夢と現実のおとぼけバラエティー

実際に夢で見た内容を載せています。それと落語や漫才・コント・川柳・コラムなどで世相を風刺したりしています。

創作落語『もみ消し』

2019-09-10 14:32:41 | 夢と現実のおとぼけバラエティー
       

テン・テン・ツク・テン・テケ・テン・テン・テケ・シャン・テン・の・スッ・テケ・テン・・・


             『もみ消し』



      え〜、ようこそ寄席へお運びいただきまして、
         ありがとうございます。
     目に青葉 山ほととぎす 初鰹(かつお)・・などと
         詠(よ)まれてますが・・、
        結構な季節になりました。
    昔の江戸っ子は、人より先に、この初鰹を食すのが粋(いき)と
        されてましたようで、
      有り金叩(はた)いて買い求めたそうでございます。
    今みたいに冷蔵技術やトラックなど無かった時代ですから、
  水揚げした魚を、江戸市中まで鮮度を落とさぬように持って来るの
       は並み大抵のことではなかったようです。
    また、この当時は漁獲量も少なかったようですから、
      売り値もけっこう高かったそうでございます。
  なんでも、文化九年三月二十五日に江戸に17本のカツオが初入荷した
    ときには、将軍さまに献上した残りがセリにかけられまして、
      1本が二両一分で買い取られたそうでございます。
    え〜、今のお金にしますとォ、およそ27万円てもんですから、
        まあ、たいへんな高値でございます。
  
  朝、初鰹を食ったおかげで、昼飯と晩飯は抜き・・ぐらいじゃ
  おっつかないから、ついでに向こう三日間も抜き・・なんてのは
  まだいい方で、なかには、仏壇や帯を質入れして食ったなんて話しも
  ございます。
  当節は、そう云ったのどかな気分には、ほど遠い世の中でございます。


  え〜、政治家さんの仕事と云いますと、ひと昔前までは、地元に鉄道
  を通すとか、橋や道路を作るとかで、そこそこ地元に便宜(べんぎ)を
  計ってやりましてですな、
  その代わりに次の選挙のときは票を入れてもらって、
  また議員になったらなったで、役得でシコタマ儲けようってぇ
  のが、これまでの慣例でございます。
  そんなわけで、ほとんどの政治家さんの目は、地元の方にばかり
  向いてましてですな、国政なんてぇ畑違いの仕事はまっぴら苦手
  という御仁が、けっこう多いんじゃないかと勘ぐりたくなります・・。


         ま、それは余談でございますが、・・・
   昨今では、道路も橋も鉄道も一通り揃っちまったもんですから、
   大きなネタが無くなっちまいまして・・・、
   そこで、なんとか地元に貢献できるネタを探せとばかり、
   政治屋さんの秘書が、四方八方駆けずり回ることになりますが、
   あるのはコマネタ(細かなネタ) ばかりのようで・・・。



議員  「なに? ここんとこネタ切れだぁ?
     そいつぁよくねぇなぁ!
     ネタが無くなるとアタシの政治生命は終わりだヨ・・!
     票が逃げるヨ・・!
     いいかィ、どんなコマネタでもいいから、探しとイで。
     ノルマは一日3件!
     あ、それからネ、昨今は 『もみ消し』の仕事が票に繋がる
     ってぇ話だ。
     交通違反のもみ消しなど上トロの口だろう。では行っといで!」


秘書   「へぃ、ガッテンでがす!」




    あわてて秘書の抜作兵衛(ぬけさくべえ)さんが
    街へ飛び出して行きましたが、・・
    この抜作兵衛という男、
    抜けてるなんてもんじゃぁござんせんよ・・・。
    最初から底が無い、・・という徹底した人物でございます。




抜作   「・・ったく、うちの大先生は無能なわりには、
     人使ぇだけは荒れぇでがすな。
     どんなコマネタでもいいったって、
     道端に『コマネタ入り』なんて
     名札の付いたふろしき包みなど落ちてるわけねぇだろっての。
     ・・ねぇ?
     それに、やぶからぼうに『もみ消し』なんて言やがる・・・
     交通違反のもみ消しが上トロだぁ? ・・ったく、
     交通違反は犯罪だっての・・。
     『ここに上トロがあります』なんて狼煙(のろし)が昇ってる
     わけねぇだろっての。
     ・・・ねぇ?
     戦国時代の寿司やじゃねぇんだっての・・ったく・・・」



