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ポトマック自然観察日記

アメリカ東部の自然紹介をきかっけに、日本や世界の自然観察を共有。

Olympic National Park (ワシントン州) 3/3: 高山帯編

2011年09月15日 | 日記
この国立公園は本当にすごいんです。これまで海岸、温帯雨林と紹介しましたが、最後に高山帯です。本当に多様な環境ですよね。ここにご紹介するのは標高1500メートル前後の高地です。夏は高山植物の宝庫ですし、晴れた日ならば山々の絶景が楽しめます。麓の海沿いの町Port Angelesから車でたった30分で以下のような景色です。Hurricane Ridgeというビジターセンターを起点に一日ハイキングを楽しみました。



1755メートルのHurricane Hillを目指してトレイルを歩きます。何とも言えない気持ちのいい、足取りの軽い、楽しいハイキングです。周りの景色が開けており、天空を歩く感じとはこういうことでしょうか。



さて、その足元には、花・花・花のオンパレード。



これらの花が集まると、今度は花畑。集合体としてまた違った存在感を示します。さらにトレイルをぐんぐん登ります。山々には氷河が見られます。



それから動物。この高山帯のお花畑には、その特に斜面には、Marmotの中でもこの国立公園地域に独特のOlympic Marmotが棲んでいます。一番左がその巣穴。結構大胆な店構えですね。別のポイントで遠目から見ることができましたが、写真の撮影は叶いませんでした。ところが、このMarmot、数が激減しているようです。数年前の調査で判明したのは、普段このくらいの高山帯には生息していないCoyoteによる捕食が問題とのこと。もしここでOlympic Marmotが絶滅するようなら、この「亜種」が地球から消えることになります。ハイキングを終え、ビジターセンターでのレストルームで着替えて顔を洗って出てきたら、Black-taiked Deerが観光客の間近まで来ていました。



この後、ついに3時間半運転し続けシアトルに向かい、イチローの活躍するSafeco FieldやNeedle Towerを見学して空港に戻りました。

アメリカ駐在中に有名な国立公園に行く日本人家族は多いと思います。アメリカ生活の醍醐味の一つですよね。イエローストーンやグランドキャニオン、ヨセミテには、我々日本人が想像するアメリカの雄大な自然がありますが、その次の段階として多様な環境・生態系を観察されたい方には、ここオリンピックが筆頭に来るのではないでしょうか。

最後にオオカミについて。これまであまりご紹介する機会がありませんでしたが、私が最も関心ある動物はオオカミで、特にその生態系での役割や、既にオオカミが絶滅した地域に再導入する試みのことがいつも心にあります。この点で、イエローストーンのオオカミ導入とその後の定着、もちろんそのためのレンジャーら関係者の努力というものが有名ですが、オオカミ導入の候補地として、イエローストーンと共にこのオリンピックが最後まで残っていたそうです。ついにはオリンピック公園の近隣住民の反対が強く、その役目をイエローストーンに奪われたわけですが、いまでも「そうしよう」という運動も続いている模様。"Olympic National Park: A Natural History"の著者Tim McNultyによれば、前回ご紹介したダムの取壊しに見られるサケの遡上復活とともに、昔ここにたくさんいたオオカミの復活なかりせば、本来のOlympicの自然は回復されたと言えないとのことです。
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Olympic National Park (ワシントン州) 2/3: 温帯雨林編

2011年09月08日 | 日記
この国立公園には、一空間単位、例えば一立方メートルあたりに占める「生物量(バイオマス)」が世界で最も多い森があります。これは年間を通じて雨量が大変多いことや、冬がそれほど厳しくないこと等色々な要因によるようです。アマゾン等の熱帯雨林以上です。その一つ、Hoh Rain Forest内のトレイルを歩いてきました。一つの木に群がる、コケ、シダ等の植物の実に多いこと!これら大きな木は様々な他の植物に寄生され、重かろうに、迷惑だろうに考えるところですが、最近の研究では、寄生される方の木々の枝からまるで根のようなものが生え、これら寄生植物から水分等を吸収しているとか。なるほど、共生関係があるようです。それから、ここでは全てが植物に覆われていて「地面」が存在しませんから、新しい木の芽が地面から顔を出すようなことはなく、ほとんどが老いて倒れた木の樹皮の隙間から芽を出し、そのまま成長していくのです。3枚目の写真がそれを物語っています。電話ボックスもご覧の通り。実に、驚きの森です。命に溢れています。



