程することに何らの合理性も認められないのである。
よって、我々は、今国会において上程される法案について、ア)人権救済機関を内閣府の外局とするなどして、独立性を担保すること、イ)民主主義の根幹である表現の自由が侵害されることを避けるため、メディアの取材・報道に対する規制に関わる条項を削除すべきであることを要求するとともに、次のとおり、アピールする。
第2 アピール
1 政府・与党への要求
パリ原則は、人権救済機関が真に公権力から独立したものであることを求めている。このパリ原則は、公権力自体が人権侵害の主体となりうるものであることを認識したうえで、そのような公権力による人権侵害を防ぐことが、人権救済機関の大きな使命であることを理解して作成されたものである。
このような状況は世界共通であり、日本だけが例外であることはあり得ない。現に、前回人権擁護法案が上程された際には、刑務所内での刑務官による痛ましい暴行事件が反復継続されていることが明らかとなり、法務省の所管とすることに対し、批判が寄せられた。今回の上程直前には、UNHCRによる認定難民が入国管理局によって退去強制されるなど法務省による人権侵害が問題となっている。
よって、人権救済機関を内閣府の外局とするなどして独立性を担保するよう強く求める。
また、再上程される人権擁護法案において、メディアに対して規制されることに対しては、重大な懸念が寄せられている。権力を監視するべきメディアが、権力に監視される立場に置かれることは許し難く、メディア規制条項は削除されるべきである。凍結しただけでは、メディアが凍結解除をおそれて自主規制することが懸念されるうえ、凍結解除され法的規制が行われることに歯止めをかけることができない。
2 法務省への要求
多くの人権侵害が問題となっている刑務所、拘置所、入国管理局等を抱える法務省が所管する人権救済機関を設置しても、その人権救済機関が内部の人権侵害事件を救済することはおよそ期待できない。
パリ原則に則り、法務省は、人権救済制度について法務省の所管という発想を捨てて、政府から独立した機関による実効的な救済が不可欠であるという視点を持つべきである。
また、行刑改革会議で、刑務所内における人権侵害事件について、市民が加わった救済機関を設けることが検討された。提言は、「行刑施設における収容者の人権侵害に対し、公平かつ公正な救済を図るためには、矯正行政を所掌する法務省から不当な影響を受けることなく独自に調査を実施した上で判断し、矯正行政をあずかる法務大臣に勧告を行う機関を設けることが必要不可欠である」とし、「このような観点からは、人権擁護推進審議会の答申を最大限尊重して設置されることとなる、公権力による人権侵害等を対象とした独立性を有する人権救済機関が可及的速やかに設置されるべきであると考える」と述べている。法務省にこの人権救済機関を設置するということは、この提言の趣旨に明らかに反するものと言わざるを得ない。
したがって、再上程される法案が、従来のまま、人権救済機関を法務省の所管とすることは、人権救済制度として、到底、許されない。
3 解放同盟への要望
上記のとおり、解放同盟は、人権救済機関設置に対して積極的な立場にありつつも、従前から批判的な視座を有していた。今回の本法案に対しても、たとえば、2005年2月9日の第4回中央委員会の提案による「『人権侵害救済法』制定をめぐる情勢と当面する課題」において、「法務省所管の場合の問題点は、名古屋刑務所問題など相次ぐ公権力による人権侵害の不祥事を起こしていることもさることながら、人権委員会の3大機能(仲裁調停・教育啓発・政策提言)を発揮しにくいという限界性があるということである。」、「政府案は、従来の法務省人権擁護体制を『看板替え』するだけのものであり、この体制では『迅速性』・『簡便性』・『安心性』が確保できないことは、『答申』でも認めるように実証済みである」、「メディア規制に関わる条項は、公権力からの不当介入の危険性を排し『報道・表現の自由』を確保するために、削除すべきである。もちろん、メディア関係の過剰取材や差別問題などは重要な問題であるが、自主的な取り組みによって善処していくのが望ましい」など、極めて適切な指摘を行っているところである。
我々は、政府から独立した人権救済機関の設置のために長く尽力されてきた解放同盟の努力を高く評価する。我々も、解放同盟の指摘を踏まえた形での人権救済機関設置のため、ともに努力するとともに、今日の法制定にあたって、解放同盟が①この機関を法務省に置かないこと、②メディア規制条項は削除することという2点について、これを原則として、あくまでもその実現を追求されるよう求めるものである。