    ・・・なんて、ぶーぶー言いながら自転車をこいで行きます
    てぇと、何やら前方に白い煙りが・・・



抜作   「なんだ、なんだ?マジで狼煙が上がってるでがす・・。
     こりゃ、驚いた・・!
     あたしゃ、ついてるねぇ。
     ひょっとしたら、ノルマ1件達成でがす」



    作兵衛さん、わくわくドキドキしなが近付いてみますてぇと、
    商店街の横丁で、なにやら野次馬が人だかりをつくっております。



抜作   「へぇ、ごめんなせぇよ・・、これは何の狼煙でがす?」


野次馬(い)   「狼煙じゃねぇよ。
        竿に干してあった洗濯物が燃え出したんだ。
        おおかた放火だろう・・・」


野次馬(ろ)   「お前さんは誰だィ?
        見かけねぇ顔だが、まさか犯人じゃぁねぇだろうナ?」


抜作      「とんでもねぇっす!
        あたしゃ代議士の秘書でがす・・」


野次馬(い)   「なに? 代議士の秘書だと?
        なら、もみ消しは得意だろう!
        早いとこ消してくれィ」


抜作      「ほら、またもみ消しと来たでがす。
        今日は『もみ消しデー』でがすな・・。
        へぇ、もみ消しってのは、やったことねぇでがす。
        今朝うちの大先生からノルマだからやってこいと
        言われて、
        正直なところ困ってるでがすな、こちとら・・。
        なにしろノルマだノルマだとうるさくて・・、えぇ」


野次馬(ろ)   「おうおう!何をぶちぶち言ってやんでぇ!
        早いとこ消さねぇと燃え移つっちまうぞ・・」


野次馬(は)   「見てみろ、いま燃えてるのはシーツだろ・・」


野次馬(に)   「その隣が野郎のパンツだな」


野次馬(ほ)   「お次に控えしは、女物のパンティーとブラジャーと
        ストッキングだ。
        野郎のパンツなど、どうでもいいが、
        女物は色っぽくて、可愛いときてる。
        燃したら可哀相だ・・」


野次馬(へ)   「おいおい、そこで涎(よだれ)たらしてるの・・、
        お前だよ。変態ストーカーじゃねぇのか?」


野次馬(と)   「お〜い。早いとこ、もみ消してくれィ。
        おれは約束があって忙しいんでェ」



   ・・・なんて、野次馬は、めいめい勝手なことを言って
   騒いでおります。



抜作      「やりますよ・・、もみ消しゃアいいんでがしょ。
        これで票になるんなら、どおってこたァないでがす、
        よござんす。
        つまりですな・・・、
        こうやって揉(も)むんでがす。・・もみもみもみ・・・
        アチチ・・!
        お〜、あっちぃ・・・
        今のは、ほんの小手調べでがす。
        ふぉっほっほっ・・
        どれくらい熱いか試したわけで・・」



   ・・・ああだこうだと、散々苦労しておりましたが・・、
   どうにか火は消えましたようで・・・。




抜作      「お〜っ、消えた消えた!
        ねぇ、どおってこたぁないでがしょう・・。
        ふぉっほっほっ・・・。
        選挙では、清きご一票・・・じゃない、
        ひい、ふう、みい、よお・・
        15人さまでがすね。
        清き15票をお願いしますよっ。
        ふぉっほっほっ・・・」


野次馬(い)   「なんだい? いまの人・・。
        ボヤを消して喜んで行っちまったよ・・」


抜作      「ふぉっほっほっ・・、
        こう幸先よく、ことがトントンと運ぶとは
        思ってなかったでがす。
        早速、大先生に報告しとこう・・。
        もしもし、大先生でがすか?
        たったいま、もみ消し一丁成功したでがす。
        15票は堅いでがす!」


議員      「ほ〜っ、もみ消しをやったとな?
        詳しい報告はあとで聞く・・」




     さて夕方、大先生が新聞を広げると、
     夕刊三面記事の見出しには、・・大きく


      『代議士秘書、ボヤをもみ消す』






            お後がよろしいようで・・



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