さらに公園の北側に移動し、Sul Docといういわば谷の奥にある森の中のキャンプ場で二晩過ごしました。このSul Docという谷ですが、その入り口からSul Doc川沿いに道路を進むと、とても不思議な感じに包まれます。何というか、平和な。そして、窓を全開にして車を走らせると、この谷中でまるで白檀のような実に良い香りがするのです。きっと不思議な力の宿る神聖な谷なのでしょう。その道路が尽きるところに温泉があり、その周りにロッジやキャンプ場があります。これまで色々な所でテントを張りましたが、「ここで二晩も過ごさせてもらえるの」と思うほど贅沢な、特別な感じがしました。まわりには、Black-tailed Deerが現れます。我々の東部にはいない種です。またトレイルを30分も歩くと、この地域のシンボルであるSul Doc Fallsという滝があります。3つの瀑布が並んでいて、大迫力。



この公園の森を語るとき、意外にも海(太平洋)との関係を思い知らされます。まず多量の雨・霧という形での水分は、西風による太平洋からの切れ目のない贈り物です。そのお蔭で育った木々もやがては朽ちて倒れ、増水した川に流され海に下り、それが分解して海の生物にとって栄養分となります。また、サケの存在が際立ちます。これらの森の中の清流で生まれたサケはやがて海に下り、4-5年後同じ川を上っては産卵し、その親サケの死体は、この森に棲息する実に70%の動物や鳥・昆虫のエサになるだけでなく、森の窒素の70%の供給源になるとか。

Sul Doc川にはSalmon Cascadesと呼ばれるサケ遡上の絶好の観察ポイントがあります。訪れた8月上旬は時期としては早いのですが、前の晩のレンジャー・トークで話したアメリカ人夫妻がサケを見たというものですから、私も行ってみました。現場に立ってCascadesの流れの速さを見ると「これはサケは登れないよ、水が多すぎるし、流れが激しすぎる」と即座に思ったものです。観察すること30分。何と、ぽつぽつとサケがジャンプしているではないですか!合計4-5匹程度のジャンプを観察することができました。でも、どれもCascadesを越えていくことはありませんでした。これから秋にかけ、越えられまで挑戦し続けるようです。ここを越えないと、故郷である産卵に適した浅瀬には辿り着けないようです。厳しい世界ですね。気合を入れて撮った渾身の「ジャンプ写真」を鑑賞ください。撮影直後の感動は忘れられません。



この公園を流れるほとんどの川で、今でもサケの天然遡上が見られようです。しかし、いくつかはダムによって堰き止められているため、その規模もエリアも極めて限定的なのが残念。アメリカでは、自然の生態系を復元するためダムを取り壊すことが見られるようになっていますが、この公園最大の水系であるElwha川にある二つのダムをこの秋に取り外すことが決定されています。この公園の夏の季刊新聞の一面を飾る自然保護派にとり明るい話題です。もちろん、ここに至るまで何十年にも亘る議論があったわけですが、最後の決め手は、オバマ大統領のStimulus Packageからの予算配分だったらしいです。景気浮揚のための公共事業費ですが、何かを作るためではなく、何かを壊すことにも使えるのですね。壊すことで、かつてそこにあったものを復元するというロジック。因みに、今般壊されるダムは水力発電目的に作られたのですが、確かその60%か70%の電力が、下流にあって、我々も良く知る名前の日系製紙工場に供給されていた模様です。

思ったこと、気が付いたこと、学んだこと、まだまだあるのですが、吐き出し切れていません。整理できていないぐらい多くのことが、長い間にわたり、そして今も毎日起きている。そんな特別な森です。
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